Fish that are called by different names as they grow larger 作:瓶ラムネ
「さて、ではそろそろ先に進むとしようか。サウンザンド・アイズに向かうのだろう?そろそろ店が閉まる」
「そ、そうでした!ジン坊ちゃん、申し訳ないですが」
「うん。僕はコミュニティに戻ってみんなに話をつけてくるよ」
「あら」
リーダーが案内するのではないのか普通は?と自分としても思うが、飛鳥を止める。
これ以上は時間がもったいないし、何より久遠飛鳥という女の株を下げるだけだ。
「飛鳥、そろそろ店が閉まる」
飛鳥と視線がぶつかる。大人しく引き下がったのは飛鳥だった。
「……確かにそうね。まぁ他所のコミュニティには他所のコミュニティのやり方があるものね」
「それに細かいことにまで口を出していると自分の格が下がる。久遠飛鳥の株を下げるのはやめた方がいいと思うが?」
「……そうね。心しておくわリーダー」
怒られた子供みたいにしゅんとする飛鳥。
ちょっと可哀想になったがしかし、組織のリーダーとして部下を嗜める必要はある。
「意外、アドルがリーダーしてる」
「手綱握れてて笑うわ」
「確かに意外です」
失敬なことをいう三人。
少なくとも詐欺で仲間を増やそうとしていた奴には言われたくない、アドルはそう思った。
「さて、ジン殿はコミュニティに戻るようだし我々はさっさとサウザンド・アイズに向かうとしようか。」
「......いいので?確かに私たちはサウザンド・アイズに用がありますが。」
「俺たちもサウザンド・アイズには買い物に行くつもりだったからね。ホームの家具を買ったりとか。ここいらでは1番大きい店だし、それにサウンザンド・アイズはノーネームお断りじゃなかったかな?」
言外に俺たちがいなければ店に入れねぇだろと言う。
まぁ黒ウサギには黒ウサギなりの根拠があってサウザンド・アイズに行こうとしているのだろうけど。
「ぐっ。確かにそうです……」
「やれやれ名無しコミュニティは大変だなおい。店で買い物すらできないのかよ」
「十六夜くん、私たちはノーネーム相手でも取引をしようと思っているわよ?」
「それは助かるが、適正価格で頼むぜお嬢様?」
「それはもちろん。損はさせないと約束するわ」
なお全くなんの商品も仕入れていない模様。店舗すら用意してない。
そこらは追々だな。
「うちは堂々と取引できる店ができてラッキー。そっちは固定客がついてラッキー。win-winだな」
「まぁね。ノーネームと取引する奴ら、と見下してくれるコミュニティが増えればよりラッキーというところだな。足元を根こそぎ刈り取って儲けれるし」
最下層とはいえ、ここは異世界。
最初から本気でかかる。やりすぎたところで異世界だという説もあるし。
とはいえ、けつの毛くらいは残しておいてやろう。
「おっかねぇなぁおい。」
「箱庭は弱肉強食の世界ゆえ致し方ないのですよ……」
「さすが食べられたコミュニティが言うと説得力が違う」
耀選手、火の玉ストレートを習得する。
「それは言わないでください耀さん…」
「そんなことはいいからそろそろ行きましょう?いつまでも路上で騒いでると不審者の仲間入りよ」
「そうでした。では、参りましょうか」
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サウザンド・アイズでオーナーの白夜叉と黒ウサギの漫才的なやりとりと店員の塩対応をくぐり抜けて我々はオーナー白夜叉の私室に招かれていた。
「白夜叉殿。我々はノーネームではないのだが?」
「いいのかしら?私たちがいても」
白夜叉こと太陽の化身殿は何か勘違いしてやしないかと確認する。
流れでここまで来てしまったが、勘違いされたままなのはそれはそれで面倒だ。
「ん?......んんん!?おんしらノーネームに入らなかったのか!?」
やはり我々がノーネームに入ったと思い込んでいたようだ。
「私たちは確かに彼らと一緒に召喚されたけどノーネームには入らなかったわよ」
「まぁ彼らの目的である魔王退治くらいは手伝ってあげようと思っているけど」
ーーそうか......
