人機絶唱シンフォギア 機械仕掛けのD   作:火力万能主義

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どうも、みなさん。次回のストックがオートセーブ一つ残さず消えた影響でメンタルが割れた火力万能主義です。(´Д`)ハァ…

予定じゃ今回で決着がつくはずだったのですが、何だか細かく描写すればするほど文字数が伸びてしまい決着は延期となりました。スミマソ


代わりに、この作品の主人公とヒロインである萩原仁と花咲沙耶香のイラスト?が出来ました!
Picrewというサイトでフリー素材をもって完成しましたが、スゴイですね!コレ


いくつか作って置いたのでどうぞご覧になってください。
活動報告にて先にアップしております。


*活動報告に入るのが面倒な方もいると思いこちらにもアップしました。

萩原仁

【挿絵表示】






英雄の第一歩、もしくは 3ー3 *

 何もない暗い空間に饕餮は立っていた。しかしその身体は所々に甲殻が欠けた傷があり、左腕に関しては根元からキレイに切り落とされてここにはない。肩口から覗くその断面は酷い火傷により再生が普段よりもだいぶ遅く、その傷口から膿と朱い血を流していた。

 

 

 

  切られた……きられた………キラレタ………………ボクの、腕が     

 

 

 ここは饕餮の無意識により創られた空間、深層心理の具現化したものである。さらにここは饕餮の意識以外にもこれまで生きたまま()()()()()()()()()()()()も残留思念として残っている。長年取り込まれている者たちはもはや自我意識は残っておらず、ただ永遠の苦しみから解き放たれることのみ願って叫び。まだ取り込まれて日の浅い者たちもまた先人たちの呻きと叫びに耐えられず意識そのものが崩れて先人たちの仲間入り中である。

 

 

 そんは人外魔境もいいところだが、饕餮は未だにショックから抜けられず同じ言葉を繰り返して呟いてる。目らしきものからは完全に光が失せていてもはや廃人と同然だ。

 

 

  ボク、の……腕………うで………うでがぁ

 

 

 

 そんな中で饕餮の元に近寄る三つの影。蠢く怨恨の渦、その奥から現れたそれらはいとも当然かのように饕餮の前に立ち塞いだ。

 

 

 それぞれ朱い羽と赤銅の毛皮が特徴的な醜虎、痩せこけて腰も大きく曲がった山羊、そして虎の脚と猪の牙をもった巨人という朗らかなに非現実的な異形の姿に変わった。

 

 

 

無様だな、かつての弟よ

 

この恥知らずがッよくもワシたちを喰い殺したな!

 

我らの()が直接命じた任務すらロクにこなせないとはな…………

 

 

  にい、ちゃん……?

 

 

 

 三体の異形はかつて饕餮が喰い殺した兄弟、四凶の残り三人であった。窮奇は末の弟が犯した愚を嗤い、渾沌はその愚かしさが引き寄せた結末に嘆いて、檮杌だけは饕餮を責め笑うよりも(カイン)の計画に支障が出ることを懸念していた。

 

 

 

しかし……四凶と呼ばれ肉人形(人間)共に畏れられた我々ももはやここまでだな

 

然り。今ここにあるのは愚かな弟一人とそれぞれの残りのみ、もはや打つ手はなし

 

この痴れ者がッ貴様一人低欲にのまれたせいで()の偉大なご計画に支障が起きたではないか、一体どうしてくれるのだッ一体どうやって?!

 

 

 

 もはや(カイン)の血肉を分け合った兄弟としての情は残っておらず、1000年ぶりの再会の末にあるのは揶揄と叱責のみ。空腹の一つすら禄に我慢できず実の兄弟を喰い殺した報いであった。

 

 

 かつての兄弟たちとの再会により饕餮もやっと正気に戻りかかるがすでに三人の身体は半分程が消えかかっていた。足元からゆっくりと赤黒い粒子になって崩れる三人。残留思念の完全消滅を目前としながらも態々饕餮の前に現れたのは、かつて兄弟と呼んだ者を嘲笑うためだけである。

 

 

 

もういい、沌。いくらこやつを叱ろうとも何一つ変わらん

 

窮奇兄者の言う通りだ。精々、消える前にでもわらってやろうじゃないか

 

………ッフン、貴様を兄弟呼ばわりしたのはワシら一生の恥じゃい!

