虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 ~刹那の奇跡を紡いで~ 作:関崎比呂
スクールアイドル同好会に所属していた二人の三年生のうちの一人、近江彼方。
一言で言うなら、常に眠そうにしているお姉さん系女子である。
ポケーっとしている面が多いから抜けているように見受けられるが……。
こう見えてこいつ、根はかなりしっかり者なんだよなぁ……。
「近江、お前またこんなところで寝てるのか」
すやすやと気持ちよさそうに寝ている近江。
俺はそんな彼女を見下ろしてため息をついた。
「ここは彼方ちゃんのお昼寝スポットなんですよ~。……すやぁ」
「お昼寝スポット……ってこの話の流れで急に寝るな。自由かお前は」
「すやぁ……」
正気かこいつ。
話があるって言ったのに普通に寝やがったぞ。
もし俺が生徒指導の厳つい教師だったら、絶対に同じ態度を取らないよねこれ。
あれか? 遠まわしに『お前なんかの話聞くか! 帰れ!』って言っているのか?
仕方ない……。
禁断の技を使うしかないようだな。
「近江、早く起きないと俺も隣ですやぁするぞ」
「はっ……! 彼方ちゃん起きる!」
「おい」
勢いよく飛び起きた近江は、そのままベンチに座り背筋をピンと伸ばした。
うんうん、姿勢がいいことは良いことだ。
――じゃねぇよ。
いや、分かってたけど。絶対こういう反応されるって分かってたけど。
分かってたけど――!
傷つく!
己の精神を犠牲にする禁断の技……恐ろしい。
俺は再びため息をついて、彼方から少し距離を置いて隣に座る。
「せっかくのお昼寝タイムを邪魔しちゃって悪い。ちょっと近江と話したいことがあってな」
そもそも、もう昼じゃないからお昼寝ではないのだが。
「話したいこと……?」
ゆったりと近江は首をかしげる。
相変わらずすべての動きがゆっくりとしたやつだ……。
こういう系の人物と話していると、自分もゆったりしそうになるよね。分かるかな。分かるね。
俺は桜坂の時と同様、無駄話をせずに単刀直入で本題を口にした。
「聞いたぞ、同好会のこと」
ピクッと近江が反応する。
やっぱり……このあたりの反応は桜坂と同じか。
「実はここに来る前に桜坂とも話をしてきたんだ」
「しずくちゃん……ですか~?」
「ああ、生徒会長から廃部の件を聞いてな。その確認も兼ねて。……どうやら本当に廃部になったみたいだな」
小さく頷く近江を横目で見る。
「お前も優木せつ菜と連絡は取れていないのか?」
「連絡しても……返信がないんですよね……」
「まぁ、取れたらこんなに苦労してないわな」
「せつ菜ちゃん……なにしてるのかな……」
俺は近江と毎日のように関わりがあるわけではない。
そんな俺でも、今の近江に元気がないことくらいは分かる。
いつも通り気だるそうだし、いつも通り眠そうだし、いつも通りまったりしているし……。
しかし、その表情はいつもより暗く見える。
落ち込んでいる…と言っても良いだろう。
「なぁ近江」
近江はこう見えても結構物事をしっかり考えるやつだ。
今回の廃部の件に関しても、自分なりに思うことはあるだろう。
それに、近江は三年生……もしかしたら責任も感じているのかもしれない。
だから俺が聞くことは言うほどない。
最近同好会の雰囲気が良くないという話は桜坂から聞いたからな。
俺が近江に聞くことは……一つだ。
「言いたくなかったら別に言わなくてもいい。その上で一つだけ聞かせてくれ」
俺の言葉を待つ近江。
「お前が思う、廃部を決定付けた出来事は……同好会が崩れた理由ってなんだ?」
「っ……」
小さく息を呑む音が聞こえる。
近江は太ももの上で手を組み、キュッと力を込めた。
そのまま十秒程度待っていると、ポツリと言葉を口にした。
「かすみちゃんとの言い合い……なのかな……」
「かすみって……
「そう……です。喧嘩……というわけじゃないんですけど……せつ菜ちゃんとかすみちゃん……いろいろあって……」
マジか……よりによってあいつとか……。
近江が口にした中須という生徒――。
普通科一年、中須かすみ。
桜坂と同様に一年生でスクールアイドル同好会の部員だった生徒だ。
俺は中須のクラスの授業を受け持っているから彼女のことはよく知っている。
良くも悪くも……まぁ『自己主張の擬人化』みたいなやつだな、うん。
『かすみんは世界一可愛いので最強のスクールアイドルになれます! そう思いますよね!? 外波先生!』とかよく言ってきやがるからなあいつ……。
いや、顔自体は普通に可愛いんだけどね……。
なんだろう、残念系美少女って言えばいいのかな。ああいうのって。
でも、中須も優木せつな並みにスクールアイドルに対して真っすぐだったはずだ――。
――ん?
