最終選別から五日が経った──
しのぶさんの看病のおかげもあり、体調もバッチリ回復しました。そして、早朝──私は今支給された隊服を腕に通し鏡の前に立っています。
「ふむ……詰襟という服も悪くないですね」
などと軽く後ろに振り返って自分の姿を確認し自画自賛──背には"滅"という文字が刻まれています。今の時代の服はお洒落ですね。
(あれ?そう言えば……)
「しのぶさーん」
「はーい!」
隣の部屋に繋がっている襖から、隊服を着たしのぶさんが出てきます。
「どうしましたか?沖田さん」
「あの、前田さんと言う方から渡された隊服はどうしましたか?」
昨日でしたか──前田さんと言う眼鏡をかけた人から新調された隊服を貰ったのですが……彼が去った後、中身を見る暇もなくしのぶさんが笑顔で「それ、預かりますね?」と言って持って行ったきりです。
「ああ──あれですか……燃やしました♪」
「燃や──ええっ!?何でですか!?」
「沖田さんが着る必要のないものでしたから」
「え〜……」
着る必要のないって……どんな服だったんですかね。
「次にゲスメガネ……前田さんから服をもらったら燃やしてください。いいですね?」
「は、はい……」
そう言って手渡されたのは油が入った小瓶とマッチ箱です。
「もしくは私に知らせてください。次会った時にガタガタにしますから……」
笑ってるのに笑っていません──本気で言っていますよねしのぶさん。怖いです……
『しのぶー!沖田ちゃーん!三人とも準備出来たわよー!』
玄関の方からカナエさんが私達を呼んでいます。
「さて、行きましょう沖田さん」
「はい!」
そして、私は片手に愛刀の"加州清光"を持って、玄関へと向かいます。
「そう言えば沖田さんは鋼を選びましたか?」
「はい。一応選びました」
「自前の刀があるのにですか?」
「そうですねぇ……何と言いますか、日輪刀に少し興味があったからですかね」
「興味……ですか?」
「ええ。あと、予備の刀があっても損はないかと思いまして……」
「何と言いますか……沖田さんらしいですね」
やれやれと言わんばかりにしのぶさんは苦笑いを浮かべます。
「でも、まさか沖田さんと同じ隊服を着て歩くなんて、思いもしませんでした」
「そうですか?でも、私はしのぶさんとこうして肩を並べて歩くのは、新鮮で嬉しいですけど」
「………」
「しのぶさん?」
ど、どうしたんでしょうか?しのぶさん──呆然としながら見つめているのですが……
「全く……あなたはそうやって不意をつくのが上手いですね」
「うえぇ!?わ、私なにか変なこと言いましたか!?」
「ふふっ。そういうのは自分で気づくべきですよ?沖田さん」
今度は嬉しそうにしながら早歩きで歩いていくしのぶさん。
「ちょっとぉ〜、しのぶさん!」
私は訳が分からず、後ろから彼女を追いかけます。
「あっ。やっと来たわね二人とも」
気がつけばもう玄関に着いてしまいました。カナエさんは私達を見るなり笑顔で迎えてくれます。
「あら、しのぶ。嬉しそうにして──どうしたの?何かあった?」
「ええ。少しだけ」
「ふふ。そう──あっ、沖田ちゃんこれ」
カナエさんが手渡してきたのは、何やら桜色の布が畳まれたものです。
「これは──」
「広げてみて?」
言われた通り広げてみますと──
「羽織……ですか?」
それはとても綺麗な羽織りです……桜の模様が白色で描かれており桜色と合っている──
「沖田ちゃんの鬼殺隊入隊祝いね」
「カナエさん……ありがとうございます」
私は早速袖を通してみます。
「浅葱色の羽織も似合うけど、桜色の羽織もよく似合うわ沖田ちゃん」
「そ、そうですかね?」
