We are the New Bregmen!   作:RGN

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ワンピース最新話見て、若干唖然とした。


え?あれってフワフワの実の能力じゃね?


竜ってなんでもできるんだ、すごいねー(棒読み)

…悪魔の実ってなんだろう(哲学)。


夢追い人の冒険 ーⅰー

「お断りだ!」

 

 

 ビーチの砂浜で確固たる意志を込めた、声が響き渡った。

 

 

「なんでだよ、仲間になれよ!」

「やだよ!?自分から好き好んでお尋ね者になんぞなるか!」

 

「知るか。俺が仲間にするって決めたんだ!」

 

「あれ?俺の決定権どこいった?」

 

 

 砂浜からすれば彼らの大きさなど点のようにしか見えないが、それでもこれだけ開けた場所で大きく響くのは二人が怒鳴りあいのような喧嘩を繰り広げているからである。近所迷惑だと怒鳴られそうだが、あいにくあたりにひとっけなどさらさらない。

 

 片方は黒髪の碌に整えられていないくせっ毛にズボンと長ティーを着込み、その上からひざ下まで伸びるロングコートにバンダナをまいた少年。もう一方は真っ赤なベストを地肌に直接着込み太陽の光で黄金色に輝いている麦わら帽子を被った少年。

 

 身長の違いと顔立ちの違いもあって側から見るとまるで弟が少し歳の離れた兄ちゃんに駄々をこねているようだった。

 

 

「いいじゃねえか、海賊は楽しいんだぞ。冒険するし、海の上で宴もやるし、肉だって食うんだ」

「前二つはともかく最後ただのお前の願望だろ!大体肉なんてどこでだって食えるわ!」

「お前わかってねぇなあ。苦労して冒険してから食べる肉だからうめえんじゃねえか」

「お前は苦労して集めた俺の食料をうめえうめえ言いながら食い尽くしただろうが」

「お前は仲間だからいいんだ」

「今日会ったばっかだろうがぁ!!」

 

 

 人の話をまるで聞いていない。

 そのおかげで会話が絶妙に噛み合っていない。

 その上どれだけ否定されてもめげる気配がない。

 完全に仲間になる前提で話を進めている。

 ほんとになんでこんなめんどくさい奴を助けたのだろうか。なんだか堂々巡りすぎて頭痛が酷くなってきた。

 

 とても無人島で遭難したとは思えないほどののんきな会話を繰り広げる二人。本来シーブックはこんな会話をしたいのではないが、食料を食い尽くされた恨みやら焦りやらで冷静な思考がぶっ飛んでいるようだった。

 

 性格も正反対のようでルフィがのんきかつ楽観的な性格なのに対して、シーブックは慎重かつ周到な性格。

 

 無人島にいるという危険さを説くシーブックに対し、それを大したことではないと考え仲間になれと言い続けるルフィとでは話が全くかみ合わず、全く進まないままでこの状態である。

 

 

「にっしっしっしっ。観念したか?なら俺の仲間になれ!」

「いやだ」

「ナニぃ!?ったく強情な奴だなー」

「お前が言うなよ」

 

 眉間を抑えた仕草を観念したと勘違いしたらしいルフィが色々いってくるがシーブックは全てをもれなく突っぱねる。

 

 ちぇーっと言いながら口をひん曲がらせるルフィの顔は言葉とは裏腹にめちゃくちゃ渋い顔を浮かべている。

  

 人間ってこんなにいやそうな面できるのかっていうくらいの顔である。一体何が気に入ったのかはわからないが、逃す気配など全くなさそうだった。

 

 

 海風が妙に優しく頬を撫でていく。

 気がつけばむせ返るぐらいだった磯臭い匂いが気にならなくなっている。

 それぐらいにこの妙な男の存在感が大きくなりつつあった。それこそ無人島に漂着したことすら忘れそうなぐらい。

 

 

『グギュルルルル〜〜。』

 

 

 そんな終わりの見えそうにないぐらいヒートアップしていた押し問答を止めたのは、魔の抜けたヘンテコな腹の音であった。

 

 

「うへ〜、声上げすぎて腹減ってきた〜……」

「いや、嘘だろおい」

 

 

 音の主はやっぱりというかルフィ。

 

 その腹から奏でられる見事な腹の音にシーブックは若干というかだいぶ引いた。

 

 先ほど一週間分とシーブックが見積もっていた魚をペロリと平らげたところである。確かに暴れ回って多少エネルギーを使ったといっても、たかだか1時間ぐらい暴れただけでこうも腹が減るものか。

 むしろ昼飯をぶんどられたシーブックの方が腹が減り始めた頃だ。

 

 どうやら伊達に海賊王になるという言うだけの人間ではないようだ。骨まであらかた食ったりしているあたり並大抵の代謝機能ではない。

 

 

「やっぱ肉食わねえと食った気がしねえなー。肉ねえのかよ肉」

「あるわけねえだろ、ここ無人島だし」

 

「えェえええええエエエ!?無人島なのかここ!?」

 

「お前さっきから何を聞いてんだよ!?」

 

 

 目ん玉を飛び出させながらオーバーに驚くルフィに怒りのこもった強烈なゲンコツが炸裂する。なんだか全然効いてなさそうなのが無性に腹立つ。どんな体してるんだこいつ。

 