 

 

 渾沌の言葉を最後に三人は存在の維持を放棄し意識を手放す。残留思念、それもほんの一握りの欠片でしかすぎなかった彼らはここで完全に消滅した。残ったのは彼らがまだ存在していたことが分かる程度の痕跡のみ。

 

 

 兄弟たちの消滅を見送った饕餮は己の任務も忘れたまま同じ道を歩もうとした。劣等種にすらならないたかが(人間)一匹に狩人としてのプライドをズタボロにされ、完全に意思()が折れたせいである。そして四凶(兄弟)たちと同様に意識を手放して己のコアを自壊させようとした瞬間、ソレは突然現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  最後ぐらい同じ眷属(兄弟)として顔合わせは済まそうとしたのだが、これは一体何事だ?答えろ、No.(ナンバー)92

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ッ………?!

 

 

 

 突然響き渡る謎の声と共に現れたのはローブで全身を覆った人影。それから発された聞き覚えのある声に思わず饕餮は息を飲んだ。

 

 この声の持ち主を王の眷属が知らないはずもなく。108体もある眷属(兄弟)たちでもとりわけ優れた智謀と能力により()の側で仕えることを唯一許された存在、それと共に全眷属(兄弟)たちの中でも最後に作られた末の弟にして()の最高傑作、それが()使()()()()()()という存在であった。

 

 

 

  No.(ナンバー)92。いくら貴様の知能レベルが低いとはいえ、まさか我らの()の偉大な血肉を引いた眷属(兄弟)を三人も殺めていたとはな

 

  貴様が任務中に命を落とすことを懸念して()に向かって進言した私が愚かだった

 

  ギ、ギィィィィッァ、アザゼルゥ

 

 

 

 アザゼルの棘のある物言いに怖気付く饕餮。

 

 眷属(兄弟)たちの中では唯一他の眷属たちに命令出来る権限と力を持っているこの存在は王の眷属に向かって自害の命令をも降ろせるのである。いくら眷属(兄弟)の中でも随一に同胞を大事にするアザゼルとはいえ、これ程の大きな失敗と失態を同時に犯したからには放って置くわけがない。饕餮は次第に告げられるだろう厳罰に怯え震えだした。

 

 

 

  ………しかし、いくら腐りおっても我らが同胞である事実だけは変わらない。

 

  故にNo.(ナンバー)92、貴様には汚名撤回のチャンスを与える。最後の瞬間ぐらいは役に立てほしいものだ

 

 

 

 一句一句が胸に刺さるような口調。しかしその全てが事実であり、計画に支障をもたらしたのも変わりないので反論も出来ずにいる。そんな兄を見たアザゼルはため息と共に最後のチャンスというアメを与えた。

 

 

 

  どうせ失敗するであろうと思い用意してたのだ、ありがたく思え

 

 

 

 アザゼルの背中にある七枚の翼のうち、捻れた羽根が数本生えた一枚を饕餮に向けて翳した。すると一本の黒い羽根が飛ばされ饕餮の方に放たれ、その体に突き刺ささり、黒い羽根は体内に入りこみ饕餮のコアと融合し始めた。

 

 

 

   g、ギィイイイイ         ッッッ

 

 

 

 アザゼルの放った羽根が体内に入った途端、悲鳴を上げずには耐えがたいほどの悪寒と苦しみが襲う。身体の各部から浮き出る血管らしきものが脈打つたびにその苦しさは倍となって帰ってきた。しかし饕餮の様子を見たアザゼルは当然かのようにうなずいては背を向け場を離れようとする。

 

 

 

   もう満身創痍とも変わらなくなった貴様に我らの()と計画のためにできることはただ一つ、その身を捧げてでもイレギュラーを抹殺すること

 

   貴様の自我と呼ぶべきものもこれで完全に消される。そして自我が消えたことによりできた空白()はこれまで貴様が直接喰い散らかした魂たちが埋め尽くすだろう

 

 

 

