「クソッ……何でだよ。止めとけって……言ったのに……。」
黒こげのヘルメット。残骸に紛れて回収できたのは、それだけだった。中に黒こげの生首が入っている、なんてことは無かった。おそらく爆発の衝撃でヘルメットが飛んだのだろう。
それの隣で、悔しそうに床に拳を叩きつけて涙を流すヒデト。
「コンペの時と同じ、暴走事故を……。」
ヤマギはそう呟く。その様子を、デュバルは俯いて見ていた。
「おい!! どういうことだよ!!」
事故による死亡。軍人としてはどうしても納得できない同期の死に方に、ヒデトの怒りはデュバルに向けられた。
「ヅダは暴走しないんじゃ無かったのかよ!? 何で……何でオッチナンは……!!」
「命令違反をしたからだ。」
「ッ!!」
デュバルは、無慈悲にそう言った。
「どんな機体でも、エンジンを酷使し続ければダメージを負い、暴走する。エンジンブーストは速度を上げる分エンジンに負担がかかりやすく、細かい制御が必要というポイントは事前に説明を受けていたはずだ。そして、あの訓練の時私ははっきりと、エンジンブーストは使うなと命令した。」
冷たい目で、やや抑揚のない声でそう言う。
「この事故の原因は、命令違反してエンジンブーストを使い、エンジンに負担をかけすぎたパイロットの未熟さが招いた事故だ。」
「なんだよそれ……未熟なパイロットがヅダを動かしたら死ぬって言いたいのかよ!!」
「……そうだ。」
すこし、間があってからそう答えた。懲りずにヒデトも食い下がる。
「ふざけんな!! ザクじゃそうはいかないぞ!!」
「なんだと?」
「ぐあっ!?」
しかし、それがデュバルの逆鱗に触れてしまった。次の瞬間、ヒデトは殴り飛ばされていた。
「な、何しやがる!!」
「ヅダは……ヅダは政治に、デマに敗れたのだ。決してザクなどに劣っていはしない!!」
「安定面ってポイントで劣ってんだろうが!! ザクじゃ、ザクを多少高機動にしたところで、こんな風に暴走起こしてたまるかよ!!」
「何を……まだ言うか!!」
カツカツと近づこうとしたデュバルだったが
「そこまでだ。」
間にモニクが割って入った。
「デュバル少佐、先ほどの一発は上官権限による粛正ということで容認するが、これ以上は不当な暴力とするぞ? ヅダに対する貴殿の思い入れは理解したが、怒りに任せて拳を振るうのは、誇りあるジオン軍人の在り方ではない。」
「むぅ……!!」
「ワシヤ中尉、貴様もだ。上官に対して無礼が過ぎるぞ。」
「け、けどよ……!! それじゃあ納得できねぇよ!!」
「もちろんヅダに関しては厳しく調査する。だが、オッチナンがあそこでエンジンブーストを使わなければ暴走しなかったかもしれない、生きていたかもしれないのは事実だ。」
「アンタも言うのかよ……!!」
「上官に向かって『アンタ』とは、口の利き方が成っていないぞ。」
「なんだと!?お高く留まりやがって!!」
「や、止めましょうよ!! 喧嘩は良くないですって……!!」
モニクとワシヤの喧嘩に、そう声を上げたアヴィゲイル。しかし、
「なんだと? もしかして、お前がやったんじゃないか?」
「え?」
「ツィマッドの機体がザクより優れてて脚光を浴びたら厄介だからな。」
「そ、そんな!! ボクは知らない!!」
「犯人はみんなそう言うんだよっ!!」
ワシヤが怒鳴って近づこうとしたところで、甲高い音が響いた。
モニクが、ワシヤに見事な平手打ちをかましたのだ。いきなりのことにもんどりうって倒れたワシヤは、頬を抑えてモニクに驚いたような視線を向ける。
「いい加減にしろ。見苦しいぞ。」
アヴィゲイルの前に割って入るように動き、ワシヤを睨み付けた。
「彼女が触っていたのは、デュバル少佐が許可した彼の一番機だけだ。もし彼女が細工したのなら、今頃吹き飛んでいたのは……。」
一番機、という訳だったと、誰もが理解した。
「怒るのは分かる。だが、荒れて自棄になるのはやめてもらおう。懲罰房でしばらく頭を冷やすことだな。連れて行け!!」
艦のSPたちがワシヤを立たせ、両脇を抑えて連れて行った。
「「「…………。」」」
しかし、残ったのは暗い顔ばっかりだった。アヴィゲイルも、モニクも、ヤマギも、デュバルも、プロホノウ艦長でさえ、暗い顔をしていた。
「ヅダの調査を……、してきます。」
「あ、ボクも行く!!」
「私も、同行させてもらおう。」
そう言って離れていったヤマギを追いかけようとするアヴィゲイルの車椅子を、デュバルが推していく形で離れていった。
