宇宙世紀に舞い降りし流星   作:ナナシのG愛好家

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EMS-10

「ヅダ……ですか?」

 

 オーディン小隊とシーマ・ガラハウ率いる海兵隊の活躍によりオデッサを手に入れたジオン軍。

 その後の重力戦線は、モビルスーツのおかげで圧倒的な快進撃を…………という訳にはいかなかった。

 各地でEX-ASにも似た謎の高性能MSの存在が確認され、それらにジオン公国も苦戦しているのだ。

 エース達による撃破報告もある程度は上がっている。

 闇夜のフェンリル隊が、砲撃型のEX-ASを撃退したという話を皮切りに、オーディン小隊は、このEX-ASをオデッサでの件も併せて合計で5機撃退。

 ガルマが本拠地とする北米のさらに北、北極戦線では天才と謡われる16歳の指揮官、エーデル・ヴァン・ワイズローゼン率いるワイズローゼン大隊が、雪国使用のEX-ASを確認。これを撃退している。

 しかし、アジア、ヨーロッパの中心はいまだに手に入れることが出来ず、南北のアメリカ大陸を手中にしたジオン軍は今、連邦の勢力圏であり最大の面積を誇る、アジア大陸、そして経済中心地であるヨーロッパを手に入れるため、北欧、アフリカ、そしてロシア東部で戦っていた。

 EX-ASについてわかっているのは、ジオンにはない驚異的な技術で作られているということ、大量量産されているわけではないが、一機一機が超高性能で、その地形に適したカスタムを施されており、攻略に時間がかかりかつ、戦闘データの構築が困難ということだ。

 宇宙でも、数機の新型MSが確認されており、今のところ、赤い彗星や深紅の稲妻、ソロモンの白狼と言った宇宙のスーパーエース達が撃退しているので大した実害はない。

 最近の報告では、ランバ・ラルもゲリラ戦法でEX-ASを撃破したが、それでもかなりきつかったという報告も上がっている。

 

 その為最近の技術部は大忙しだ。

 鹵獲、および破壊したEX-ASの残骸などから回収したビーム兵器などの技術をもとに、日々新型機の開発などが行われている。

 最近の603はジョイㇽ・ヨルムンガンドやヒルドルブのデータ整理に通りかかった部隊の機体の整備の手伝いなどで大忙しだ。そんな中ヤマギのもとに、技術本部から呼び出しがかかった。

 

「ああ。」

「で、でも、確かヅダには」

「ああ。ザクとの開発競争で暴走事故を起こして欠陥扱いを受けた、悲しきモビルスーツだな。」

「そんな機体を!?」

「何も問題はない。ヅダは〈EMS-10〉という新たな型式番号の元生まれ変わった。と、製作元のツィマッド社は言っている。」

 

 食って掛かるヤマギを、開発部の主任である少将は片手で制してそう言った。

 かつてとは別物なのだと。だから安心しろと。

 それを言うとヤマギは、

 

「了解……しました。」

 

 とうつむいて敬礼した。

 彼はこの世界に来る前から、そしてこの世界に来てから、色々な状況で見てきた。政治と言う物の汚さを、大人が平気で吐く、真っ黒な嘘を。

 そのまま出ていこうとすると、

 

「ギルマトン技術少尉、」

 

 少将がヤマギを呼び止めた。

 

「何でしょう?」

「君が技術尉官に採用されたのは、観測機の作成が始まりだと聞いている。もし、機体などの改修案が出た場合それを持ってきてくれないか?

 出来る限り受理しよう。」

「……ありがとうございます。では。」

 

 その言葉にヤマギはそう言うと出ていった。

 

「ふむ。」

 

 少将は、ため息を付いて。

 

「やはり、海千山千の狸がいるこの世界(上層部)は子供にはキツイか。」

 

 会議で臆せず発言するアズリエル、ジオニック社にいるメカニックである天才少女、極寒の氷上で、例の連邦の新型相手に善戦して見せる苛烈な軍人少女、そして、オーディン小隊の狙撃手、ティナ・スプラウト。

 幾人もの『天才』がジオンにはいる。

 

「彼らと比べるのは酷か。だが、」

 

 こんな年端もいかない者たちが、責任ある職や佐官や尉官に着いたりするなど私が若い頃はありえなかった……。とこぼす。

 

「価値観が狂いそうだ。いや、」

 

