鬼滅の刃-誠の花-   作:仲村 リョウ

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其の拾:生き残った者たち

一度足音を鳴らすと、沖田の姿は消えた。

 

「えっ?何処に消えたのですか?沖田様──」

 

次の瞬間、沖田は支柱の前へと現れる。

 

-無明三段突き-

 

沖田が平晴眼の構えで支柱の後ろへ現れた時には、頸部分が宙へと舞っていた。放物線を描いて支柱の頸部は地面へと落ち、カナエ達の方へと転がっていく。

 

「ぷはぁっ!と、()れた!」

 

 目を見開いて後ろを振り向くと、支柱の切り口は切っ先で貫かれた形跡が見られる。これで全集中を会得したことと、鬼の頸を奥義で飛ばせることも証明できた。

 

「やりましたよー!カナエさーん!」

「ええ!よくできました!」

 

 手を振りながら喜びを表して叫ぶ沖田を見て、カナエは笑顔で答える。

 

「す、凄い。沖田様──」

「ええ……想像以上です」

「「「凄い!凄い!!凄いです!沖田様ー!」」」

「本当によく頑張ったわ、沖田ちゃん──」

 

▽▽▽

-藤襲山-

 

(ば、馬鹿な……我の頸が……とられただと……)

 

落ちていく中、沖田の後ろ姿を見つめながら心の中でそう語る鬼……

 

(浅葱色の羽織……我は何処かで……)

 

もう昔のことだろうか……鬼は一度見ていた光景を思い出す──

 

 それはまだ廃刀令が出されるより前の話……侍や不逞浪士がまだ腰に刀を下げていた時代に彼は生きていた。

 

 ──あれは京の祭りでの帰りだっただろうか……住宅が立ち並ぶ夜道で家族と帰っていると、突然賊が現れた。何やら父に恨みを持つものが依頼したのだとか叫んでいた。父は御奉行だった。そこには母も妹も弟もいた──父は家族を守るため戦ったが多勢に無勢だった。父は殺され、母も斬られ、妹も弟も撫で斬りにされた。残されたのは少年一人だ……

 賊が少年を殺そうと、刀を振るい挙げた瞬間──鮮血が舞った。

 血は少年ではなく、賊から流れたのだ。腹が大きく裂け、声を上げる間もなく倒れる。少年の目の前に現れたのは浅葱色の羽織を着た女性隊士……

 

「御用改めです!手向かいする者はことごとく斬り伏せる!」

 

 血を浴びた新選組隊士は霞の構えを取り、殺気を賊に放つ。

 

「お、おい新選組だ!!この時間にはここにいないはずじゃないのかよ!!」

「知るか!だが相手はただ一人だ……一斉にかかれば──ヒュッ……」

 

賊の一人の首が深く斬られる。息も声も出なくなったのか、首を押さえて悶え苦しみながら絶命していく。

 

「おい……こいつは人斬りの沖──グアッ!?」

 

賊にとっては地獄だっただろう……それはもう側から見れば殺戮と変わらなかった。

 その光景を少年は呆然と見つめる。刀を持つその姿は、華奢なその身に似合わず、只々賊を斬り捨てていく。どれだけ叫ぼうが命乞いをしようが、女性は血を浴びながらも、冷酷に斬り続けた──

 

 全てが終わった頃には骸が転がり、地面には血の海が出来ていた。女性は震える少年に近寄り、片膝を突く。そっと頬を当てたのは、桜の模様が描かれた手ぬぐいだ。

 

「強く生きてください──」

 

女性はそれだけを伝えて去っていった──

 

 

 桜の手ぬぐいを少年の手へと残して──

 

▽▽▽

 

(ああ──そうか……)

 

 鬼は思い出した──あの時出会った浅葱色の羽織を女性のことを……

 

「女よ……最後に名を教えてくれ……」

「──私は……()()()()()()()()沖田総司です」

 

血を振るい刀を鞘へと収めた沖田は、顔だけ鬼の方へと向けて名を名乗った。それを聞いた鬼は何処か満足げに笑みを浮かべて──

 

「そうか……」

 

とだけ呟き灰と化していった。

 

「………」

 

沖田はふとある物が目に入る。桜の模様が描かれた手ぬぐい──

 

