馬車に揺られながら思い返す。
この世界にきて十数年くらいだろうか……流石にこれほど時間が経つとキャベツが空を飛んだり、サンマが畑に生えたりと意味不明なこの素晴らしい世界にも新しい体にもある程度慣れてくる。
と言っても未だ慣れないこともあって例えば自分の生まれた村の風習というか雰囲気とかは未だに慣れることができない。
いやむしろ慣れたくない。
なんというか慣れてしまったら戻れない気がしてしまうのだ。
お蔭様でいつも村では変わり者扱いで居心地が悪い、いやまぁ変わり者というのは事実なのだけれども。
なぜなら、魔法が得意な種族でポーションを研究してるのだから。
これで変わり者扱いされないほうが珍しいって話だ。
何もない平地に整備された道を狭い馬車にガタゴト揺られながら進む。
そろそろアクセルか、ここまでたどり着くまでが大変だった……特にあのアクシズ教団とかいう頭のおかしい奴らに追われたせいで。
何なのだアイツらは、クソみたいな演技をして口を開けばアクシズ教に入れ!入れ!と五月蝿いし店にいってもアクシズ教の勧誘ばっか、あれならうちの村の奴らのほうがまだマシだぞ。
温泉が有名と聞いて疲れを取るためにちょっと寄り道しようなんて思うんじゃなかった、むしろ疲れてしまった。
馬車に入ってる他の冒険者だと思われる3人を見てみるとみんなやつれた顔をしていて、一番屈強な男は何かをずっと呟いているし、エリス教徒と思われる女性はずっとエリス様、エリス様、と呟いている。
おそらくリーダーだと思われる男は特に呟いているわけでもないがえげつないレベルで震えている。
きっと彼らも同じ目にあったのだろう、いやこの感じ私以上の何かがあったのかもしれない。
馬車の御者はもうこの光景に見慣れているのか何もツッコまない。
「お客さん!そろそろアクセルに着きますよ!荷造りしておいてくださいね!」
やっとか……
他の三人も同じ気持ちだったようで、まるで女神に救われたような表情をしている。
と思ったらさっきからエリス様エリス様と連呼していた女性が
「エリス様、私達をお救い下さりありがとうございます!この御恩は私の体を捨ててでもお返しします……まずはあの憎きアクシズ教を……」
目に殺意を満たしながら、なんか怖いことを言い始めた。
この世界の宗教にまともなものはないのか?
馬車の御者は何もツッコまず真顔で馬を進めていくし、他のパーティメンバーは女性の暴走をとめないし馬車はカオスな状態でアクセルの門を通った。
アクセルという街は周辺に弱いモンスターしか生息していないため冒険者の卵が集まる街である。
どんなに強い冒険者も初めここから始めるそんな街だ。
で何故アクセルに私が来たのかというと、単純に金稼ぎだ。
今まで自分が作ったポーションを自分の住んでた里に来た人に売ってたのだが、それが結構売れたのだ。
買ってくれた人に理由を聞くと、どうやら品質に対してものすごく安いらしい。
王都でのポーションの相場を聞いたが高すぎて驚いたものだ。
ならばこのポーションを人がたくさんいるところで売ればそりゃあバカみたいに売れるだろう、それをしない手もない。
だがここでこう思った人もいるだろう、ならアクセルじゃなくて王都に行くべしではと。
私も最初は王都で売ろうかと思っていた。
しかし、王都で今までの相場をぶっ壊すレベルの値段でポーションを売ってしまったら?
