英雄機ドランノーガ   作:兵庫人

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青年と少女の予想

「え? え? ちょ、ちょっと待て。遺跡で見つけた女の子が前文明の遺産のホムンクルスで、それが美少女で、しかも俺がマスター? 何だよこれ? 夢か何か?」

 

「ふむふむ、なるほど……。どうやらこの施設は完全に破棄されているみたいですね」

 

 あまりにも急な展開の連続にサイが混乱しながらも何とか状況を整理しようとするのだが、当の本人であるホムンクルスの少女は自身のマスターである青年の混乱をよそに周囲を見回していた。

 

 そしてホムンクルスの少女は、自分が保管されていたのと同じ三つのカプセルに近づいて中の様子を見ると、中にある三体の死体に気づいて僅かに悲しそうな表情を浮かべる。

 

「これは……保存システムに不備があったのか、途中で故障が生じたのか中のホムンクルスが死亡していますね。確かこの保存カプセルに保存されていたのは『ヒュアツィンテ・タイプ』に『ヴィッケ・タイプ』、そして『チュベローズ・タイプ』だったはず……。非常に惜しいですね。無事に起動させる事が出来れば私一人よりもずっとマスターのお役に立てたのに……」

 

「……なあ、やっぱりその水槽……保存カプセルだったっけ? それに入っている死体って君と同じホムンクルスなのか? 後、ヒュアツィンテとかヴィッケっていうのは何なんだ?」

 

 ようやく落ち着きを取り戻したサイが質問をするとホムンクルスの少女は、自身のマスターである青年の方へ振り向いて答えた。

 

「はい、マスター。この保存カプセルに入っているのはホムンクルス……その死骸です。そしてヒュアツィンテ・タイプ、ヴィッケ・タイプ、チュベローズ・タイプとは私のペオーニエ・タイプと同じく特別な調整をされたホムンクルスのことです。本来ホムンクルスは意思や感情が稀薄なのですが、私達は特定の感情を中心に情緒面を強化されることで人間のような確かな意思や感情を手に入れたのです」

 

「そ、そうなんだ。それで……その……」

 

 実際はホムンクルスの少女の説明をほとんど理解できていないサイは、それでもとりあえず相槌を打つと別の話題に移ろうとしたのだが、そこで彼はある事に気づいた。

 

「? どうかしましたか、マスター?」

 

「いや、そういえば俺って君の名前を知らないなって思って。俺はサイ。サイ・リューラン。君の名前は?」

 

「私の名前ですか? ありませんけど」

 

「え? そうなの?」

 

 自分の名前がないと当然のように言うホムンクルスの少女にサイは驚いた顔をする。

 

「はい。強いて言えば『ペオーニエ・タイプ』が私の名前になるかもしれませんが、もしよろしければマスターが私の名前をつけてくれませんか?」

 

「俺が君の名前を? ……そうだな」

 

 ホムンクルスの少女に名前をつけてほしいと言われてサイは少しの間考えて口を開いた。

 

「ピオン、ていうのはどうかな? 君がさっきから言っているペオーニエに響きが似ていて呼びやすい名前にしたつもりなんだけど」

 

「ピオン? それが私の名前? ピオン、ピオン、ピオン……。はい。素敵な名前をありがとうございます、マスター」

 

 ホムンクルスの少女ピオンは自分の名前を何度も呟いた後、名前をつけてくれた自身のマスターへ心から嬉しそうな笑みを向けて礼を言う。その笑みはあまりにも綺麗でサイは思わず頬を僅かに赤くして視線を顔ごと横に向ける。

 

「そ、そうか。それなら良かった。……それでピオン? 一つお願いがあるんだけど」

 

「っ! はい! 何なりとお命じください、マスター」

 

 記念すべき最初の命令にピオンは期待を胸に膨らませて姿勢を正す。そんなホムンクルスの少女にサイは言い辛そうににお願いを口にする。

 

「その……。服を、着てくれないかな?」

 