 もうすでに狂っているのかもしれない。

 

「私ではなく、この世界自体が。」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「はあぁぁぁ。」

 

 そして、技術本部を歩きながら、ヤマギは盛大な溜息をこぼした。

 

「どうした技術屋その2。そんなため息なんかついて。」

 

 隣を歩くモニクがそう問いかける。

 

「その呼び方、呼びづらくないの?」

「どうだっていいだろう? それより質問に答えてもらおう。」

 

 フン。と鼻を鳴らして、つんけんとした態度でそう返すモニク。

 

「EMS-10の件だよ。」

「例の我々に送られる新型か。そこまで危惧するほどのことか?」

「証拠はいないんだけど……嫌な予感がするんだ……。」

「臆病者め。」

「せめて心配性って呼んでよ……。」

 

 モニクの毒舌にしょんぼりするヤマギ。

 

「加速性能も武装性能も問題なし。唯一懸念点を上げるとすれば高コストな点。ツィマッドの言葉が正しければ、もうあのような欠陥兵器ではないのだろう?」

 

 モニクはそういう。

 

「うん。でも……。」

「信用ならないのか? そもそも、ツィマッドは1大企業だ。それが我らが公国に改修したと機体を売り込んできている。政治家の口約束とは、ヨルムンガンドの件(あの時)とは違うんだぞ?」

 

 これでもし空中爆発などしたら世界の笑いものもいいところだ。と笑うモニク。

 通ろうとした車いすの人に道を開けてこう続ける。

 

「お前は技術屋だろう。多少は試験機を。ヅダを信じてはやってくれないか?」

 

 というその言葉に、ヤマギより早く反応する声があった。

 

「今、ヅダって言った?」

「え?」

 

 そこにいたのは、車いすを回してこちらの方を向く、白衣姿の少女だった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《サイド3 カフェスペース》

 

「まさか、貴方がヅダに興味を持つとは思いませんでしたよ。アヴィゲイル殿。」

「驚いた? まぁ、確かにそうだよね。ライバル会社だし。」

 

 あと、普通にアヴィでいいよ、両親からはそう呼ばれてたし。という車椅子の少女の名は、アヴィゲイル・U・ミノフスキー。

 ザクを開発する際ネックとなった動力炉の小型化に成功した、いわばザクの心臓を作った人間であり、ミノフスキーの発見者。トレノフ・y・ミノフスキーの孫娘であり、メイ・カーウィンと並ぶジオニック社の天才若手技術者だ。

 対MS戦闘を想定して開発された、オーディン小隊のリツ・ウラベの愛機でもある、グフのバランサープログラムを設計したのは彼女らしい。

 

「そう。それで、なぜ貴方が?」

「えっと、その、ボクのおじいちゃんって、『あの』ミノフスキー博士でしょ。」

 

 トレノフ・Y・ミノフスキーは、確かにザクの心臓を作った偉大な技術者だが、その後グラナダに亡命しようともくろみ、その逃げる道中で死亡したのだ。

 彼の息子夫妻も連邦に亡命しようとしたらしい。その過程で事故が起き、息子夫妻は死亡。孫である彼女だけが残ったのだという。下半身不随のみで。

 

「一応ジオニック社の所属ってことになってるけど、ジオン公国とつながりが強いから、ミノフスキー博士は裏切り者っていうイメージが強くてさ、すっごく居づらいんだ。」

「そんな……。」

「ジオニック社の偉い人たちが求めてるのは、おじいちゃん譲りのボクの脳みそさ。」

「…………。」

 

 どこか乾いたような笑顔と共にそういうアヴィゲイルに、ヤマギはうつむく。

 

「ボクが連邦軍に連絡を取らないように、使用するネットワークも監視されてるんだ……。」

 

 普段はMSの技術試験の動画なんか見てるんだけどね。と、それが当然とあきらめたように言うことに、巷で天才ともてはやされる少女の実態に、モニクは戦慄し、ヤマギは、ジッと、彼女の顔を見ていた。

 

「それで見たのが、数か月前のニュースの映像。」

 

 MS-06ザクとEMS-04ヅダのコンペの映像。

 

「確かに、暴走事故っていう結末で終わったけれど、ザクはヅダに勝てなかった。

 あの一直線に走った幻影のような加速に勝つことが出来なかった。

 ねぇ、生まれ変わったんでしょ!?」

 

