今回はとても難産でしたね、主に人物の感情を乗せて書いてそれがまた読む人に伝われるように書き直しと編集だけでざっと2週間もかかりました(汗)
今回は主人公が到着する前の状況について書いてみました。前回では着き次第にノイズとやりあい始めましたが、どうしてそんな光景が広がっていたのかの説明も含まれるストーリーです。
自分の想ったストーリーを全て載せようとするからかどうしても物語の進み具合がいまいちで、本当に長年連載しつづけられる方々には尊敬心しかわきません。
あと、今回は人食い描写など胸くそ要素ご注意です。
苦手な方はブラウザバックおすすめします。
「っ……ハァハァ、
走る。ただ走り続ける。
ぎりぎり通れる建物の裏を潜り、鉄の柵をよじ登る。何度も後ろを振り返って追手がないかと確認する男性は顔が涙と汗で汚れるも気にせずただ走り続ける。大事な書類や財布等の入った手荷物は放り捨てて久しく、着ているスーツも激しく動いたせいでしわと埃まみれで汚れている。
その男性はこの都市、孫日市の中央駅近くにあるIT企業に務まるごく普通の、どこにでもありふれたサラリーマンだった。名を
ごく普通の大学にあるプログラミング関連学部を出てそこそこ規模のあるIT企業に入社してから3年目。そこそこの成果を挙げ続けてきたおかげで同期たちの中では最も早い昇進が決まり、社内部署でも期待される新人だと言われた。しかし、それらも命の危機を前にしては無用である。
来月には係長に昇進するというのにっ
就活を始めてまもなく就職が決まって他の人たちよりも楽をした。他の人は三日ぐらい考え込む課題を一徹すれば終わらせる程度のスペックはあった。新しい何かを探して身に付ける努力も絶やさなかった。そこそこの才能はあったし努力することも忘れなかった。
だと言うのに
「
一歩でも踏み外してはならない。もしそれで転んだりもしたら
ことの始まりは一時間も足らずの前だった。
いつもの日ごとく、いつもの店でいつもの面子で飲む。いつも飲んでいた商柄の焼酎を一杯片手にお約束の品として塩ゆでの枝豆と野菜炒めを一皿ずつ摘んだ。その味は今でも思い出せる程鮮明だった。
5人で飲み交わしながらのひと騒ぎも一幕し、そろそろ帰ろうとそれぞれの席から立ち上がった瞬間、外から大きな悲鳴が聞こえ始めた。一人や二人では出せない大声量と決して少なくない人数が走るような足音に店内にいた人は全員外に出始めた。あまりにも騒がしくて気になったからだった。
今思えばそんなことはせず店の中にて息を鎮めて籠もるか、そもそも飲みに来るべきではなったと思う
最初は何事だ、誰か事故ったりもしたのかと互いの顔を見ながらも窓の外を伺おうとしたが、すぐにやめて店の外に出た。外から張られたポスターや宣伝広告紙などで見えなかったからである。一人、その後は二人。次々と居酒屋から外の様子を見に出てきた。
こんな時間帯で事故起こるとかかわいそうに
事故場面とかツ○ッターバズる案件確定っしょ
あぁどうしてよりにもよってうちの前なのかねーどっか備品でも壊れたら弁償して貰えるのかな?
三者三様、それぞれ別のことを考えながらも自分は無関係だからとどこか楽観していた。今では事故による人命被害も珍しい見物案件としか見られていない。そこにいた人達も皆軽い気持ちで外に出た。
しかしそういった考えは外の光景を見たと同時に消えていった。まだ中で飲んでいた客、バイトの大学生や店員も後を追って出て来たが、彼らの目に映ったのはすでに外で出歩いていた人たちを襲っているノイズの大群とそれらを率いて積極的に人を切り殺している
何だあれは、ノイズ?しかし、それならどうして災難警報アラートがならなかった。何故今まで店内の誰も気づかなったんだ?
