Fish that are called by different names as they grow larger 作:瓶ラムネ
箱庭の空もまた青い
風鳴り音が聞こえる。
びゅうびゅうと、ごうごうと。
見渡す限り雲ひとつない大空。
眼下には澄み渡る大海。
上空数千メートルからの自由落下中ということを除けば観光には絶好のロケーションだ。
願わくば観光用セスナ機の中とかからみたいものだったが。
ちらと視線をずらすと自分と同じく自由落下中の男女3人。
女が2人に男が1人。
こんな自由落下フリーホールアトラクションに放り込まれるとは彼らはどんな悪行を前世で行ったのだろうか。
ふと興味が湧いた。
つらつらとそんなことを思いながらもどんどんと海面が近づいてくる。
我々を包み込み落下速度を落とすように中空に半透明な膜が現れるが、その前に自由落下に身を任せるのをやめる。
空中に立った俺に驚き、一緒に落ちていた男女がギョッとした目で一瞬見るが、そのまま彼らは水に叩き落とされた。
彼らの二の舞にはならないよう、そのまま空中を歩いて浜辺に立つ。
ゆっくりと階段を降りるように砂浜に足をつけたときには、ざぶざぶと水飛沫を飛ばしながら三人も浜辺にたどり着いていた。
「あー!もう!!折角しつらえて貰ったドレスが台無しよ!!」
真っ先に不平を述べるのは真紅のドレスを着たまだあどけなさの残る少女。
年の頃は15,16あたりだろうか。
「全くだクソッタレ!招待したやつは覚えてろってんだ!!」
釣られて不満を述べるのは学生服にヘッドホン、金髪の少年。
見るからに俺はヤンチャだぜ?とでも言いたげな顔をしている。
「ちょっと、許せない」
最後のは未来志向の服を着た少女だ。年の頃は14,15くらいか。
ドラ○もんで未来人がこんな感じの服を着ていたような気がする。
まぁ2020年ではどこかで見たことがある気がする服装だ、という説もあるが。
彼らの罵詈雑言に肩を竦め、招待してきた人間(人間とは言っていない)が身を潜めている場所に目を向ける。
随分と可愛らしいウサギさん、非捕食者としてはこの上ない獲物だ。
目の前の3人の餌としては最上だろう。
「招待者は一体何を考えてるのかしら。まさか問答無用に引きづり込んだ挙句、空に投げ出すなんて」
「激しく同意だぜクソッタレ。下手したら速攻でゲームセットじゃねぇか。これなら石の中に呼び出された方がまだ親切ってもんだ。」
イライラからか少年が砂辺の砂を蹴り上げる。
「石の中に呼び出されては動けないでしょう......」
「俺は大丈夫だ」
少年は随分と自信ありげだ。たとえここが無人島でも図太く生き残りそうな顔をしている。
「そう、随分丈夫な体をしているのね。羨ましいわ」
「そんなことより......ここ、一体どこなんだろう?」
「さぁな。まぁ落ちてくる途中に世界の果てみたいなものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねぇか?」
少年の粋なジョークは彼女たちには響かなかったようだ…
意気消沈する少年。
「そんなことは、何だっていいわ。亀だろうが象だろうが。……あなたたちにも変な手紙が届いたのかしら?」
「あ、あぁ。そうだが」
ジョークがすかったからか少年の反応は歯切れが悪い。
「あなたたちも?」
「うん。」
「あぁ。」
「そう。」
「ここでぐちゃぐちゃ言ってても仕方ない。まずは自己紹介としようぜ。俺は逆廻十六夜、お前たちは?」
「.......そう、ね。私は久遠飛鳥。あなたは?」
「ん。春日部耀。」
「そう。そこの1人だけ濡れてないあなたは?」
「アドリアーノ = ヴァニア = ロヴァッティ。アドルと呼んでくれ。と言うよりも、俺以外は全員日本人か?」
無視して自己紹介する。
「そのようだな。アドル、あんたは?」
「ミラノ生まれのイタリア人だ。」
「そう。ひとまずあなたが優雅に空中散歩をして私たちを助けなかったことには目を瞑るわ。それにしても随分と流暢な日本語ね」
飛鳥の視線は随分と鋭いが、面白がっている色も見える。
剛気な女性だ。
「くくっ。アドル、恩を売っておいた方がよかったな」
「そのようだ。まぁ次からこの教訓は活かすよ。ちなみに日本語はハワイで親父に習ってな」
嘘である。世界中の言語を使う程度のことは自分にとっては大したことではない。
が、ネタは逆迴にしか通じなかったらしい。
やはりこの3人は別の時間軸から来たのだろうか、アドルは思考を巡らせた。
「そうしてちょうだい」
「ハワイで親父にとか絶対嘘だろ......」
唯一ネタを理解した逆迴からツッコミが入る。
「(うわぁ。随分個性的な方々ばかりですね……)」
木陰から覗く瞳。
月のウサギこと黒ウサギは冷や汗を垂らしながら新たなる箱庭への来訪者たちを見ていた。