 苦しみに耐えられず藻掻いている饕餮の身体(自我)が徐々に崩れ落ち、欠損した身体(意識)の代わりとしてまわりの怨恨たちが集まり形取る。饕餮の肉体を奪うために群がる怨恨の数々、それはまるで弱まった肉食動物の肉を奪い合うピラニアのごとく。これまで史上最高最悪の捕食者として君臨していた存在がただの餌として、これまで踏みにじってきた弱者たちに投げられた瞬間だった。そして饕餮の身体に群がる魂の濁流の中には己が喰らったかつての兄弟(四凶)の顔もあった。

 

 

 

 

   ………もはや生きて動ける眷属(兄弟)の数は半分にも満たなくなったというのに

 

 

 

 

 かつて己が生きたまま喰らった魂たちの怨恨によりからだ(自我)を食い破られていく。饕餮の無惨な最期にアザゼルも思わず拳を握り、震えた。いくら己の()と同族の未来のために立てられた計画とはいえ、大切な兄弟たちが次々と命を落としていくのは何度見ても慣れず、また慣れたくはなかったから。

 

 

 喰い破られた傷口と肩の断面に群がった怨恨の魂たちは新たな肉体となりその外見を大きく変貌させ始めた。メキメキッ!と嫌な音を立てて全身が膨張していき、目に見えて骨格そのものが変わっていくのが分かる。

 

 

 下半身は巨大な人面瘡ごとく変化し、仁に斬られた筈の左腕も生え代わり、腕の骨が四本の新たな腕へ枝別れた禍々しい姿……。

 

 

 

 

   これで残りは42……、計画の最終段階までに必要な供物もあと少し、という所か

 

   ………最後のチャンスだ。今回ばかりは成功するよう祈っておこう

 

 

 

 

 かつて饕餮だった存在の変わり果てた姿に目もくれずアザゼルは背中の翼を羽ばたいた。バサッ、大きな羽ばたき音と共に現れたのは空間そのものが歪んだかのようにまわりの空間軸ごと唸り出す。空間の歪み(ゲート)を無事開いたアザゼルは後ろに振り返ることもなく、歪み(ゲート)の奥へと足を運んだ。

 

 

 

   全ては約束された日のために

 

 

 

 

 その言葉を最後にアザゼルは意識空間から離れて本体のいる現実世界に戻っていった。そして彼が完全に意識空間から離れた時には饕餮の変化も終わりを迎え、現実の肉体に精神を移し始めた。その姿は、まだ饕餮としての自我がはっきりしていた頃とはかけ離れたものであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 そして物語の舞台は再び中国の青湖省にある孫日市へと移る。

 その都市は饕餮が率いたノイズの大群により、都市そのものの崩懐に近い被害を負っていた。そしてそんな廃墟と化した市内の中心には巨大な異形の存在が立っていた。

 

 

 

Garrrr、GIIIIIIIIIEEEEEEEEEEEEEE        

 

Kyurrrrrrrrr       

 

Houhouhouhouhou    

 

Ahhhhhhhhhh     

 

 

 

 数分前までには饕餮だったソレは少年()に左腕を切り落とされた直後、原型を保てられず巨大な悪魔に変貌してしまった。

 

 

 この世の醜い欲望と悪意を体現したかのうよなソレはあまりにも巨大で醜悪な外見をしていた。

 

 

 ボリボリッ、バリッボキッ

 

 

 最後に咆哮をし終え、本格的に都市そのものを貪り始める饕餮本来の首に加えて左右に一つずつ、そして後ろに一つ、新たな顔が浮き上がり、この世への再来を喜んで産声代わりに呪詛を叫び始めていた。

 

 

 大人一人を優に呑み込めそうな大きな顎は休まずに建築物の瓦礫と破片を貪っており、四方八方を見渡す数多の眼がその場の全てを見下している。それぞれ違う顔の四つ首に加えその胴体にあたる部位から生えた数々ね人面瘡らしきものが蠢いており、それぞれが苦痛と絶望に満ちた表情で助けを求める声を精一杯溢すも誰一人にも届かない虚しさだけが残る。

 

 

 皮と骨しかない痩せこけた山羊の左首は1000年過ぎた今にもまだ同族同士の争いを止めない人類への嘲笑を、毛の抜けた醜虎の右首は簡単には口に出来ない低浴で下劣な言葉を唾を飛ばしながら叫んでいる。そして真後ろの首は悪鬼羅刹ごとき相貌をした人間の首だった。その首は狂ったかのようにただ嘲笑うのみ、所々人間には理解出来ない言語を叫ぶのであった。

