-最終選別六日目-
そろそろ終わりを迎えようとしている最終選別。沖田と真菰はお互い協力し合いながら、地獄とも呼べる最後の夜を迎えている。
「そろそろこの拠点とはお別れですね……」
「本当に潰しちゃうの?」
拾ったもので作り上げた雨除け程度の大きさの拠点であるが、真菰は住み続けることで少しだけ愛着が湧いていたが秘密にしておくことにした。と言うよりは、今後の最終選別を受ける人達も活用できるのではないかと思ったからだ。
「ええ。鬼に悪用されたらたまりませんからね。例えば待ち伏せとか」
「あっ、そうだね」
鬼とはいえ知識はある。ここを見つけた受験者が安心した所で、鬼に待ち伏せされて襲われたなんて思うと後味が悪いからだ。
「もう少しで夜明けですか……長い七日間だと思っていたのですが、なんだかあっという間ですね」
「確かにね」
そう言いながら沖田は自身で作り上げた拠点を潰していく。
「さてと……下山していきましょう」
「うん」
沖田と真菰は潰した拠点を一目だけ見て、山を降りていくのだった──
▽▽▽
「雨が降ってきましたね……」
「うん。山だから天候が変わりやすいからね……」
ポツポツと降り出した雨は徐々に強くなりだし、気温も少し下がっていくのが感じ取れる。今の季節的には冬で、その中での気温低下は中々堪えるものだった。
「ケホッ──」
「大丈夫?総司……」
「ええ。少し咳き込んだだけです」
「あまり無理しないでね」
「はい。ありがとうございます」
真菰の気遣いに笑顔を見せてお礼を言う沖田。だが、過酷な環境を七日間過ごしたこともあってか、沖田の体調はあまり良いとは言えない状態である。
「止まってください」
「えっ?」
突然、沖田が急に片腕を横へと伸ばして真菰に止まるよう促す。
「何処からか剣の音がしませんか?」
「──!本当だ」
誰かが戦っているのだろうか。剣と剣のぶつかり合う音が何処からか響いてくる。
「鬼と戦ってるのかな?」
「それにしては音が精通しています。まるで剣術を会得した者同士が戦ってるような……」
「それって人同士が戦ってるってこと!?」
否定は出来ない……二人は固唾を飲んだ。
「行ってみましょう」
「うん」
音がする方へと走り出した二人。距離的にはそんなに遠くはない為、徐々に争いの音が大きくなっていく──
(この感覚──片方は人間では無い……鬼ですね。それも強い……)
思わず鞘を握っている手に力が入る。もしかすると真菰を殺そうとした鬼より強いかもしれない……
「総司……血のにおいが……」
「ええ……」
雨が降っているのにも関わらず、伝わってくる生々しい血のにおいが鼻をつんざく。これだけ漂ってくるということはすでに何名か同じ場所で──
「これは……」
少し開けた場所に出るとそこには、数名の少年少女達が無残にも地面に転がっている。木や草には血が飛び散っており、鋭利な刃物で斬られたのは見てとれた。
「総司──あれ……」
「ええ……」
鬼だ──それも両手に刀を持っており、今にも地面に座り込んだ少年へとトドメをさそうと切っ先を向けている。
沖田は瞬時に抜刀し、鬼へと縮地で移動して斬りかかる。それに気づいた鬼は一度後ろへと跳躍し回避した。
「ほう……まだ生きのいいガキがいるのか……」
ガキとは失礼なと思う沖田だが、決して口には出さなかった。霞の構えをとり、鬼と向かい合う。
「ぐっ……」
「真菰──その人をお願いします」
「わ、分かった!」
尋常ではない殺気に真菰は思わず動揺してしまう。
「お、俺は大丈夫だから後ろにいる妹を頼む……」