その場にいた誰もがあまりにも現実離れした光景に言葉を失ったまま突っ立っていた。しかしすぐ事の危険性に気づいた人たちはそれぞれの生き道を探して走り始めた。
すぐ反応することがでぎずに、棒立ちのままノイズに触れられて死んだ人間もいたが誰も気にしなかった。むしろ積極的に他の人を押し倒しながら散り散りとなった。他の人間がノイズたちに狙われるほど自分が生きる確率が上がるためである。そうして
また自分より先を走る女性の肩を掴んでは後ろに引っ張り倒した。自分のすぐ後ろまでにノイズが迫っていたからである。しかし
それは他の人たちも例外ではなく、自分さえ生きればいいという思いから他の者たちを犠牲にし、また誰かのための犠牲となった。そうやって一人、また一人と命を落としていく中でも残った者たち いや、囮となった者たちの犠牲によって生き延びた者たちはそれぞれ違う方角を目指して逃げてゆく。
ただ走しりに走ってまたもはや走り続ける。
目の前で人が死んでいく様に耐えられずにすぐまた走った。一歩でも早く都市の中心から離れて外に向かうために。しかし走れば走るほど脳裏に走るのは人間の様々な死に様だった。一歩一歩出すたびに思い出す、自分が殺したも当然だった人たちの最期を。
倒れたまま他の逃げ惑う人たちに踏まれ続けて死んだ大学生とノイズ共に塵となった名も知らぬ女性。槍状になって降ってきたフライトノイズに身体を貫かれて同じく黒い塵となって崩れ去るOL。何とか民間人を避難させようとするも正体不明のバケモノに頭から食い千切られた若き警官。
呆気なく散って逝く人間の命に頭の中がどうにかなりそうだと思いつつも、両足を動かすことだけは何があってもに止めなかった。心が折れそうになる度にもっと足に力を込めて走る。早く走れば走るほど何も考えられなくなる。身体が疲れれば疲れるほど余計なことは考えずに済むから。また、走りながらも心のなかでは叫び続けた。
死にたくないっ……死んでたまるかッッ!
必死に
糞がっ糞糞糞糞糞糞クソクソクソクソクソクソッ馬鹿阿呆こんちくしょうめがっばーかばーか死ねっクソォー!?
男は走りながら思いつく限りの悪口と恨み言を口の中で留めるばかりで直接声にはしなかった。何故なら、|未だに自分の後を追ってきているかもしれない何かに《己の心のなかでだんだん大きくなっている恐怖に》
そして彼は酒飲みに誘った元同僚のことも心の中で恨んだ。
あいつが飲もうと誘いさえしなければ、俺はっ
誘いこそその同僚がしたが、元々自分も乗り気だったのを忘れて悪態をづく。しかしそれら全ては彼が生きるための力となる。そこには護るべき
早くっ早く逃げないと!
「ハァハァ、ッ……ハァハァッ」
彼は後ろからは何も見えず聞こえずで追手がないことを確認してからようやく立ち留まって息を整えた。
助かった、俺は助かったんだ!
ノイズの大群から生き残れたことに安心した途端、膝から力が抜けて座り込む。そして命の危機から脱したと思うと、今更だが落とした手荷物と散り散りになった同僚たちのことを思い出す。
4人いたのうち2人はすぐにノイズに殺されるのを直接見たが、他の2人はどうなったのか分からない。ちなみに先程恨み対象になってた同僚は後者である。
生き残ったんだろうか、それかその2人も別れてすぐまた別のノイズに狙われたおかげで自分が生きているのか?それを確かめるにはその2人に直接連絡するしか方法はない。けど肝心のスマホは財布と一緒にバックに入れたままである。そのバックも走る途中落としたのかどこにも見当たらないが。
「
思わず頭を抱えてしまうも仕方ない。あと構わずに走り続けたそのおかげで今こうして生きているのだから致し方のないことだろう。必要経費だと思う他ない。今彼が立っているのは都市の外郭にある工場地帯。いつのまにかその端までにたどり着いたのである。
まだ夕暮れの日は完全に落ちず、建物からは明かりがついている。まだ作業員たちが残って残業でもこなしているのだろう。ようやくの安全圏に深く息を吸っては吐き服のしわを正しながら立ち直る、が
市の中心部では大規模のノイズが現れたせいであれほど大騒ぎだったのにここはあまりにも
おかしい、可笑しすぎる。
「
遠くからは人が居るように見える光景だが、いざ近くで見ると痕跡のみがあって人の気配はまるでしない。人の話し声はもちろん、作業用の大型車両が出すエンジン音や工場の機械たちが作業時に出す騒音もない。かすかに聴こえるのはまだ動いている機械たちの稼働音のみ。
誰もいない………どういうこと?