 全然話が進んでない。

 っていうかなんで話してるだけで疲れてるんだろう。結局殴って暑苦しくなっただけで何にも解決していない。

 

 こいつと出会ってずっとこんな感じである。例え海賊になったとしてもこいつの下には絶対つきたくない。絶対苦労するに決まってる。それどころか結構な確率で死ぬ気がする。

 

 さすがに無人島と聞いてようやくひるんだのと、飯を食っていないためかフルパワーが出なくなったらしく、ルフィはドスンとその場に尻もちをついてあたりをキョロキョロと見回す。

 

 見渡す限りのきれいな海、見渡す限り続くビーチ。後ろを振り返れば見たこともない木が生えており中身は暗くて見通せないほどの大密林。

 

 食い物を探そうにもいじめのようにヤシの実ひとつ生えていない。

 

 当然のことながら全く持って人の手の入った人工物はない。

 

 正真正銘、未開の僻地というやつだ。

 

 そこでは法律など意味をなさず、食うか食われるかの弱肉強食のみが絶対的なルールとして定義される。白浜の中に埋もれている髑髏がうつろな穴から哀しく光る。

 

 そしてそんな光景を見たルフィはというと、

 

 

「……冒険の匂いがする!」

 

 恐ろしいほどに目を輝かせて見入っていた。

 

 それこそ新しいおもちゃを見つけた子供のよう。

 こんな状況でさえ漂流の絶望感より好奇心が優ったようだ。自分も好奇心はある方だと思っていたが、この男はどうやら格が違うらしい。

 

 この状況下で能天気に笑っていられるとはよっぽどの大物か、それともただのバカか。そのどちらかであろう。

 少し羨ましいくらいである。

 

 

「なあ、せっかく無人島に来たんだし、冒険しよう!」

「いやなんで俺まで」

「いいじゃねえか!考えてみろよ。今この大冒険ができそうなのは俺たち二人だけだぞ?興味ねえのか?」

「…冒険ねぇ」

 

 興味はないのかと聞かれれば嘘になる。

 

 この明らかに人の手の込んでいない島にいるのは少なくとも見える範囲では2人だけ。なんの事前情報がないのは恐怖ではあるが、そのスリルこそが島を発見したもののみに許される報酬だ。

 

 漂流したなんて状況でなければ彼も喜んで冒険したであろう。漂流という状況に囚われすぎていろんな意味で視野が狭くなっていたようだ。

 

 そしてなによりこの安全地帯にいるメリットもない。通りかかる船を待っても見えもせず、なにより目の前の男のお陰で食料も尽きた。どの道このまま動かなければ餓死するだけ。

 

 見たところこの男、見た目の割にはやたらと身体能力が高い。手綱を握るのが大変そうだが、密林を進むうえではそれなりに頼りになりそうだ。

 

 

「…いいだろ。乗ってやる。はぐれたら置いてくからな、めんどくさいし」

「心配ねえよ、ガキの頃から山で山賊と一緒にサバイバルしてきたんだ。慣れてる」

「随分と変わった経歴だなお前」

 

 

やたらと自信にあふれる好戦的な笑顔で言い切ったルフィは、改めて麦わら帽子をガボッと被った。

 

 

「うし!そうと決まったら進むぞ!」

 

 

 パン!と顔の目の前で手のひらにこぶしをぶつけたルフィはスックと立ち上がると海岸線の端っこに向かって歩き出す。

 鼻歌すら歌ってえらくご機嫌のようだ。

 

 しかし、どんな因果か、出会い頭に食料を食い尽くされた人間とまさかいきなり無人島を冒険することになるとは。

 

 ガリガリと頭をかいたまま突っ立っていたシーブックではあったが、「おーい、何してんだー」という声にやれやれと荷物をまとめて遠ざかる麦わら帽子を追って歩いて横に並んで進みだす。

 

「おい、行くのはいいが、何をするんだよ」

「何をって冒険すんだよ」

「いやそういうことじゃなくてどこにいくとか、脱出のためにボート探すとかあるだろ」

「んじゃ、まずは森に入ってみよう。そっから先は知らねえ!

「ドヤ顔でいう言葉か。殴るぞ」

 

 太陽は高く昇り、じりじりと少年たちの皮膚に刺さるように照らす。したたるうっとうしい汗に対してシーブックはグイっと汗をぬぐった。手元にある無駄にデカい肉厚の菜切り包丁を弄んでヒュンヒュン風切り音を立てながら歩く様はまるでシリアルキラーだ。

 

 横にいるルフィをちらりと見れば突風のように吹き荒れる強烈な海風に飛ばされないように大切だと言っていた帽子を押さえながら気持ちのよさそうに歩いている。

 

 ほんとによく笑う男である。白い健康的な歯が太陽に反射してきらりと輝いている。

 能天気なのもあるだろうが、この男はおそらくあまねくすべてのものを楽しい出来事として笑ってしまえるのだろう。

 

 そしてその笑顔を見てシーブックは本人も気づかないうちにどこか安心していた。

 

 隣に人がいるという安心感。ルフィがあまりにも感情を素直に表すので余計に感じられるのかもしれない。

 

 歩きながらふと下を見ればヤドカリのような小さな生物がみょこっと土の中から顔を出しては足にまで来た波にさらわれていってはまた戻ってきて土の中に隠れている。

 