何を隠そう彼女こそ彼らを召喚した張本人なのだ。
まぁ召喚自体はもっと高位の存在が行ったのだが、彼女の依頼での召喚なのだから彼女が責任者だ。
「(もっと慌てふためいてくれないと黒ウサギが出るタイミングがないのですよ。こうなったら)」
「で?呼び出されたはいいけどなんで誰もいねぇんだよ。こういう場合テンプレだと招待状に書かれてた箱庭とかいうのを説明する奴が出てくるもんじゃねぇのか?」
ケッと苛立たしげに吐き捨てる十六夜。
アドルも遺憾ながら十六夜に同意だ。
ーーそこの月のウサギは観念してさっさと出てきて欲しいものだ。
「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの。」
「この状況で落ち着きすぎているのもどうかと思うけど……」
「(全くです。私がマウントを取るための隙が……)」
黒ウサギは愚痴を溢した。
ーーこれからを考えれば、これくらい頑丈な精神力を持っていて欲しいと思うものの、今くらいは慌てふためいて欲しい。
黒ウサギは自分に都合の良い世界を所望していた。
「この程度で慌てふためいてはいられないだろう。」
「あらジェントル。異世界に飛ばされたというのにこの程度とは随分な言い草ね」
「全くだ。もっと慌てふためいて泣き叫んで当然の場面だぜ?」
十六夜は面白そうな奴を見つけたとでも言うようにアドルを見た。
ついとアドルは目を逸らした。面倒な人間に絡まれても嫌だ。
「お前らがいうのか?……とはいえこんな浜辺で時間を浪費してもなんだ。そこにいる案内人に話を聞くのがいいだろう。」
あんまりにも動きがないのでアドルはついに被捕食者を生贄として召喚することにした。
月の兎こと黒ウサギがいる茂みを指さす。
「(ゲ!?)」
「あら、気づいていたの?」
「あの程度の隠形で隠れてるつもりならお笑い種だな。姿隠しの宝器でも使ってから出直してもらいたい」
「へぇ?お前がいた世界にはそんな面白そうなもんがあったのか?」
「まぁな。この世界にもあるだろうよ。ハデスの兜とかな」
「そいつは楽しみだ。……ま、今はそれより。俺たちを不躾に呼び出した不審者に尋問と行きますか」
マフィアやヤクザもかくやという眼光が逆迴と久遠から放たれ、月のウサギに直撃する。
2人の怪光線のような視線のショックで、木陰から叩き出された月のうさぎは慌てて弁明を始めた。
「や、やだなぁお二方。そんなおどろおどろしい目で見ないでくださいよ。心臓の弱い黒ウサギをそんなに脅かしたら死んじゃいますよ?私、悪いウサギじゃないですよ〜☆」
飛鳥と十六夜には黒ウサギの猫撫で声いやさ、兎撫で声は効かなかった。
飛鳥はどう責任を取らせようかと思い、十六夜はどう黒ウサギの胸を揉むかと思いを馳せた。
「却下。本人同意も取らず勝手に呼びつけた輩に払う敬意なんて私は持ち合わせないわ」
「右に激しく同意だぜ。おら!ジャンプしろよ!!有り金持ってんだろオラ!姉御が早くしろと仰せだぞ!!」
「誰が姉御よ逆迴くん。ぶっ飛ばすわよ」
飛鳥は額に青筋を浮かべ十六夜を睨みつけた。その眼光はやはり鋭い。
「ヤハハ。まぁそう怒るなよお嬢様。……そんで?お前が俺たちの道先案内人か?」
2人の眼光に怯みながらも逆にこちらを値踏みしていた黒ウサギに、分かっていながら問いかける逆迴。
「え、えぇ。......我々がこの箱庭の世界に御4人様を招待させていただきました。我々はあなたたちにギフトを与えられた者だけが参加できるゲーム —— 通称「ギフトゲーム」— —への参加資格をプレゼントいたします。」
「ギフトゲーム?」「箱庭の世界ねぇ」「我々とは誰のことかしら」「ふーん」
「色々ご質問もあるでしょうがまずはギフトゲームと我々の世界のことから説明しますね。まずあなた方自身もお気づきでしょうが、あなた方は普通の人間ではありません。」
「今更ね」「右に同じく」「同意」「普通の人間の定義をしてくれ」
「ハハハ。少なくとも普通の人間は空中を歩けませんよ。」
「全くね」
ーー 肩をすくめる
確かに普通の人間は空を飛べないだろうな。
アドルは納得した。
「ご納得いただけたようで何よりです。あなた方のような異能の力を持つ存在たちが互いに競い合うためのゲーム。それがギフトゲームです。そしてそんな強力な力を持つギフト保持者たちが面白おかしく生活するために作られたゲーム盤、それがこの箱庭の世界なのです。」
「......まず初歩的な質問からしていいかしら?」
飛鳥が手を上げる。その視線はまだまだ鋭い。
黒ウサギはビビりながらも先を促した。
「どうぞ。」
「ありがとう。ではあなたの言う”我々”とはどなたのことをいうのかしら?具体的には私たちを召喚した何者かのことなのだけど。道先案内人さん、あなたの仕業なのかしら?」
虚偽は許さないといわんばかりの眼光だ。
