ストーカーを討伐したあと、一応カズマ達に謝っておこうとめぐみん宅に向かったのだが、非常に残念なことに入れ違いになってしまったので謝ることができなかった。
というわけでごめんなさいはまたいつかということにしておく、謝る気はある、多分。
その後は特に何も無く、あったことと言えば父があのストーカーに協力していたので私がボコったくらい。
勘違いしないでほしいが、父が協力したのはストーカー恋愛に対してではなく、ストーカー行為に対してである。
そんなこともあり、ストレスが貯まった私は昨日と同じく酒を飲みに来ていた。
今日はいつもよりアルコールが美味い。ある意味ストレスは最高の酒のお供かもしれない。
毎日は勘弁だが。
「ねりまき、おかわり頂戴」
「はいはい、今日はよく飲むね。私はもう寝たいのだけど」
「眠れなくなるポーションあるけどいるかい?これは副作用ないよ」
「眠くなるじゃなくて眠れなくなるなの?」
飲むと強制的に五日はオールナイトが決定するポーションだ。
残念なところは眠気は消えないところか。
眠気すら感じないほど集中しているときはなかなか便利である。
このポーションのおかげで研究中の気絶がなくなったしな。
ちなみに集中出来ないときに飲むと眠気だけを永遠に感じる軽い地獄を味わうことが可能だ。
拷問にオススメである。
「それもうポーション自体が副作用みたいなものじゃない」
「この効果目的で飲むから副作用ではない」
「屁理屈?」
「一応、正しい話」
例えば二つの効果があるポーションあるとして一つ目の効果目的で飲むなら二つ目の効果は副作用になり、二つ目の効果目的で飲むなら一つ目のほうが副作用になるのである。
なのでこのポーションの眠れなくなる効果は一応作用である。
『魔王軍襲来!魔王軍襲来!!既に魔王軍の一部が、里の内部に侵入した模様!』
そんな雑談を酒を飲みつつねりまきとしていると、大きいサイレンが里中に流れた。
名前なんだっけか?セルビアだっけ?が里に攻め込んできたらしい。
「なんか、おつまみある?」
「ちょっとは反応したら?」
「めんどくさい、他のやつらがどうにかするだろ」
「他人任せにもほどがあるよ」
「酒飲みすぎて酔ったからな」
「じゃあもうお酒終わり」
「ああ、まって、あと十杯は飲みたいんだ!」
その後ねりまきが眠ってしまったので一応魔王軍のところに行くことにした。
行ったところで弱体化した私はとくに何もできないが。
せっかく行くんだし、もし他の紅魔族が魔王軍幹部を倒してくれたら素材を譲ってもらおう。
あのキメラの素材が手に入ったら……ふふふ、考えただけで興奮する。
正直、諦め気味だったが考えればまだまだチャンスはあるかもな。
さて、魔王軍がいるのはここらへんかな。
怒鳴りのような声が聞こえる方へ向かい、家で体を隠し、頭だけで辺りを見渡す。
カズマが魔王軍幹部の胸に顔をうずめていた。
ふむ……私は何も見ていない。
何かとんでもないを見てしまった気がするが何も見ていない。
いや、見たよ。何してんだあれ?
もしかしてカズマって魔王軍の一員だったりするのだろうか?
いや、それは流石にないだろう。
じゃあ、なんだ?何があればあんな状況になるんだ?
戦って人質に……いや、あれはどう見てもカズマから胸に向かっていた。
もう一度見よう、もう一度、もう一度見れば何かわかるかもしれない。
そう思い、先程と同じように顔だけをゆっくり家の端から出して……いないじゃん。
何なんだよもう。
先程見た光景について、もしかして何かポーション誤って飲んでしまって幻覚でも見ているのかと考察をしていたとき、地面が揺れた。
それと同時に里の一角が突然騒がしくなった。
先程の光景についての考察を一度取り置き騒ぎの方へ向かっていく。
その途中で急いで走っている他の紅魔族と出会った。
「なんでそんな急いでるんだ?」
「ん?誰かと思ったら、あるけみさんのとこの子か、早く逃げたほうがいい、お前ではここから先生き残れん」
「もう少し詳しく言ってくれ」
紅魔族特有のこの口調は抽象的すぎて説明には向いていない、というか会話に向いていない。
なんだ?何かあったのか?