 机に手をついて、体を前のめりにするアヴィゲイル。

 

「ボクにも見せてほしいんだ。ヅダを。あの輝きを!!」

「……問題、無いのか?」

 

 先ほど監視されていると彼女は言っていた。モニクはそう問いかけると、

 

「監視っていうのは便宜上、みたいなものだから。こうして外出の自由もある程度あるし。護衛っていう名の監視は付くかもしれないけど。」

「技術屋その2。」

 

 アヴィゲイルの答えにモニクはそういう。

 

「天才技術者が、ヅダを見てくれるっていうのなら心強いし、いいよ。」

「ホント!? ありがと~。」

 

 喜ぶアヴィゲイルの顔を見て、ヤマギはスケジュールを調整するのだった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「これから数日間、お世話になります!!」

「ウム。歓迎しよう。ようこそ、ヨーツンヘイムへ。」

 

 艦長のマルティン・プロホノウが、ノーマルスーツの上から白衣を羽織ったアヴィゲイルと握手をした。

 護衛の件だが、ヤマギがシノに掛け合ったことにより、ガルマの鶴の一声で、ヨーツンヘイムの各々がしっかりと監督することを約束して護衛の兵を撤廃したのだ。

 彼女は折り畳み式の車椅子を持っており、無重力空間では浮き、有重力スペースではこれを使用するようにと言われているそうだ。

 

「しばらくよろしくね。ヤマギ少尉。」

「うん。よろしく。」

 

 そう言い、二人は握手を交わした。

 

「それで、ヅダはどこに? テストパイロットは?」

 

 きょろきょろと辺りを見るアヴィゲイル。

 

「あー、それなんだけど。まだ来てないんだ。」

「え?」

 

 どうやら、シャトルの方がヅダより先に着いたらしい。

 

「そっか。じゃあ飛んでくるヅダが見られるのかな?」

 

 それもそれで楽しみだなー。と顔を輝かせるアヴィゲイルを見て、ヤマギはかつての地球支部を支えていた少年、タカキ・ウノの事を思い出した。

 すると、警報が鳴り響く。

 

「何だっ!?」

「接近警報!! これは……ボールです!!」

「まさか、最近わが軍の輸送船を襲っているというボール部隊!?」

 

 モニクが声を上げる。

 

「何か襲われてばかりじゃない!? MSIGLOO!!」

「オイそこっ!! メタ発言をするな!!」

 

 ヒデト・ワシヤの言葉にもそう発現する。すると、

 

「待ってください。味方の識別信号を検知……ヅダです!!」

「ヅダ!? 観測ポッド急いで!!」

 

 ヤマギがそういう。

 

「了解!! 観測ポッド、射出します!!」

 

 オペレーターがボタンを操作し、ヨーツンヘイムの上部から観測ポッドが射出される。それが捉えたのは、わずか数分にも満たない高速戦闘。

 

「すごい……カメラが追いつかない!!」

「遠くから。複数のカメラを監視カメラみたいにして。追おうとすると見逃す!!」

「機動性と連携力でザクを倒すことも出来るボールをああも簡単に、凄い!!」

 

 三機のヅダは、シャークマウスペイントの施されたボールを翻弄し、撤退にまで追い込み、信号弾を打ち出した。

 その姿に、ヨーツンヘイムブリッジがワッと湧いたのだった。

 

「すごい!! 凄いやヅダ!!」

 

 はしゃぐアヴィゲイルを横に、ヤマギは、

 

「よかった。」

 

 と胸をなでおろす。ヅダは本当に生まれ変わっていた。汚い大人のプロバガンダに利用されるようなことなく、しっかりと。そう考え、今までとは違う、安堵のため息を付いたのだった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 さて、着任早々の戦闘で一気に湧いたヅダはMSデッキに格納され、スタッフたちの歓迎で出迎えられた。

 

「ヨーツンヘイムの技術主任を務めています。ヤマギ・ギルマトンです。」

「ツィマッド社のテストパイロット。ジャン・リュック・デュバル少佐だ。君が噂の少年技術士官か。驚いたよ。」

 

 柔和な笑みを浮かべたデュバルと、ヤマギは握手を交わす。

 

「おや、」

 

 そして、空中に浮遊する少女に気が付く。

 

