これを見ている人間に突然だが、一つ聞きたい。
生きるとはなんだ?
人それぞれではあろうと思う。
生きるという言葉そのものが様々な意味を含んでいるからだ。
例えば、脳死で体が動なくても、それはもう死んでいるという人もいればまだ生きているという人もいる。全身マヒで全く体が動かない状況でそれでも懸命に生きようとするものも居れば人生に絶望し、死んだように毎日を過ごすものもいる。
生き方の形は人の数だけあるし、千差万別だ。
友達と遊んで、よく寝て、勉強して、いい学校に受かって、好きな人と結婚してのどかに暮らす。そんな生き方もいいだろう。
一度きりの人生、大きなことをして世界に悪名でも、名声でもなんだっていいからとどろかせたいというやつもいる。
……とにもかくにも生きるという言葉には人のどう生きるか、どう死ぬかという人の意思が見え隠れするのだ。
そして人の意思とはたとえちっぽけなものであったとしても世界に計り知れない影響を与えるのである。
かつて海の大秘宝を手に入れ、この世のすべてを手に入れたという男、海賊王ゴール・D・ロジャーも人の意思は止めることができないものであるという言葉を残しているほどに。
その言葉どうりに、海賊王は自分の死に様に自らの短い言葉だけで世界を熱狂に包んだ。残り滓のような命を自らの意思の力で他人を焚き付ける炎のように着火させ、大海賊時代と呼ばれる業火として20年経った現在まで続くひとつの時代を築きあげてみせた。
今となってはロジャーは世界最悪の悪だの、聞いただけで耳が腐るだの散々な言われようではあるが、己の死だけで一つの時代を生み出してみせたのは一つの偉業であろう。
それが悪名であれなんであれ、ロジャーの名を知らぬものなどもはやこの世にはいないのだ。
そういう意味では海賊王は未だ人々の記憶に焼き付いて消えることはなく、生き続けていると言えるかもしれない。
だがしかし、忘れてはならないのはロジャーは海賊王であったという事実である。
海賊王でなければ処刑にここまでの注目など集めることはなかった。どれだけ生きるという意思があろうが、それまでに何らかのことをやってのけていなければ、壮大な夢を語ったとて自分の死に方など選びようもなければ、そもそも世界に全く気付かれもせずに死んでいくのだ。顔も見たことがない人間が死んだところで感慨など浮かびようもない。
ましてや無人島で勝手に漂流した人間が勝手に餓死したところで気づかれもしないだろう。
少なくとも、俺はそんな死にざまは嫌だ。世界にその名をとどろかすほどではないにしろ、だれにも気づかれずに死ぬなど生きた心地もしないものだ。そうは思わないだろうか?
……ここまでなんの変哲もないこの木版にあることないこと、汚い文字で記してしてきた俺がつまり何を言いたいかというと、
『漂流しました、助けてください』
樽から出た出会い
「‥‥やめた」
そんな言葉をつぶやいて少年は顔を上げる。そして手に持っていた木版のきれっぱしをぐしゃっとへし折ると、目の前の海に向かってやけくそのように放り投げた。
すでにいたるところが痛みながら辛うじて原型を保っていたと思われる木版は空中でおがくずに分解されて海の中に落ちて消えていく。
調子のいい太陽の光に照らされてキラキラと光りながら消えていく様は意外と幻想的であったが、まるで自分の末路を表しているようで笑えなかった。
寒い、眠い、退屈。
そんな考えだけが頭を駆け巡る。
打ち寄せる波の回数を羊を数えるように数えていたが、500を超えたあたりでやめた。きりがない。
幼いころからあこがれていた冒険記の中にしかなかった世界に自分はいた。その思いは今になっても色あせてはいない。
だがしかしだ。
この状況も夢か幻想であってくれないだろうか。そう思ってしまう自分もまた存在していた。
少年は気味が悪いほどきれいなビーチにポツンと座って海を見ながら、人生最悪のバカンスを楽しむ羽目になった原因を回帰する。
****
あの日もこんな感じのいい天気で、海も穏やかだった。
少年は漁師だ。この
レールのひかれた人生ってやつが嫌いだった。
きれいでどこまでも続く大海原こそ自分が生きる場所だと常々感じていた。だから海に出るために幼い頃から航海術を学ぶことに一生懸命だった。