 たくましかった。間違って踏んづけてしまえば一瞬で散ってしまう小さな生物だったが、彼らは一人でもこの弱肉強食のルールの中を生き抜いているのだ。

 

 それに対して人間はどうかといえば、あのビーチに転がっていた髑髏がそれに明確な答えを出している。

 

 大きさは多くの生物にとって脅威となる。大きいというだけで多くの生物は体の中にある恐怖という本能を思い出してしまう。それがたとえ生物ではなくとも。

 

 だが大きいということはメリットばかりではない。大きな体躯を動かすにはそれだけのエネルギーをため込み続けなければならない。つまりかなりの量のものを食べ続けなければならないのだ。

 

 そもそも人間は大きいとは言っても非常に中途半端な大きさだ。象やキリンのようにでかさがアドバンテージになることはめったにない。

 

 めったにないというのは偉大なる航路(グランドライン)には3mをこす人間がゴロゴロいるともっぱらの噂だからだ。だがあそこはそのぶんだけ普通にいる動物のサイズも馬鹿でかいと聞く。それどころか恐竜すらいるとかいう逸話さえ残っているまさしく常識外れの海なのでカウントしない。

 

 そんな中途半端な人間がなんで生き残ってきたのかといえば、ひとえに集団の力、そして道具の力だ。

 

 体格において大きく劣るマンモスを槍や弓で攻めかかって集団でなぎ倒す。四方八方から大量の砲弾を撃ち込んであたりを火の海にする。やり方は何でもありだ。それが弱肉強食のルールなのだから。多くの生物たちが、体大きくしたりする個の強さでの進化に特化しているのに対して人間はかなり特殊といえるだろう。

 

 しかし逆に言えば、一人で放り投げられた人間はさっきのヤドカリにも負けてしまうほどに食物連鎖に適応できない。特殊な進化に対する弊害だろう。一人だけでこの海を生きれるものなどいやしないのは当たり前だ。そういう生物なのだから。

 

 だが人間というのは厄介なことにそれを無意識のうちに自覚している。そうであるからこそこういうところに放られると人は孤独さに襲われやすく、そしてやたらと死にやすい。

 

 一人になると異様なくらい脆いにはもはや人間のさがだ。なんでも考えられる分だけ余計なことまで考えてしまう。

 

 そういう意味でもこの少年の底抜けな馬鹿さ加減には救われているのかもしれない。漂流したことを考える暇もないぐらいに矢継ぎ早に問題を起こす。

 その分だけ疲れはかえって溜まっている気がするのはご愛嬌といったところか。

 

 

 海岸線は長い。しばらくの間二人は波の音を聞きつつ歩き続ける。

 

 サクサクと水を吸った砂場の海岸に草履のようなサンダルとブーツの跡が刻まれては、やってきた波にさらわれて痕跡が消えていく。

 

 こんな風に少年たちがこの島を探検するであろう形跡などおそらく早々に自然の中でかき消えていくのだろう。人間が自然の前でいかにちっぽけであるかを自覚する。

 

 しかしそれでもこれが少年たちにとっての初めての冒険であることには間違いなかった。

 

 

「なあ、そいやお前なんでこんなとこにいたんだ?キャンプか?」

 

 

 しばらく無言で波の音だけが流れていた二人の間に、石を打ったようにルフィがいきなり話しかける。シーブックは唐突の質問に驚いて見やるが、とうのルフィは何も考えてなさそうな顔である。

 ただ暇だから話かけたというだけだろう。いい意味でも、悪い意味でもこの少年は人に全く気兼ねしないようだった。

 

 考えてみればもうかなりの時間がたっているが、二人はお互いについてまだ大して知らなかった。

 

 

「……大渦に飲まれたんだよ。せっかくだから船ごとデービー・ジョーンズにくれてやった。」

 

 デービー・ジョーンズとは有名なおとぎ話に出てくる幽霊船の船長として名高い海賊だ。悪魔に呪われ今も海の底で生きており、沈んだ船や財宝を独り占めにしているとかいう伝説をもつ。当然ほんとに生きてると思っている奴らなどどこにもいない。それが伝説というものだ。

 

 ご存命中であらせられるなら、その船は寄付したのではないのでとっとと返してくれ。いらないだろあんなぼろ船。

 

 

「そうなのか?んじゃ俺と一緒だ。俺も出港したタイミングで渦に呑まれたんだ」

「出港してすぐ?なら逃げればよかったじゃないか」

「実は俺、今日海に出たんだ。だから海に見とれててさ。でっけえ渦だなーって見てたら知らねえうちに飲み込まれてた」

「ルーキーのお約束すぎるな。てかお前どうやって樽の中に入ったんだ?ご丁寧に蓋までされてたのに」

「さあ知らねえ。気がついたら樽の中にいたからな。俺カナヅチだから助かった。にっしっしっしっ!」

「人生楽しそうだなお前」

 

 

 シーブックは天真爛漫な笑顔をこぼすルフィにため息をつく。

 

 

 とても遭難しているとは思えないテンションである。まさに目の前に悠然と広がるでっかい母なる海が心を正直にしてくれているようであった。

 

  

 気がつけば会話ははずみ、その後もシーブックはルフィと適当なことを喋り続けた。

 そして話せば話すほど、能天気でアホっぽいところ以外は普通の少年にしか思えなくなった。腕っぷしは確かに立つようだが、それによって人を傷つけたなどというような話は一切出てこない。聞けば海賊になったのも今日がはじめてだということらしく、仲間もいないようだった。

