-沖田総司-
最終選抜が終わり、晴れて鬼殺隊へ入隊できました。五月蝿い鴉が相棒となり、日輪刀の材料である玉鋼を選び、そして帰路へ──私の同期である真菰、重遠、みつえの三人は一度本格的に治療すべく蝶屋敷へと向けて歩いています。皆さんはそれに同意し、それぞれの鎹鴉は育手へと連絡を送りました。
そして一日歩き続け、途中休憩を入れながらもなんとか蝶屋敷へとたどり着きます。
「ここが総司がお世話になってる所?」
「はい」
私は玄関の戸を開けて──
「沖田総司、ただいま無事に戻りました!」
と声を出します。すると、奥の方から慌ただしく走ってくる足音──
「わわっ!?」
姿を見る間もなく、いきなり飛びついてくる人物──
「カ、カナヲ!?」
強く抱きしめている事からすごく寂しかったのでしょうか……
「あの──私、帰ったばかりで汚れているのですが……」
「──(フルフル)」
「あはは……困りましたね……」
そう苦笑いを浮かべると──
「おかえりなさい、沖田ちゃん──」
カナエさんが笑顔でお出迎えしてくれます。
「はい。ただいま戻りました」
「無事に戻ってよかったわ──えっと、そちらが沖田ちゃんの同期かな?」
「あっ、はい──」
「わ、私は真菰と申します!」
「俺は牛井渕 重遠です」
「──牛井渕 みつえ……」
「ご丁寧にありがとう。私は胡蝶カナエ。この蝶屋敷の主です──沖田ちゃんから鎹鴉で連絡は受け取っているわ。治療の準備はしのぶとアオイがしてますから──って、沖田ちゃん!顔真っ青よ!」
「えっ……あれ?」
急に視界がボヤけて……
あっ、やばいですね……これ、倒れ……
「総司!!」
「沖田ちゃん!!しっかり……──!!」
皆さんの声が遠くなっていきます……
▽▽▽
-???-
『沖田さんの願いってなにかな?』
この声は誰でしょう……
『私は……今度こそ最後まで戦い抜くことです……あなたと最後まで』
私の声……
『そっか……最後まで戦い抜くことか……』
女性の声は何処か儚くて悲しそうな感じです……それに、不思議と暖かくなるような──
『私はね──沖田さんには普通に生きてほしいと思ってるの……』
『それは──』
『ごめんね。これは私の我儘──だけど、本音でもあるの……』
『………』
『私ね……────ってあると思うんだ。だから、沖田さんもきっと───』
待ってください……あなたは誰なんです?私は知りません──行かないでください!私は──私は……!?
▽▽▽
「ん……」
雀の鳴き声……朝がきたのでしょうか──
(頭が……重い……)
そう思いながらも、ボヤけていた視界が段々としっかりとしてきます。
(私の部屋……ですか……)
半身を起こそうとしますが、中々力が入りません。
確か昨日、最終選別を終えて皆さんと蝶屋敷へ帰ってきたはずです……
「起きました?沖田さん」
「ふえ?」
顔を少し傾けて声がした方へと目線を動かします。
「しのぶさん……」
「おはようございます。沖田さん」
ニッコリと笑うしのぶさん。私も思わず笑顔を見て、
「はい……おはようございます……」
無理やり笑顔を作って、力のない声で言葉を返します。
「沖田さん……あなた、昨日急に倒れたんですよ?」
「あれ?そうでした……ね」
思い出しました──私、蝶屋敷へ帰ってくるなりぶっ倒れたんでした……
「これであなたが本気で倒れたのは三回目ですね」
「め、面目ないです……」
そう言いながら、布団の中へと顔を隠してしまいます。
「同期の方から聞きましたけど──戦闘の際、無理して動き過ぎたらしいですね?」
「はい──仰る通りです……」
布団から目元まで顔を出して、しのぶさんの顔を見つめます。笑ってはいますけど……怒ってますよね?