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ヨーツンヘイム 技術開発室
ここは、実験時の機体のモニタリングなどに使われるルームで、ヤマギ達はパソコンに向き合っていた。
「これが、ツィマッド社から送られてきたスペックか……。」
見れば、過去のヅダと比べて様々な部分がグレードアップしている。特に、機動性とパワーは目を見張る成長速度だ。
「スピードとパワーにフレームが耐え切れなかったのかな?」
アヴィゲイルがそう言って再生したのは、オッチナン准尉のヅダと、デュバル少佐のヅダの比較。
「オッチナン准尉はカーブや他のスラスターを動かすこともしないでまっすぐ突っ込んだ。それが影響で、予想外のGがフレームにかかっちゃったとか。」
「ふむ……しかし、フレームなどにかかった負担で言えば、急停止や急旋回を行っていた私のヅダの方が相対的にはかかっているはずだが……。」
「最大速度で直進させ続けたことによるエンジンの暴走? そう言えば、
「欠陥をそのままにしていた、という事か?」
アヴィゲイルがそう呟いたことにデュバルが問いかける。
「さぁ……ヅダに詳しくないボクがちょっと見ただけで建てられる程度の仮説を、ツィマッドの科学者たちが見逃すはずないと思うけど……。」
「うむ……。」
そう言って考え込む二人。
「そういえば、ヤマギは何を見てるの?」
「…………。」
アヴィゲイルの問いに、ヤマギは沈黙していた。
「……ギルマトン技術少尉?」
「これ、どういうこと?」
震える声でヤマギはつぶやいた。
二人が画面をのぞき込んだ先に映っていたのは、先ほど記録されたヅダ一番機、デュバルの機体の映像だ。
その横には、ヅダに取り付けたセンサーユニットから来る、ヅダのパワー、スピードなどの観測データが並んでいるのだが、
「カタログスペックとの誤差がほとんど無いんだ。」
「む? それの何が問題なのだ?」
「ヅダは改良されてるってことの証明だよね?」
と二人は首をかしげるが、直後アヴィゲイルははっと気が付いたように顔を上げた。
「確かにおかしい……これ、
そう。勿論ツィマッドが送ってきたスペックは通常時の物のはずだ。それがエンジンブーストと同じということは、
「元のスペックは、このカタログ寄り下?」
「一応、ワシヤ中尉が動かしていたヅダのデータもあるから、そっちも確認してみよう。」
そう言ってヤマギがコンピューターを操作し、ワシヤ機の観測データを呼び出す。
「ッ!! 馬鹿な、この数字は……!!」
それを見て、デュバルは目を見張った。
「しょ、少佐?」
ヤマギが問いかけるのも意に介さず、デュバルは空いていたコンピューターを「借りるぞ、」とだけ言って借りて、ツィマッド社のデータベースにアクセス。自身のIDとパスワードを打ち込み呼び起こしたのは、
「これって、
そう。改修される前のヅダのデータだ。そして、そのカタログスペックと、観測データの数値は、
「ほとんど……同じ……。」
「つまり、ヅダは……。」
「生まれ変わってなど、いなかった。」
デュバルは歯を食いしばり、こぶしを握り締め、今にも泣きそうな、そんな表情で画面を見つめていた。
「それどころか、この……このスペックが表しているのは、つまり、エンジンブーストは、」
「ヅダが加速で自戒しないための安全装置、そして、それを撤廃する、リミッター解除……」
アヴィゲイルの言う通り、エンジンブーストとは、ヅダの危険を度外視した、ものだったのだ。
「こんな……こんなもので、『生まれ変わった』などと……」
デュバルの声が震える。
「信じたかった。ヅダは、私が……生涯をかけてともに生き抜いてきたヅダは、決して……決して歴史の陰に消えるゴーストファイターなどではないと……なのに、それなのに……!!」
そう言ってこの場から飛び出していくデュバル。
「でゅ、デュバルさん!?」
アヴィゲイルが呼び止めるが、もうすでに部屋から出て行ってしまった後だった。
「とりあえず……、特務大尉たちと話してくる。」
そう言ってヤマギも立ち上がり、部屋を出ていくのに、彼女も付いて行った。
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「どういうことですか!?」
ヨーツンヘイムの士官室。自身に割り当てられた部屋で、デュバルは怒鳴っていた。
「ヅダは生まれ変わったと、確かに仰ったではないですか!! それが……何故、昔と変わらぬデータで……!!」
