鬼滅の刃-誠の花-   作:仲村 リョウ

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其の参:蝶屋敷

怪我を負った女性を運んで数時間。私は広い和室へと案内され、人が来るのを待っています。それにしても、見事な和室ですね……

 

「お待たせしました」

 

襖が開き、入ってきたのは毛先が紫色の女性です。

 

「あの人の容態は──」

「大丈夫です。──命に別状はありません」

「そうですか……それは良かったです」

「ただ──肺をやられていて、隊士としての復帰はできないでしょう……」

 

 それを言った途端、女性の表情が暗くなってしまいます。

 

「ですが……上弦の鬼相手に命があるだけでも奇跡です──あなたのおかげですね。本当にありがとうございます」

 

女性は深々と頭を下げてお礼をします。私は「いえいえ」と言って、少しだけ謙遜してしまいました。

 

「私は胡蝶しのぶと申します。しのぶで構いません」

「あっ、はい。しのぶさん。私は沖田──です」

 

私が自己紹介をしますとしのぶさんは、キョトンとした様子でこちらを見つめています。

 

「沖田……ですか?」

「は、はい……」

「新選組の?」

「──!?な、なんで私が新選組だと分かったんですか!?」

「え……分かるも何も、その浅葱色の羽織にだんだら模様……新選組しかないでしょう?」

 

い、いつの間にか有名になっています!ということは、ここは確実に私がいた頃より未来ということになりますよね……

 

「あ、あの!新選組は……存続しているのでしょうか!?」

「……いいえ、残念ながら」

「そ、そうですか……不思議な質問してすみませんが……今の年号はなんでしょうか?」

「今は明治四十四年です。新選組の廃止は明治二年──四十二年前になりますね」

 

四十二年前ですか……思ったよりもそんなに未来って訳ではないのですね。

 

「嘘を──言っているようには見えませんね……少し信じ難いですけど」

「あはは──確かに信じられませんよね?」

「この状況で堂々と自分は新選組だなんて嘘をつくとは思えませんから──まあ、最初はなんで新選組の格好をしているのだろうと思ってましたけど」

 

それはそうですよねー。逆の立場なら私も同じこと思いますよ。

 

「でも……女性──ですか?」

「はい、女性ですよ?どうしてです?」

「ええ──本では男性だと書かれていますから」

「ええ!?」

 

い、一体何故です!?私がどうして男性などと!!た、確かに新選組は男揃いでしたけど、そのせいでしょうか!?そうですよね!?

 

「あら──沖田さん。手の平、怪我してますよ?」

「怪我ですか?」

 

あっ、本当です。言われるまで気づきませんでしたけど、軽く切り傷を負ってますね。

 

(でも、このくらいの切り傷でしたら魔力で……はっ!?)

 

私は思わず両手で体中のあちこちを触りまくる。しのぶさんがちょっと変な目で見てきましたけど、それどころじゃありません!

 

(マ、マスター無しで身体が存続できる理由が分かった気がします……もしかしたら私──)

 

 肉体を持っています!!

 

 サーヴァントでも怪我を負えば血は出たりします。しかし、怪我を負っても魔力で回復は出来るのですが……それは、マスターありきのことです。ですが、今の私は肉体を持っている──つまり、受肉していることになります。

 

(な、何かエラーでも起きているんでしょうか!?でなければ……はっ!?肉体を持っているということは……)

 

"病弱"がもろに来るということでは……

 

「こっふぁ!?」

「沖田さん!?」

 

 ああ、やっぱり……肉体がある分ダイレクトに来ますね〜。吐血はいつも通りですけど……

 

「沖田さん!!だ、誰か──!」

 

い、意識が──

 

 

▽▽▽

-胡蝶カナエ-

 

あの時──私はもう諦めてしまった。上弦の鬼と戦って、命を諦めたその時、あの子は現れた。浅葱色の羽織を着た女の子──本でしか見たことがない新選組が私の目の前に現れたのだ。最初は夢か幻だと目を疑った……でも、その子は私の前に立ち、上弦の鬼と対峙した。

 剣士が見せる独特な殺意のこもった目つき……本当に女の子ができる目つきなのかと思ってしまうほどだ。

 結果、私は助けられた──目で捉えきれない速さで上弦の鬼へと一撃を与えた。でも、彼女は鬼を倒す方法を知らなかったのか、頸ではなく心臓部へ突き刺したのだ。だけど、斬撃によって上弦の鬼の左腕を斬り飛ばした──それだけでも凄いことだった。それから、上弦の鬼は何か動揺した様子で何処かへ去って行き、その場には重かった空気が無くなる。一体、何があったのかは分からなかったけど……

 でも、浅葱色の羽織を着た子が何かしたのは確かだ。上弦の鬼を撃退するなんて思いもしなかったのだから。

 

 でも、私はその子のおかげで生きている──

 

「ありがとう──あなた、名前は?」

「私ですか?私は──"沖田総司"です」

 

 その名前を聞いた途端、少しだけ納得してしまうのだった──

 

▽▽▽

-沖田総司-

 

 ……あ、頭がクラクラしてダルイです──

 

(確か……あの後『病弱』のせいでぶっ倒れたんでしたっけ……)

 

久しぶりに感じる肉体の感覚……

 

(夢──じゃないんですよね……)

 

 そもそも、サーヴァントが夢なんて見るんでしょうかね。

 

 虚だった視界に色彩が戻っていきます──

 