「大丈夫なわけないよ!体中血だらけじゃない!」
真菰はそう言いながら少年の両脇を抱えて後ろへと引きずっていく。
「その構え……貴様は剣士だな。見て分かるぞ」
「………」
「語らぬか……ククッ。剣士らしい……貴様のような者と会うのは初めてだな──あの小僧を斬った後、転がっている人間をじっくり食べようと思ったのだがな……まさか、強者が来るとは思いもしなかったな」
不気味な笑みを浮かべて刀を構える鬼。この鬼は人を食べるよりも、戦うことを楽しんでいると言うのか──
沖田は呼吸を殺し、一歩踏み込む。
「おぉ──いいぞ!我が求めていたものだ!!」
剣撃を受け止めた鬼はもう一つの剣を振り下ろされるが、沖田は瞬時に体を左へと捻って回避し、間髪いれずに斬撃を放つ。
繰り広げられる斬り合いに、側から見ている真菰達はただ見守ることしか出来なかった。援護しようにも、入れる隙間が見当たらないのだ──
(一撃が重い……それに、この鬼──剣術に精通している)
鬼にされる前は腕のある剣豪だったのだろう。だが、今となってはそれが厄介だ。
「あいつ……凄いな……」
「うん──私も命を助けられたから」
バシャバシャと泥を弾く足音と、鉄と鉄がぶつかり合う甲高い音……相手は鬼といえど、剣術はかなり磨かれている。沖田と鬼の戦いを見ていると、少年は自分が殺されかけた理由が分かった気がした。
「妹は──」
「無事だよ。今は気を失ってるけど……」
「そうか……よかった」
「と言っても、怪我は酷い……」
真菰はすぐ側で倒れている少女の方へと近寄る。両手足には何箇所も斬り傷が見られ、額からも血が流れており、少年より重傷なのは違いない──
「妹さんの方を先に応急処置するけど大丈夫?」
「ああ……頼む……」
少年の方も脇腹から血が滲み出ているため、治療が必要なのは確かだ。
「はい。これで傷口を押さえて」
真菰はガーゼを数枚少年へと手渡す。少年は「悪い……」とだけ言い、真菰からガーゼを受け取って傷口を強く抑えて止血をする。
「いやはや……素晴らしい斬り合いだ!この高鳴りはあの人間と戦った以来だ──確か
「──!?」
斬り合いを繰り広げている沖田だったが、斉藤一いう人物の名前に思わず動揺してしまう。その隙を逃さなかった鬼は沖田の刀を弾き飛ばし、刀は真菰達の近くに生えている木へと突き刺さってしまう。
(……私としたことが)
「貰ったぞ女……剣などない剣士は死も同然!」
そう叫びながら鬼は刀を振り下ろす。その光景に思わず目を背けそうになる真菰達だったが……
「グアッ!?」
何故か声を上げたのは鬼の方で、鈍い殴打音が鳴り響いた──
「なっ!?」
「えっ?」
真菰と少年も思わず唖然としてしまう。なにせ、沖田は鞘で鬼の顔面を殴打したのだ。剣士らしからぬ攻撃だ。
そのまま鬼の腹部や顔面に連撃をくらわすと、背負い投げの要領で木へと投げ飛ばした。
「き、貴様……!剣士なら武士道精神はないのか!!」
「鬼が武士道とか、何言ってんですか──斬り合いなんて生きるか死ぬかでしょう」
淡々と冷たい目つきで吐き捨てる沖田に鬼は動揺せざるを得なかった。確かに言われてみれば鬼が武士道と言うのはどうかと思うが──
「武士道とか何やら言ってたら、生き残れるものも生き残れませんよ。剣がなくなったら死とか言ってましたね。なら、そのまま死ぬのを待てと?馬鹿じゃありませんか?剣が折れたら鞘で。鞘が折れたら素手で──戦場では、どんな手でも使って生き残るのが
そう言い終えると、鞘をブンッと振って血を払った。