王都のポーション屋の客を奪ってしまうことになり大喧嘩になる気がするのだ。
というかなるだろう。
だがアクセルならどうだ。
アクセルにポーション屋はほとんど存在しない。
何故なら駆け出しの冒険者がポーションたくさん買えるほどの金を持ってないから、誰もポーション屋なんてせず、雑貨屋などにおいてあることがあるくらいだ。
でも私のポーションは安さが売りだ、駆け出しの冒険者でも買えるような値段には、ちょっと品質を落とす必要があるが……全然できる。
と言っても店を建てられるほど金もないし店をを建てたら建てたで管理がめんどくさいので店を建てるつもりはない。
そこらの雑貨屋でもなんでもいい、そこに売ってもらうように頼むつもりだ。
馬車が止まり、ようやくアクセルの街の地面に足の裏をつける。
まずは宿探しかな、アクセルに住む予定だから家を買うまでの拠点がほしい。
アクセルに来ている同級生が二人いるが流石にアポなしで泊めてもらうのはアレだろう。
幸い金は村にいたときポーションを売ったお金と、親から貰ったお金でかなり余裕がある。
でも節約できるとこでは節約したいし、できれば安い宿に泊まりたい、とりあえず歩き回って安いところを探そう。
よさげな宿が見つかったのは太陽が沈むくらいの時間だった。
予想以上に時間がかかってしまった……アクセルの街に宿屋がまさかここまで多いとは。
変に選り好みするんじゃなかった。
流石にこの時間からポーションを売ってくれと店に言うのはやめたほうがいいか……
だが流石に寝るには早いしな……どうしたものか……あ、そういえば冒険者ギルド行かないといけないんだった。
冒険者ギルドに行く理由はポーションの素材集めのために冒険者になる必要があるからだ。
いや、別に素材を採るだけなら冒険者になる必要はないのだけれども。
ある程度のポーションの素材なら売ってはいるのだが、レアなものや普通素材にならないものは売ってないことが多く、自分で採らなければならない、だが盾や剣の至近距離で戦える奴らと違って遠距離の魔法専門の私でソロプレイというのは流石に厳しいものがある。
そうなってくると素材集めもできない。
だから仲間が欲しい、俗に言うパーティーメンバーだ。
まぁ、パーティーに入ってしまうと行動が制限されそうなので、いろんなところをサポート的な感じで転々とするつもりだが。
そうするためには冒険者になる必要があるだろう、いくら私がちょっと有名な種族だからって冒険者じゃないやつを入れたがるパーティはいないだろうし。
私の本職は冒険者ではなくポーション屋だしな。
冒険者ギルドにつくと時間的にそうなのか宴会のような騒ぎだった。
あたりを見回すと男たちと飲んですでにベロンベロンのやつから、セクハラしてるやつまで、全体的にやばいやつばっかだが、かなりの騒がしさだ。
そんななか端っこにポツンと座って一人でトランプタワーを作ってる見てるだけで悲しくなる同級生を見つけてしまい私はため息を吐いてしまう。
同級生の目の前に近づくが、トランプタワーを建てるのに集中してるのかなかなか気づかない。
うん、とりあえず崩すか。
トランプタワーの横に手を持っていき、手を思いっきり横に振る。
それだけで紙の脆いタワーは崩れ落ちる。
急に倒れたタワーを見てようやく気づいたのか同級生が顔をあげた、その顔は文句を言いたそうな顔をしている。
「ちょっ!めぐみん崩…さ……え?ふらすこ?え?」
「やぁ、ゆんゆん相変わらずのようで安心……してはいけないのかね?この場合」
「ええええええ!?」
うるさいな、周りからの視線が痛いから早く黙れ。
「な、なんでアクセルに居るのよ!年中引きこもってポーション作ってるくせに!」
「うんうん、無意識で毒を吐くのも相変わらずみたいだね」
同級生……ゆんゆんの反対の席に座る。
どうやら彼女は私がアクセルにいるのがとても意外らしい。
「いやー、紅魔の里らへんの素材で作れるポーションなくなっちゃったから新しい素材が欲しくてね、あと金」
「お金って……ふらすこらしいっちゃらしいけど……でもならなんで冒険者ギルドにいるのよ?」
「素材採るのに冒険者だと便利だろう?それに一人だと危ないところもパーティ組めるようになるしね」
「なるほど……あ、なら、私とパーティを「遠慮しておくよ、アークウィザード二人は流石に偏り過ぎだろう?それにゆんゆんだって他のパーティ入ってるだろう?」
「う……そのパーティは……」
ゆんゆんが答えを濁す。
ま、まさかこいつ、さっき冗談で変わってないって言ったのだが本当に変わってないのか?
ゆんゆんはアクセルに来る前……紅魔の里にいたころからともかく一人だった。
自分と同じで感性がまともなのが原因らしい……多分他のとこもあるが。
アクセルに来てちょっとは治ってると思ったのだがな。
「はぁ……まだ治らないのかそのぼっち癖は、アークウィザードなんだから一回くらい勧誘されたことがあるんじゃないか?」
「その……されたことはあるんだけど、どうしたらいいのかわからなくって……」
それを聞いてもう一度ため息を吐いてしまう。
そんなんだから友達もできないんだろう。
もうこの話はやめよう、多分一生治ることはないのだろうし。
「そういえば、めぐみんのやつはどうした?あいつもアクセルにいるんだろう?」
「めぐみん?めぐみんは今日は見てないから、多分家でゴロゴロしてると思うけど」
