其の壱:善悪のない一閃
次こそは──最後まで戦い抜く──
私が聖杯に託す願いはたったそれだけだ。
だから、私は──今度こそ──
▽▽▽
「ん………」
目が覚めるとそこは桜が綺麗に咲いている場所でした。
「ここは何処でしょう……」
辺りを見回すも桜が咲いている木々しか見えない。
「私が現世にいると言うことは、誰かに召喚されたと言うことでしょうか?」
と言うことは、聖杯戦争によって私は召喚された──はず。ですが、マスターとなる人物が見当たらない。一体どういうことでしょう?
マスターとなる者が召喚なしに、英霊を呼ぶなんてことあり得るのだろうか?普通なら召喚され、契約を果たされたと同時にマスターと接続されるはずです。なのに、そんな気配が一切なく、私は存在しています。
「……ひとまず動くしかありませんね」
体を起こして、ふと夜空を見上げます。月が綺麗です……
とにかく麓へと降りましょう。誰かいるかもしれませんし……
▽▽▽
下山途中、ふと小屋が目に入る。
(よかった……ここが何処なのか聞いてみましょう)
そう思い、私は小屋の方へと駆け寄っていきます。ですが──
「うっ──なんですかこの血肉の臭い……」
敷居へ入るなり襲ってくるのは人間独特の死体の臭いでした。生前、人斬りをやっていた身としては死体くらい慣れてはいます。ですが、今はそれを上回るような光景です。
室内は無惨にも荒れ回され、血肉が飛び交っており、人間がやったとは思えないほどです。証拠に畳に転がっていた男性の死体は、内臓が荒らされており一部食べれている……
そして、縁側にダラリと垂れている少年であろう遺体──
(熊がやったにしては違和感がありますね……)
仮に熊がやったとしたら天井にまで血がこびりつくでしょうか?
「あっ?なんだ?まだ、人間が居やがったのか?」
突然聞こえてきた声に私は思わず縁側から後ろへと跳躍する。小屋の奥からヌッと現れた一つの大きな陰……人間ではない──
「ほう?女か!しかも若い!!これはツイてるぜ!!」
嬉しそうにはしゃぎながら異形が縁側から降り立ち其の姿を表す。
「鬼……」
姿は私が思っている鬼ではありませんが、頭部にはそれらしき角が付いているのでそう呼んでしまいます。
「これはあなたの仕業ですか──」
「ああ。人里に降りようと思ったら小腹が空いててヨォ……そしたら、そこに程よくいい餌があったから思わずかぶりついちまったぜ……」
ケタケタと笑いながらそう話す鬼らしきもの──
「いや〜……ここの人間は特に美味かった!特にお前と一緒くらいの年齢の女は格別だ!!だが、男はダメだなぁ──臭くて食えたもんじゃない。やはり、若い人間の女子が一番美味しい──だから、お前はどんな味がするんだろうなぁ?」
「ーー下衆が」
鬼の言葉が私の"人斬り"へのスイッチへと切り替えられ、左腰に下げている愛刀"加州清光"の刃を抜刀する。
「いい殺気だが、お前……"鬼殺隊"じゃないだろ?」
(鬼殺隊?)
聞き慣れない言葉だ。だが、言葉通りの意味だと何かの部隊だろうか。
「無駄だ!普通の刀では俺を──はっ?」
(なんで……俺の体が見えるんだ──しかも、頸が……)
ドサッと地面へと落ちる鬼らしきものの頸。
「な、何故だ!!お前……鬼殺隊では……ヒッ!?」
「お喋りな愚か者で助かりましたーー」
(な、なんだこいつの目……睨まれただけでも殺せそうな殺気のこもった目つき……俺はとんでもないやつを襲おうとしたのか……まずい……身体が消え……あの女の刀は日輪……刀……だったのか……)
何か言いたげな鬼らしき頸が灰となって散っていき、斬られた胴体部も同じように消えていきます。
「なんだ。ちゃんと倒せるじゃないですか──」
何を言おうとしたんでしょうかこの異形は──
ともあれ、脅威が去ったことを確認し、納刀します。
「……埋葬はできませんが、冥福は祈りましょう」
私は遺体へと手を合わせて合掌をする。人斬りとは言え、こんな惨い殺され方をして心を痛めないほど沖田さんは冷酷ではありません。
「……さて。先程、人里があるとか言っていましたね」
ということは町があるのでしょうか?少し降りれば分かるでしょう。