と何か納得の頷きをし、こちらを見た白夜叉の顔はニヤニヤとした物だった。
嫌な予感がする、と思ったが彼女の方が一手早かった。
「魔王退治程度ってまた剛毅なものじゃのう。流石は現代ギリシャ最強の守護神様と言うところかの?」
白夜叉はどうやらこちらのことを知っているようだ。
せっかく飛鳥にクイズとして出題していたというのに。
思った以上に一つネタバレされて面白くない。
飛鳥は額に青筋を浮かべた。
「......へぇ?それはアドルのことか?」
目を細め、こちらを見る十六夜。
面白そうな獲物を見つけた、とでも言わんばかりの顔だ。
舌打ちを打つが十六夜はコロコロと笑うばかりだ。
「無論。ノーネーム再建計画はそこのアドリアーノ殿のお力を前提にしたものだったのだがな……」
「勝手なことだ。どこの誰だかわからんがその計画を立てたやつは僕に斬り殺される覚悟はできているんだろうなぁ。......というよりも、勝手にこちらの素性をぺらぺらと言わないで頂きたい物だな、白夜王。」
「そうよ、せっかくアドル君の素性当てゲームをしていたというのに。エンターテイナーとしては最低ね」
「それは、すまんことをしたの......」
しゅんとした幼女と見ればこれ以上責める気にもなれないが、こいつの中身は普通に成人女性のはずだ。
飛鳥は口をへの字に曲げた。
「にしてもアドルはなんで箱庭に呼ばれたの?ピンポイントでご指名みたいだけど」
「俺の召喚はゼウスのはげとオーディンのじじいが関わっているようだ。」
先ほどから、サウンザンド・アイズに来てからというもの、見られている感覚がある。
この神威は親父と北欧のハゲのものだ。
オリュンポスの玉座とフリズスキャールヴからこちらを眺めているのだろう。睨み返すとさらに神威は強くなった。
くそかよ。
「天空の神王と北欧の神王とはまた大ごとだな。アドルとはどういう関係なんだ?」
「アドリアーノ殿はゼウス神の息子だ」
「え゛!?」
黒ウサギがぽかんとした顔でアドルを見る。
店員をはじめ全員も同じ顔だ。
しれっとまたのネタバレをする白夜王。もうこれほとんど全部言ってるようなものだ。
「あー、なるほどな。随分と大きな魚を逃したんじゃないか?黒ウサギ」
「アドリアーノ殿どころか久遠飛鳥まで取り逃すとはのう、黒ウサギ。下手を打ったな」
「はい……。彼らに不誠実なことをしてしまいました。」
「大体のことは予想できるが……何したんじゃ黒ウサギ」
被害者の前で自分の罪状を吐かされるという責め苦を与えるとは白夜王もなかなかのSだ。
訥々と語る黒ウサギ。
「うむ、黒ウサギたちが悪いな!」
話を聴き終わった白夜叉はにべもなく一刀両断した。
サウザンド・アイズの店員の視線も厳しい。
呼ばれた我々は肩を竦めあった。
「返す言葉もありません!!」
「まぁ彼ら同じコミュニティではないが手伝ってくれるというし、切り替えるしかあるまい。それにそこの逆迴十六夜と春日部耀は入ってくれるのだろう?」
「は、はい。そうです。」
「彼らに愛想を尽かされんようにな」
「はい!」
白夜王が黒ウサギを慰める手は少しイヤらしかったが黒ウサギは気づかなかった。
「今からノーネームやめるって言ったら黒ウサギどんな顔すると思う?」
十六夜が悪巧みするような顔をして耀に視線を向ける。
「絶対面白い顔すると思う」
「やめてください死んでしまいます……」
「じゃぁそれなりの立場を要求するぜ!」「する」
「ぐ、具体的には?」
「それはお前が考えるんだな。俺は自分で自分に値段をつけるのは嫌いなんだ」
「十六夜、絶対他人につけられるのも嫌いだよね」
「そういう説もあるな!ヤハハ!!」
「詰んでるじゃないですか!!」
黒ウサギは地団駄を踏んだ。
「十六夜くんは部下には持ちたくない人種の人間ね」
「全く。まぁ友達にはいいんじゃない?」
「さぁ、それもどうかしらね?」
「おいおい酷いな、こんな聖人を捕まえて」
全員が肩を竦めた。
言うに事欠いて聖人とはお笑い種だった。