 

 

 これらの三つ首はそれぞれ渾沌と窮奇、檮杌の生前の顔であり饕餮の血肉を奪って再誕したのである。しかし、すでにごく僅かな残留思念のみだったこの三体にはもはや意思と呼ぶべきものはなく、ただ生前の本能に従って地上を再び禍乱と無秩序の渦に陥れることだけしか頭になかった。僅かな理性を保っていた饕餮もかつての兄弟たちに自我を食い破られてしまい、ただ空腹を満たすことだけが全てな獣以下の存在に落ちてしまった。故に彼らを止める、もしくは制御するブレイキーとなる存在はもはやこの世にない。

 

 

 

 下半身と呼ぶべきもなはなく、ただ巨大な人間の顔が生えており、20本余りの歯がそれぞれ長く伸びて脚の代わりに上半身を支えている。常人では直視すら許されない、人間の生命と尊厳が踏み潰され穢れに穢れた存在、四凶

 

 

 

 

「「「「GUUUUOOOOOOOOOOOO         」」」」

 

 

 

 しかし饕餮    もとい四凶は突然全ての動きを止めある場所を一斉に凝視した。

 

 

 意識が戻ってすぐに左腕の鉤爪で切り飛ばした幼い虫けら(人間)一匹(一人)、上半身と下半身が分かれたまま砕けたアスファルトの上に転がっている。腰を両断された際の衝撃で飛ばされたのか少し遠くにいるも、身体を上下真っ二つにされたからにはもう生きてはいないだろう。すぐ殺してしまったことに惜しむも、せめて死体だけでも噛み砕いて憂さを晴らすために腕を伸ばそうとした。

 

 

 

「ゔっ"………う"ウ"ゥ"う"」

 

 

 

 しかし、その虫けら()は上半身のみ残った今もなお、プルプルと震えていてその生きしぶとさを見せつけていた。すでに臓器の大半を失い、脊椎も折れたのかその背中ですらありえない角度で曲がっている。にも関わらず息をしているその様はあまりにも不気味で、普通の生物とはかけ離れていた。

 

 

 自我の薄れた今の四凶ですら一瞬にだが、何とも形状しがたい悍ましさと畏怖の感情を抱いてしまった。しかし四凶の感じた感情と本能よりもアザゼルの羽根を通して植え付けられた()からの使命、目前の虫けらモドキ(イレギュラー)の抹殺を全うために動き出した。

 

 

 

Gaaaaaaaaa    !!!!

 

 

 

 ズシン、ズシンッ!!と数多の足が重々しく地を踏み締め、憎悪の込められた雄叫びと共に仁を目掛け四凶が勢いよく突っ込んでいく。元々、両者の距離はそう遠くはなく。しかも巨体となった饕餮(四凶)は後数歩進むだけでも簡単に届く距離な上に、今の仁は腰を両断されてしまい動ける状態ではなかった。意識を保つだけで精一杯な彼にこれを避けろというのはあまりにも無茶な要求である。

 

 

 

  だめ、だ………からたがうご、かないッ

 

  損傷大………システム復旧中…46%………46.4%……………48%…………………

 

 

 

 

 脳内で静かに響く相棒(ヴェーダ)の声。何か呟いているようだが今はそれどころではない。

 

 

 いくら腕に力を籠め這おうにも、肩からその先への感覚がほぼない。震えながらも指を動かすが、それだけである。腕を上げようと残った上半身(からだ)に力を籠めるも、その力の作用を支える下半身(腰と足)がないので無駄撃ちなだけ。

 

 

 まるで丘に打ち上げられた魚のような状況であった。結局、彼の元までに辿り着いた四凶は足を振り上げ、仁を踏み潰そうとしたその瞬間、

 

 

 

 カーンッ

 

 

 

 突如に後ろから飛んできた鉄パイプが背中に当たりその動きを止めた。

 

 

 

 

    こっちだ、こんのクソ野郎がッ」

 

 

 

 ダメージどころか当たった素振りもなく、ただ後ろで何かを叫ぶ声に反応して四凶は振り向いた。すると、そこには先程のボロい(ビル)の中にて閉じこもっていた筈の虫けら(人間)どもが瓦礫や武器代わりの鉄パイプなどを手にしたまま此方を見上げていた。