まだ明るいとはいえ、すでに時刻は6時をきっている。すぐさま腕時計で現時間を確認した。6時12分、そろそろ昼のパートが終わる人や早めに夕食を済ませようと作業員たちが出てもおかしくない頃なのだ。
何なんだここは………ッ
まず道端に平然と落ちているのは本来あるはずのないものばかりだった。安全帽や脱ぎ捨てのジャケットなど作業員たちが着ていただろう衣服から各個人の所持品と見られるスマホや財布。中にはすでに傷だらけでボロボロになっているものもあった。まるで子供が散らかした部屋のごとく地面の上に転がっている。所構わず脱ぎ捨てられたそれらはつい先まで持ち主がそこに存在していたことを物語っている。
それらに強い不安と、疑問を抱いた彼は更に奥へと進んだ。奥へ進めば進む程に増えてく謎の脱ぎ捨て。さすがに可笑しすぎると思いつつも工場内を歩いた
曲がり角、その先にあったのはまさしく屍山血河と呼ぶべきものだった。切り落とされた手足が折り重ねられ、形と大きさがそれぞれ異なる、しかも各部位ごとに別けられた肉片の山。人の頭部と血に濡れた頭蓋骨をピラミッド状に積み上げた不気味な祭壇らしきものまで。
ヒトの、にく…?
淡いピンク色の断面から覗く骨らしき白い欠片とおびただしい量の朱い血の跡。輸血パックを箱ごと2、3個ひっくり返したかのような、映画の演出でしか見れないものがまさに眼の前に広がっていた。が、血の匂いはまるでしない。匂いがしないのなら、これは何だ?映画の撮影かなニカか?
いや、そんな筈がないっこんな場所でエイガ撮影があるだなんね聞いてないし、そもそも撮影スタッフが誰一人見当たらないってどういうことだ?
彼の本能が叫んだ。
目の前に広がっている惨状は、本物だと。
「ッ………!」
ドスッ
「……?カフッ」
鈍い衝撃のあと、喉の奥から生暖かい液体が込み上がる。思わず口元に手を伸ばして触れてみると、手の平と指は朱い
「ッ…、……ッ………?!」
一歩遅れて襲ってくる激痛にようやく目の前の心臓と血が自分のものだと気付く。絶えられない絶望感と激痛に悲鳴を上げそうになるが、いくら口を開いても声が出ない。いや、悲鳴所か息すらままならず空気のかすれる音だけが喉の奥から漏れるだけ。
コヒュー、コヒェー……カハッ、コボンコホッ…
喉の気道はすでに込み上がる大量の血で詰まり、肺ごと貫かれた際に気管支も巻き込まれ謎の腕に巻きついている。呼吸器官をまるごと持っていかれてしまい息が出来ない。次第に酸素が少なくなり彼は後ろに倒れかかった。背中とスーツの越しから感じるひんやりとした硬い石や金属のような触感に
もう、いいよな?