この日ようやく一人前と認められた少年は、小舟での出航ではあったが、広い海についに一人で船で漕ぎ出した。
念願であった一人で進む海はそれは快適で楽しかった。お日柄もよく、何の因果か撒き餌にも面白いように魚がよく食いついた。見たこともない魚が混じっていてオールブルーとかいう奇跡の海にも一瞬思いをはせた。
どこまでも広がっている海に、人は様々な夢を託してきた。
例えば、空に島があるだとか。
例えば、幽霊船の出る海があるだとか。
だが、そんな伝説だらけの海の前では人はあまりにも小さい。それだからこそ人は広い海に出るとやたらと饒舌に自分の壮大な夢を海に向かって吐き出すように語りだす。
そんな夢すら海の前では小さく見えてしまうが故に人は子供の頃の童心に立ち返っては、思いを強くする。かつて一緒に船に乗っていた若い漁師たちも嬉々として賞金稼ぎになる夢を語っていたものだ。
ただ今回はただっぴろい青い神秘的な世界にただ一人。
語り合う仲間がいない寂しさと、一人が故の孤独さが身に染みるものの豊かな潮風がそれらを彼方へ吹き飛ばしていってくれた。
少年にも壮大な夢があるが、それはまだまだ先の話と溢れた想いを胸に押し込め、オールを漕いで網を引き続けた。
途中襲い掛かってきたでかい魚を、包丁でバラバラにさばいて昼飯にして食べてたり、空中を飛んでいたニュース・クーに話しかけたり、昼寝をしたり。
驚くほど順調。そう順調だった。気が付くと沖合までという約束だったのにずいぶんと陸地から離れていたが特に気にもならなかった。いっぱいとってくれば釣りがくると思っていたのだ。
そしてそのあたりの魚を乱獲しまくっていた少年に対し、——穏やかな海は突如牙をむいた。
「…っとやばいな。もう夕方かよ」
あたりを見渡せばすっかり太陽は西の空にオレンジ色に光っている。もはや陸上などかけらも見えずひたすら青い水平線のみが、眼前に広がっている。
だが少年は慌てることはなかった。これで迷っていたら何のために航海術を学んだのかという話である。 ただ方位磁針が光がなくなって見えなくなると星をもとに探さねばならないため、非常にめんどくさい。
ここにきて魚の食いつきも悪くなってきた。そしてこの辺りの海では近海の主とかいう巨大な魚も出てくるという噂である。
もう潮時だな。
そう判断した少年は方位磁針と海図を頼りに、正確な位置を割り出そうとする。
少なくとも自分の心臓の音すら聞こえてきそうなほど、やたらと静かな海に対して、その静けさこそが何かが起こる前兆であるような妙な予感が少年にあったのだ。
そしてそれは的中した。
「船が揺れてる……?」
ガタガタと、海図や方位磁針が揺れだす。
海がおかしい。妙に波が立っている。
まさか噂の近海の主とやらでも現れたのか。
ともかく状況を把握するためにこの波はどこから来るのかと望遠鏡であたりの海を見ていた少年は、海にとあるものを発見した。
「う、渦巻きぃ!?」
見えたのはおおきな砂地獄のようになっている渦巻だった。
波が荒れている理由はあれだ。あたりの水ごと、この船もあれに引き寄せられている。
こんな片田舎の穏やかな海で、あんな巨大な渦巻きが起こるなど普通ではありえない。少なくともそれぐらいでかい。
あんなのに巻き込まれたらこんな小舟など間違いなく大破轟沈である。ついでに自分もあわれに溺死する。
冗談じゃなかった。
「ちょっとまてよおい!いきなりすぎるだろ!」
少年は必死の形相になって船のオールを回転させる。逃げろ逃げろとせかしながら、オールをこぐが魚を積みすぎて船が重く、思うように全く進まない。じりじりと迫ってくる渦巻に恐怖しながらこぎまくる。
「うおおおおお!?」
いよいよ後ろに渦巻きが迫ってきて端正な顔立ちに似合わない奇声を上げながら、まるで地獄糸に登場する大泥棒のごとくなんとか逃げようと脂汗を吹き出しながらオールを無理やりこぐ。
必死で漕いだおかげか、なんとか渦の外に出れそうなところまで来た。
なんとか逃げ切れそうだと安心する少年。
そして——バキャっ!!と。
「…は?」
あまりの膂力でこがれたオールが持たずに根元から砕け散って宙を舞った。