「おい、まるで人をヒキニートのように言うのはやめてもらおうか」
「ひぅっ!」
ゆんゆんの後ろから突然もう一人の同級生めぐみんが現れる。
急に隣から話しかけられ横を向くとちょうど探していたやつがいた。
「やぁ、久しぶりだね、めぐみん」
「ええ、久しぶりです、ふらすこ、アクセルには何のようで来たんですか?」
「ポーションを売りに来た」
「そうですか、あなたのポーションはいい性能ですし、ここならバカ売れ間違いなしですよ」
「おお、めぐみんに褒めてもらえるとは光栄だね」
「ところでですね……爆裂魔法強化のポーションはどうなりました?」
「ああ、結構大変だったが作れたと思うよ」
バッグからピンクの液体が入った一本の試験管を取り出す
それを見るとめぐみんは目を輝かせて素早く私の手からそれを奪い取る。
「ちょっとまって!爆裂魔法強化のポーションってなんの話!?」
「流石に使えるやつがいないから試せてはいないが……理論上は効果があるはずだ」
「おお!ありがとうございます!今日はもう魔力切れで撃てないですが……これは明日が楽しみです!」
「無視しないで!」
ちょっと無視しただけなのにゆんゆんがかなり怒ってる
可哀想だし話してやるか。
「なんだいゆんゆん?」
「爆裂魔法強化のポーションってどういうことよ!今でさえ毎日騒音と地鳴りの文句があるのよ?そんなもの強化したら……」
「騒音と地鳴り?どういうことだ?」
「めぐみんが一日一回は爆裂魔法を撃たないと死ぬって言って、毎日毎日爆裂魔法を撃ってるからその余波がアクセルの街にきてるのよ!」
確かに爆裂魔法ほどの威力のある魔法なら街まで余波がきてもおかしくないか、なるほどね、じゃあこれもあげとくか。
白衣の裏側に仕込んでいる今度は緑色の液体が入った試験管を取り出す。
「めぐみん、これも試作品なんだがすべての魔法の威力を上げるポーションだ。もらってくれ」
「おお!これならさらに爆裂魔法の火力を上げることができます!感謝しますよ!ふらすこ!」
「何してんのよぉぉぉぉおお!」
「まぁまぁ、落ち着くんだゆんゆん、今渡したやつは1.1倍程度しか威力上がらないし」
「それでもよ!私同じ紅魔族だからってめぐみんを止めてくれって言われたんだからね!?お願いだからやめて!」
「それは無理ですね、私は一日一回爆裂魔法を撃たないと死んでしまいます」
「じゃあせめて!せめてよ!ポーションは飲まないで!」
「それも無理な話です、全力で撃たなかったらそれは爆裂魔法じゃないので」
「やめとけ、ゆんゆん多分いくら言っても無駄だぞ」
めぐみんの爆裂魔法愛はゆんゆんのぼっち癖と同レベルだし一生治らないのだろう。
「じゃあ、私は今日受けたクエストの報酬をもらわないといけないのでここらへんで」
「そうか、明日の爆裂魔法楽しみにしてるぞ」
「ええ!期待しておいてください!」
「だからやめてぇぇぇぇぇぇぇえ!!」
「はぁ、もうやだ……」
私とめぐみんの対応で疲れたのかゆんゆんは机に倒れ伏して、弱音を吐く。
「ため息を吐くと幸せが逃げるぞ」
「誰のせいだと……もう」
「じゃ、私は冒険者登録してくるから、じゃあね」
それにゆんゆんは答えない、どうやら答える気力すらないらしい。
奥の方にあるカウンターに向かい金髪の女性に話しかける。
「冒険者登録ってできますか?」
「冒険者志望の方ですね、では手数料として千エリスいただきますね」
バッグから財布を取り出す千エリスを渡す。
「ありがとうございます。ではこちらに必要事項を記入してください」
そう言われて書類とペンを渡される、どうやら名前などを書かないといけないらしい。
すらすらと名前から生年月日まで書いていく。
「はい、できました」
「えっと、ふらすこ……?様もしかして紅魔族ですかね?」
「そうだよ、目の色は魔法で変えてるからわからないでしょ」
「なるほど、じゃあもしかしてめぐみん様やゆんゆん様とは……」
「うん、学校の同級生」
「そうでしたか……これ以上問題児が増えないといいんだけど……」
「なにか言ったかい?」
聞こえてた上でこういうこと言うから性格悪いってよく言われるんだろうか?
ま、確かに紅魔族に問題児じゃないやつのほうが少ないのは事実だけど。
「い、いえ、なんでもありません。紅魔族なら冒険者カードは大丈夫ですか?」
「いや、お願いするよ。アクセルにくる道中で失くしちゃってね」
本当はポーションで溶かしちゃったのだがそれは黙っておく。
「わかりました。ではこちらに水晶に触れてください」
金髪の女性が水晶を手で指す。
これはステータスがわかる水晶だ、多分大体の人はこれのステータス次第で職業を決めるのだろう
水晶に手をかざす。
「ふらすこ様は、やはり魔力が高いみたいですね。この数値なら最初からアークウィザードになれますよ」
「だろうね、アークウィザードでお願いするよ」
「わかりました」
そういうと、金髪の女性は冒険者カードを何回かタッチする。
「はい!職業登録完了しました!これでこれからふらすこ様は冒険者の一員です!」
金髪の女性から自分の名前の書いてある。冒険者カードを受け取る。
これで、私の冒険者生活が始まるわけだ。
本職はポーション屋だが。
ちなみに時系列的には4巻のリザードランナーあたりです(めぐみんはちょうど報告にきた)
タイミング的にカズマと関わるの遅くなりそう()