妖精さん 銀座にて、斯く戦えり   作:奥の手

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助かります。


妖精さん エルベ藩王国にて、斯く戦えり

 

時は流れて数ヶ月。

特地、日本の双方で様々な出来事が起こりました。

それはもう大変な有様です。

 

盗賊に襲われているイタリカの街を、自衛隊がヘリボーン作戦で救ったり。

 

イタリカの町と和平協定を結んだその日に、行き違いとはいえ帝国騎士団が自衛隊員である伊丹をボコボコにしちゃって皇女殿下が青ざめたり。

 

日本の国会に招致された伊丹率いる特地重要参考人が「あなたぁ、おバカかぁ???」と叫んじゃったり。ついでに他国の工作員を皆殺し(かえりうち)にしたり。

 

「故郷を炎龍に滅ぼされた。緑の人なら助けてくれるという噂を聞いた」というダークエルフがアルヌスを訪れたり。

 

「特地における戦略資源探査」の名目、その実際は仲間のために国境を超えてドラゴン退治へ行く伊丹(バカ)がいたり。

 

バカとはいえ日本国民、そのバカを死なせないために空自、陸自双方が全力で資源探査(ドラゴン退治)の支援を決めたりと。

 

政治的にも軍事的にも。

それはそれはもう、いろいろなことがありました。

 

いろいろなこと、というならば。

特地の空。伊丹の資源探査のための「偵察」を命じられた航空自衛隊員にも、不思議なことが起きたそうです。

 

それは、エルベ藩王国上空。「炎龍の被害が多発している」と噂される、まさにその空での出来事でした。

索敵を開始して三日が経った日のことです。

 

「現在、高度11000フィート。国境まであと10分。速度280ノット。進度190。ターンヘディング、ナウ」

 

航空自衛隊機、通称「ファントム」二機が、そろって降下します。

お互いに通信しながら飛んでいました。

 

「今日で三日目。いい加減見つけたいねぇ」

「見つけてもいきなり攻撃するなよ。目的は戦力評価なんだからな」

「わーかってるって」

「どうだか。それに報告では、相手は戦車並みの装甲でセブンエフ(空対空ミサイル)や20mm弾じゃ効かないそうだ」

「アクティブレーダーも乱反射しちまうんだったか? マジでバケモンだな」

「だからこその戦力評価なんだろう」

「あいよ——ん?」

 

ファントム内に、ピピピと音が響きます。

 

「いたぞ」

「特地甲種害獣と確認——っと、ありゃなんだ?」

 

ファントム前方。視認できる位置で、炎龍が激しく飛び回っていました。

その周りを、炎龍より二回りほど小さな何かが旋回しています。

 

「おい、ありゃぁ」

「識別不明機体“(ゼロ)”——間違いない、銀座を飛んでいた“謎の零戦”さんだ」

「襲われてんのか?」

「だろうな。敵さんの機動力の方が上だ。回り込まれているらしい」

「おいおいおいおい冗談じゃねぇぞ。あの零戦の武装は?」

「13.2mmと20mm機銃、それから250kg艦上攻撃用爆弾だ。対抗手段の“た”の字もないね」

 

やべぇな、と。

額に嫌な汗が流れます。

 

「どうする。あのままじゃ零戦さん、トカゲ野郎に落とされちまうぞ」

「そうは言っても、俺たちの任務は偵察。許可されているのはあくまで特地甲種害獣の戦力評価であって、撃墜じゃない」

「ふざけんじゃねぇ! 目の前で日の丸つけた機体が落ちんのを見てろってのか!!」

 

通信機越しに思わず声を荒立てます。あくまで冷静な方のパイロットも、悔しそうに口元を結んでいました。

そして。

 

「……わかった」

「何がわかったってんだ!」

「俺たちの任務は“戦力評価”だ。敵に対して各種武装での攻撃、その回避能力から危険数値を割り出す」

「!!」

 

へへ、と。

ファントム二機のパイロットは、操縦桿を握る手に力を込めました。

 

「報告は俺がしておく。評価項目だけはきっちり埋めて、あとは好きにするぞ」

「おうよ! 待たせたな零戦さんよ! 銀座の借りはここで返すぜぇ!!」

 

——航空自衛隊、ファントム二機が、零戦を襲う炎龍へと急接近しました。

 

 

 

 

ドラゴンに襲われている。

どうしてこうなったのか俺にはわからない。

13.2mm機銃で牽制しながら、急旋回。目の前の赤い鱗のドラゴンはもうすでに、13.2mmは効かないと学習したのか、庇うそぶりすらしなくなった。

 

ロゥリィからありったけの燃料を譲り受けた俺は「この世界の出口」を探すために各地を飛んでいた。

ロゥリィの言っていた「ハーディ」という神。その神が、俺を元の世界へと返してくれるかもしれないと。

だからその使徒である「ジゼル」という者を探すために飛んでいた。

 

なのに!