「総司?」

「誰か……知ってる奴だったのか?」

「………ええ。かなり昔ですが」

 

 沖田の目は何処か儚く悲しそうだった。そして、目を閉じて鬼ではなく彼の冥福を祈った……かつて、あの日の夜に助けた少年の事を思い出して──

 

 そして、気がつけば雨が止み、雲の隙間から太陽の光が差し込む。最終選抜七日目を迎える朝が来たのだ──

 

 

「──っ!?ゲホッ!ゲホッ!」

 

 激しい咳が出てしまい、左の手の平で口元を押さえて、片膝を地面へとつけてしまう。

 

 体調不良での奥義……体にダメージが来ないはずがない。

 

「総司!」

「すみま──ゲホッ!──真菰……私の風呂し──ゲホッ!──薬を──ゴホッ!」

「わ、分かった!」

 

 真菰は少女を介抱していた場所へと走り、沖田の風呂敷を拾って持ってくる。そして、しのぶが調合した薬を沖田へと手渡すと、服用したのを確認し、小さな瓢箪に入った水を飲ます。

 

「ケホッ──はぁ……はぁ……」

 

まだ、軽い咳はしているが表情を見る限り顔色はまだ悪い。

 

「ありがとうございます──少しだけ楽になってきました……」

「どうする?少しだけ休んでから下山しようか?」

「──いえ、下りましょう。今の状態でこの場に留まるのは危険です」

 

山の天候は変わりやすい……また日に雲がかかって鬼に襲われれば最悪な状況に陥る可能性がある。日光が出ているうちに下山した方が安全だと判断し、真菰達に方針を伝える。

 

「わかった。二人もそれでいいかな?」

「ああ。俺はあんたの指示に従う」

「──意義なし」

 

▽▽▽

 

 少年に軽く応急処置を施し、下山する沖田達。少女は歩いて山を下りきるのが難しい状態だったので、少年がおぶっている。

 

「大丈夫?あなたも怪我してるんだから無理はしないでね」

「ああ。応急処置のおかげで少しは楽だ。下山するくらいなら耐えれると思う」

「そう──」

「……すまない。最初っから最後まで助けてくれて──」

「いいんですよ。こういうのは助け合いですよ助け合──ケホッ!」

「もう──総司は喋らないで」

「すみません……コホッ」

「ははっ、そうか──俺は牛井渕重遠(ごいぶち しげとお)だ。そっちが双子の妹の──」

「……みつえ」

「確かによく見たらそっくりだね──あっ、私は真菰だよ。彼女が──」

「沖田総司です──って、やっぱりそんな目しますよね〜……」

 

 沖田は負担にならない程度の声量で自身の名前を名乗った。『沖田総司』と名乗った瞬間、真菰と重遠とみつえは不思議そうに沖田を見つめる。

 

「総司……あの時は家族が付けてくれたって言ってくれたけど……」

「──はい。私は正真正銘の沖田総司です」

 

 宝具は直しているものの、一度あの羽織を全員が見ている──誤魔化しはもう効かないと思った沖田は正直に話した。

 

「すみません真菰。騙すつもりはなかったのですが……」

「騙すだなんて……ううん。そんな事思ってないよ。総司は私の命を救ってくれた恩人だし、凄く感謝してる──ただ、総司が本当にあの新選組の沖田総司と思わなくて……あっ、総司さんと呼んだ方がいいのかな?」

「真菰……いえ。是非、総司と呼んでください」

「──うん」

「でもさ……新選組なんて四十年も前の話だよな?沖田はいくつなんだよ……」

「重遠!女性に年齢を聞くのは愚行だよ!」

「わ、悪い……」

「お兄ちゃん……配慮なさすぎ……」

「うっ……」

 

女性二人に指摘された重遠は思わず縮こまってしまう。

 

「でも、年齢はともかく……確かに気になるよね……」

「正直──私もよく分からないんですよね。気がついたら山の中で、桜が綺麗な場所にいたんです……」

「桜?」

「二ヶ月前?まだ冬の時期だよな?」

「そうですよねぇ……そこが不思議なんですよ」

 

幻覚だったのか……それとも自身が受肉した事と関係があるのか──未だにわからないでいるが。

 

「もしかしたら……時間を超えてきたとか?」

「そんな事あり得るのか?」

「鬼がいるくらいだから、あり得るんじゃないかな?」

 

 混乱されるのではと思っていた沖田だったが、案外納得してくれているようだった。と言うよりは、この世には不思議なことがあるんだなぁ程度──現代風に言えばオカルト話と言うのだろう。

 

「あはは──今は事情を分かってくれる鬼殺隊の方の所でお世話になってるんですよ」

「じゃあ、鬼殺隊もその人のスカウトなの?」

「そうですかね?」

 

(なんで疑問系なんだ?)