 

 

「へー、お前航海士なのか!」

「そんな大層なもんじゃない。本を漁っただけの知識バカさ。そんでいよいよ船出だって時に結局遭難してるし」

「でもスゲエよ。俺なんか海図なんて全く読めねえ」

「自殺志願者じゃねえか、アホ」

「ああ。だから俺を死なさないようにするために仲間になれ!」

「それは無理」

「ちぇっ、いけると思ったのに」

 

 

 しれっと仲間に誘ってくるルフィの意見をすげなくやり過ごしつつ、胸の中に蟠っていた疑問をぶつけた。

 

 

「なあ、なんでそんなに海賊にこだわる?冒険だの宴だのは船乗りになりゃできるだろ。」

「いやだ。おれは海賊になりたいんだ」

「なんでだよ、冒険家とかでもいいだろ」

「だって海賊じゃなきゃなれねえじゃねえか」

 

 そこで一呼吸おいて吐き出すようにルフィは言い切った。

 

「海賊王によ」

 

 シーブックののどからひゅっと無意識に息をのむ音が聞こえた。

 

 海賊王。

 

この世界ではゴール・D・ロジャーが歴史上ただ一人与えられた称号である。

 

 それが意味することはすなわち、偉大なる航路(グランドライン)を制覇し、最後の島ラフテルに到達したということ。

 

 歴史上海賊王という称号が与えられたのはゴール・D・ロジャーのみ。すなわちあの海を制覇したのは今や様々な逸話とともに語り継がれるロジャー海賊団のみである。

 

 ロジャー海賊団は偉大なる航路(グランドライン)制覇後に謎の失踪で姿を消し、その一年後に船長が処刑されたが、クルーたちすらも一種の伝説扱いとなるほど。

 なにせ大海賊時代の原因は、ロジャーが海賊王といわれるようになったからに他ならないからだ。

 

 だがそんなワードにシーブックは息をのんだのではない。

 

 海賊王の処刑から既に幾星霜、ロジャーが残したとされるお宝、通称ひとつなぎの大秘宝(ONEPIECE)をめぐって略奪や支配ではなく、夢を追いかけて海賊になるものが増えたこの世はまさに海に海賊たちがひしめき合う大海賊時代。ワンピースを手に入れて第二の海賊王になるなんてことは世界のあらゆる海賊が持つ夢であった。

 

 だがそんなミーハーな者たちに簡単に制覇できるほど偉大なる航路(グランドライン)は甘くはない。

 

 そもそも大海賊時代以前からロジャーは世界最強の大海賊の一人であった。そのロジャーですら海賊王になったのは死の一年前。海賊王と呼ばれた男が己の人生を全てかけてようやくワンピースにたどり着いたのである。

 

 ロジャーの死とともに世界の勢力図も大きく変わった。偉大なる航路(グランドライン)には4人の海の皇帝たち、つまり海賊王に最も近いものたちである四皇が君臨し、覇権争いを繰り広げている。

 

 彼らの力はすさまじく、四皇個人が振るう力により島がめちゃくちゃに破壊され、撃ち合う一撃は天を割り、目で人を見ただけで人を気絶される云々と、もはや人なのかすら怪しい雷名がこの田舎の片隅にまで聞こえるほどである。数ある偉大なる航路(グランドライン)の伝説の中でも特段化け物なのは、異常気象でもなんでもなく、いるだけで天災になる四皇という人間だという事実が彼らの力を浮き彫りにしている。

 

 抱えている勢力範囲も半端ではなく、数十個のシマを傘下に収め、世界政府ですらその勢力範囲には手が出せず、一種の独立国を築きあげている。

 

 当然ながら四皇同士が起こす戦いは四皇個人だけではなく、傘下にいる数万人の海賊たちのぶつかり合いになる。規模は抗争を超えた戦争レベルであるのは間違いないだろう。

 

 

 だからこそ普通の海賊たちはその夢を語ったり吹聴することはめったにない。

 海賊王になるということはすなわち四皇を全員倒すということに他ならない。つまり四皇に喧嘩を売っているのと同義だからだ。

 

 

 海賊王になるなんて夢を言い出すのは自分の実力を大きくつけた今のところは敵なしの海賊たちぐらいである。そしてそういうものたちが意気揚々とあの海に挑んでは、そこで全滅するか、這う這うの体でにげかえってくる。

 

 よしんぼ四皇のもとになんとかたどり着けたとしても、四皇に顔を合わせることもできずに傘下の海賊に蹴散らされて、全滅するか、傘下に入って生き延びるかの選択を迫られる。

 

 そもそも海は四皇たちだけのものでもない。世界政府直下の海軍本部が存在するグランドラインには大海賊時代勃発に伴い、選りすぐりの正義の軍隊が揃い、それでも足りない人員を埋めるために世界政府は著名な海賊に政府ポストを用意して雇い入れるほどに鎮圧に躍起になっている。

 

 大海賊時代が始まって約20年。かつては海賊王になるという夢を語る人間が腐るほどいたらしいが、伝え聞く偉大なる航路(グランドライン)の異常さ、待ち構える強大な世界政府の戦力、桁違いの四皇の異名、4つの海で無双していた海賊たちのほとんどがぼろ布のようになって帰ってきて、帰ることができたのすら運がよかったなどと言われては、多くの海賊が委縮してしまうのも無理はなかっただろう。