 

 

 

     テメェの相手はこの俺たちだッそこの坊主にもう手出しするんじゃねェ!!」

 

「ッ………そうだ、そうだ!!」

 

「かかってこいや、このデブ虫がッ」

 

 

 

 彼らは仁が避難させようとした生存者グループの一員だった。それぞれ鉄パイプやコンクリートブロックの破片、折れた椅子の脚などを手に精一杯叫んだ。まだ幼い少年()からバケモノ(四凶)の視線を逸らすために。

 

 

 

Garr、rr……rrr…………?

 

 

 

  あまりにも理解しがたい行動に四凶は何のリアクションもなく、ただ不思議な光景に戸惑っていた。

 

 

 

 

  畜生、あんなヒョロヒョロだった癖にここまで大きくなれるのかよッ

 

  それでも堪えろ、どういうわけか坊主はまだ生きているんだ。あいつを逃がすまでには俺たちが時間を稼ぐしかない

 

  そうですね。今度こそ大人の私たちが助ける番ですからッ

 

 

 

 あの時、地面の上に転がっている少年()が見せた笑顔がずっと頭の中で残っていた。ビルの中に閉じこもっていた生存者たち(俺ら)を安心させるために、そしてあのバケモノに追われる自分を落ち着かせるために浮かべだような作り笑顔。

 

 

 あまりにも仮面に貼り付けたようだったその作り笑顔は、まだ高校生ですらない幼い子供がしていいものではなかったのだ。

 

 

 まるで何度も経験し慣れたかのような動きで人々からバケモノを引き連れ、そのまま市内を駆ける背中に一体どれ程の修羅場と痛みを経験したのか計り知れない。

 

 

 左腕に嵌められた大きな籠手らしきものと地面に落ちた二振りの真剣、そしてバケモノ(四凶)の近くに落ちている異形の腕と人間の臓器らしき血塗れのなにか。一体どれ程の過酷な戦いだったのか想像がつかない。

 

 

 そして大人たち(俺たち)四凶(ヤツ)の注意を引く間に救助係の二人がようやく、坊主()の元に駆けつけた。

 

 最悪の場合、年長組が囮になっている間に坊主を抱えて走れるよう、それぞれジムトレーナーとアマチュア足球(サッカー)選手を向かわせた。その二人なら子供一人抱えてても走れるだろう。それに四凶(やつ)もまた後ろの二人にはまだ気付いてない様子だからなおさら安心だ。もし    いや、確実に俺たち大人は全員死ぬだろうけどあの三人は何とか生き延びれるかも知れない。

 

 

 

(おい、この子まだ生きているぞ!)

 

(マジかよ、一体どうしたら真っ二つ)(になっても生きていられんだ?)

 

(どうする?残った足の方も持っていくか?)

 

(当たり前だろうが。まだ生きてんだ)(、もしこのまま死なずに持って)(くれるンなら持っていくべきだろうよ)

 

 

 

 ここからだと離れていて会話の内容こそ分からないが、少年()はまだ生きているらしい。身体が真っ二つになってもなお生きているだなんて普通の人間どころの並の生物には到底マネできることじゃない。しかしそれよりも今は少年の安全確保が優先。

 

 

 

「オラオラァ、こっちだって何度も言ってんだろうがッさっさとかかってこい!!」

 

「こっちの方が何倍も旨いぞ!」

「オラどうした?まさか怖気づいたのかッ」

「「「アーハハハハッ!!!!」」」

 

 

 

 野太い声と共に騒ぎ出す大人たち。

 

 それぞれ手に持った武器をまわりの瓦礫や車にぶつけて音をならし、さてはわざと四凶を煽っては咲い始める者もいる。しかし、この中で死への恐怖を忘れた者は誰一人おらず、もしろ今すぐにでも逃げ出したいと思っている、心の中で。

 

 

 それでもなお、震える体をわざと大きく動かし、恐怖で叫び出しそうになるのを必死に我慢しつつ大声で仲間たちごと自分を高揚させているのだ。

 

 

 ここから離れなければ確実に死ぬことを分かっていてもなお、彼らは逃げ出さない。大人として恥をかいたのは一度で十分だ、今度こそ大人としての義務ってやつを守る瞬間だ、とカッコつけているだけ。