「あなた……斉藤さ──斉藤一と戦ったと言いましたね?」
「あぁ──
「そうですか──」
沖田はほんの少しだけ口角を上げて安堵する。もしかしたらこの鬼が殺したのかと言い出すと思ったのだが──そんなことはなかったようだ。
──斉藤さんが簡単に死ぬはずありませんよね……
「だが──なるほど………うむ、そうだな。確かに貴様の言う通りだ女。戦いの場ではどんな手を使おうが、生きる為には必要なことだ。いやはや我としたことが……鬼の所業を忘れる所であったな……」
空を斬り裂いた刃は隣に生えていた木を斬り倒した。
「クソッ……なんでこんな鬼が最終選別なんかにいるんだ……」
「弱い鬼しかいない……と言いたげだな小僧。否だ──鬼に弱いものなどおらぬぞ……何故、貴様らが死ぬのか教えてやろうか?それは貴様らが怠慢だからだ。弱い鬼しかいないと思い、油断するからだ。そんな奴から死んでいくのだ、人間は……特にコイツらのようにな」
ニタァと笑みを浮かべながら辺りを見回す鬼。少年は怒り心頭な様子で、今にも飛びかかそうだったが真菰に手首を掴まれて止められる。
「挑発に乗らないで!貴方が出てもその怪我じゃ勝てないよ!」
「けど、アイツ……」
「──確かに……」
そんな中、沖田は冷静だった。
「貴方の言う通り、戦場では油断したものから死んでいく。それが当然の成り行きですからね──」
「お前──!」
「ですが……貴方に死んでいった者を侮辱する権利なんて一つもありません。一度でも剣を抜いて戦った者は一片でも"死ぬ覚悟"はあったはず──彼らを侮辱するな」
沖田の殺気が更に強まる。離れている真菰達も鳥肌が立つくらいに──だが、恐怖というのは不思議と湧いてこなかった。
沖田は死んでいった人達の為に怒っている。だからこそ、彼女の殺気には恐怖を抱けないのだろう。
そして、沖田は落ちている日輪刀を拾い、縮地で鬼の背後をとって斬りかかる。
「いい殺気だ──ああ……実にいい……貴様が生き残っている理由が分かるぞぉ……だがな、刀を持たないと我は倒せん。日輪刀を持っても倒せん。なにせ、その鈍刀では我は斬れんからな……」
「──!?」
鬼の頸に刃が当たった瞬間だ──
日輪刀が弾かれてしまう──鬼の頸に刃が通らなかったのだ。
(普通の鬼より硬い……)
沖田は一旦鬼から距離を取り、手に持っている日輪刀を見た。刃こぼれしており、斬るのも難しいほどボロボロだ。
(恐らく、あの鬼が持つ剣でやられたのでしょう。皮膚が普通の鬼より硬いのもそうですが──一番の目的は刃こぼれを起こさせて、斬らせないようにしている……)
そして、頸を狙うにもこの鬼の相手をするには受験者達と実力の差があり過ぎたのだろう。
「今日は雨……日の光も届かんとは……運が悪いな……貴様らも……」
「なら、頸を斬り落とすまで!」
「良いな、その
沖田は刃こぼれした日輪刀を構える。不利な状況とはいえ、それでも戦おうとする沖田を好敵手と見定めた鬼は、刀を振り上げて突貫してくる。
「ズェアァアアアアッ!!」
決して速くはない斬撃だが一撃は重い。上手く受け流すか躱さなければ、無駄に体力を消耗してしまう。
(──っ!決定打を作らないと、総司の体がもたないかもしれない……)
真菰は沖田と共にする中、彼女の体が弱いことを知っている。本人から話してくれたこともそうだが、何より決まった時間に薬を服用している姿を見ているのだ──
真菰の体は咄嗟に動いた。沖田の突き刺さった刀がある木の方へと走り、抜こうと引っ張りはじめる。
(総司にこの刀を渡さないと!)