やれることは全部やったんだ、それに相手は人間でもノイズでもない正真正銘のバケモノだ
相手が悪かったんだし、もう疲れた………だから、
意識が薄らいていく中で
「Grrrrr、Shaaaaaaaaaahhhhhhhh」
そこには自分を見下ろしている異型の顔があった。まさにバケモノと呼ぶにふさわしき醜くて凶悪そうな、左右に別れた大顎の中には朱い血に染まった鋭い牙がぎっしりの内口にそこから伸びて自分の頬を舐め回し始まる長い舌。名も知らぬバケモノの素顔のせいで完全に心が折れてしまった
だから、もういいよね?………
孫日市の外郭にある工場地帯。
僅か数時間前には多くの労働者がバリバリ働き続け大きな騒音と共に稼働している機械部類により一時たりとも音が止むことはなかった。だが、今は完全に静まっている。元々働いていた労働者たち以外にも偶然通りかかっていた女子供まで、生けるし者は誰一人いない。
人気のない、もはや廃墟と呼ぶべきその姿。
工場の敷地内にていくつも積まれた人骨の祭壇。そしてそのまわりにぶちまかれたおびただしい量の血とまるで供物として集められたのはかつて人だった肉片で盛られた山が数々。
合わせて5つの祭壇と数えるのがバカバカしい程の量を誇る供物。
それらを前にして両腕を胸元に合わせて跪いたまま
「יאללה אדוני」
「אנחנו משרתים נאמנים שיהיו הגפיים שלך」
「אנא תן לנו את טובתך」
「רצוננו היקר כבר זמן רב הוא שלך, והרצון שלך היקר כבר זמן רב」
「אנו נעשה כל שביכולתנו להגשים את משאלותיך מתישהו」
「הכל מובטח ליום」
そうして五つの祭壇と供物として集められた人肉と人血はあっという間に全て平らげられた。ノイズを率いて人々を虐殺し貪り続けてきたソレの名は饕餮。
かつて神代の名残りがまだ地上に残っていた頃、カインがゲーヘナに幽閉されて幾万の年月が流れた後、再び目覚めた。四凶と呼ばれ同じ血肉を分け合った三人の兄弟と共に己の欲望が導くままにして地上を荒らし回った。しかしそれをよしとしなかった者たちがおり、五帝の一人舜帝によりその四凶は西の果てにある地下洞窟に封印された。
暗くて狭い洞窟に入れられた四凶はその力も大半を失い、封印をすぐには破れなかった。それでで四凶の中では最も早くから
そうして眠り続けること数百年、空腹に耐えられなかった饕餮だけが眠りから覚めてしまった。他の三人はさらなる快樂のために待つことが出来たが、本来底の見えない強欲さと食欲を持っていた饕餮だけには次のために我慢する行為そのものが出来ないのであった。
長年の歳月と労力をかけて善人を堕落させ、血涙を流させる達成感に酔い痴れる窮奇。
さらなる闘争と破壊のために仮初の平和を見過ごし、より大きな戦争を引き立てた檮杌。
誰よりも怠慢で、地上の混乱をただ傍観するだけでありながらもこの世を嘲笑った渾沌。
上の兄たちは封印が破れた日をどうやって祝おうか企んでいた。
しかし空腹はどれ程待てようとも空腹であるのには変わりなし。いくら後で御馳走を口にしても苦しいのは苦しいままである。
結局、饕餮はあまりもの空腹に我を忘れ、目の前にある三つの
それから再び封印が弱まるのを待って600年、ようやく緩み始めた封印の拘束力から抜け出して地上に戻れたのである。
饕餮
聖人の子にして後に悪神として語られ、人倫の法を破りし破倫の申し子。この世に産まれしながらも生粋の
そして物語の次なる舞台は再び孫日市に移る。
都市内にて突如に現れたノイズ。それぞれ生き延びる為に互いをノイズの餌として、囮役を押し付けながら逃げ散った今、まだ孫日市には生存者たちが残っていた。誰かを犠牲にするのも、されるのもが嫌で建物の中に避難し、ドアと窓をすべて封じた者たちであった。むしろ外に出る勇気が出せず中に籠もっていた人数に後にして逃げ入ってきた人たちも数えると都市の外に逃げ出した数の3倍はあった。
ドアを閉めて金属製のシャッターを降ろす。窓のカーテンも締めて新聞やダンボールといったもので外から中の様子を見れないようにした。玄関先の出入り口にはかき集めた机や椅子といった家具からある程度の大きさや重さのあるガラクタで補講する。そしてそれぞれの端末で外に連絡を試みた。
しかしそんな努力も虚しく、ノイズが現れてから孫日市では誰かの電話一本が外に届く所ではなかった。謎の電波障害により電話はもちろんインターネット回線自体が麻痺していたので外の様子を知れる手段は何もなかったのである。
幸いノイズたちはドアの閉まった建物に入るという思考がなかったので残った個体たちはアスパルトの上を彷徨きながら
ノイズを仕切っていたような動きを見せた例のバケモノ。二本足で立った黒い
しかし、未だにノイズたちは残っている。
それらは建物に隠れた以外の人間を探してアスファルトの上を彷徨いている。眼の前に現れてくれるだろう愚かな
結局、彼らが臨時避難所と化した建物の内にて出来るのはノイズが自分たちを見つける前に救助隊が来ることを切に願って祈るしかなかった。
『
『
『
底の知れぬ絶望が、恐怖と不安が込み上がってくる。
先の見えない現実から逃れるために欲望を満たす手段と甘い快樂を求め始める。
今すぐにでも声を上げて叫び出したい、死ぬ前まででもいいから心の奥底に秘めてた欲望をさらけ出したい。
理性よりも本能が、社会人として常識よりも一個人の感情が顔を上げてそれぞれの心を煽る。
まずは食糧。
過度なストレスにより空腹を覚え始めた者たちがそれぞれ拾ってきた鉄パイプやレンガなどを手にして立ち上がる。今からしようとする行為自体が間違っていることぐらいは頭で理解している。しかし、過度な恐怖とストレスにより理性が麻痺した者たちがなりふり構うはずもない。
一人立ち上がり、また一人と続いて動き出す。
呼吸が荒くなり目に血が走る。
どうせ死ぬならっせめてメシだけでも…!
