鬼滅の刃-誠の花-   作:仲村 リョウ

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其の伍:成敗

 町を堪能していますと気がつけばもう日が暮れてきました。楽しい時間というのはあっという間です。

 途中カナエさんは急用があると申して去って行き、今はしのぶさんが代わりに皆さんの面倒を見ています。

 

 そして、今は茶屋にてしのぶさんとカナヲと一緒に腰掛けており、買い出しに行ったアオイ達を待っているところです。

 

「今日はどうでしたか?沖田さん」

「はい。なんだか新鮮な気分です。こうして町を見ていますと平和だなって思いますね」

「平和……ですか」

「あっ……」

 

しまった、失言でしたね……

 

「すみません……少し浮かれてしまいました──」

「あっ、いえ。謝らなくて大丈夫です。沖田さんがいた時代と今の時代のことを思ってしまうと、説得力あると思いまして……」

「そ、そうですか……そうですね──あの頃は色々荒れていた時代でしたから」

 

 今の時代には刀を持つ人がいない──

 

 まずこれが第一の違和感ですね。確か明治九年に『廃刀令』という法が発令されて、警察という治安組織と軍人又は対礼服以外の帯刀は禁止されたとか。武士の方は当時反発したでしょうね。

 

「鬼さえいなければ……本当の平和という言葉が身に染みるんですけどね」

「うっ……」

「ああっ、すみません!沖田さんを責めたわけではないんです!」

 

あたふたとしのぶさんはフォローしてくれます。

 

(鬼さえいなければ──ですか)

 

私が召喚……ではなく受肉したあの日、初めて鬼と呼ばれるものと遭遇しました。鬼は夜に生き、人を食べる。それは自身が体験して知ったことです。人の骸には慣れているとはいえ、あのような惨状は二度と見たくないものです。

 

(行き交う人達は鬼の存在を知っているのでしょうか……)

 

でなければ、鬼の犠牲になることはないでしょうね。当時の私でしたら本当に存在するかどうかなんて疑ってたでしょうし。

 でも、古来から存在しているのでしたら、もしかしたら私達も遭遇していてもおかしくなかったでしょう。

 

(確か──土方さんがボロボロで帰って来たことがあったような……)

 

熊と戦ったのか?と疑うほどボロボロでしたから……まさかですよね?あの時あの人は本当に熊と戦ったと言っていましたが──

 

「それにしても……アオイ達、遅いですね三十分で戻るとは聞いているのですが……」

「そうですね。一時間は余裕に超えてますよね」

 

 左右と見回すもアオイ達が戻ってくる様子は見られません。

 

「しのぶ様〜!沖田様〜!」

「あら、この声……」

「きよちゃんですよね?」

 

座席から立ち上がり、声がした方へと向くときよちゃんが焦った様子で此方へ走ってくる姿が見えます。

 

「ど、どうかしましたか?きよちゃん……」

「アオイ様が……暴漢に絡まれてますぅ〜!!」

 

袴へとしがみついて泣きじゃくるきよちゃん。話を聞くに三町先の角を右に曲がった所にある橋の上でアオイとすみちゃん、なほちゃんが暴漢数人に因縁をつけられているという……

 

「しのぶさん。私行ってきます」

 

私はきよちゃんをしのぶさんに任せてしまうとすぐさま走って行きます。

 

「沖田さ──って、速いですね……」

「速いです……」

 

▽▽▽

-三人称-

 

「オラ。どこ見て歩いてるんだよ?なあ?」

「すみません〜!」

「やめてください!この子達が怖がってます!」

「怖がってますじゃねぇんだよ!あ〜、いってぇなぁ〜……折れちまったかもなぁ〜……」

 

と言いつつも腕を摩ってはケラケラと笑う男。明らかに嘘であることは誰が見ても明白である。

 

「何処が折れてると言うんですか!痛がっている素振りも……」

「あ?俺が折れてると言ったら折れてるんだよお嬢ちゃん?」

 

無茶苦茶な言動だ。これにはアオイもたまらず睨みつけながら──

 

「私はこれでも看護師です!折れてると言うのなら、何故そんなに笑っていられるんですか!」

「うっせぇお嬢ちゃんだなぁ……黙って落とし前料払えばそれで済むんだけどなぁ……」

 

 ニタァと汚い笑顔を見せて近寄ってくる暴漢の一人。アオイはすみとなほを守るように両手を横に伸ばす。

 

「それとも……お嬢ちゃんが体で払ってくれるのか?」

「──っ!」

 

手を伸ばしてアオイへ掴みかかる……その時だ。

 

「汚い手でアオイに触ろうとしないでください」

「あ?」

 

暴漢の手首を掴んで阻止したのは沖田だ。

 

「沖田様!」

「なんだ……って、超美人じゃねぇか!」

 

後ろにいた暴漢の仲間も口笛を吹いてざわつき始める。

 