しかし、引っ張れど抜ける気配がない。深く刺さりすぎているせいか、真菰一人の力では抜けそうにはなかった。
「フハハハハ!!その鈍刀でどれだけ持つかな!!」
二刀流の相手に巧みに凌ぎ切る沖田は流石と言っていいだろう。だが、決定打となる攻撃ができずにいるのは痛手だ。一瞬でも気を抜けば斬られるのは沖田の方──その為、無駄に攻め入ることは避けなければいけない。
「くっ!」
苦悶の表情を見せ始める沖田。防御を続けるには体力の限界があった。相手は腕を二本と刀を振り回す為、凌げば凌ぐほど、回避すればするほど体力が奪われていく。
「早くしないと総司が──」
「俺も手を貸す!」
真菰と一緒に刀の柄を握って引っ張り始めたのは少年だ。安静にしていないと出血してしまうと言うのにも関わらずにだ──
「ケホッ……」
突然、沖田の動作が鈍くなる。鬼の一振りを横へと回避し、一旦距離をとった。口元を裾で拭うと、繊維には血が滲んでいる。
(っ──少々動きすぎましたか……)
病弱体質を持つ沖田に持久戦は向かない。天性に持つ打たれ弱さと虚弱体質のせいか、激しい動きを続ければ心身と共に襲ってくる……生前の病のせいか、後世の人々からの印象の影響だろう。まるで呪いのようだ──
「なんだ……まだ切っ先すら掠ってもいないと言うのに、血反吐を吐くのか……先程の言葉はどうしたのだ?」
「お喋りな奴ですね……ゴホッ!」
「ククッ……お前を食えば、我はさらに強くなるだろうなぁ──更なる高みに行けばこの監獄から出られるかもしれん……」
「ゲホッ!勝手に──私を食うとか、決めつけないでもらえますかね……」
──まずい。思ったより病弱の影響が酷くなってきている。この状況が続けば斬られるのは私だ……
この過酷な環境である最終選抜を七日間過ごしてきた影響もあるのだろう。また、今は冬の季節に雨天ときた──冷えた沖田の体は最悪の体調と言ってもおかしくはない。
それでも焦りを見せるわけにはいかない──
後ろに下がるわけにはいかない──
──最悪、彼女達だけでも下山させる。
咳き込みながらも迅速かつ最善の選択を脳内で行う。
「っ──!よし、抜けてきた!」
「もう少し──!」
二人で引っ張り始めて、ようやく抜け始めた沖田の刀。
「きゃっ!?」
「ぐっ!!」
力強く引っ張ったせいで、地面へと背中から倒れ込む二人。少年の方は真菰が体へと乗っかった為、傷口に響いたのか苦悶の声を上げてしまう。
「だ、大丈夫!?」
「ケホッ!だ、大丈夫だ──早くあいつに日輪刀を渡すぞ」
「うん!」
二人は沖田達の方を見つめる。問題はどうやって沖田に渡すかだ。
「どうする……渡すだけでも命がけだな──」
「なら。まだ動ける私が囮になる」
真菰はそう言うと、自身の日輪刀を抜刀する。
「大丈夫なのか?」
「うん──こんな時こそ協力だよ」
「──分かった」
お互い頷き合うと、真菰は鬼へと向かい走って行く。
「ヌンッ!!」
「っ!」
強力な一撃が沖田を襲い、後ろへ吹き飛ばされてしまう。両足で地面を抉りながら踏ん張るも、泥のせいで滑りが大きく背中から木へと激突してしまう。
「ぐっ!?」
「総司!」
真菰が大きく息を吸い、酸素を血中に取り入れる。
-水の呼吸 壱ノ型 水面斬り-
鬼の頸へ目掛けて水平へと薙ぎ払われる刃。ここで決めれば楽な話ではある──が、相手は剣術に精通している鬼だ。真菰の気配はもう察知しており、凌がれてしまう。
「っ!」
「貴様の攻撃くらい読み通せるわ!」
「あまり……なめないでよね!」
「むっ!?」
-水の呼吸 弍ノ型 水車-
水車のように全身を回転させた斬撃が放たれる。鬼は一瞬だけ驚いた様子を見せるも、すぐに笑みを浮かべる。
「ほほう。やるではないか小娘……だが、まだあの小僧と変わりはないな。腕もまだまだだ!」
(こいつ……まさか気づいて──!)
「貴様らの目的はあの女の刀だな!!」
「きゃあっ!?」
鬼の攻撃を防いだ真菰だったが、重い一撃に吹き飛ばされてしまう。
「させん!!」
鬼は片方の刀を少年へと投げ飛ばした。切っ先は真っ直ぐに少年の胴体へと向かって迫ってくる。
(まずい、避けられない──!)