こちとらまだ女とは一度もやってないんだぞっまず女だ、女が先だァ
殺せば、全員殺せば水と食糧も全部私のものになるのよね?
それぞれの欲望を隠さずに曝け出す。
一階のロビーにて集められた食糧と水を見つめながらツバを飲む者もいれば血走った目で異性の身体を品定めでもするかのような目線で見る者もいた。いつのまにかビルの内部はノイズから逃れるための避難所から、欲望に飢えた獣たちが息する闘技場と化していた。力のない女子供、老人たちは無言に立ち上がった大人たちと変わった場の空気に息を潜めて隠れようとする。
静粛、それ以外なし
聴こえるのは互いに出している荒い呼吸の音のみで、物音でも響く瞬間には飛び出しそうな勢いだ。
そうして互いのことを意識するばかりで一時間、痺れを切らした大人たちは各々がの欲望に身を委ねようとした。
生き残る方法を、ここから抜け出すという希望を持つこと自体を諦めて現実を受け入れる、などと自分に向かって言い訳をする。
最後の砦だった理性の欠片も頭の中から吹き飛び消えた。
そして50をも超える人間たちによる阿鼻叫喚が広がろうとした瞬間、ある青年が立ち上がって叫んだ。ただその場に集まっている約50名だけにじゃなく、ビルの外へ、まだ他にもいるかも知れない生存者グループにも届けるように全身全霊を込めて叫び、彼らの心の中に訴える。
突如立ち上がっては叫んだ彼はまだ若い学生だった。
まだ成人にすらなってない、幼さがいまだに抜けてないその顔は涙をポロポロ流していた。その場にいた50も超える大人数の中でも年少に入る彼は震えていた。立ち上がったまでは良かったが、その膝はガクガクと震えて拳を握った両腕もまた小刻みに震えている。彼も外にいるノイズが恐ろしく、またいつ死ぬか分からないこの状況に辟易していた。しかし、だからといってただ諦めて好き勝手にするのもまた許さなかった。
誰にでも優しい性格で自分よりも他人のことを第一に想ってきた。人の善意を何よりも信じてきた、そんな青年だからこそ許せなかった、許したくなかったのだ。このような絶望的な状況を起こしたノイズとまたそれに巻き込まれて理性を失ってゆく人々の姿が。
「
「
青年は泣いていた。
すぐ目の前まで近付いている死からの恐怖もあった、人々が互いに傷付け合おうとするこの状況が嫌でストレスだって大きい。だが、彼がここまで感情をさらけ出して嘆いたのは、誰よりも真っ先に諦め始めた大人たちへの失望が大きかった。
「
最初は誰もが「何を言っているんだ、こいつ?」「声が大きいって、外の
ニュースや新聞の記事にて晒される犯罪者の香りを見てはクズだの処刑しろだの散々好き勝手言ってきたのは自分なのに、今まさにそんな犯罪者たちと同じことをしようとしていたのだ。そう思う次第に大人たちはそれぞれの握っていた兇器を手放した。末に泣きながらも頑張れと、もう少し我慢しようと励ましている若者の姿に正気を取り戻したのであった。
確かに外にはまだノイズが大量に残っていていつ居場所を知られるかは分からない。電気と水道も止まったばかりで食糧の余裕はない。全員等しく別け合っても一日もつかどうか。
しかし、それでもその青年は諦めなかった。いや、諦めたくなくよりも、こんな状況を受け入れること自体を拒んだ。
生きたい。家族と会いたい。まだ死ぬにはあまりにも早すぎる。足掻きに足掻いて、それでもまた足掻いた。何か出来ることはないのか、外と連絡出来る手段は復旧できるのか。ビルに閉じ籠もってから8時間が経った今も電波妨害の原因を探していた。元々パソコン好きだったので知識は充分。後は原因を突き止めて解決すれば外に救助隊を呼ぶことが出来る。なのに
大の大人が揃いも揃って諦めているばかりか、もはや人間ではなく獣以下にまで成り下がろうしている。さすがの青年もこれのせいで心が折れそうだった。
確かに、今の彼ら出来ることはもう無に等しいだろう。
だが、それがどうした?