手元だけになったオールを呆然と目を点にして見やる少年。そして同時に空中をくるくると舞うオールを見やる。
永遠とも一瞬ともつかない時間ののち、空中を飛んでいたオールがぽちゃんと海の中に消えた瞬間。
少年は渦の中に放り込まれた。
「嘘だろおおおおおお!?」
断末魔のような叫び声とともに少年は渦の中に消えていった。
****
「んで、気が付いたら無人島に漂着しましたと。‥‥なんの冗談だ、一体」
そして現在へと立ち返る。退屈しのぎになんどもなんども、思い返してみたもののいい加減飽き飽きしてきていた。
自分はほかの人間とは少し違う。何がと言われれば体質的な問題だ。
いわゆるカナヅチである。漁師のくせに。
だからこそ空気ににおいがあると思ったときは助かったことに心底ほっとしたものだったが、時間が経過して頭が冷静に回転しだすとイライラと絶望感が頭の中を蔓延ってきた。
ずぶ濡れだった服はビーチに天日干ししておいたおかげでなんとか乾いたのだが、生乾きの匂いで臭いわ、海水にどっぷり浸かったせいで塩だらけでざらざらするわ、汗じみだらけだわ、太陽の照りつける光でやたらと嫌な汗は出るわ。
方位磁針はどっかにいき、海図もない。
当然船も粉々で、その辺にがれきのように打ち上げられており、どう考えても使用不能。
のこったのは、解体用のクソデカい肉厚包丁といくつかの釣った魚たちに大事な本と航海日誌のみである。
特に本は水に浸かったので、乾かすのが大変であった。
当然こんな無人島は見たことも聞いたこともない。
一面に広がるのは恐ろしく白いビーチのような砂辺と透き通った海、さらには後ろに広がる野生林のようなジャングル。景色そのものはかなりいいのでバカンスにはちょうどよかろうが、あいにく泊まるための旅館もなさそうだった。
そしてこの島は夜にやたらとやかましい。ジャングルに夜行性の猛獣か何か住んでいるのか、密林から唸り声が聞こえたり、地面がぐらぐら揺れたり。
さらに極め付けは波の満ち引きでこの島は夜のうちに海の中に沈む。
初日は呑気にビーチで寝ていたら冷たい感覚で目が覚めて、あたりを見回すと、水浸しで驚いた。なんとか木によじ登ってことなきを得たが、気づかなければおそらく死んでいただろう。
そのため今のところ寝床は木の上で鳥の巣のような状態である。
狭くて寝れたもんじゃないわ、寝ていたら木の上から落っこちて腰を強打するわで結局のところ最悪には違いないが。
いやどーすんのよ、これ。
両手を顔の横に持ってきて広げて全てを投げ出したい気分。やられたらすごいイラッとするだろうけど。
さながら気分はターザンである。
とりあえずこの三日間は、釣った魚を刀で掻っ捌いて塩焼きにしたり、刺身にしたり、丸焼きにしたりして何とか食いつないできた。この時ばかりは漁師としての技を叩き込んできた頑固ジジイに感謝したものだった。ジジイのおでんが懐かしい。
もちろん何もしなかったわけではなく、刀で木を切ってイカダを作ろうとしたりはしたが、切った木が白蟻に食われてスッカスカだったり、切ったときに蜂の巣を落っことしてしまい大量の蜂に襲われたりと、ギャグかといいたくなるような散々な目にあい、3日目になるとボケッと海を眺める時が多くなってきた。
先ほども、小舟の残骸の木片にメッセージを書いて海に流せば誰かが拾ってくれるのではないかと考えて石で表面に文字を書いていたのだが、知らんうちに胡散臭い哲学者みたいな文章になっていた。自分が拾ったらへし折って叩き付けたくなっただろう。
大体からしてこんな穏やかな海にこんなもの流したところで船が拾ってくれる確率など天文学的確率だ。運良く陸に流れ着いたとしてもその頃にはとっくに自分は隣に寝ている白骨化した髑髏と一緒に死んでおねんねしているはず。誰とも知れない死体の成れの果てと心中などごめん被る。
「そーいやあ、御伽噺にもこんな場面あった気がする」
たまたまこのような島に流れ着いた人間がそこに隠されていた財宝を見つけ出し大金持ちになる話だ。確か、最後はたまたま通りかかった船に助けてもらってそこを脱出するんだったか。