「お兄ちゃん!!」
その時、少年に向かって少女の叫び声が上がった。
「みつえ!!」
少年が名前を呼んだ──目の前には、真菰が介抱していた少女が立っている……彼の妹だ。
(避けられなければ、みつえに託すしか……)
そう思った少年はみつえと呼ばれる少女へと沖田の刀を放物線を描くように柄から投げる。
「──!」
(はは──死んだな、これ……)
鬼の刀が自分の胴体へと突き刺さる──死を覚悟した瞬間だった。
──ガキィンッ!!
金属と金属がぶつかり合う音で、少年は目を開けた。
「っ!?」
鬼が投げてきた刀は何故か見当たらない。一瞬、訳が分からなかったが、沖田を見た瞬間理解した。彼女は少年がいる方へと手を伸ばしており、その手には持っていた日輪刀がなかった……
──沖田は持っていた日輪刀で鬼の投げた刀を弾いたのだ。
それは一瞬の判断だっただろう。鬼が投げる動作を見た瞬間、沖田は軌道を先読みして投げたのだ。
「これ……」
「コホッ……助かります」
沖田は少女が持ってきた愛刀を受け取ると苦笑しながらお礼を言った──
(鬼の体が硬いとなれば宝具を展開して貫くか……皆さんは混乱されるかもしれませんが)
この際、有無は言ってられらない。
沖田は静かに息を呑み、宝具を展開させる。
「……!?」
近くで見ていた少女は目を見開いて驚きの表情を見せる。
「なっ……なんなのだ貴様!なんなのだその格好は!!」
鬼が目にした姿は驚くものだった──浅葱色の羽織に袖口のだんだら模様──持っていた刀は『加州清光』から『菊一文字則宗』へと変化したのだ。
誓いの羽織──
沖田の宝具であり、サーヴァントとして行動する際の戦闘服と呼べるものだ。装備する事で能力を向上させる効果もあり、武装も『加州清光』から『
「知っている……知っているぞ我は──その姿!!」
「──速攻でカタをつけます!」
平晴眼の構えを取り、呼吸を大きく行い大量の酸素を血中に取り込む。
(無明三段突きは奥義であれ突き技……鬼の頸を取るには……)
▽▽▽
-二ヶ月前-
最終選別へ行くと決まったあの日のこと──
「そういえば沖田ちゃん。あの日使った技ってなにかな?呼吸法……ではないわよね?」
「こきゅう……ほう?」
「ブッ!?ケホッ!ケホッ!ちょ……ちょっと待って、沖田さん!呼吸法も使わずに上弦の鬼を撃退したんですか!?」
沖田の言葉に驚いてしまったしのぶは、思わず飲んでいたお茶を勢いよく吹き出してしまう。咳き込みながら沖田へと詰め寄ると、両肩をがっしりと掴んで動揺した様子で見つめる。
「ええ、そうですけど……呼吸法がなにか技みたいなのは分かりますが──技があり過ぎたら戦いにくくて仕方ありませんよ。あの時はなんて言いますか……ただ相手を殺すことだけ思っていましたから」
「ああ、もう──なんて言うか、沖田さん。脳筋すぎません?」
「ええっ!?だって、斬り合いなんて気合が全てじゃないですか!」
「気合って……どんだけ脳筋なんですか!?」
ギャアギャアと始まる論争──
しのぶは内心、よくそのような思考で上弦の鬼と戦えたなと思ってしまう。
「まあまあ。呼吸法は後で教えるとして……沖田ちゃんのあの瞬間移動?みたいな突きを繰り出した技のこと教えてくれる?」
「あっ、はい。あれは私の奥義で『無明三段突き』というものです」
「三段突き……確か沖田さんのことが書かれた本でも、突き技が得意って書いてありましたね」
「ええ。突きは一撃必中の技です。どんな相手でも急所を突かれれば絶命しますからね」
「だから沖田ちゃん。あの時、突きを出しちゃったんだ……」
「鬼の倒し方は知らなかったとはいえ不覚です……すみません」
「あ、ごめんなさい。謝らないで……そんなつもりじゃなかったの」
倒し方が分かっていれば、勿論殺せていたであろう戦いだ。相手も油断──と言うより、なめていた素振りがあった為、沖田はあの日のことを思うと何度も後悔している。