「我に語れることはもうない……ではさら――」
「話せ」
「あっ、はい、話します。話します」
紅魔族結構小心者なところあるのでこうやってやさしく胸ぐらを掴んでドスを利かせればちゃんと話してくれる。
「ま、『魔術師殺し』が魔王軍幹部に乗っ取られたんだ」
「『魔術師殺し』?『魔術師殺し』は封印されているはずだろう?」
魔術師殺しというのは魔法が効かないという対紅魔族とすら言える魔術師キラーの特性を持つ兵器だ。
その危険性故に封印をされていたはずなのだが、魔王軍はそれを解いたのだろうか?
それこそありえないと思うのだが。
魔術師殺しの封印は普通の魔法による封印とは違いかなり特殊な封印をされている。
そのため、封印解除も特殊で、まずこの世界では古代の言語とされている日本語が読める必要があり、さらにパスワードが必要になっている。
日本語が使われている理由は私以外の転生者が関係していると思われる。
この封印、私も父も一回封印を解いてみよう試したのだが、パスワードが不明のため解くことはできなかった。
父は過去に不法侵入はしているらしいが……
「どうやったのか分からないが、魔王軍のやつが解除したらしい、今はみな魔神の丘へ避難しているところだ。俺たちも逃げたほうがいいだろう」
『魔術師殺し』の危険を考えるとそうするべしと判断し、一度どうやって封印解いたのか?という疑問を置いて紅魔族特有の話し方をやめた男と共に避難した。
丘の上で告白して結ばれたカップルは、魔神の呪いにより永遠に別れることができないと言われている、そこらへんのデートスポットとは比べ物にならないくらい厶ーディな場所である魔神の丘には、沢山の紅魔族が集まっていた。
その中にはカズマ達もいた、あの時何があったのか聞きたくなったが、それより気になることがあるのでそれについて考える。
『魔術師殺し』の封印についてだ。
『魔術師殺し』の封印を解くには日本語を読める能力が必要だ。
そして、この世界で日本語を読める人は少ない、一部の学者か、私のような転生者、そして転生者の子供ぐらいである。
魔王軍に日本語を読めるやつがいるとは考えにくい。
そうなるとどうやって解いた?それとも魔王軍が封印を解いたわけではないのか?
里の中に内通者がいるとか……いや、この里で日本語が読めるのは私と父だけだ。
そして二人とも封印の解除は失敗している。
なら、部外者……あ、いるじゃないか日本語読めるやつ。
カズマか?恐らく転生者であろう彼は日本語が読めるはず、というか読めないわけがない。
ということはカズマは魔王軍の内通者なのだろうか?そんな雰囲気はしなかったが……ふむ、聞くか。
こういうときは直接聞いたほうが早い、取りあえず嘘をついたら全身に刺されたような痛みを感じるポーションと拷問用のポーションを用意しとかないと……
辺りの紅魔族が何故か盛り上がっている中、一人リュックからポーションを取り出していく。
えーと、眠れなくなるポーションに……全身が痒くなるポーション、溺死ポーション、力を込めると込めた部位に痛みが走るポーション、慢性の毒ポーション、他には……回復ポーションも必要か。
こんだけあれば十分か、何も吐かないなら最悪オークの入った檻に弱体化のポーション飲ませてぶち込めば男なら一日くらいで終わるだろう、何がとは言わないが。
さてと、取りあえずカズマを攫うか。
そう思い、立ち上がって辺りを見渡すがカズマ達が……いや、正確にはアクアとカズマがいなくなっていた。
いつの間にかダクネスと紅魔族は魔王軍幹部と対峙している。
取りあえず爆裂魔法を撃ちたそうにしているめぐみんの元に向かう。
「めぐみん、カズマを知らないか?少し聞きたいことがあるんだが」
「ああああああっ!?」
めぐみんが私を見た瞬間関節技を繰り出してきた。
逃げたことに対して、どうやらまだご立腹らしい。
「あなたよくもまあ、そんなひょうひょうとしてられますね!?謝ってくださいよ!」
「はいはい、後で謝ってやる。そんなことよりカズマは何処にいる?」
「そんなことより!?少しは申し訳ないという気持ちが湧かないのですか!?」
「湧いてはいるよ」
謝る気もあるけど、今はそれ以上に優先したいことがある。
「で、カズマ達は何処にいる?」
「……もういいです。何言っても意味なさそうですし。カズマはアクアと一緒に魔術師殺しを破壊した兵器を取りに行ってます」
「ん?それって確か使い方が分からなかったはずじゃなかったか?」
私は実物も文献も見ておらず、噂で聞いただけなので詳しくは知らないのだが……
「はい、ですけどないよりはマシということで取ってこようということになりました」
確かに、ないよりはマシか。
にしても魔術師殺しの対策をしようとしているあたり内通者ではないのだろうか?いや、信用を得るための可能性もあるな。
ふむ、ここは一つめぐみんに聞いてみるか。
「なぁ、めぐみん」
「なんですか?」
「カズマは信用できるか?」
「……な、なかなか言いづらいことを聞きますね。ま、まぁなんやかんや、やる時はやってくれるますし信用はしてますよ」
なるほど、関係は良好。
里に来るまでの道中も……セクハラをしようとしていた以外は善良と行った感じだった。
いや、あれはどちらかというと小心者な気がするが。
感情で判断するのはあれだが、白の可能性が高いか?