村にいた医学生崩れの兄ちゃんが、嬉々としてそういう話をよくしてきた。ほとんどの大人や子供が胡散臭いと全く信じず、ホラ吹き扱いされていたが、話している内容が面白かったためよく聞いていた。
その兄ちゃんはいつのまにか村から消えており、今となってはどっかでのたれ死んだのではないかとか、親父に勘当されて出ていったとか、一種の都市伝説と化しているが、ともかく自分はそういったシチュエーションに憧れている。
だが、やはり御伽噺と現実は違う。
その辺のビーチからかすかに見えるされこうべが、お前もこうなるんだといっているようできみが悪い。
穏やかさの中に牙を隠していたのとはまた違う海の怖さの側面というものを改めて知った気がした。
よく見れば、髑髏のそばにはきれいな宝石がギラリと光っている。近くにはさび付いたピストルも落っこちていた。肉もなにもないが生前は海賊として海を旅していたのだろう。
むなしいものである。あの世には宝石もピストルも冒険譚も持っていけはしない。
死んで残るのは骸骨のみ。思った以上に何もない光景に冒険なんて以外と楽しいものでもないなと落胆した。
「んだありゃ?」
そうしてボーっと海を眺めてまだ乾いてないひざ下まで伸びるロングコートからぎゅーっと水を絞っているころだった。
水平線の先を見つめながら、コートを干す場所を探していると少年の目におかしなものが飛び込んでくる。
目を凝らしてみてみると、どうやら樽のようだった。桃太郎のようにどんぶらこどんぶらこと、波に流されてこのビーチに向かってくる。
自分と同じようにこの辺で沈んだ船の荷物かなんかだろうか。なにやらわからないが少年には好都合である。
よっぽど重いものを積んでいれば樽などさっさと水没してしまう。樽といえば酒が思い浮かぶだろうが、船乗りの知識としては壊血病を防ぐために樽の密閉性を利用して塩漬けにした野菜などを積み込んでおくのが常識であった。
「中に食い物でも入ってりゃあ儲けものか」
少なくとも、悪いものは入っていないはずだ。
魚の塩焼きばかり食いすぎて飽き飽きしていた少年は、嬉々とした様子で、ビーチに漂着した樽のもとへ向かった。
結論を言えば、そこに入っていたのは酒でも野菜でもない予想の埒外のものであったわけであるが。
いざ樽の前につくと、どこにも傷がついてなかったのでかなり新しいものだと見受けられ、ますます中身への期待が高まる。
ただ樽の前についたものの開け方に困った。切ったり叩き壊したりしたら中のものが痛んでしまいそうだ。
「よし、石で樽の上の板だけを壊すか。そらよっと」
ビーチの砂場に埋まっていた重そうな石を右手に持つと、樽の前に立って大きく振りかぶる。
「せーのっ!!」
そして振り下ろそうとして顔が前のめりになった瞬間に——目に写ったのは顔面に直進してくる握り拳。
「——へっ?」
「ぶっはー!!よく寝たー!!」
「ぶはあっ!?」
握り拳が顎にクリーンヒット。
予想だにしていない攻撃に少年の体はビーチを勢いよく跳ね回ってそのまま大の字でひっくり返った。
危うく舌を噛み切って間抜けにお陀仏するところである。一体なんだと混乱する頭でもう一度樽を見やった。
「いやー、ビビったー!ここどこだ?…まあいいや!何はともあれ俺は海に出たんだ!しっしっしっ!腹減ったー!」
そこには三白眼に元気そうな少年が足から勢いよく伸びをしながら立っていた。
樽の中から出てきたと思われる少年は体の下半身を樽に突っ込んだまま、笑顔で独り言をだれに話すでもなくくっちゃべっている。
麦わら帽子に真っ赤なベストに半ズボンという軽装で、まるで猿のように騒ぎまくっている少年に、顎をさすりながらむくりと起き上がった少年の目線が飛ぶ。
見れば見るほどよく言えば純粋そうな、悪く言えばアホそうな少年である。小さい子供がそのまま大人になったかのようなやかましさだ。
そしてその視線に気付いたのか、麦わら帽子を被った少年も、こちらをむいた。
「あり?おめぇ誰だ?」
「こっちのセリフだ、バカ!」
口を開けばピンぼけみたいな発言をかます少年に思わず突っ込む。
すると心得たとばかりに、麦わら帽子を被った少年が話し出す。
「俺の名はモンキー・D・ルフィ!海賊王になる男だ!」
違うそうじゃない。