 

 こうして最近は海賊王になるなどという夢を語る人間はめっきり少なくなった。心の内で思っていたとしても口に出すのもはばかられるほどに。

 

 今ではそんなことを言い出せば、もれなくバカにされて笑いものにされる。冗談として処理しなければ聞いている方の身も持ちそうにないぐらいに人々はあの海にすくみあがっていた。

 

 だが、この男はなんのためらいもなく息を吐くように言い切った。

 

 まるでそうなることが当然であり、それが世界の真理であるといわんばかりに。

 

 ともすればこの海を舐めているとも取れる言動である。

 

 

「お前、それ本気で言ってんのか?」

 

 

 だからこそ、シーブックの声音も自然と低くなっていた。

 

 

「本気に決まってるだろ」

 

 

 だがルフィは、それに対しても世間話を返すかのように平然とした顔で言い返す。

 

 

「冗談抜きで死ぬぞ?遊びでいってんならやめといた方がいい。そういう奴から死ぬ海だ。あそこは」

「遊びでなんか言わねえ。夢のために死ぬんならそれはそれだ」

 

 

 念押しのように聞いたシーブックだったが、ルフィは己の死という具体的なワードに対しても達観しているように笑って返して見せる。

 

 この男がバカなのか、大物なのかは正直わからなかったが、間違いなく己の命を懸ける覚悟は本物であった。 

 

 そういえば、出会い頭にいきなり自己紹介とともに俺は海賊王になる男だと言い放っていたのをおもいだす。あんなことを顔も知らない人間に風潮して回れるような人間である。自己紹介と共に言ってしまえるほどに思い入れも強いのだろう。

 

 やたらと気持ちのいいその返事が妙に頭に残ったまま二人は島の端へと到達しようとしていた。

 

 

 

 

「おお、着いたぞ!ここが入口かぁ!でっけー獣道だなあ」

 

 

 元気なルフィの声が大きく響いた。

 

 

 ふと顔をあげると入る隙間もないぐらいに生い茂っていた密林にその部分だけぽっかりと獣道のような穴が空いていた。どうやら話して考え事をしているうちに森への入口が見つかったらしい。

 

 

「いや、こりゃ獣道どころじゃないだろ」

 

 うっひゃーと冒険のにおいに大騒ぎしているルフィをよそにシーブックの目線は地面の大きくくぼんだ穴を見ていた。

 

 明らかに巨大な何かの足跡がビーチに大きく残っており、それは獣道の穴を通って森の中へとつながっている。少なくともシーブックの足跡の数倍はあろうかというサイズだ。

 

 太陽の光の陰で薄暗い密林の穴をよくのぞいてみると、木々が押しのけられて根元から折れて倒れているのがいくつも確認できる。そしてそれは穴の奥へと連なっていた。雑草も見るも無残に踏みつぶされている。

 

 ヤヴァイ生き物がいる。間違いなくそうに決まっている。それなりに鍛えてきた勝負勘がそう告げていた。

 

 そしてシーブックの顔に自然と微笑みが浮かぶ。

 

 ゾクゾクとしばらく感じていなかった感覚が体を駆け巡り、シーブックは森の入口を改めて一望する。

 

 耳を澄ましてみれば何かの鳴き声やうなり声のようなものもかすかに聞こえる気がする。そこにはどんな未知のものがまっているのか。考えるだけで想像が大きく駆け巡る。

 

 そう、これでこそ冒険だ。やはり冒険には怪物や困難が付いて回らなければ。東の海(最弱の海)にしてはずいぶんと気が利いている。

 

 

「お前、やっと笑ったな」

 

 

 いきなり耳元で言われて驚いて、隣を見るとルフィもまた笑顔でシーブックを見ていた。

 そういえば笑顔なんて浮かべるのはかなり久しぶりだった。この三日間心のどこかで絶望感に浸っていたからかもしれない。

 

 

「当たり前だろ。冒険は好きなんだよ」

「ししし、それでこそ俺の仲間だ!」

「いやだから仲間にはならないって言ってるだろうが」

「行くぞー相棒!出発だー!」

「自己中の極みだなこの野郎」

 

 

 一人で子供のように大はしゃぎする少年と何度目とも知れないため息をつきながらも苦笑する少年。

 

 ひとりで突っ走るルフィの後ろからしっかりとした足踏みで踏みしめて森の中へと入っていくシーブックの顔に疲労の色はもうなかった。

 

 こうしてはたから見れば凸凹な二人の冒険が幕を開けた。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 思った以上に薄暗い。それがシーブックの抱いた感想であった。

 

 

「まさしく大密林だな」

 

 

 それにしてもこの東の海にこれほどの秘境があろうとは。

 

 地面からは見たこともないような毒々しい花がたくさん咲き乱れ、頭上からは植物のツタのようなものが大量に下りてきており、ジャングルの木だらけで日光も薄く漏れるぐらいしか入ってこない。

 

 そしてやたらと湿気が多くて蒸し暑い。サウナのようである。あまりにも暑かったので、シーブックはロングコートを脱いで腰に巻き付けて移動していた。

 

 幸いなのか、何らかの巨大生物が通った穴から入ってきたおかげで、生い茂る雑草などは踏み荒らされて轍のようなものができており、そこを突き進んできたので移動そのものは楽だった。