「そうよ──あっ、しのぶにも──」
「私にも?」
カナエさんはしのぶさんにも畳まれた羽織を手渡しました。しのぶさんは訳が分からないままも、手渡された羽織を広げます。
「これって……」
「ええ」
蝶の模様が描かれた羽織……これは、カナエさんが着ていた物と一緒です。
「しのぶには少し丈が合わないかもしれないけど……」
「姉さん……」
「言いたいことは分かるわ、しのぶ。でもね、今の私にはもう必要のないもの──だからね、これはあなたが無事に帰って来るためのお守りも込めて、しのぶに着て欲しい」
「………」
「そんな顔しないで」
そう微笑みながら、カナエさんは優しくしのぶさんの頭を優しく撫でます。しのぶさんも思うことがあるのか、涙目になりながら羽織をぎゅっと抱きしめています。
「ほら。泣かないの」
「泣いていません!お、沖田さんもあまり見ないで下さい!」
「えー……」
何故か八つ当たりされてしまいます──仲睦まじい姉妹だなぁって、思ってただけなんですが……
「さて……いつまでもあの子達を待たせるのも悪いわ。早く行ってらっしゃい」
「あっ、はい。そうですね」
しのぶさんも羽織を通して一緒に外へと出ます。そこには、私達と同じく隊服を着た、私の同期である真菰、重遠、みつえの三人が待っていました。
「やっと来たー……って、総司。その羽織……」
「はい!カナエさんから頂きました!どうです?似合います?」
「うん。よく似合ってるよ」
くるりとその場で回って、羽織をひらつかせると真菰は笑顔で絶賛してくれます。側で見ていたみつえちゃんは「おー……」と、小さく拍手をくれました。
「お兄ちゃん……私達も世津さんから貰えるかな?」
「さぁ……頼んだら貰えるんじゃないか?」
「……頼んでみよう」
「あっ、しのぶさんも羽織を貰ったんですか?」
「ええ。元は姉のものですが」
「蝶の模様が綺麗……」
「確かにな……」
「ふふっ。ありがとうございます」
「……絶対貰う」
「あまり迷惑かけるなよ……でも、まあ──確かに憧れるな」
私達の羽織を見て、羨ましくなったのかみつえちゃんは目を輝かせています。新選組にいた頃はダンダラの羽織をいつも着ていたので、特別といった感情はありませんでしたが……やはり、組織に入ればなにか憧れるものがあるのでしょう。
「さてと──早速行きましょうか」
「はい。しのぶさんが重遠とみつえを送り……」
「沖田さんが真菰さんを送る──ですね」
三人はまだ安静にしていないといけないが、一応歩けるまで回復しているため、それぞれの育手の所へ戻ることにしたらしいです。
「みんな──ちゃんと無事に帰ってね」
「あっ、カナエさん!ご親切に治療していただきありがとうございます!」
真菰がお礼と共に頭を下げると、重遠とみつえちゃんも同時に頭を下げます。
「いいのよ。また怪我をしたら、遠慮なく来てね」
「「はい!」」「……(コクッ)」
「では、行ってきます!」
「はい。行ってらっしゃい」
カナエさんに手を振りながら私達は歩き出します。
そして、私達は途中まで一緒に歩き、それぞれ行く方向が違うため、道中の別れ道でしのぶさんと牛井渕兄妹と別れを告げて、真菰の育手の方が住まう"狭霧山"へと向かうのでした。
▽▽▽
-狭霧山-
狭霧山へは夕暮れ時にはたどり着き、今は真菰の案内で山を登っています。
「大丈夫?総司──辛くない?」
「はい。最終選別の時に比べたら何倍もマシです」
「確かにね」
そう雑談を交わし合いながら山を登っていますと、一軒の小屋が目に入ります。そして、小屋から少し離れた場所に人が立っている──天狗面を被った男性……あの方が真菰の育手の方でしょうか?