「それで──その『無明三段突き』という奥義は普通の突きとは違うんですか?姉さんがさっき瞬間移動とか面妖なこと言いましたけど……」
「そうですね……瞬間移動と言うよりは、空間跳躍?と言った方が正しいですかね」
「「空間跳躍……」」
「平晴眼の構えから踏み込みの足音が一度しか鳴らさず、その間に三発の突きを同時に放つという感じですかね」
「えっと……同時?」
「はい。同時にです。相手が一つ突きを貰ったと思ったら、実は既に三度突かれていた──そんな技です」
「「????」」
カナエとしのぶは同時に首を傾げて訳がわからないと言った様子だ。無理もない……このような事象奥義はサーヴァントである沖田にしか分からないことなのだから。
「えっと……つまり、その三発の突きは同じ空間に存在するってこと?」
「はい。さすがカナエさんですね」
「同じ空間に三発の突きって……防ぎようがありませんね」
「そうね──突きを行う前には空間跳躍?と言ったかしら……現れた時には相手の目の前だもの」
「事実上、防御不可能な奥義なのは自信あります……対人ではの話ですけどね」
「だとしても、何でもありですね沖田さんは……」
だが、そのような奥義があっても鬼の頸を斬れないのは痛手だ。
「──沖田ちゃん。全集中の呼吸を覚えましょうか」
「全集中の呼吸……ですか?」
「ええ」
カナエはペカーッとした笑顔で人差し指を立てながらそう言い、沖田は聞きなれない言葉に首を傾げる。
「沖田さんは自分の剣術の流派があるでしょ?でも、今更各呼吸の流派を会得しようとするのも混乱するでしょうし──」
「確かにそうですね……」
カナエが言うには呼吸法にも剣術のように各流派が存在するとのこと。炎、水、雷、岩、風で五つの基本呼吸があり、そこからも派生型もあるのだとか──
だが、沖田は自身が会得している"天然理心流"とい剣術流派がある為、呼吸の流派を会得するのは今更現実的ではない。そもそも、呼吸法を会得しなくても強いのはカナエ自身よく知っていることだ。
「因みに私は花の呼吸の使い手ね。花は水から派生したものよ」
(派生ですか──呼吸も奥が深いものですね)
「それで……沖田ちゃんにはせめて『全集中・常中』を会得してもらおうと思います」
「常中?」
「まず全集中とは、一度に大量の酸素を血中に取り込むことで、血管や筋肉を強化させて身体能力を大幅に上昇させることを言うの。私達が技を出す時の基本動作ってことかしら」
(なるほど……だからあの時、呼吸は無闇に使うなと……それと、カナエさんが鬼殺隊を引退した理由が……)
呼吸法が使えないということは鬼殺隊士にとっては死と同然と言える。弱い鬼なら戦い方次第でなんとかなるかもしれないが、強力な鬼であれば死を意味することになる。
そして、肺を損傷すれば呼吸法は使えない……沖田はこの時、カナエが鬼殺隊を辞めた理由が分かってしまう。
「その中でも『全集中・常中』は他の呼吸法と違って、地道かつ過酷な鍛錬を積んで得られるものです。内容としては、睡眠中を含む二十四時間常に全集中を維持させ続けないといけないのですが」
「なんかサラッととんでもないこと言いませんでした?」
「言ってません♪」
当たり前ですと言わんばかりに、満面の笑みで答えるカナエ。沖田は思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「会得に成功すれば新陳代謝が活性化して、増大な肺活量に応じて筋肉が対応するから身体能力が向上するの。ねっ?悪いものじゃないでしょ?」
「確かに──」
「沖田ちゃんの奥義でも、鬼の頸を吹き跳ばせるようになるかもしれないわ」
「是非やりましょう!」