「よし、じゃあ私もカズマ達のところに行こう、気になるところが色々あるのでな」
「気になること?何がですか?」
「カズマが魔王軍の関係者の可能性がありそうなのでな、ちょっと拷問を」
「何をしようとしてるんですか!?カズマがそんなことするわけ無いでしょう!」
「情報ありがとう」
「え、ちょっ!?待ってください!私も行きます!」
「おらあああああ!」
「わああああああ!私のゲームガールー!」
兵器などが封印されている場所に行くと、カズマとアクアと思わしき叫び声のような悲鳴が聞こえた。
「何すんのよクソニート!折角のゲームガールが鉄くずになっちゃったじゃない!?弁償しなさいよ!弁償!」
「うっせーわ!今は非常事態なんだよ!ゲームじゃなくてレールガン探せや!」
「めぐみん、カズマとアクアは兵器を探しに行ったと聞いたのだが?どういうことだ?」
「し、知りませんよ!二人とも何をしているのですか!?」
めぐみんに声をかけられて私達に気づいたのか、ようやくこちらの方に顔を向ける。
「いいとこに来たわねめぐみん!今から私のゲームガールを壊したこのクソニートをしばくわよ!さあ手伝って!」
「ゲ、ゲームガール?なんですかそれは?というか、兵器は見つかったんですか、カズマ?」
「いや、まだ見つかねーんだよ、このバカはどうでもいいものしか見つけてこねーし!って、あああああっ!?」
カズマが急に私の方を見て大声を上げた。
この反応ついさっき見た気がするな。
取りあえず、挨拶でもしておこう。
「やあ」
「やあ、じゃねーよ!?ふらすこ、お前が逃げたせいで俺がどんだけ苦労したか分かってんのか!?」
知らない、興味もない。
「まあ、そんなことはどうでもいい」
「よくねーよ!」
「そうよ!よくないわ!ゲームガール弁償しなさいよ!」
「アクアはちょっと黙っててください」
めぐみんがアクアを引っ張って奥の方へ消えていく。
「たまたまだが二人だけになれたしちょうどいい、本題へと入ろう」
「お、おう、なんだよ。二人だけってことは……」
「カズマは魔王軍の一員か?」
「は?」
「なるほど、ありがとう」
今の反応からしてカズマは魔王軍じゃなさそうだ。
「あと一つ、ここの封印を解いたのはカズマか?」
「い、いや、違う」
「ここに嘘をつくと体に激痛が走るポーションが……」
「俺です、ごめんなさい!」
正直でよろしい。
カズマから話を聞くことで、何があったのかはだいたい理解した。
説明のなかに恐らく数カ所誤魔化しているところがあるようだが、どうでもいいことな気がするのでとくには突っ込まなかった。
「それでその兵器を探していると」
「そうなんだよ!いくら探しても見つかんねぇし、ふらすこも手伝ってくれ!」
「その兵器の見た目は?」
「ライフルみたいな……ってこれじゃ伝わないか、なんていうかな……」
いや、それで私には十分だ。
「ないぞ」
「は?」
「多分ここにはない」
「な、ない?どういうことだよ?ここに封印されてるんじゃないのか?」
「私の父が壊した」
「え?」
「父が壊した」
数年前、父がここから取り出して試したらぶっ壊れたのをこの目で直接見ている。
今再開発をしているらしいがなかなか上手くいってないらしい。
「なあ、ここ封印されてんじゃなかったのか?」
「私の父について詳しく考えるのはやめたほうがいい、意味がない」
「お前の父親何なんだよ」
「
ふらすこは割とナチュラルサイコパス