真っすぐ……?
優木せつ菜並み……?
ふと、俺の頭の中に一つの考えが過った。
「方向性の……ぶつかり合い?」
俺の呟きに近江が驚いた様子を見せた。
「さすが外波先生……理解が早い~」
「でしょ~? 外波先生嬉しい~」
「うんうん~。彼方ちゃんも助かりま~す」
はっ……!
危ない危ない。彼方ちゃん口調がうつってしまった。
実に平和な空間だったな。
これが彼方ちゃんゾーンか……素晴らしい。
――話を戻して。
「たしか中須は……とにかく可愛いスクールアイドルを目指していたよな?」
あいつは自分にとっての『可愛い』に一直線だったはずだ。
可愛いアイドルこそ、中須かすみにとっての最強のアイドルだったはずだ。
その想いはスクールアイドルとして活動する以上、なにも間違っていない。
『可愛い』が嫌いなやつなんてほぼいないからな。
そんな中で優木せつ菜との衝突……か。
「はい……みんなもそれは理解していたんですけど……。もちろんせつ菜ちゃんも……」
「……桜坂から聞いた。最近の同好会の雰囲気、良くなかったんだろう?」
コクリと頷く近江。
「最初から雰囲気が悪いわけじゃなくて……むしろ雰囲気は良かったんですけど~」
それはそうだろうな。
俺が知る限り、同好会のメンバーは仲が悪い感じは一切しなかった。
むしろ仲は良かったし、それぞれが楽しそうにやっていた……と思う。
だけど起きてしまった中須と優木せつ菜の衝突――。
なにもなく突然衝突するはずがない。
そのきっかけがあったはずだろう。
「お披露目会が決まって、同好会に明確な『目標』ができてからかなぁ……」
「あー……なるほど」
目標……か。
「優木せつ菜は誰よりもスクールアイドルに本気だった。それで、お披露目会という明確『目標』ができた……」
お披露目会……か。
本来であれば同好会の全員が出演する予定だったライブ。
しかし実際にライブを行ったのは優木せつ菜だけ……。
なるほど。
大体分かったかもしれない。
「それはつまり、お客さんたちにパフォーマンスを披露するということ。そうなると最高のパフォーマンスを見せないといけない、今までよりも真剣に打ち込まないといけない……。そんな感じでピリピリしていったんだろうな」
良くも悪くも、優木せつ菜という少女は自分の好きなことには真っすぐなやつだ。
分かりやすく言えば……熱くなりすぎてしまう性格だろう。
ファンの皆にかっこ悪いところは見せられない――。
最高のパフォーマンスを届けたい――。
最高のライブにしたい――。
自分のすべてを届けたい――。
そう思うことはなにも悪いことではない。
でも優木せつ菜は一人ではない。共にステージに立つ仲間がいた。
自分と同じように皆も頑張ってほしい――。
皆で最高のライブを届けたい――。
ファンの皆に自分たちの『大好き』を届けたい――。
そんな想いが、彼女の中に『焦り』を生み出させてしまったのだろう。
もっと頑張らないと。
今のままでは駄目だ。
私が頑張らないと……
その結果、優木せつ菜はピリピリしていったのだろう。
実に……あいつらしい。
「おお……」
近江の口から出た感嘆の声。
「先生……せつ菜ちゃんのことをよく知っているんですね~」
「……あ、いや。まぁ……ただの予想だけどな」
頭の良い近江のことだ。
なんとなく……俺と優木せつ菜がなにかしら関係あると分かったかもしれない。
いや、近江だけじゃない。