「君は確か……。」

「はい。アヴィゲイル・U・ミノフスキーです!!」

「あの、ミノフスキー博士の孫娘。ジオニック社の人間がなぜここに?」

 

 少し、とげのある言い方内も感じたが、

 

「ええ。実は……。」

 

 そして、話し出した数分後には、

 

「どう思いますか?」

「素晴らしい。素晴らしいなアヴィゲイル君。君のような人間がジオニック社にいるとは。ヅダに理解を寄せてくれて恐悦至極だ。」

「はい!!」

 

 バッチリ意気投合していた。どうやらデュバル少佐という男は、ヤマギ達と同じ(機械オタ)だったらしい。

 

「そうだ。ヅダのデータを見せていただけますか!? 速さの秘訣は!? 噂の土星エンジンについても!!」

「ああ。私の乗る一番機でよければ、いくらでも見てくれたまえ。もちろん、ジオニック社の連中には他言無用で頼むぞ?」

「そんなことをするほど野暮じゃないですよぉ。」

「それもそうだな。」

 

 HAHAHA!! と笑いながらヅダの元へと向かっていく二人。一応、しっかり監視する任務が名目上あるため、ヤマギもそれに付いて言った。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「それでは、これよりEMS-10、ヅダの技術試験を開始します。デュバル少佐、ワシヤ中尉、オッチナン准尉、準備は?」

 

 その質問に、

 

『一番機、ジャン・リュック・デュバル、問題ない。』

『こちら二番機、ヒデト・ワシヤ。問題なしです!!』

『三番機、オッチナン・シェル、問題ありません。』

 

 そう通信が入る。

 

「それでは、ムサイ級を相手にした、模擬戦闘を行います。オッチナン准尉、ワシヤ中尉、お二人は、デュバル少佐の指揮に従ってください。」

『『『了解。』』』

「それでは、模擬戦闘演習、開始!!」

 

 ヤマギの掛け声とともに、ムサイからの砲撃が飛ぶ。

 

『各機、散開!!』

 

 その言葉に従い、ヅダ三機は散開する。そして、ムサイの砲撃を自慢の推進で回避していく。

 

『衛星軌道完了。一番突っ込む。二番、三番機は援護に徹しろ。エンジンブーストは使うなよ!?』

 

 それだけ言って、ムサイへと向かっていく。

 

『そんな!!』

『落ち着けってオッチナン。命令には従おうぜ?』

 

 文句がありそうなオッチナンを、ワシヤが宥める。

 そして二人は、砲撃だけでなく模擬弾の対空砲火を、早いだけではない複雑な軌道で回避していく一番機を見ていた。

 それを見ていたオッチナンは拳を握り、

 

『俺だって……俺だってパイロットだ!!』

 

 エンジンブーストのスイッチを入れた。

 

『あ、おい、待て!!』

 

 しかし、そのままオッチナンの三番機は突っ込んでいく。

 その時だった。モニタリングしていた三機の内、三番機に異常が出たのは。

 

「これは……ッ!? 三番機、暴走警報です!!」

『何ッ!?』

 

 デュバルがそれに驚き、背後を確認する。そこには、一直線に突き進んでいくヅダの姿が。

 

『しょ、少佐!! 機体が止まりません!! た、助けてください!!』

『馬鹿者!! あれだけ使うなと……エンジンをカットしろ!!』

『む、ムリです!! 体が動きません!!』

 

 悲鳴を上げるオッチナン。

 

『た、助けてください!! 少佐!! しょうさあぁ―――ッ!!』

 

 オッチナンの絶叫と共にポッドは、しっかりととらえていた。ヅダの機体がバラバラになっていく。そして、最後は炎に包まれ、爆散したその様を。

 

「そんな……!!」

「嘘だ!! こんなの……!!」

 

 アヴィゲイルは両手を口元に当ててその様子を戦慄しながら見ていた。そして、ヤマギは立ち上がり、そんな悲鳴を上げたのだった。




 次回 EMS-04と同じく暴走を起こしたヅダ。悲しみに暮れるワシヤ、荒れるデュバル、アヴィゲイルの提案に、プロホノウ艦長は迷う。
 そんな中、一隻の戦艦が、ヨーツンヘイムの元を訪れるのだった。

先に見たいのは……?

  • 亡霊が生んだ奇跡(ヅダ編)
  • 大海ニテ白鯨ノ影アリ(リゴック編)
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