 

 カナエのスカウトではあるが、あくまでも彼女は伝達を任されていただけである。カナエはあまり沖田を鬼殺隊に入らせたくない様子は見られたので………言えば、鬼殺隊のトップ直々のスカウトではある。

 

「あっ、鳥居が見えましたよ」

 

沖田が指さした方向には七日前、受験者全員が通ったであろう鳥居が見える。

 

 鳥居を潜ると緊張感から解放されたのか、真菰と重遠は深く息を吐いて腰を下ろした。

 

「一旦おろすぞ?」

「ん……」

 

コクっと頷くみつえ。その姿に、何処かカナヲとそっくりだなぁと思いながら、兄妹のやりとりを見て沖田は見つめていた。

 

「俺達以外に誰もいないのか……」

「七日前までは多くいたのに……」

 

(あの子は……)

 

 沖田はあの時、真菰を助けて欲しいと言ってきた少年の姿を探した。だが、いくら見回せどその姿はない。

 

「総司?」

「いえ──なんでもありません」

 

 首を小さく振り、真菰を見つめて作り笑顔を見せる。

 

(残酷ですね……)

 

 残酷だからこそ──彼らはここへやって来たのだろう。鬼に家族を奪われた者たちがここへ集い、残酷な世界と戦うために……

 

だから、生きた者が彼らの分まで生きなければならない──戦わなければならない──

 それが最終選抜を生き抜いた者達が背負うものなのだと沖田はそう思った。

 

「お帰りなさいませ」

「おめでとうございます。ご無事で何よりです」

「うおっ!?びっくりした〜……」

 

突然現れた二人の少女に驚く重遠。そんな彼に構わず、二人は説明をしだす。

 

「まずは隊服を支給させていただきます。体の寸法を図り、その後階級を刻まさせていただきます」

「階級は十段階ございます。甲・乙・丙・丁・戊・己・辛・壬・癸──今現在、皆様の階級は癸でございます」

「そして、これから皆様には鎹鴉をつけさせていただきます」

 

白髪の少女が二度手を叩くと、空から四羽の鴉が降りてくる。そして、それぞれの肩へと乗り──

 

「ヨロシク頼ムゾ。ウツケ」

「……は?」

 

 ──この鴉……今なんと言いましたか?

 

 この鎹鴉は何処か派手さを感じる色合いだ。黒がかった赤色と鴉独特の黒色の割合がまたお洒落と言うのか……

 

「今、うつけとか言いませんでした?この鴉」

「ワシノ声ガキコエテナカッタカ?大ウツケガ。カカー」

「ほら、今言いましたよ!うつけって言いましたよ!人の事馬鹿にしてますよね!?ケホッ!」

「総司。あんまり叫ばないの」

「う〜……なんか、ムカつきます……」

「カカカッ!是非モナイネ!」

 

何故か分からないが、沖田はこの鴉の話し方を聞いて、知っているような知らないような既視感に似た感覚を感じてしまう。そして、何故か腹立たしさも出てきてしまい、沖田についた鎹鴉は何故か好きにはなれなかった。

 

「お話は終わりましたか?」

「では、こちらから刀を造る鋼をお選びください」

 

少女達は長台に置かれた鋼に腕を伸ばして、選ぶよう促す。

 

「鬼を滅殺し、己の身を守る刀の鋼は、ご自身で選ぶのです」

 

こうして沖田達は直感で鋼を選び、最終選別を終え、鬼殺隊の道へと歩むのだった──




 沖田さんの同期は真菰とオリキャラの牛井渕重遠くんと牛井渕みつえちゃんです。

 また、沖田さんの鎹鴉はあのアーチャーさんの性格とそっくりな……
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