同好会のメンバーは……薄っすらと気付いているかもしれないな。
――
「でも……先生の言う通りです」
「……そっか」
中須と衝突したのもそういうことだろう。
優木せつ菜のやりたいことと、中須かすみのやりたいことにズレが生じて……それが衝突につながった。
その結果が……優木せつ菜の引退、同好会の廃部……か。
「……色々聞いて悪かったな。お前もまだ整理しきれてないだろうに……」
「ううん、大丈夫ですよ~。なんとなく……外波先生来るかなぁって思っていたので~」
「……マジ?」
「先生、彼方ちゃんたちのことよく応援してくれてたから……。そんな先生が廃部になったことを知ったら、来るかなって……」
お見通しってか。
もしかしたら桜坂もそう思っていたのかもしれない。
「さて……と。俺はそろそろ行くとするわ」
「かすみちゃんとエマちゃんにも話を聞くんですか~?」
「そうしたいところだが……。今日はもう時間的にも遅いからまた今度だな」
近江の口から出たエマという名の少女。
彼女は同好会に所属していた最後の一人だ。
本当なら彼女たちにも一通り話を聞きたいが、さすがにそろそろ仕事に戻らないとマズい。
とりあえず今日のところは桜坂と近江に話を聞けただけも良しとしよう。
二人のおかげで同好会の廃部について色々理解ができた。
「……先生」
立ち上がった俺に、近江がぽつりと呟いた。
「どうした?」
「……ごめんなさい」
謝罪の言葉。
一体なにに対しての謝罪かが分からない俺は、近江の言葉を待つ。
「応援してくれていたのに……こんなことになって……」
「なんだよ……そんなことか。急に謝るからなんだと思った」
まったくこいつは……。
俺は溜息をついて近江に視線を向ける。
「お前は謝る必要ない。あの馬鹿が廃部だの引退だのを言い出したせいだよ。お前たちに一切の相談もしないでな」
「それは……せつ菜ちゃんだって……」
「分かってる。あいつなりに色々考えた結果なんだろう。だけど俺は納得いっていないし、このまま終わらせるつもりはない」
俺個人としてのけじめ。
俺の勝手な想いだ。
桜坂風に言えば……これはやはり『怒っている』のだろう。
「だから近江、まだ終わったなんて思うなよ。俺も俺でやれることはやってみる」
「……へへへ、先生らしいですね~」
「そうか?」
「先生が言うと信じられますよ~」
近江はふわりと微笑んだ。
……うん、落ち込んでいる表情よりよっぽど似合う。
「任せておけって。俺は期待を裏切らない男で有名だからな」
「は~い、彼方ちゃんバッチリ期待してま~す」
とはいえ、俺だけでは厳しい部分もある。
仮にスクールアイドル同好会を復活させるとして……だ。
そこには恐らく優木せつ菜という最大のピースが必要不可欠だ。
しかし、その彼女の心を動かすには俺では役不足かもしれない。
よく知っている存在だからこそ厳しいものも存在するのだ。
優木せつ菜の心に動かすことができる存在――。
優木せつ菜と真っすぐぶつかり合える存在――。
優木せつ菜のすべてを受け止めることができる存在――。
そしてなにより。
優木せつ菜と同じ夢を見て、その背中を押し、支えることができる仲間――。
そんな存在がいれば……彼女の心を動かすことができるかもしれない。
俺が出来ればいいのだが、彼女にとって俺は『仲間』ではないのだ。
やはり共に道を歩む存在というのは必要不可欠だろう。
誰か。
誰か……いないだろうか?