てか抽象的すぎてよくわからん。
自信満々に自己紹介する少年に対して呆けた顔を浮かべる。別に名前を聞いたのではなく、なんで樽の中に人間がいるんだということを聞きたかっただけである。
なんなんだこいつは。
いきなり樽から出てきて俺は海賊王になるとか言われてこっちはどうすればいいというのか。
「なあ、そんなことよりメシねえか、メシ!!腹減ったんだよ!」
「は?」
「お?あっちからメシのにおいがするぞ!?メ、シ!メ、シ!」
「おいこら待てお前!」
大混乱している少年にルフィと名乗った少年はお構いなしにマシンガントークを開始し、こっちが何も返してないのに勝手に自己完結させて、樽から抜け出して食べ物のにおいがあるほうへ走り出した。
恐ろしいほどの足の速さである。あっという間にビーチに足跡を残してすっ飛んでいく。小さく弱そうな見た目に反して身体能力は抜群のようだ。
向かった先は、少年が非常食用に、さばいておいておいた魚の開きがある場所だった。
「ちょっと待て!勝手に食うな!それは残ってる数少ない食料だぞ!」
あんな奴に食われたらたまったものじゃないと急いでその後を追ったが、時すでに遅く。
「いやー食った食った!うまかったー」
見たのは、散乱している魚の骨と岩陰でぺろりと平らげて魚の骨で歯の間の残った魚の身をかきだして寝っ転がっているルフィの姿だった。
それなりに長く持つだろうと思っていた魚の山が手品のように消えた。んなアホな。
しばらく何が起こったかわからず呆然としていた少年だったが、何かが切れた音がしたと同時にルフィにつかみかかった。
「おいふざけんな!?ありゃ一週間分の食料だぞ!」
「おう、うまかったぞ!」
「うまかったぞじゃないわ!?」
ヘラヘラ笑いながら反省の色すらないルフィに少年の怒りがヒートアップする。
だいたいかなりの量あった魚があれほどの勢いでなくなるとは、こいつはどれだけの大食漢なのか。人間ポリバケツかこいつは。
「もうちっと肉が欲しかったなあ肉!肉くれよ!」
「あるわけないだろ!?ビーチに都合よく肉なんて転がってるか!それよりさっきの食料返せこのバカザル!」
「ぐええっ!?やめろ、首閉まるゥ!?」
首をひっつかみながら、何とかはかせようと、ガンガン近くの岩場にルフィの頭を激突させる。
無人島のビーチに悲鳴が散り、近くの木の上にとまっていた鳥たちが驚いて一斉に飛び立っていった。
*****
「ハア、ハア、ハア……!疲れた……」
「うえええ……。気持ち悪い……」
1時間ほど過ぎたころ、怒鳴りすぎて疲れ切った少年と、岩場を破壊するぐらい頭をたたきつけられ、脳みそをシェイクされたルフィが、グロッキー状態でめちゃくちゃになったビーチに転がっていた。
これだけマジ切れしたのも、子供のころに幼馴染とけんかして以来である。怒っていたとは言え完全に我を忘れていた。
息も絶え絶えの少年に、ルフィはいまだグロッキー状態ではあるものの、むくりと起き上がって、ボコボコにされたとは思えないほどのあっけらかんとした表情で話しかけてくる。
「うっぷ……、しっかし、お前強ぇなぁ。こんだけボコボコにされたのは、エースやサボと戦って以来だぞ」
「お前こそ、岩場の原型なくなるぐらい頭をたたきつけられてよく無事だったもんだな…」
「しっしっしっ!俺はゴム人間だからな!」
こんだけのことが起こったあとも変わらない少年のような笑顔を浮かべているルフィにあきれて怒る気も失せた少年は、ため息を吐き出した。
気が付けばすっかり太陽は高く昇っていて、またじりじりとした蒸し暑さが少年を襲い始める。基本的にじめじめした天気はきらいではあるが、雲一つない快晴の青空がこの時ばかりは疎ましく感じる。
それにしてもオールは折れるわ、余計な体力は使うわ、変な男に食料を食い尽くされるわ。
お天道様は何か自分に恨みでもあるのだろうか。
ため息を吐き、青空を睨みつけながら、食料の確保をどうするかについて少年は頭を回す。
何かが起こるまではそれを止めるまで全力を尽くすが、起こってしまった以上もはやどうしようもないと最善をすぐさま求める切り替えの早さがこの島で少年が生き抜いてこられた一つの理由でもあった。