「凄い高熱だったんですよ?」
「はい……」
「本当に沖田さんは人を心配させる天才ですね」
「あの〜……怒ってます?」
「怒ってます」
「あう……」
また、布団の中へと顔を引っ込めてしまいます。
「はいはい、顔を出してください。熱を測りますから」
「はい……」
恐る恐る布団の中から顔を出すと、しのぶさんは私のおでこへと手の平をそっと当ててきます。
「下がってますけど、まだ安静にしないといけませんね」
ふぅっと軽く息を吐いたしのぶさんは安堵した様子で苦笑いを浮かべる。
「沖田さん。無理はしないでください──あなたが倒れたら私──皆さんが心配しますから」
「しのぶさん……」
しのぶさんは本当に心から心配してくれたのでしょう。なんだか申し訳ないです……
「さて……お粥を持ってきますね。食べれます?」
「はい……」
「ふふっ。では、持ってきますね」
しのぶさんは笑顔でそう言うと、立ち上がって部屋から静かに出ていきます。
「はぁ〜……しのぶさんにはお世話になりっぱなしですね……」
最初に会った時もそうですけど、倒れて看病してくれたのはしのぶさんだとアオイから聞いています。今回も昨日からずっと看病していたのでしょうか……
(うう──余計に申し訳なくなってきました……)
自分の病弱のせいでまた人に迷惑をかけてしまうとは……サーヴァントになっても変わりませんね……
▽▽▽
-胡蝶しのぶ-
『沖田総司、ただいま無事に戻りました!』
沖田さんが帰ってきた……彼女のその声に私は心の底から安心してしまいます。
「よかったですね、しのぶ様──沖田様、ご無事に帰ってこられましたよ」
「ええ、本当によかったです」
玄関から姉さんと沖田さんの話し声が聞こえてくる──本当なら私も行きたいところですけど、今は沖田さんの同期の方達の病室と治療準備をしているため今は我慢しましょう。話ならいくらでも出来るから──
『──沖田ちゃん!顔真っ青よ!』
「──!?」
姉さんの叫び声に私達は思わず反応してしまいます。
『総司!!』
『沖田ちゃんしっかりして!しのぶ!アオイ!こっちに来て!』
私とアオイは病室から出て、急いで玄関の方へと向かう。
そこには……
「沖田さん!」
顔色を悪くした沖田さんが姉さんに支えられながら、グッタリと倒れ込んでいる光景が目に入ってくる。
「うぅ……」
「ちょっと空けてください」
私の言葉を聞いた少女は一歩後ろへと下がる。私は空いた場所へと入り、沖田さんの様子を観察します……
「ハァ…ハァ……うぅっ、ケホッ!」
「呼吸が荒いですね……それに咳まで──」
私は沖田さんの額へと手を当て、体温を確かめた。
「凄い熱……アオイ。解熱剤を準備してください」
「は、はい!」
「姉さんは三人の処置をお願い。沖田さんの看病が終わりしだいアオイとそちらに向かうわ」
「分かったわ!」
姉さんが沖田さんの同期の方達を中へ入るよう促すと、沖田さんを起き上がらせて左側の腕を肩へとかける。私も片方の腕を肩に乗せて、姉さんと一緒に沖田さんの部屋へと運んでいきます。
それからは大変な時間でした──
まずは熱を下げるため解熱剤を飲ませ、アオイと一緒に濡れたタオルを絞っては体を拭いて寝巻きへ着せ替えます。布団へと寝かせつけ、絞ったタオルを額へと乗せる……かれこれ、三十分ほどつきっきりで看病してようやく呼吸も落ち着いて寝てくれました。
軽く息を吐くと、近くで見守っていたカナヲに処置の仕方や何かあったら知らせてほしい等を伝えて姉さんの手伝いに入った。
真菰さんの治療をしている中、沖田さんが高熱を出してしまった理由を聞きました。どうやら、無理して戦闘を行っていたらしい──最終選別での過酷な生活。そして、最終日の雨天の中での戦闘……それらが積み重なっての奥義の使用──その反動が今に至るのでしょう。ここへ帰って来るまで、我慢していたに違いない……だって、あの人は病弱な体に反して、決して弱音なんて吐かない。弱気なところなんて見せない……そんな人ですから。
三人の治療を終え、病室を後にした私は桶に水を汲んで沖田さんの部屋へと向かいます。中へ入るとカナヲが心配そうに沖田さんを見つめていますけどウトウトしている。それもそうですよね──もう日付が変わるまであと少しという時間なのですから。
「カナヲ。後は私が診ますからもう寝なさい」
「………(コクリ)」
カナヲは素直に頷いて自分の部屋に戻っていきます。まだ物静かな子だけど、こうして相槌だけでも会話が出来る様になったのは沖田さんのおかげだ。
彼女はカナヲを見つけたら積極的に話しかけたり、きよ達三人と一緒に遊んだり、お菓子を一緒に食べたりと人一倍歩み寄っていました。最初は戸惑っていたカナヲも、沖田さんのことを分かり始めたのか、ぎこちなくも相槌で会話が出来るようになったのだ。