「なんだ?お宅んとこのお嬢ちゃんなのか?丁度よかったわ。そこにいる小せえ方のガキが俺の腕にぶつかってきてよぉ……折れちまったんだわ」

「何が言いたいんです?」

「いやぁ──そこの嬢ちゃんが落とし前料払う気ねぇから、体で払ってもらうつってんのに、それすらも断るからよぉ?だからさ、代わりにお前が相手してくんない?」

「なるほど、そういうことですか──」

「おっ!話がわかるねぇ」

「因みにですが。貴方が折れたという腕は、私が掴んでいる方で間違いないんですよね?」

 

 そうニッコリと笑みを浮かべながら暴漢の腕を強く握る。

 

「あ──い、いででででででで!!!!」

 

体格が勝る暴漢だが、沖田が掴んだ腕からはミシミシと音を立てて、今にももげそうな程の痛みが襲ってくる。痛みのあまりに暴漢は両膝を地面についてしまい、苦痛の声をあげてしまう。

 

「あれ?嘘ついていたんですか?全く折れてませんよね?」

「は、離せえ!!!」

「落とし前つけるのはどっちでしょうね?」

 

沖田は言葉と同時に暴漢の腕を捻り、地面へと這いつくばらせる。暴漢の仲間達もその光景には唖然としており、野次馬達も「おー……」と声を漏らす。

 

(沖田さん……怒ってますよね……)

 

アオイから上弦の鬼と戦った沖田の話はカナエから聞いている。

 

『華奢な身に似合わず、刀を持って殺伐としたその姿は本物の剣士でした──』

 

ふと、そう口にした──

 

 まさに今それだ。手に刀は持っていなくても、目つきと殺気で分かる。間違いなくこの人は剣士なのだと。

 

「て、テメェ……俺にこんなことしてただで済むと……」

「済むとなんです?」

「いでぇ!?お、折れる!!」

「やっぱり折れてませんよね──それもそうですよね?体格の割には、小さな女の子にぶつかっただけで折れるような柔な体してるはずありませんよね?」

 

 沖田は掴んでいた手を離すと、アオイ達を庇うように「後ろへ下がってください」と伝える。

 言う通りにすみとなほを連れて沖田から少し離れる。何もできない自分に腹立たしさを感じながらも、その状況を見守るしかなかった。

 

「さて──落とし前つけましょうか?」

 

 冷たい視線が暴漢達へと放たれる。今、沖田が刀を持っていれば間違いなく数秒で斬り伏せられているだろう。しかし、今は廃刀令後の明治後期──殺人も公の場では御法度の世の中。さすがに殺すことは出来ないため沖田は拳を構える。

 刀はなくとも柔術と多少の格闘はできる。なにせ、彼女は天然理心流の免許皆伝を取得している。故に受肉したとはいえ、サーヴァントには変わりない。普通の人であれば男相手でも負けることはないだろう。

 しかし、それを知らない暴漢達は数で囲めば何とかなるのだろうと思ったのか逃げることなく沖田を包囲する。

 

「へへっ……お嬢ちゃん。多人数相手では──!?」

 

男が言いかけた刹那。沖田の姿はもう目の前にあり、顎へと強い掌底をくらわした。

 

「あ──がっ──」

「こいつ!!」

 

木刀を持っている男が沖田目掛けて振りかざされる──が、予測していたのか沖田は懐へと入り込み、木刀を持っている方の腕を掴むと背負い投げで男を投げ飛ばした。

 木刀を奪い取ると残りの暴漢達へと振り向き、平晴眼の構えを取る。

 

「お、おい……ヤベェよ。あの女、絶対剣術習ってるって」

「ちっ……通りでやられるわけだ……」

 

 構えを取ることで動揺を見せる暴漢達。だが、一人がニヤリと笑みを浮かべて。

 

「だが、剣なんて時代遅れだ!今の時代はコイツよ!!」

 

男が懐から取り出した物──それはリボルバー拳銃だ。

 

「接近させなければこっちのも……はっ?」

「ベラベラと喋るなんて……余程の阿呆ですね」

 

 いつの間にか詰め寄られていた男は、引き金が引けずに下から振り上げられた木刀で宙へと飛ばされる。間髪入れずに木刀はそのまま下へと振り下ろされ脳天に直撃。勿論手加減はしている為、頭蓋骨にヒビが入ることはないだろうが脳震盪or気絶は免れないだろう。

 

「ひ、ひい!?」

「な、なんだよこの女……つえーじゃねぇかよ」

「……あと二人ですか」

 

再び平晴眼の構えを取り、残りの二人へと睨みつける。

 

「どうします?このままお縄につくか──それとも、私にボコボコにされるか。好きな方を選んでください」

「「す、すみませんでしたーーー!!!」」

 

二人揃って見事な土下座だった。隠し玉だった拳銃は簡単に防がれてしまった為、通用しないと感じたのか、二人は降伏することを選んだ。

 同時に『ピリリリィーーー!!!』と警笛の音が聞こえ、警察官らしき制服を着た男性達が野次馬をかき分けてやって来る。

 

