Fish that are called by different names as they grow larger 作:瓶ラムネ
十六夜を探しに出た黒ウサギ、噴水広場でジンとお茶している耀たちとは別に、アドルと飛鳥の一行は商店街を食べ歩きしながら今後の見通しについて会話していた。
ちなみに金はアドルが用意した。
この階層ではサウンザンドアイズ発行の金貨でほとんどの取引を行っているようだったが、アドルが持っていたドラクマ金貨も等価で利用できるようだった。
「それで、アドルくんはどう思う?彼女のこと」
「彼女?あぁ、黒ウサギのことか?……まぁ特には。」
「特にってあなたねぇ。彼女の事情とかあなたは検討がついているのではなくて?」
黒ウサギに毛ほども興味を示さないアドルに呆れる飛鳥。
「検討はついてるよ。でも興味はないかな。彼女は別に僕に何か頼んだわけでもなければ僕に危害を加えたわけでもなし」
「そう。彼女があなたを騙そうとしているとしても?」
苛立たしげに道の小石を蹴る飛鳥。
せっかく異世界に来たというのに自分のことを騙そうとする人間がいきなり現れればげんなりとするのもわかる。
見るからに高位の立場にあった彼女からすれば見飽きている挙句、唾棄すべき相手なのかもしれない。
とはいえ自分からすれば正直どうでもいいというのが本音のところだ。
月のウサギは初めて見た、こんな見た目なのか、くらいの感想だ。
別に月の兎が強制でコミュニティに入れと言ってきているわけでなし。一応は自由に決めて良いと言うような言葉使いをしていた。
そこら辺は流石に彼女の良心が咎めたのだろう。
甘いなと思う反面、だからこそ怒る気にはなれなかった。
「騙すって言ってもね。あの程度の演技じゃ騙すも何も。彼女は分かり易すぎて怒る気にもならんね」
僕の言い分に得心がいったのか何度も頷く彼女。
彼女もなんだかんだ年相応にわかりやすい人だ。喜怒哀楽がはっきりしていると言うべきか。
「まぁ、それはそうね。じゃぁあなたは彼女に協力して挙げるつもりかしら?」
「彼女が所属しているコミュニティに所属するつもりか?という質問であればNo。彼女が困っている問題の解決に力を貸してあげるか?という質問であれば限定的にYesといったところかな。」
「なるほどね。あなた、これからどうするつもり?」
「コミュニティを立ち上げる」
即答する。こんな面白そうな世界に来たのだ。
誰かの褌を巻いて土俵に上がるより自分の褌を用意して土俵に上がる方が楽しいに決まっている。
この僕をわざわざ選んで召喚したのだ。
黒ウサギはともかくその上にはなんらかの意図があるだろうと思ったし、であれば自分の戦力は自分で用意するべきだ。
今までだってそうしてきた。
「そう。たった1人でコミュニティを立ち上げるとはご苦労なことね。よっぽど自信があるのかしら?」
「まぁそれなりにはね。何?君も僕のコミュニティに入る?」
「待遇しだいね。提示条件によっては乗ってあげなくもなくてよ?」
飛鳥は挑戦的な笑みを浮かべ、アドルに視線を投げた。
年相応のあどけなさと高貴さ、そして悪戯心が反映された魅力的な笑みだ。
「悪い人だ。黒ウサギへの義理とかないのかな?」
どの口でいうのかと思ったが、先に義理を放棄したのは黒ウサギだ。
別に心は痛くもなかった。
「こちらを騙そうとしなければ義理を感じていたかもしれないわね。まぁそもそも彼女が私たちを召喚したわけでもなければこの世界に来るのに彼女のコミュニティに入ることへの同意もしていないけどね」
確かにそうだ。そして世の中にはクーリング・オフと言うものもある。
我々が黒ウサギに感じる義理なんて言うのは大したものでもない。
「それはごもっとも。今なら副長の椅子でどう?黒ウサギのコミュニティならせいぜいが幹部の椅子だと思うけど」
「もう一声ね。3食おやつ付きに風呂付き、そして文明的な生活」
「3食おやつ付きお風呂付きは確約しよう。ベットも固い土ではなくレベルはともかくベットくらいは用意しよう。そして文明的な生活は自分の手で掴み取ってくれ」
文明的な生活ってなんだよと、心の中のソクラテスが叫んだための適当な回答だったが、何が気に入ったのかコロコロと笑う飛鳥。
彼女的には悪くない回答だったらしい。
「私好みの良い回答よ、契約成立ね。コミュニティの名前は?」
「何も考えてない。旗には、鷲とか雷とか雄牛とか剣は入れたいとは思ってるけど。何か案ある?」
「そういきなり言われてもね。まぁコミュニティ名は後ででいいんじゃないかしら。今日中にはなんかそれぞれ考えましょう。それより今日寝泊まりするところよ。」
「それはギフトゲームで手に入れるしかないね。最悪は宿屋で凌ぐというのもありだけど。」
アドルは懐から金貨を取り出し、飛鳥に見せた。