 

 

「あっちィ~……。なんか食い物ねえかな~…。」

「いい加減うるさいから黙れよ‥‥。余計に暑苦しい」

 

 グデーっという効果音がよく似合いそうな顔をしたルフィは早くもダウン寸前らしかった。

 

 最初の方は珍しい景色や生き物に対して目を輝かせて興奮していたのだが、同じような景色が続くうちに、冒険の楽しさで忘れていた空腹感を思い出すようになったらしく、その辺にある明らかにやばそうな色をしたキノコを口にして腹を壊したり、撒き餌のようなものに飛びついて、食肉植物っぽいやつに食われそうになったりと相変わらずのお騒がせっぷりを発揮していた。

 

 そのたび助けては体力を無駄に消耗するこっちの身にもなって欲しい。

 

 

「ほんとにサバイバル生活してたのかよ‥。嘘くさく思えてきたぞ俺は」

「嘘じゃねえよ‥。ガキの頃からじいちゃんに夜の山の中に放り込まれたり、風船で空に飛ばされたりしてたんだ。じいちゃんは海兵でさあ、俺に強い海兵になれってうるっさくてよ」

 

 

 これまで会話をしてきてこのモンキー・D・ルフィという少年が嘘をつけるほど器用な人間ではなく、どちらかというと馬鹿正直でアホ丸だしな少年であることはシーブックもよくわかっている。

 

 だから今まで話してきたことはおそらく全部本当なのだろうが、思わず本当かと疑ってしまうぐらい迷惑をかけられまくっていた。ただ単に絶望的に不器用であるだけなのかもしれない。

 

 先ほどから見る限りルフィはどれだけ変なものを食っても、腹痛のみですんでいる。異常なくらい代謝がよかったり、毒を食っても平然としていたり、その生命力に少し感心していたのだが、子供にやらせるにはあまりに過酷な所業がその根幹を作り出していたのだと知って返って合点がいった。

 

 それにしてもそのじいちゃんとやらも海兵とは真逆の海賊に孫がなろうとしているあたり、明らかに教育方針を間違えているようだ。ご愁傷様である。

 

 じいちゃんということは現在7,80歳ぐらいの年ということだろうか。世代的にはロジャーとぴったり合致する。それでいまだに現役とはよっぽどの猛者だったのだろう。そんな危険な海を生きてきた御仁であるならば、強くならなければ海兵としては生き残れないと考えるのも無理はないのかもしれない。

 

 それにしても、モンキー・Dという名前、ロジャーと同世代、海兵と聞くと、何か引っかかるのはなぜだろうか? 

 

 どっかで聞いたことがある名前であるとは思っていたのだが、ど忘れしてしまったようで思い出せない。結構有名な人物の名であった気がするのだが―。

 

 

「シーブックは偉大なる航路(グランドライン)に興味あんのか?」

「‥‥なんだ藪から棒に?」

「さっきなんか得意げに話してたじゃねえか。あの海は舐めた飴がうめえだとかなんとか」

「どう聞いたらそうなるんだよ。なめた奴が死ぬだ。」

 

 

 またもや唐突なルフィの質問で思考が中断される。どうして話している内容がどれもこれも食い物に変換されるのだろうか。まあ実際にそんなような島があると噂があるということがあの海の異常さだが。

 

 目の前に現れた大木の根っこを身軽な動きで軽快に乗り越えていくルフィの背を見ながら、なんのことはないかのようにシーブックが口にする。

 

 

「興味があるも何も…、偉大なる航路(グランドライン)は俺の故郷だし」

 

 

 そう口にした瞬間。

 ルフィの目がギラギラッと大きく輝いた。

 なにせ海賊王を目指す彼にとって、偉大なる航路(グランドライン)は航海の目的地。それ以上に様々な伝説をはらみ、未知なる冒険が山ほど待っている夢そのもの。

 その場所出身であると言われてしまえば目を輝かせてしまうのもしょうがないことであった。

 

「えー!?お前偉大なる航路(グランドライン)から来たのか!?」

「生まれてから数年だぞ?育ちはほぼ東の海(こっち)だ。だから記憶なんて断片的にしかない。」

「それでもスゲーよ!俺行きたかったんだよそこに!」

「そりゃ海賊王目指すんだからな」

「なあ何か冒険とかしたのか?聞かせてくれよ」

 

 

 大興奮した様子でビタリと横にくっついて前のめりになって聞いてくるルフィ。うるさいし暑苦しい。

 だが同じく冒険好きのシーブックはこれだけあこがれの目線で見られると悪い気はしなかった。覚えている限りの記憶を引っ張り出して語りだす。

 

 

「そうだな、俺がいた島は空中に浮かんでたぞ」

「え!?島が空中に浮かぶのか!?」

「ああ。ほかにも山みたいにでっかい魚に襲われたりだとか――」

 

 

 いわく、食べ物だらけの島がある。

 いわく、巨人族ばかりが住んでいる国がある。

 数は少なかったものの想像するだけで大興奮の冒険譚がシーブックから語られるたびにルフィはオーバーリアクションのように体を大きく揺らしながら聞き入っていた。

 

 