「あっ……う、うぅ………鱗滝さん!!」
両目に涙を溜めた真菰は育手の方の元へと走り出します。
「よく戻った──真菰!」
お互い抱きしめ合いながら、再開の喜びを分かち合う──いいですね、この光景……見てるこちらまで感動してしまいます。まずい、視界が霞んで……
「む?そちらは……」
「ぐすっ……あっ、どうも……」
「鱗滝さん。この人は……」
「うむ……外で立ち話もあれだ。中へ入りなさい」
「すみません。お邪魔させていただきます」
鱗滝さんと呼ばれる方に小屋へ入るよう促され、お邪魔することにします──
▽▽▽
「────ということがあったの」
「そうか──」
真菰は最終選別であった事を鱗滝さんへと話します。鱗滝さんは静かに頷くと、私へと向き直り──
「真菰を助けてくれた事、深く感謝する」
そうお礼を言い、頭を深く下げてくれます。
「いえいえ。私は当たり前の事をしただけですよ……ああ、すみません。名前ですよね……ええっとぉ……」
「大丈夫だよ。鱗滝さんはとてもいい人だから分かってくれるよ」
「どういう事だ?真菰……」
「あはは……すみません。混乱されるかと思いますが──私は『沖田総司』と申します」
「沖田……総司だと?あの新選組のか?」
「ええ……そうです……」
「ふむ……なんと面妖な……新選組といえば幕末の話であろう」
それが当たり前の反応ですよね。しのぶさんも最初は驚いていましたから。
私は鱗滝さんに私の今までの経緯を話します。腕を組み「ううむ……」と漏らす声に嘘を言っていないかどうか見定めている様子……申し訳ない言い方しますが、見た限りご年配の方そうですし、もしかしたら新選組を見ているかもしれません。
「……信じよう」
「えっ?」
「目を見れば分かる。沖田殿の目は普通の鬼殺隊の隊士とは違う目をしておる──新選組ではないが、儂がまだ若かった頃に同じような目をした連中に会うたこともあるからな……」
「総司と……同じ目?」
「鬼殺隊とはまた違う……剣士独特の目だ」
「………」
鱗滝さんの目には私がどう映っているのだろうか──彼もまた、波乱の時代に生きた人なのならば、私がどういった者に見えているのだろう。
「新選組一番隊隊長 沖田総司……確か当時は天才剣士として名が知られていたな」
「………」
「そして、又の名を『人斬り沖田総司』と……」
人斬りという言葉でお互い沈黙し、視線と視線がぶつかり合う。少し重い空気が流れてしまいます……
「う、鱗滝さん……」
「ああ……別に責めている訳ではない」
鱗滝さんはそう言って、真菰の頭をポンッと優しく手を置いた。
「すまんな。信じると言った手前、試すような事をしてしまい……作り話であるなら、表情に表れるかと思ったのだが──」
「構いません。幕末にいた人物が歳変わらずに、今の時代にいると言われれば疑いたくなるのが普通です」
そう微笑みながら言うと、鱗滝さんは「そうか」とだけ呟き、軽く相槌を打ちます。
「ともあれ、沖田殿は真菰の恩人だ」
再び頭を下げてお礼を言う鱗滝さん。私も軽く頭を下げて、素直に受け止めます。
「──今日はもう泊まってゆけ。日が暮れて山を降りるのは危険だ」
「……そうですね。では、お言葉に甘えさせて貰います」
私はそう言うと、一度蝶屋敷へと連絡するため外へ出て、鎹鴉を呼びます。
「ナンダ?オキタ。菓子デモ持ッテキタカ?」
「持って来る訳ないでしょう。いちいち生意気ですね」
「ナンジャト、キサマ……ワシガ無償デ動クワケナカロウ!」
「はぁ!?連絡し合うたびに対価を渡せと!?」
「カカー!モチロンジャ!」
本当になんなんですかこの生意気な鴉は!