――『最高だったって……大好きだって……伝えたくて……』
ふと、脳裏に過る一人の少女。
もしかすれば。
あいつなら――。
× × ×
翌日、放課後。
授業を一通り済ませて帰りのホームルームを済ませた俺は、職員室に戻る準備をしていた。
「先生!」
そんな俺に話しかけてくる一人の少女。
「おおぅびっくりした……お前はいつも突然だな、高咲」
そういえば高咲……思ったよりも元気だな。
同好会の廃部を聞いて結構落ち込んでいたんだが……。
まぁでも、高咲は基本的に冷静なやつだからな……。
自分なりに整理して切り替えたのかもしれない。
――なんて、呑気に考えていた俺に高咲は驚きの言葉を放った。
「スクールアイドル、始めることにしました!」
「ほうほう、なるほど。スクールアイドルを……」
――ん?
……え?
「……は?」
「あ、正確には歩夢のサポートなんですけど……」
なるほどなるほど。
高咲はスクールアイドルではなく上原のサポートか。
それはつまり、上原がスクールアイドルをやるということで――。
………。
いやいやいやいやいや。
「全然意味分からん。詳細プリーズ」
「えー、先生物分かり悪いなー」
「え、これ俺のせいなの?」
「もちろん!」
もちろんなのかよ。
全然分からねぇよ。
「歩夢が……背中を押してくれたんです」
上原が……?
「だから私はそんな歩夢を一番隣で支えたい……。スクールアイドルを支えたいって……そう、思ったんです」
二人の間でなにがあったのかは分からない。
でも、上原が高咲に再び前を向くきっかけを与えたということだけは分かる。
上原……か。
彼女も自分なりに思うことがあったのだろう。
そんな中でも一歩を踏み出して、高咲の背中を押した。
幼馴染だからこそ……か。
――ありがとな、高咲を支えてくれて。
「支えたい……か」
迷いのない瞳で言い放つ高咲。
そんな姿が、
やはり、こいつが――。
この高咲侑という少女が――。
すべてを繋ぐ架け橋となるかもしれない。
そう……思ったんだ。
「てことは……やっぱり最初は同好会を復活させないとな」
「あー……やっぱりそうですよねぇ」
「なにか当てはあるのか?」
「いや、特には……」
まぁそれは予想通りだ。
俺が知る限り、高咲や上原は積極的に他の学年やクラスの生徒と交流していたわけじゃない。
校内の人脈はまだ狭いだろう。
であれば。
教師である俺ができることは――。
「そうだな……特に策がなければ中須かすみという生徒を当たってみるのが良いかもしれないぞ」
「中須……さん?」
「そう。当時同好会に所属していた一年生だ」
「ということはスクールアイドルということですか!?」
「元、な」
別に中須じゃなくても、桜坂や近江……エマでもいいのかもしれない。
しかし、なんとなく……。
高咲と中須を出会わせれば面白いことが起きるのではないかと思ったのだ。
それに、恐らく中須自身も今回のことは納得がいっていないはずだ。
同好会の復活のためにも良き仲間になってくれるかもしれない。
「分かりました! ありがとうございます!」
高咲は元気良く頷いた。
俺自身、この高咲侑という少女がどこまでやれるのかを見てみたい。
同好会のメンバーと顔を合わせたとき、話を聞いたとき、なにを思い、どう行動するのかを見てみたい。
結局駄目かもしれない。なにも起きないのかもしれない。
だけど俺は、こいつに賭けてみたいと思ったのだ。
そのサポートはいくらでもしよう。
「なにかあったらいつでも聞きに来い。サポートくらいは出来るからな」
「先生……! じゃあ歩夢と一緒にステージで――」
「それだけは断固お断りする! てか誰得だよ。まさかお前、俺のフリフリ衣装見たいの? 歌って踊ってる姿見たいの?」
「いや全然まったくこれっぽっちも」
高咲さん? 急に真顔になるのやめてくださる?