目を輝かせて拳を握る沖田。サーヴァントならそのような鍛錬は必要ないと思っていたのだが、今回は受肉ときた──普通の人間とは違い、サーヴァント並みの力は使えるとはいえ中身は人間と同じだ。だとすれば、更に強くなれるのではと思い、沖田は思わず高揚してしまった。
(やはり脳筋ですね……沖田さん)
やはり前世では早くに病で亡くなってしまったせいでもあるのだろう…… 向上心は大きい。
それからというもの、沖田の地道で過酷な訓練が始まる。
まずは睡眠だ。この時も全集中を維持させないといけない──のだが。
「ヒュウウウウウ……ヒュウウウウウ………zzz」
「はい、沖田ちゃん。寝ちゃダメですよー」
「はうっ!?」
時々寝てしまい、カナエに布団叩きでしばかれる。
「うぅ〜……痛い……は、
「大丈夫、大丈夫!まだ慣れてないだけだから、沖田ちゃんならきっと出来るわ!」
「はい……ありがとうございます……」
笑顔でそう言うものだから、沖田は思わず苦笑いで誤魔化す。だが、顔を叩くのはいいとして、もう少しだけ手加減してほしいと思ってしまうのだった──
そして、瓢箪割り──
これは、全集中の呼吸を行う為に行われる訓練の一つである。子供と同じくらいの大きさのある瓢箪を息を吹き込むだけで割ると言うものだ……しのぶ曰くこれが体得のスタート地点らしい。
「こ、これに息を吹き込んで割るんですか……」
「はい!」
「普通の瓢箪より硬いですけど……」
「沖田様ならきっとできます!」
きよ、すみ、なほの三人に応援されながらも、誰が考えたんだろうと思ってしまう。沖田は瓢箪を手に持ちながら口に咥える。
(なんとなくコツは掴んできている……割るしかありません!)
そして沖田は勢いよく瓢箪へと息を吹き込み始める。
「「「頑張れ!頑張れ!!頑張れ!!!」」」
「──────!?」
「お、沖田様?」
「……………」
急に顔が真っ青になって吹き込むのを止めてしまう沖田……すると。
「こっふ!?」
「「「沖田さま!?」」
吐血してぶっ倒れてしまう。
「うわーん!沖田様しっかり!!」
「早くアオイさんを!」
「すぐ呼んできますー!」
病弱がダイレクトに来ることを忘れてはいけない。無茶せずにやろう……改めてそう思った沖田である。
それでも、七日経った日には──
バンッ!!
「「「やったー!!」」」
「ケホッ!……うぅ…や、やりました……」
なんとか、やり続ける事で全集中・常中を会得することに成功。受肉したサーヴァントとはいえ、さすが天才剣士と言ったところだろうか。
「すごいです沖田様!たった七日ですよ!七日!」
「ありがとうございます。ですが、まだまだ……慢心せずにいきます!」
一つの目標を成し遂げたことでやる気を大きく見せる沖田──
そんなこんなで最終選抜が迫ったある日──
庭に置かれた藁を凝縮させた支柱。成人男性くらいの高さがあり、頸を見立て人間と同じほどの幅があり、頸部には目印に赤色の塗料が塗られてある。
「本当に大丈夫?沖田ちゃん」
「はい。これは挑戦ですから」
そう言い、刀を抜いて平晴眼の構えを取る沖田。
縁側でその姿を見守る蝶屋敷の主要メンバー達。
「私……沖田様の剣技を見るの初めてです……」
「よく見ていた方がいいわよアオイ、しのぶ。本当に凄いから」
「はい」
「「「ドキドキします」」」
そして、大きく息を吸い込み相手を見据えて一歩を踏み込む。
(凄い……本当に身体能力が向上しています!これなら──!)
▽▽▽
-現在 藤恐山-
「お前を殺して、刀をもらい、肉を食って我が糧にしてやろうぞ!!」
鬼が迫ってくる──
沖田は全集中の呼吸を行い、地面を蹴る。
…速く
……速く
「なっ!?消え──」
………速く!
「!?」
-無明三段突き-
沖田が鬼の背後に平晴眼の構えで現れた時には、鬼の頸は宙を舞っていたのだった──
沖田さんのトレードマークであり宝具である『誓いの羽織り』と武装の『菊一文字則宗』を展開して装備する形として描写したました。