「鎹鴉と喧嘩をしてる者を見るのは初めてだ」
「私の鴉はとてもいい子なのに……」
▽▽▽
持っていた金平糖で満足したのか、なんとか鎹鴉を飛ばしました……なんであんな生意気な鴉が自分の所に──なんて今更。ついたからには付き合いはさせて頂きますけど……
さておき──その後、色々とおもてなしをいただき、そして就寝……布団に入り、眠ろうと頑張っているのですが中々寝つけません──
「総司……起きてる?」
「はい……」
隣の布団へ顔だけ動かすと、真菰がこちらを見つめていました。
「なんか……不思議な気分。隣で誰かと寝るなんて久しぶりだから……」
「真菰……」
「総司は……どうして鬼殺隊に入ろうと思ったの?」
突然の問いかけに私は息を呑んでしまいます。
「私は孤児だったんだ。鱗滝さんに拾われて、育ててくれて、鬼のことを聞かされて……それで、私も誰かを救いたいと思って──鬼によって私みたいな人を増やさない為に……」
「そう……なんですか……」
「あっ、ごめんね──私ばかり喋っちゃって……あの、話したくないならそれで……」
「真菰は凄いですね……ちゃんと明確に戦う理由があって……」
「えっ?」
「私は……鬼によって誰かを亡くしたり、恨みを持ったり──そんな明確な理由がありません。私はただ──今度こそは最後まで戦い抜く……それだけなんです」
「総司……」
「確かに、鬼から人の命を救うと言った名目はあります──ですが、新選組にいた私は病弱で、最後まで戦いきることができませんでした。だからこそ、私は……今度こそは最後まで戦いたい……」
あの時の事は鮮明に覚えています……病気の進行が進むにつれて、私は刀を握れなくなり、立ち上がる事すら出来なくなりました──孤独感を味わいながら死ぬその時まで……
心配して看病しにきてくれる仲間の顔を見るたびに、悔しくさと申し訳なさだけが溢れてきました──
誰かに斬られて死ぬことも構わなかった──
誇りも名誉もいらなかった──
私はただ──新選組として、死に場所が欲しかったのだ──
だけど──私はそれすら叶わず、死んでしまいました──
だから、私はサーヴァントとなった今も戦いを求めている。例え聖杯戦争でなくとも、私の想いは変わらない──
「それでも──大丈夫だよ。総司にも戦う目的がちゃんとあるじゃない」
「………」
「総司がいてくれたから助かった人がいて、総司がいてくれたから私は生きてる──そんな、明確な理由がなくたっていいんだよ」
「真菰……」
「私は──総司がいてくれてよかった。こうして鱗滝さんの所へと帰れたから……」
「────ふふっ。本当に優しいですね……」
どうしてでしょうね──どうして私が出会う人達は優しいのでしょう。
「真菰は──私が人斬りだと聞いて怖くないのですか?」
「うん。そんな事気にしないよ」
「──即答ですね」
「だって、総司は優しい人だって分かってるからね」
「それでも、こんな人斬り──普通なら距離を置きたがりますよ」
「──総司が人斬りだったとしても、私は絶対に非難しない。しのぶさんやカナエさん。それに、重遠やみつえだって……」
「……ありがとうございます。私も──あなた達のような人に出会えてよかったです」
微笑みながらそう言った瞬間、急に眠気が襲ってきました。
「安心したら急に眠たくなってきました──」
「ふふっ。そっか──じゃあ、おやすみなさいだね、総司」
「はい。おやすみなさい……真菰」
瞼を閉じた瞬間、すぐに微睡の中へと委ねるのでした──
▽▽▽
早朝──蝶屋敷へと帰るため、支度を終えた私は小屋の入り口へと立つと、真菰と鱗滝さんは私の見送ってくれます。
「またね総司」
「はい。同期としてこれからよろしくお願いします、真菰」
「うん!こちらこそ!」
「沖田殿──再度、真菰を助けてくれた事感謝する」
そう言って、再び頭を下げてくれる鱗滝さん。
「はい──私も助けられてよかったです」
笑顔でそう返すと、仮面越しながらも鱗滝さんがふと微笑んだ気がします。気がしただけですけどね──
そして、帰路へつくため歩き出しました──