「自分で言って自分で全否定するのやめてくれる?」
「ちょっと面白いと思ったんですけどねー」
「まったく面白くないから。俺が社会的に死んで終わるだけだから」
「それもまた一興……とか?」
「ツインテール引っこ抜くぞお前。横じゃなくて縦に引っこ抜くぞおら」
「縦!? それはやめてください!?」
ちょっと真面目な話をしたと思ったらこれだ。
でもまぁ……これが俺達らしいと言えばらしいだろう。
俺は溜息をつくと、壁に立てかけられた時計を見る。
「そろそろ行くわ。さすがに二日連続で会議に遅刻はシャレにならん」
「あははっ、そういえば昨日遅刻したんでしたっけ」
「おうよ。ガッツリ怒られたわ」
俺は高咲に軽く手を振り教壇から降りる。
そのまま出ようと思ったのだが――。
ふと、俺の足が止まった。
「高咲」
「はい?」
俺は高咲のところまで近付く。
そして、手に持った出席簿を呆けた顔で俺を見ている彼女の頭の上に置いた。
「うわっ……!」と驚きの声を上げて俺を見あげる高咲。
「俺もできる限りサポートはする。だけど結局は、お前たちの……お前の頑張り次第だ」
「先生……」
「応援してるぞ、高咲。お前ならきっとやり遂げられる」
ポフポフっと頭の上の出席簿をバウンドさせる。
驚いた表情を俺を見ていた高咲だったが、俺の言葉を聞いた瞬間ニカっと明るい笑顔を浮かべた。
「はい! 頑張ります!」
「うむ。それじゃあな」
さて……。
一人の生徒がこんなに頑張ろうとしているんだ。
――俺も負けていられない。
俺も俺で出来ることをやらないと……な。
× × ×
職員会議を済ませた俺は今、とある部屋の前に立っている。
『生徒会室』――。
そう書かれたプレートが扉に貼られている。
「それじゃ、話を聞かせてもらおうかね……」
コンコン、とノックする。
『はい』
扉の向こうから聞こえてきた声。
あいつの……菜々の声だ。
俺は扉を開けて室内に入る。
そこには、まるで会社のオフォスのような広い空間が広がっていた。
しっかり整理された棚。
設置されている植物。
綺麗に掃除された室内。
毎回思うが、ほんとにこの学園の設備は一つ一つが高校生離れしているよな……。
「失礼するぞい」
そして、そこには――。
「……外波先生」
一人の少女が座っていた。
中川菜々。
俺の幼馴染で、生徒会長。
おそらく生徒会の仕事でもしていたのだろう。
支給されているノートパソコンから顔を上げて、俺を捉える。
そして菜々は一瞬表情を曇らせた。
まるで顔を合わせたくなかったかのように――。
まぁ……そんな顔をするだろうとは思っていた。
「悪いな中川、急に来て」
俺は菜々が一人であることを確認すると、軽く挨拶をする。
家では菜々。
学校では中川。
公私を分けて接しているのは今更言うまでもないだろう。
「いえ、別に……問題ありませんが……」
冷静沈着。
鉄の生徒会長――。
それが……生徒会長としての中川菜々である。
実際は全然そんなことないのだが……。
「それで、用件はなんですか?」
菜々は冷静な表情で俺を見る。
「用件もなにも……分かってるだろう?」
「……」
俺は菜々の前まで移動すると、彼女を見下ろす。
「スクールアイドル同好会のこと……聞かせてもらうぞ」
「っ……」
眼鏡越しに見える菜々の瞳が僅かに揺れる。
そりゃ嫌だよな。
他でもない、俺に聞かれるのは相当嫌だよな?
そんなこともちろん分かっている。
分かっているうえで……俺は今ここに立っているんだ。
「優木せつ菜は……なぜ引退した? いや――」
俺は菜々を見据えて言い放つ。
「――あいつはどこに行ったんだ?」
優木せつ菜のことはお前が誰よりも詳しいはずだ。
お前が優木せつ菜の動向を知らないはずがない。
昨日は逃げられたからな……。
今日はしっかり聞かせてもらうぞ――。
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