「なんだ?お前も肉食いたくなったか?やっぱうまいよなあ、肉!」
となりで見当違いのことを思い浮かべて、よだれを垂れ流しながらニヒヒと笑っている少年にやっぱりイラつくのは事実だったが。
「…ありゃ、俺の帽子どこだ?どこ行った?」
そこで笑いながら黒髪の頭に手を乗せようとしたルフィは帽子がないことに気づき、焦ったように起き上がってキョロキョロと見まわす。そういえばさっきの喧嘩という名の一方的な凧殴りの最中に麦わら帽子が飛んで行った気がする。
黙って横目で様子を見つつも基本的に無視していた少年であったが、ルフィがあまりにも青い顔で麦わら帽子を探している上にいちいち目の前をよこぎるので気になって仕方がなかった。
それにしてもいちいち騒がしい男である。そして笑ったり青ざめたりと顔芸も激しく落ち着きがない。はっきり言って海に出て無事で済みそうな人間には到底見えなかった。目を離したらすぐに藻屑になりそうだ。
「やべえー!どこいった帽子!?あれがなきゃ俺冒険できねえよ!」
「うるさいな。麦わら帽子ぐらいどこに行ったって買えるだろ」
「あれじゃなきゃダメなんだよ!俺の大切な帽子なんだ!」
「ったく。めんどくさい」
だいたいあんなことをされた後にこいつを助けるなど変な話ではあったが、耳の前を飛び回る蚊のようにうっとうしい上にやかましくて考えが練られない。
仕方なしに起き上がってあたりをきょろきょろと見まわした。まあ一方的に凧殴りにしていた自分にも責任はある。
大きな岩場を持ち上げて「どこ行った帽子ー!返事しろー!」とてんやわんやの大騒ぎのルフィをしり目に、風で飛ばされて引っかかってないかと360°見回す。というか、どう考えたら岩場の下につぶされている思考になるのだ。そもそも帽子が返事するか。バカなのか?いやバカだった。
そしてお目当てのものは案外すぐに見つかった。麦わら帽子は近くの岩場に引っかかって、風に揺られていた。
「あそこに引っ掛かってるぞ。ほれ」
「お、ありがとう。いやー、よかった!なくしたらどうしようかと思った!」
岩場に引っかかっていた麦わら帽子を手に取って頭に被せるルフィはまた子供のように心底うれしそうな笑顔を浮かべる。
豊かな太陽光に揺られてまぶしく光ってはいたが赤いリボンが付いたなんのへんてつもないどこにでもありそうな麦わら帽子だ。
「そんなに大事なもんなのかそれ?ただの麦わら帽子だろ?」
「ただの麦わら帽子じゃねえ。こいつは俺の宝物なんだ」
怪訝には思った少年だったが、ルフィが嬉々として大事そうに麦わら帽子を触っているのを見てそれ以上のことは聞かなかった。宝物とやらに興味はあったが、無人島で生き残るのに重要なのは宝よりも食料である。
まあ、その重要な食料は目の前にいる男に全部食われてしまったわけだが。
「そういや、お前名前なんていうんだ?」
「は?なんだよいきなり」
「メシ食わせてもらったやつの名前ぐらい聞きてえよ。これでも感謝してんだ」
「その気持ちがあるなら人の言うこと無視するのやめろ。あと俺は食わせた覚えはない。
「おう!ありがとう!」
「人の話全く聞かないな、お前。ここまでくると逆にすがすがしいわ」
ちょっと厭味ったらしく強調していってやったが、全くこたえていない。
なんだかすっかり常にマイペースで自己中らしいこの少年に乗せられっぱなしである。こっちは生き残るために必死で頭回しているというのに。
だが、どうしても横にいて余計なことばかり言っている少年の存在感に目を奪われる。先ほどのことなどなかったかのように人懐っこい笑顔を浮かべる少年に話しかけられることが不思議と嫌ではない。
それがこの男の魅力なのか、それともほっといたらあっさり死んじまいそうな危うさなのかはわからない。
どっちにしようと振り回され続けている自分に情けなさを感じつつも少年はぶっきらぼう、かつ、めんどくさそうに口を開いた。
「…シーブックだ。」
「そうか。よろしくなシーブック!んじゃさっそくだけどよ」
ルフィは笑いながら、シーブックに言った。
「シーブック、俺の仲間になって海賊やろう!」
「はあ!?」
のちに世界へ飛び出すことになる
勢いで書いちまった…。後悔なんてしようがない。