 

 

 

 

「《big》Giiiaaaaaaaa    

 

 

 

 

 先程とはかけ離れた大音量による音の暴力。たった一度の咆哮で砕けて罅だらけだったアスファルトが地面から完全に剥かれ、道路上の車は宙に飛ばされまわりの建造物やビルなどにぶつかり落ちた。ひしゃげた車たちから防犯ブザーがけたたましく市内に響き渡る中、誰一人死ななかったのはまさに奇跡であった。

 

 

 怖い、本当に死ぬ。今すぐ逃げ出したい。心の中で悲鳴を上げて膝がガクガクと鳴り響く。けれども誰一人として手と口を止めなかった。咆哮がやみ次第に立ち上がっては四凶に向かって石や破片などを投げつける大人たち。彼らの心を折るにはいささか遅すぎたのであった。

 

 

 

 

     ブルァァァァァ  !!Gui?

 

 

 ついに我慢の限界にきた饕餮、渾沌、窮奇の首は小うるさい虫けら(大人)たちを先に潰そうと考え両腕を上げた。そして振り上げられた六本の腕が一斉に叩きつけられようとした瞬間、唯一後ろを向いていた檮杌の首が叫び強引に攻撃を止めさせる。その行動に怪訝な視線を向ける他の三つ首は檮杌の両目を通して自分の背側を捉えようやく事態を呑み事が出来た。

 

 

 

 第一抹殺対象であるイレギュラー()を囲んでいる虫けら(人間)二匹(二人)。今まで自分たちの前で騒ぎながらごみを投げつけていたのも全てこっちの気を逸らすため。このことを檮杌がいち早く気付かなければ今度こそ()の怒りを買ったかもしれない。()の怒りを買う、そう思った途端に四凶は怒りに呑まれまわりのもの全てを破壊しながら暴れ始め、仁を殺すために動き出した。

 

 

 

(ウオ?!本当にやべーぞ、)(これは。あくズラかるぞ!!)

 

(俺が坊主を抱えるからお前は足を頼む)

 

(了っ解!)

 

 

 

 仁の体をそれぞれ抱えた救助係は逃げるも図体の大きさ故にその差はすぐに埋まってしまう。そして四凶の巨大な手が二人に迫り捕まえようとした瞬間、横から走ってきたもう一人の男性がその二人を突き放し代わりに掴まった。

 

 

 

「ぐわァアアッ、    ァやくっ逃げろぉぉぉ」

 

 

 

 追われている仁たちを助けるために身を投げだしたその男は悲鳴を上げるも若者たちの身を案じで逃げるよう叫ぶ。

 

 

 何度も邪魔をする虫けら(大人)たちを鬱陶しく感じるもイレギュラー()の排除を優先し、違う男を捕まえた手に力を入れ握りつぶす。四凶の握力に耐えられるわけもなく、その男は全身の骨を折られて死んだ。四凶の手に捕まった時点ですでに胴体が圧迫され内蔵が破裂していたからどの道その男に生きる術はなかったが、やはり惨いものは惨いのである。

 

 

 あまりにも残酷で惨い死に方だったが、逆にそれを機にして決意を新たにし大人たち20名は文字通り命を燃やし、仁を抱えた若者たちが襲われる度に身を呈して守り続けるのであった。

 

 

 

「ぐわッ」「アガャ……ッ」「危ないっ」

 

 

 

 二人を捕まえる為に大きな手が迫れば代わりにつかまり、飛ばされた瓦礫が当たりそうになれば突き放して代わりに瓦礫の餌食となる。八本の腕が一斉に迫ってきた時にはさすがに避けられず、その二人も捕まってしまい、そのまま口までに運ばれ生きたまま咀嚼されて死んだが、最後の最後に来て抱えていた仁の身体を投げ出して守ることができた。

 

 

 しかし、もうその場で生きている人間は十すら満たない。だけど、やはり彼等は己の命を投げ出してでも仁だけは何としても死守しつつ逃げ続けた。

 

 