正面に置かれたノートパソコンには【ZIMMAD】の文字。
『そうか、いきなり連絡をよこしてきたから何かと思ったら、早かったな。』
「なっ!?」
スピーカーから帰ってきた声に、デュバルは目を見開いた。
「そ、それは一体!?」
『ヅダはもういらんのだ。ツィマッドにはな。』
「馬鹿な!! 何故、ヅダは!!」
『新しい機体の開発案が出たのだよ。』
「しかし、ヅダがこうでは、ツィマッドはジオンからの信頼を……!!」
『すでに手は打ってある。デュバル君、ツィマッドの新機体である〈MS-09 ドム〉は重装甲かつ高軌道の高性能MSだ。重力下では機動性を存分に発揮することの出来ないヅダとは違い、現在の重力戦線を支える機体だ。EX-ASとかいう連邦の新機体の撃退の機体を一身に担っている。』
「なっ!? ではヅダは!!」
『ヅダの研究は永久凍結とする。』
それは、デュバルにとっての死刑宣告に等しかった。それを聞いた彼に湧き上がってきたのは、ワシヤを支配していたものと同じ、どうしようもない、純粋な怒りだった。
「ふ、ふざけるな!! 私が生涯をかけてきたヅダを、そんな……!!」
『これは決定事項だ。もう覆らない。』
「しかし、納得できるわけがない!! そのドムとやらをジオンに認めさせるためにいったいどれほどの金を、賄賂を支払ったのだ!! 研究者としての誇りは無いのか!!」
『いい加減にしてもらおう!!』
「ッ!!」
デュバルの罵倒に帰ってきたのは、その重役の苛立った声と、机をたたく音で返された。
『君のヅダに対する愛は認めよう。政治家どもを認めさせるため、金をいくらか払ったのも事実だ。だが、研究者の誇りが無いとは、我々に対する罵倒が過ぎるのではないかね?』
「しかし……」
『君も見て来ただろう。開発案だけで沈んでいった機体、実用性に乏しく、試作機だけで終わった機体。コストの問題で、採用したくても採用できなかった機体。今まで多くの機体が沈んでいった。ヅダも、その一つに過ぎないのだ。』
「ッ!!」
それを聞いたデュバルの表情は、泣き崩れる限界だった。
『ドムは名機だ。君も、直接見てくれれば分かるだろう。私としても、あの加速は素晴らしかった。確かに、ザクに勝てる手ごたえを感じた。だが、駄目だったのだ。エンジンの暴走の危険性という、どうしようもない欠陥を抱えてしまった。それを直さなかったのは我々の落ち度だ。罵倒の一つや二つは受けよう。だが、研究者の誇りという言葉を使うということは、私達だけでない。ドムの開発に着手した者たち、君がヅダを愛したように、ドムを愛する者たちへの侮辱でもあるということ理解したまえ。それは看過できん。』
その言葉に、デュバルははっとした顔になり、顔を伏せた。
「申し訳……ありません。」
『いい。君も人間だ。間違いはあるし、我々はそれを責められる立場ではない。』
「は……。」
そう呟いたデュバルの頬からは、涙が伝っていた。
『聞けば、その艦にはあのミノフスキー博士の孫がいるとか。もうヅダは我々は知らん。好きにするがいい。』
「……近日中に、辞職願を送ります……。」
うつむいたデュバルは、そう答えた。
『そうか。残念だ……。』
モニター越しで顔をわからないが、心の底から、そう思っているような声だった。
『通信は以上だ。デュバル君。』
そして、通信は切られた。
「私は……ヅダは……―――!!」
一人、デュバルはその部屋で、男泣きしていた。
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デュバルとの通信は、『ヅダの事件があったのに、主力MSとしてドムを採用したのってどうなってんだろうか?』 という考えが浮かんでねじ込みました。正直、ドムってめちゃめちゃ高性能ですから多分実力で分からせたんだと思いますが、その実力を見せるまでに、おそらく金も積まれているんだろうな~という予想です。
また、MSIGLOOでヅダの試験が凍結されたのにデュバルが603に残ってたのって、ツィマッド辞めてたりしたのかなっていう……まぁ、単にヅダに対する未練で行き場がなかっただけかもしれませんが……
先に見たいのは……?
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亡霊が生んだ奇跡(ヅダ編)
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大海ニテ白鯨ノ影アリ(リゴック編)