そして、最終選別の日──あの子は行かないで欲しいと言わんばかりに沖田さんの袖を掴んだ。驚いた……私達は初めてカナヲの我儘を見て、驚きと嬉しさの感情が一緒に湧いたのだ。姉さんなんて本当に嬉しそうにしていた……そんな私も釣られて思わず微笑んでしまった──
沖田さんがいてくれたことで何かが変わったのだろうか──
沖田さんがいなければ姉さんは死んでいたかもしれない──
沖田さんがいなければカナヲの我儘を見れなかったかもしれない──
私は桶を置いて、沖田さんの額の上に乗せてある濡れタオルを取った。さっきよりは顔色がマシになっており、安心してしまう。新しいタオルを桶の水に浸し、絞ってまた沖田さんの額の上へと置いた。
「沖田さん……」
あなたは自覚がないんでしょうけど──あなたは私を救ってくれました。もし、姉さんが殺されていれば、私は自分を許せなかったでしょう。そして、復讐のために生きる鬼となっていたかもしれない──
姉さんの言う通り、あなたが幕末に生きた本物の沖田総司であろうと、人斬りであろうと関係ない──あなたは私達を救ってくれた恩人で……大切な人です。
──あなたはまだここに来て二ヶ月くらいですが、あなたは私達にとって掛け替えの無い存在になってるんですよ?お願いですから、無茶だけはしないでください……
そして、朝を迎えた──
偶々、非番だったこともあり、私はつきっきりで沖田さんの看病をした。顔色は昨日より良くなっており、寝息も安定しています。寝ていないせいで、私は思わず小さく欠伸をしてしまう。
「ふぁ……」
「ん……」
「……!?」
眉間が動き目蓋をゆっくりと開ける沖田さんを見て、慌てて口元を隠して表情を殺した。寝起きのせいか、沖田さんはまだ私がいる事に気が付いていない様子。
「起きました?沖田さん」
「ふえ?」
私がいる事に驚いたのか、沖田さんはキョトンとした様子で私を見つめてきます。
「しのぶさん……」
「おはようございます。沖田さん」
「はい……おはようございます……」
「沖田さん……あなた、昨日急に倒れたんですよ?」
「あれ?そうでした……ね」
覚えていないのでしょうか?と言っても突然のことでしたからね──記憶が曖昧になるのは無理もありません。
「これで私の目の前で倒れるのは三回目ですね」
「め、面目ないです……」
そう言いながら沖田さんは布団の中へと潜ってしまった。
(あら、可愛い──ではなくて……)
「同期の方から聞きましたけど──戦闘の際、無理して動き過ぎたらしいですね?」
「はい──仰る通りです……」
と、目元まで顔を出してそう答える沖田さん──気まずそうに弱々しい目でこちらを見て来るものだから、不意に心をグサッと何かが貫いた感覚に襲われてしまう。と言うより、仕草がいちいち可愛いんですよこの人は……小動物か何かですか?
そう言いたいですけど、なんとか抑える──
とにかく平常心を保つために、表情を押し殺して笑みだけを浮かべましょう。
「凄い高熱だったんですよ?」
「はい……」
「本当に沖田さんは人を心配させる天才ですね」
「あの〜……怒ってます?」
「怒ってます」
嘘です。心配はしてますけど、ここは少し意地悪を言ってしまいました──
「あう……」
そう言って、再び布団の中へと潜り込んでしまう沖田さん。亀ですね──
さて──意地悪はここまでにしておきましょう。
「はいはい、顔を出してください。熱を測りますから」
「はい……」
私がそう言うと、沖田さんは恐る恐る顔を出してこちらを見つめてくる。
(大きな子供ですね……全く……)
そう思いながら沖田さんの額へ手を当てた。昨日よりは大分下がって入るけど、少しだけ高い感じがする──平熱と言ったところですかね。
「下がってますけど、まだ安静にしないといけませんね」
熱が下がっている事に安堵し、小さく口角を釣り上げた。
──でも、同時に倒れ込むほどまで無理していたことを思うと少し胸が痛くなってしまいます。
「沖田さん。無理はしないでください──あなたが倒れたら私──皆さんが心配しますから」
「しのぶさん……」
──すみません、沖田さん。気を遣わせるようなことを言ってしまって……でも、私や姉さん達も心配してしまうのは本当なんですよ?
「さて……お粥を持ってきますね。食べれます?」
「はい……」
「ふふっ。では、持ってきますね」
私はそう言って立ち上がると静かに部屋から出て行く……
「ふぅ……」
──ひとまず一安心ですかね。
そう思いながら一呼吸……
「もう少し、薬の改良が必要ですね……」
私が沖田さんに渡した薬はまだ試作段階……沖田さんがまだ楽に動けるようになるまで改良を続けないといけませんね──
そろそろ明治から大正へと入りたい……