「いやーやっぱすげえな、グランドラインは。俺は絶対あの海に行くんだ!」

「まあ頑張って行けよ。俺もいつかは行くつもりだから」

「なあ、なら今すぐ行こう!海賊になってさ」

「それは却下」

「えー、なんでだよ?」

「まだ時期が早いんだよ。……それに俺にもいろいろ事情だってあるんだ」

 

 

 その時楽しそうに夢を語っていたシーブックの表情に急に影が差したのをルフィは目ざとく見つけた。

その変化は一瞬ですぐにいつもの不遜ともとれる表情に戻ったが、その一瞬の表情の変化がルフィの頭を離れない。

 海賊になりたがらない理由にもつながるのかもとは思ったが、本人が話すとは到底思えないのでその場はスルーすることに決める。話す気になったらいずれ話してくれるだろう。それもまた立派な人の自由である。

 少々重苦しくなった雰囲気を変えようとルフィは質問を変えた。

 

 

「お前の夢ってなんだ?グランドラインに何か関係あんのか?」

「これまた唐突だな」

「俺の夢はもう言ったぞ。お前のも聞かなきゃ不公平だろ」

「お前に勝手に聞かされただけでしょうが…。まあいいけどさ」

 

 

 そういうとシーブックは肩掛けのバックの中からおもむろに一冊の本を取り出し、ルフィに手渡した。

 やたらと分厚い本である。かなり読み込んであるようで、表紙のいろは所々剥げだしており、コーヒーのようなものをこぼしたような跡もある。

 

 

「なんだこれ、食えるのか?」

「どうみても本だろ。読んでみろ」

「俺、字だらけのなんて読めねえぞ?」

「いいから読めって。お前なら面白いって思うはずだ」

 

 

 グイグイ進めてくるシーブックに渋顔になりつつも、ルフィは根負けして本を開く。そしてピラリピラリとページを適当にめくっていく。

 ピラリ、ピラリ、ピラリ、ピラリ、ピラリ、ピラリ。

 

 そのうちにその音が止まらなくなっていく。ページを捲るたびに摩訶不思議なイラストが登場し、端に書かれた文章をどんどん読み進めていく。

 

 ばっと突如顔を上げたルフィは満面の笑顔を讃えていた。

 

 

「おっもしれー、これ!いろんな冒険譚が載ってる!」

「だろ?ブラッグメンっていう本だ。知り合いから貰った俺の宝物(バイブル)

 

 

 知り合いとは、くだんの冒険譚好きの男である。彼がいなくなる少し前にこの本をもらって以来毎日のように読んできた。

 

 有名どころで言えば、リトルガーデンと呼ばれる島の話などがある。

 

 

「今まで誰にも見せたことがないんだ。お前が初めて」

「そうなのか?こんな面白えのにもったいねえなぁ」

 

 

 そう言いながらすっかり気に入ったように本を読んでいるルフィは本当に楽しそうにしている。

 

 そんな様子を見つつ、シーブックは気付けば夢を語っていた。

 

 

「この本を書いた奴みたいに冒険譚を書いて、小説家になる。それが俺の夢」

「いいじゃねえか、小説家兼航海士!初めは音楽家が欲しいと思ってたけど、それもいいなあ」

「おいだから仲間になる前提で話進めるなよ。他当たれ、他」

「ししし、やだ!」

「ほんといい根性してるなお前、その諦めの悪さは尊敬する」

「じゃあ仲間になるか?」

「やだ」

「えぇ〜〜、なんだよつまんねえなあ!」

 

 

 気がつけば先程と同じような会話に終着し、ルフィが唸るだけという行為に終わっていたが、シーブックは自然と笑っていた。

 

 これまで幾度となく受けてきた勧誘だが、鬱陶しいとは思いつつも不思議と嫌ではなかった。

 

「お?シーブックこっち来い!」

「ぐえっ!?」

 

 

 そこでルフィの声とともにいきなりTシャツの後ろをつかんで思いっきり引っ張られる。その勢いで前に向かって歩いていたシーブックの首がいきなりしまって猫がつぶれたような声を上げ、そのまま近くの木の陰に引っ張り込まれた。

 

 

「いきなりなにすんだこの野郎!?」

「しーっ、静かに」

 

 

 起き上がったシーブックは当然怒りの口調で抗議の声を上げるが、ルフィが真剣な様子で人差し指を立てるので怪訝な表情に変わる。そしてくいっと空いている手の親指で方向を指すのでその方向を見やる。

 

 

 そこには木の陰に隠れて何かを食べているらしいイノシシがいた。

 

 少々開けた場所で近くには泉もわいている。休憩をしたり、ものを食うにはぴったりの秘密基地のような様子だった。きれいな花も咲いておりやたらと幻想的な雰囲気だ。

 

 

「猪か?どうすんだ?」

「食うんだ。イノシシの肉はうめーぞー」

「お前、調理できるのか?」

「イノシシなら丸焼きにしたら食える。結構でかいから二人分はありそうだし。ししし!」

 

 

 確かに人一人分は優にありそうな大きな猪である。口からは立派な角が二本生えており、目だけは妙に可愛らしいが、見た目はかなりごつい。

 

 

「よし、んじゃあれ狙おう」

「狙おうって結構離れてるぞ。銃でも使うのか?」

「そんなのいらねえよ。俺なら届く」

 

 

 気づかれないように小声で話すシーブックに自信たっぷりの様子で答えるルフィ。

 