「すみません。そちらに関しては私にはお答えできません。」
「それはどうしてかしら?」
「私も知りうる立場にないからです。私はあくまで道先案内人。あなた方を召喚した存在は箱庭の上層部に位置する方々の意向と聞いています。」
見るからに3人が落胆した。
彼らの黒ウサギを見る視線に「使えない奴」という色が加わった。
「......そう。なら私たちを呼んだ存在を知るにはどうしたらいいのかしら?」
「それは上層部に問い合わせるしかないでしょう。問い合わせるには箱庭の世界で上に上がる必要があると思いますが」
「そう。わかったわ。」
「ご納得いただけたようで何よりです。」
今度は春日部嬢が手を挙げる。
「じゃぁ私からも一つ。」
「どうぞ。」
「ギフトゲームとは具体的にはどのようなものなの?そして勝ったらどうなるの?」
「ギフトゲームとは主催者側が用意したルールに則って参加者が勝利条件を達成するためにプレイするものです。ルールも勝利条件も様々でサイコロの出目を当てるようなものから命をかけた直接戦闘まで幅広く存在しています。勝利条件もまた同じくですね。勝者は主催者側が提示した宝物を得ることができます。内容もこれまた様々。金銀財宝からなんらかのギフトなど。危険度が高いほど見返りは大きくなる傾向にありますね。もちろんルールをきちんと読まないと思わぬ落とし穴などもあるかもしれません。」
「そう。参加には何を?」
「参加者側の条件も様々です。チップとして金貨や土地、権利などが条件として出されることもありますし自らのギフトをかけさせられることもあります。もちろん命、という場合もあります。
コミュニティ同士のギフトゲームでなければそれぞれの期日内に参加者登録をしていただければOKです。商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているので、よろしければ道案内がてら参加していってもらっても大丈夫ですよ」
「なるほど。……つまりギフトゲームとはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」
「ほほう?なかなか鋭いですね。しかしそれは八割正解の2割間違いです。箱庭の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか。そんな不逞な輩はことごとく処罰されます。......が、しかし。ギフトゲームの本質は全くの逆。一方の勝者だけが全てを手にするシステムです。店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手に入れることも可能だということですね」
「なかなかに野蛮なことね」
「えぇ。ですが主催者は全て自己責任でゲームを開催しています。つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話なのでございます。」
黒ウサギはあらかたの説明を終えたのか一旦会話を区切る。
「さてさて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭世界におけるすべての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同志候補である皆さんをいつまでも野外に放り出しておくのは忍びないですし。ここから先は我らのコミュニティでお話しさせていただきたいのですが……よろしいですか?」
しれっと同志候補と言う黒ウサギ。
抜け目がないが、それは悪手だった。
黒ウサギは気づいていないようだが、十六夜と飛鳥の目が細まる。
アドルは目を伏せた。
「待てよ。まだ俺が質問していないだろ」
これまでアドルと同様に聞きに徹していた十六夜が、威圧的な声と共に一歩前に出る。
ずっと刻まれていた軽薄な笑みが消えていることに気づいた黒ウサギは身構えるように聞き返す。
「……どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」
「そんなものはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ黒ウサギ。ここでお前に向けてルールを問いただしたところで、何かが変わるわけじゃねぇんだ。世界のルールを変えようとするのは革命者の仕事でプレイヤーの仕事じゃねぇ。俺が聞きたいのは……ただ一つ、手紙に書いてあったことだけだ。」
たっぷりのタメを置き、黒ウサギをその視線で射抜く十六夜。
「この世界は……面白いか?」
「———-YES. “ギフトゲーム”は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと黒ウサギは保証いたします」