「あっ──よかった。目が覚めましたか?」

「しのぶさん……あの、ここは──」

「ここは病室です。沖田さん、あなたは昨日急に倒れたんですよ。しかも、吐血までして……」

「あははは……ご迷惑をおかけしてすみません。私、こう見えても病弱なところがありまして──」

「命に関わるようなものですか?」

「いえ、それは大丈夫です」

「──吐血までしてるのにですか?」

「はい──心配するかもですが、命には別状ありませんよ」

 

しのぶさんは「本当ですかぁ?」なんて、疑いの目を向けてきます。そりゃあ、目の前で吐血して倒れ込んだら命に関わるような病を持ってるのではないかと心配しますよね……てか、笑顔が怖いです。

 

 なんとかしのぶさんを(なだ)めて私は半身を起こします。部屋が明るいということは朝か昼ということでしょうか──

 

 それにしても……

 

(お腹空きました……)

 

当然と言えば当然でしょうね。受肉してしまってるんですから、人と同じように空腹にはなりますよね……

 

「──では、食事にしましょう。丁度、お昼ご飯を作り終えたところですから……食べれますか?」

「あっ、はい!是非お願いします!」

 

しのぶさん……私の様子を見て察してくれたんですかね?

 

▽▽▽

 

「ごちそうさまです」

 

箸を置き、私は手を合わせてそう言うと──

 

「お片付けは私達がしておきますので、沖田様はお休みになられてください」

「はい。お言葉に甘えさせていただきますね」

 

 小さな女の子達が食べ終えた食器を持ってパタパタと走っていく。

 

「お口に合いましたか?」

「はい、とても美味しかったです」

「それは良かったです。なら、それだけ食べられるんでしたら、さっきの話は信じてあげます」

「あはは──」

 

やっぱり私が病を患っているのではないかと疑ってたんですね……確かにご飯を5杯くらいおかわりすれば納得してくれましたけど、お恥ずかしいところを見られてしまいました。

 仕方ないじゃないですかぁ……何も食べてなかったんですから。

 

「それで……沖田さん。あなたはこれからどうしますか?」

「そうですね……」

 

 しのぶさんの言う通り、これからどうしましょうか。聖杯戦争のサーヴァントとして召喚されたわけではなさそうですし……

 

「行くあて……はなさそうですよね?」

「そうですね……私自身もここにいる意味がまだ分かりませんから」

「でしたら──」

「ここに住めばいいんじゃない?」

「え?」

「ね、姉さん!!」

 

部屋に入ってきたのは、所々包帯で巻かれたしのぶさんのお姉さんです。

 

「しばらく安静にして歩かないでって言ったじゃない!」

「ごめんなさいねしのぶ。でも、どうしても沖田ちゃんと話がしたくて……」

「だったら自室でもいいはずです!」

 

怒るしのぶさんにテヘペロと言わんばかりに軽く謝るお姉さん。怪我をして痛いはずでしょうに……私と話がしたいだけにこの行動力は尊敬できますね。

 しのぶさんは「あー、もう!」と言いながらも、お姉さんの肩を支えながら座らせます。

 

「さてと……私の名前はまだだったよね?」

「あっ──そうでしたね」

「私は胡蝶カナエ。しのぶの姉です」

「ご丁寧にありがとうございます。改めまして、私は沖田総司と言います。しのぶさんには一応事情は説明していますが──」

「はい。なんとなく察しはついています。新選組一番隊隊長、沖田総司さん」

 

 そう言ってにっこりと微笑みを浮かべるカナエさん。

 

「し、信用してくれるんですか?」

「ふふっ。確かに、摩訶不思議な話ではありますけど──でも、私にとってあなたが本物の沖田総司であっても、そうでもなくても関係ないわ。だって、あなたは私の命の恩人なんですから」

「──カナエさん……」

「あなたも色々あって大変でしょうし、無理しなくてもいいの。全部の恩は返しきれないけど、沖田ちゃんが良ければここに住んでいいのよ?」

「ええ。その事については私も異論はありません。先程言いかけたことですから」

 

優しいですね──お二人は。こんな、四十年前にいた人物が名乗り出て、怪しいと思うはずですのに──それが、命の恩人だからと信じてもらい、ここに住まないかと提案してくる……

 

 でも、新選組や私のことが後世に伝わっているのであれば──

 

「こんな……人斬りでも構わないんですか?」

 

そう……私は人斬りだ。理由は何であろうと私は人を斬り殺してきた人間だ。人は何であろうと、殺人を犯したものに恐怖や軽蔑感を抱くものです。

 

「ええ、構わないわ」

「即答ですか!?」

「さっきも言ったように、本物か偽物かなんてどっちでもいいの。そして、あなたが人斬りであろうと、私は命を救われた──あなたがいなければ私は死んでいました」

「ええ。姉さんの言う通り──沖田さんがいなければ姉さんは殺されていました。今みたいに話すことさえも叶わなかったでしょう」

「人斬りを肯定するわけではないですけど──無差別に斬ってきたわけではないのでしょ?あなたが剣を振るうことで救われた人達がきっといるわ。私もそうだもの──」

「──本当にお優しいですねお二人は」

 

 こんな人斬りに優しくできるなんて、本当にお人好しです。

 

「本当にいいんですか?」

「ええ」

 

カナエさんはニッコリと微笑んで肯定してくれます。笑顔が本当に良く似合う人ですね。

 

「では──お言葉に甘えさせていただきます、胡蝶カナエさん」

 

 こうして私は蝶屋敷にお世話になる事になりました──

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