「おい!暴漢が女性に絡んでるって聞いたんだが………って、え?」

「あっ、お勤めご苦労様です」

「どうも──じゃなくて、何この状況……」

 

 倒れ込んでいる男数人に女性に向かって土下座をする二人──情報とは違う状況に戸惑いを見せるのは無理もないだろう。 

 

「警部補!コイツら指名手配されてるやつらですよ!」

「おっ、本当か。今日はついてるな」

「さっさと立て!」

「こいつは……のびてますね」

「おい!拳銃を所持してるぞ!」

 

複数の警官達が暴漢達に縄や手錠をかけて拘束していく。

 

「御手柄だなアンタ。コイツらは通行人に因縁をつけては金をむしり取る阿呆野郎集団だったんだ。最近は警備を強化してるから大人しくしてると思ってたんだがな」

 

そう言いながら警部補と呼ばれた警察官は煙草を取り出しマッチで火をつけて一服。

 

「俺は仁田坂朝太(にたさか あさた)だ。この町を管轄している警察官……って、見たら分かるか」

「ご丁寧にありがとうございます。私は沖田総司と申します」

「ん?沖田……総司?」

「すみません。両親が新選組好きな者でして──つい付けちゃったらしいんですよねぇ……あはは……」

「ほう──そいつはなんというか……ご愁傷様だな」

 

何故か哀れまれる目で見られてしまう沖田。いくら蝶屋敷の者が信じてくれるとはいえ、他の人が信じるとは限らない。しかも、もう亡くなっている人物であり、混乱させてしまうのは目に見えているため他人にはこうして作られた設定()で通さなければならないのだ。ちなみにだが考えたのはカナエである。

 

「沖田様〜!!」

 

 離れていたアオイ達が沖田の元へと駆け寄ってくる。暴漢達が警官達に逮捕、連行されたことで場は安全になったのだが、彼女の表情は何処か暗い。

 

「アオイ。何処か怪我はありませんか?」

「はい──二人も怪我はしていませんが……」

「──?」

「すみません……本当なら私が守らなければいけなかったのに……」

「アオイ……」

 

 何も出来なかった自分を責めているのだろう。

 

「いえ。アオイはしっかり守ってくれてじゃないですか」

「えっ?」

「暴漢にも関わらず反論するなんて、普通なら中々出来ないことですよ」

「しかし……」

「まあ、守るってのはなにも力だけじゃねぇ。お前が言葉で時間を稼がなきゃ、今頃そこのチビ共と連れ去られていただろうよ」

「はい。だからアオイが負い目を感じる必要はないですよ」

「うう……はい。すみません沖田様……」

「謝らないでくださいアオイ。こうして皆さん無事なんですから結果オーライですよ。終わりよければすべてよしです」

 

 沖田は微笑みを浮かべながらそっとアオイの頭を撫でた。安心感と緊張が一気に解けたことからアオイは思わず涙が出てしまい静かに泣いてしまう。

 

「「沖田様〜!!」」

 

 すみとなほも沖田の袴へとしがみついて思わず泣いてしまう。

 

「怖かったですね──もう大丈夫ですよ」

 

と、二人の頭を撫でる。

 

「沖田さーん!アオイー!」

 

声を出しながら野次馬をかき分けて近寄ってくる女性。しのぶだ。きよとカナヲはしのぶの手を繋いでおり、沖田達の元へと駆け寄っていく。

 

「大丈夫ですか──って、大丈夫そうね」

「ええ。なんとか収まりました」

「このお嬢さん……沖田さんの御手柄ですよ。見てはいませんでしたが、暴漢数人相手に圧倒するなんて相当な腕の持ち主だ。アイツらはとっとと署の牢屋にぶち込みますんで、俺達はこれで。逮捕のご協力感謝いたします」

 

と、口に煙草を咥えながら敬礼をする仁田坂 朝太。礼儀としては良くないだろうが、良い人物なのは見て分かる。その場を離れた朝太は部下の警官を連れて、逮捕した暴漢達を連行して行く。

 

「みんな怪我がなくて良かったです……アオイは良く頑張ったわね」

「はい……」

「さて。じゃあ、帰りましょうか」

「はい」

 

しのぶの言葉に沖田は頷いて歩き出そうとした時だ。

 

「良くやったお嬢ちゃん!」

「アイツらには本当に困ってたのよね〜」

「コイツを持っていきな」

「へっ?あっ、ど、どうもありがとうございます?」

 

 見ていた人達から大喝采の嵐。何処かの店を出している人達からは餞別として食べ物やら色々沖田達へと手渡されて行く。どうやら、あの暴漢達には相当迷惑していたようだ。

 

「あはは……なんだか、目立っちゃいましたね……」

「もう……沖田さんのせいですから」

 

と、お互い苦笑しながら餞別を受け取っていくのであった。

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