 誰かが少年()を抱えて走り、それで死にそうになったら他の人に投げ渡してでも守った。幸い足を持っていた方はあまり襲われずに済んだのでまだ同じ人が抱えている。そして仁は自分を背中に乗せて走っている男の顔と声に見覚えがあった。一番最初にビルから顔を出したのが彼で、声もその時に聴いた。しかし、だからこそ分からなかった。

 

 

 顔も名前も知らない、しかも今日始めてみた赤の他人のためにどうしてここまでするのか。恐怖のせいで頭がどうにかなったのだろうか。

 

 

 

    して、」

 

「あ?どうした坊主、悪りぃが今は忙しいんだ後に「どうして、俺の為にここまで」アァ?」

 

「皆、どうして俺一人のために……ここまでするんですか?」

 

「顔も知らない、初めてみる人間のはずなのに......」

 

「危ないって言ったのに、どうして…ハァ、来たんですか?他のッ人たちは?」

 

 

 

 どうしても理解出来なかった。彼らは普通の人間であって自分のように戦える力など持ち合わせていない筈だ、にも関わらずわざわざ危険な戦場に現れて自分を助けようと必死になっている。せめてあのビルの中で生き残った人たちだけでも助けようと、これ以上理不尽な目に逢う人を増やさないと誓ったのに.........これじゃどっちがどっちを守るのか分からないじゃないか

 

 

「ギャッ?!」

 今もまた一人捕まってしまい四凶(ヤツ)に喰われた。にも関わらず誰一人自分を見捨てようとしない。一体どうして?

 

 

 

「…どう、して     

 

「ッ……おい、どうした?!まだ死ぬには早いぞ!!」

 

 

 

 もう意識を保つにも限界が来た。目蓋がいつも以上に重く感じ、だんだん体から力がぬけてく。自分を背負った男が何か言っているようだがもうそれどころではない、我慢の限界となった俺はそのまま気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

ざぁ……ざぁぁぁぁん…………

 

 

 

  ッ……ここは、砂浜……?

 

 

 

 何故だか聞こえる波の音に誘われるまま、俺は目を覚ました。しかし、俺はどこともつかぬ砂浜の上に一人倒れていた。

 

 

 起き上がってまわりを見渡すもここにあるのはただ広い砂場と遠くからかすかに聞こえる波の音、そして俺だけだった。

 

 

 生身の肌から直接感じる砂の感触と熱気に思わず顔をしかめながら立ち上がって。ン?これって   

 

 

 

  ッ……足が、あるっ

 

 

「しかも腹の穴まで塞がっているだなんて……、これは一体?」

 

 

 

 腰から下までの感覚がちゃんとある上に、腹に空いたデカい穴も傷跡一つ残さず消えている。饕餮のせいでグッチャグチャのモツパスターになった臓器(なかみ)もちゃんとあるのが分かる。穴を空けられた時は中身が空っぽになってたから嫌にでもその違いを知ってしまったんだ。人の内臓ってのは相当重い肉パスターって。

 

 

 

「そうだっやつは、饕餮と他の人たちはその後どうなったんだ?どうして俺がここにい『やっとお目覚めか  ッ」 

 

 

 

 饕餮(ヤツ)はどこにきえた?俺を背負っていた人は、他の人たちは、市街(まち)はその後どうなったんだ?あまりにも唐突すぎるこの状況がのみ込めず、謎ばかりが深まる中、背後から俺を呼ぶ声が聞こえ、その声に誘われる様後ろに振り返える。

 

 

 

よぉ起きたか?()

 

「ッ    .................俺、なのか?」

 




今まで蒔いておいた伏線と設定の一部を回収していたら長くなりました。


さて、これでようやく決着がつきそうですね。
「正義」とも言える立派な思想を掲げる仁ですが、彼はまだ戦士としての経験も力量も、何もかもが足りない子供です。そんな彼ですが次回でようやく一人の戦士としてようやく目覚め始めます。


いくら立派な正義と思想を掲げてもそれを貫き通す力と意志がなければただの妄想にすぎません。覚悟を再度山確かめ、己の気持ちと向かい合うことでようやく第一歩を踏み出せますね。


それでは次回、『決着──。そして』をお楽しみに!!





感想と評価、お気に入りは作者のモチベ向上とやる気に繋がります。ご感想ほ一言、よろしくお願いします。
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今後のR-15タグ付き描写について

  • R-15描写は好きだから今後も使って
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