まだ僕たちは生きている。
ノイズたちには活動限界時間が存在する。ノイズたちの襲撃が止むまで耐えることさえ出来ればこっちの勝ちだ。だからもう少しだけ頑張ろう、頑張って耐えて見せよう。まだ諦めるには早すぎるじゃないか、ただ諦めるよりは少しでも足掻いてみてもいいじゃないか
心の奥底から響いてくる、泣き叫びながらも必死に励ました。
「
「
「
青年の叫びは、大人たちだけじゃなく、その場にいた全員の心に届いていた。どんなに絶望的でも、彼らにはそれぞれの家族という護るべきものがある家長だった。大事な家族を護るためにもこんな場所では死ねないのだ。たかが恐怖の一つぐらいで揺らぐものである筈がない。
「
「
一人の励ましが場の空気ところか、その場にいた全ての者たちに生きる希望を与えた。諦めていた‘生きる’ことを再び願って足掻き始めた。半分受け入れていた
「
その時、ロビーの隅にて静かに瞑想していた寺僧が黙言をやぶり口を開いた。
「
「
だが、誰にもその言葉に込められた意味には気付かず疑問が増えるのみ。言葉の意味が理解出来ずある者が中年の僧に問いかけた。
しかし中年の僧、
「
たかが言葉による励ましではあるが、それにより人々の心に一時だが平穏をもたらし希望を見せた。本来なら僧侶である己の役割を若者になしつけたようで申し訳なく、また感謝の気持ちで一杯だった。
やれやれ、この身もまた修行不足でありますな
「
「
尽くせる手は全て試した。後は天に運を任せようと暗に言っているのも同じだが、誰もその意見に反対しなかった。むしろ隣にいる者同士手を繋ぎ一つの輪をつくりはじめた。
「
「
「
中には仏に祈るお経が分からない若者もいた。主に学生や子供たちがそれに該当するが、
家族の無事を願い、この絶望的な状況から抜け出すことを祈り、救いを求めて歌を歌い始める。
それぞれの想いを乗せて人々は歌った。
音律も、リズムも強弱や声の高低まで何一つ合うものがないバラバラな歌だった。
輪の一部になった
観音経、救いを求めて仏に祈る。
それぞれ
どれほど絶望的で先が見えなくとも、必ず希望を見つけ出す。それが人という生き物であったからこそ出来たのである。
実は約3万字近くの一話になりそうなのを二つに分けて読みやすいようにまた書き直したら投稿までに三日もかかって散々待たせた方々には申し訳ないばかりです(汗)
戦闘は次話に含まれていましてこちらもゴルデンウィーク中には作業が終わりそうです。書いては消してを繰り返して納得のいく文が出来るまで試行錯誤をしたらどうにも時間が足りなくなって悲しい………バイトの時給が高いのはいいけど、最低週4日以上は働いているので書く時間は週末ぐらいしかないのでまだ投稿スピードは遅いままです、ごめんなさい
こんな作者もどきではありますが、まだ見てくださる方々がいるという事だけで力になります。これからもどうかよろしくお願いします。
それではまた来月で!
ご感想とアドバイス、評価付与とお気に入りよろしくお願いします。
今後のR-15タグ付き描写について
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R-15描写は好きだから今後も使って
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毎回じゃなくて、たまに使うぐらいならOK
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むしろもっと苛烈で生々しくしてぇ!
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そもそもやるな
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好きにしたら?