なんで、なんでこうなった!!

 

右へ、なるべく小回りで旋回するが先回りされる。機首を下げ、急激な重力移動に耐えながら今度は機首を一気に上げる。

もうかれこれ数十分戦っている。

装甲力も機動力も明らかにドラゴンの方が格上。そのうえかなりの射程で火炎ブレスを出してくる。

 

こいつ、どうやら俺を覚えていたらしい。

お互いにその姿を視認するや否や、向こうから襲ってきた。

ちくしょう。

ちくしょう!!

 

こんなところで落とされるわけにはいかないんだ。

ロゥリィは俺のことを“死ねない存在”といっていた。だがそれはあくまで俺の体のことであって、この機体のことじゃない。

 

機体が落とされたら身動きが取れなくなる。

というかそもそも、加賀さんのいない世界で機体を失ってみろ!

“役目を失う”のは事実上の死だ! 加賀さんの補給がない今、絶対にこの機体は落としちゃダメなんだ!!

それなのに!!!

 

「もう逃してくれよ! なんなんだよ!!」

 

ドラゴンと共に急上昇。逃げようとしてもしつこく追いかけてきて、ブレスを吐いてくる。

自分より弱い存在だと認識されているんだろう。弱いくせに、左腕を吹き飛ばした連中(自衛隊)の仲間だと勘違いしている。

 

“今ここでコイツを落としておけば今後の生活が安全だ”とでも思っているんだろうか。

ちくしょう!

ちくしょう!! だからこんなにしつこいのか!!!

 

何十回目の急旋回か、ホバリングするドラゴンの後ろへ回り込もうとした、その時だった。

 

稲妻のように物凄い速度で何かが上から飛んできた。ドラゴンのすぐそばを通り抜け、地上で爆発する。

直後。

 

ブブブブブブブブブォォォォォ——。

 

まるで大きな羽虫が飛んでいるような音が立て続けに響き、ドラゴンの鱗に弾丸の雨が降り注ぐ。

弾かれているようだが、ドラゴンは身動きが取れなくなったのか、もがきながら高度を落としていく。

 

なんだ。

何が起きた。

あまりに急のことで何が起きたのか一瞬わからなかったが。

空を見上げた直後、鈍色の機体が豪速で通過していった。

 

—————航空、自衛隊…………!

 

もがきながらも墜落はしなかったドラゴンへ、追い討ちをかけるように弾丸の雨を降らす。

二機は恐ろしく連携の取れた動きで急降下、地面すれすれを旋回、炎龍を超低空に釘付けにしてくれている。

 

な、なんで助けてくれたんだ?

いや、いやそんなことを考えるのは後回しだ。

今なら、脱出できる。

航空自衛隊の、あの戦闘力と速力なら、ドラゴン相手でも逃げられるだろう。

それどころか、退治もできるかもしれない。

 

今はなぜか機関銃しか使っていないみたいだけど、離脱するなら今しかない。

 

通じるかわからないが、俺は二機の救世主へ向けて。

『アリガトウ』と、モールス打電を送って逃げた。

 

 

 

 

炎龍を20mmバルカン砲で釘付けにし、動きを封じているファントム二機の機内に、通信が入りました。

それは、とても古典的で、もはや現代の航空機で使っているものなどいないような信号でしたが。

 

「へっへへ」

「ア、リ、ガ、ト、ウ、だとよ」

「やっぱ帝国海軍の亡霊なんじゃねぇか? 直接拝見願いたいぜ!」

「今は戦力評価に集中しろ————ちゃんと、離脱できたみたいだな」

 

どんどんと小さくなっていく緑の機影に向かって、ファントムパイロットたちは、一瞬だけ敬礼したのでした。

 

 

その日の夜。

アルヌスの丘、アルヌス共同生活組合の酒場で「空自の連中が例の零戦を助けた」「銀座のお返しができた」という土産話が自衛隊員たちの間で持ちきりになったのは、言うまでもないことなのでした。

 

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