 どう見ても15mは離れており届くと言われても自分よりチビな少年に届くとは到底思えない。

 

 何をするのかと怪訝な表情でみやるシーブックの前でニヤリと笑みを浮かべたルフィはグルングルンと勢いよく右腕を回す。

 

 

「ゴムゴムの〜〜(ピストル)!!」

 

 

 そう叫ぶと同時にとシーブックの前でルフィの腕が勢いよく伸び、人間の限界など遥かに超えてものすごいスピードで猪に向かって突き進んでいく。

 

 唖然とするシーブックの前で邪魔な木を拳で粉砕しながら突き進み、その音でようやく気づいて振り向いたイノシシの頬に轟音を上げて炸裂した。

 

 

「ブギィ!?」

 

 

 イノシシは驚きの声をあげて大砲がぶつかったかのように2mほど吹き飛び、近くの大木に激突。地面に墜落しそのまま動かなくなった。

 

 そして拳は蜻蛉返りする様にこちらの方向に戻ってきて、バチン!という音を立ててルフィの元の腕の形に収まった。

 

 

「しし、やりい!メシだ、メシだ!」

 

 

 大喜びしながら、何も無かったかのようにイノシシのもとに駆け寄っていくルフィにシーブックは一瞬対応が遅れる。

 

 腕が伸びた。いや、伸びたなんてレベルでは無い。15mも距離があった対象物に拳が命中したのである。

 明らかに伸びるはずがないところまで伸びた。それもほぼ瞬きしている間に。

 

 シーブックが歩いて猪の元に寄っていくと、イノシシは急所を撃ち抜かれたかのように白目を剥き、頬には拳の跡が陥没しているかのように付いている。近くには拳にへし折られたと思われる牙が転がっていた。

 

 普通の人間であれば理論上不可能な動き及び体質。こうなればシーブックの頭に浮かぶのはたった一つしかなかった。

 

 まさか東の海にいるとは。

 

 

「悪魔の実の能力者…?」

「おう、俺はゴムゴムの実を食べたゴム人間だ。腕は伸びるし打撃は効かねえ!」

 

 

 ルフィは自信満々で宣言した。

 

 悪魔の実とは、海の秘宝と言われる不思議な果実のことだ。

 外見はバナナの形をしていたり、ナシの形をしていたりと様々だが、どれも表面には不思議な模様が描かれており、色も非常に毒々しく、見る人間が見れば1発で悪魔の実とわかる外見をしている。

 

 味は見た目通り、ゲロを吐くくらい不味いが、一口食べれば摩訶不思議な能力を手に入れられる。

 

 種別によって3つに分けられており、ライオンやトラやはたまた恐竜などの動物たちの脅威的な身体能力を手に入れられる種は動物系(ゾオン)、火や雷と言った自然現象に体を変化できる種は自然系(ロギア)、今のルフィのように体の体質が変化しつつも体の原型そのものを保っていたり、前の二種に当てはまらないものが超人系(パラミシア)と呼ばれている。

 

 悪魔の実図鑑なるものも存在し、ある程度、実の形と得られる能力がわかっているものも存在はするが、それはごく一部に過ぎず、基本的にはどんな能力が手に入るかはギャンブルであり、一口でも口にすれば一生その体質を持った人間として余生を過ごすことになる。

 また悪魔の実を食べたものは海に嫌われ、一生カナヅチになるというデメリットも存在する。要するに能力者が海に飛び込めば誰かに助けてもらわない限り間違いなく溺れて死ぬ。

 

 しかしこれらのデメリットを大きく補うメリットが悪魔の実にはあり、どんな実の能力も使い方次第で十中八九弱くなることはない。

 そのため総じて能力者は誰も彼もかなりの戦闘力を秘めていると言われており、非常に珍しいこともあってか実は数億ベリーという高額で取引されている。

 

 食えば能力が手に入り、売れば財産が手に入るというロマンを求め多くの船乗りたちが海に出ていくほどである。結局見つけられずに死んでいくのが関の山だが。

 

 ゴムゴムの実のゴム人間ということは、文字通り皮膚も骨も細胞も髪の毛も全部ゴムでできているということだ。

 

 先ほどどれだけ岩場に叩きつけても平気な顔をしていたのは全身ゴム質の身体だからである。殴ってもぶつけても蹴っても意味などなさないだろう。

 

 当然全部ゴムなら腕も何十mも伸びる。さっきのはそれを応用した技だ。

 

 なるほどやはりこの男は只者では無かったようだ。悪魔の実の能力者とはいえこれだけの戦闘能力を持っているものはグランドラインでも珍しい。

 

 

「何ぼーっとみてんだ?食わねえなら俺が全部食っちまうぞ」

 

 

 ルフィは早速薪を集めて焚き木をしようとしていたのでシーブックは思考を中断して手伝い始める。

 

 

 気がつけば太陽は大きく西に傾いている。腹の根も止まらないし、この辺で一服するのも悪くない。

 

 この島に来て4回目の夜が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 




クッソ長くなった(笑) もう少しこの調子で続くのでどうかお付き合いください。

小説書くにあたって懐かしいロマンスドーンなどの書き下ろしから読み直してみたんですが、佳境に行くにつれて騒がしくなってきている今のワンピースに比べて、のどかでおだやかなかんじがいいなあなんて懐かしくなりました。もう20年以上も前なんですね〜。
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