 現在ピオンは裸の状態である。しかも出るところは過剰に出ていて引っ込むところは引っ込んでいる小柄ながらも豊満な体型で、体を動かすために胸やら尻の肉が動いて見えるので非常に目の毒であった。

 

「服、ですか? 申し訳ありませんが着る服がありませんが?」

 

「あ……」

 

 ピオンに言われてサイは周囲に彼女の服になりそうなものが無いことに気づく。そしてサイが「倉庫」の異能の異空間に自分の予備のシャツを収納していたことを思い出してそれを呼び出そうとすると、それより先にピオンが口を開いた。

 

「あの、マスター? 最初のご命令が服を着て体を隠せとは……私の身体はマスターの好みに合いませんでしたか?」

 

「好みに合わないどころか大好物です! 最近王都で流行りだしている『ロリ巨乳』という言葉は最高の名言であると思っております! ……って! 何を正直に言っているんだよ、俺の馬鹿ぁ!」

 

 少し悲しそうな顔をして上目遣いで聞かれてサイは反射的に答え、その直後に自分に正直すぎる巨乳好きな馬鹿の叫びが部屋に響き渡った。

 

 X X X

 

「……そういうことですか。つまり今は私を作った文明、前文明が滅んでから数百年は経った時代で、この施設がある地域一体はマスターのご実家の領地。そしてマスターのご実家の倉庫にこの施設へ繋がる通路があり、そこから入ってきたマスターが私を見つけた、と」

 

 巨乳好きな馬鹿が叫んでから数分後。ピオンは現状を知るためにサイからこの時代についての簡単な説明と、彼がこの遺跡にやって来た経緯を聞いて納得したように頷いた。

 

「あ、ああ、そういうことなんだ」

 

 それに対してサイはピオンを直視しようとせず横を向いたまま相槌を打つ。その理由は現在のピオンの格好にあった。

 

 とりあえずあの後、サイは「倉庫」の異能を使って異空間から自分の予備のシャツを呼び出してそれをピオンに着せた。しかし彼女はつい先程までカプセルの保存液に全身を浸かっていたので、シャツは彼女の肌に張り付いて僅かに透けて見え、逆に裸よりも扇情的な格好になってしまったのだ。

 

 そのため話をしてピオンの姿が目に入る度にサイは動揺してしまい、そんな自分の主人の様子にホムンクルスの少女は口元に嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「ひいおじいちゃんは倉庫の奥、この遺跡には巨万の財を生む宝があるって言っていたらしいけど、それってもしかしたら君のことかもしれないな」

 

「巨万の財を生む宝? 私がですか?」

 

「ああ」

 

 首を傾げるピオンにサイは頷いてみせて自分の考えを言う。

 

「前文明の遺跡や遺産はどの国でも高く売れるからね。ひいおじいちゃんの言葉はこの遺跡にある物を売れって意味だと思っていたんだけど、ここに来るまで遺産らしいものは何もなかったんだ。……ホムンクルスである君を除いてね」

 

 実際ピオンのような美しくて人間らしいホムンクルスなら、国の研究機関だけでなく貴族や大商人の好事家も山のような金貨を差し出して買い求めようとするだろう。ホムンクルスが一体どれくらいの値段で取り引きされているのか全く知らないサイでもそれくらいは予想できた。

 

(まあ、もっとも売らないけどね。いくらピオンがひいおじいちゃんが遺してくれた宝物で大金になるかもっていっても、ピオンはもう俺のパートナーなんだ)

 

 出会ってまだ数分しか経っていなのに随分とピオンを気に入っている自分に少し驚きながらもサイが内心で呟いていると、ホムンクルスは何かを考えている表情で口を開いた。

 

「あの、マスター? マスターの曾祖父様が言う巨万の財を生む宝とは私ではないと思いますよ」

 

「……え?」

 

 予想外のピオンの言葉にサイは目を丸くして、そんなマスターの青年にホムンクルスの少女は更に告げる。

 

「この施設には私の他にも前文明の遺産が確実にあります。そしてそれは私なんかよりもずっと大きな価値があります。恐らくマスターの曾祖父様が言う巨万の財を生む宝とはそちらの方でしょう」

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