世界は広く、未知と既知の混沌であふれているということを私たちはよく知っています。
銀座の街中に異世界へと繋がる門が出現する世界もあり。
海底より現れた謎の勢力により制海権を失う世界もあり。
ここはその後者。
人のものであった海を、人のものでなくした謎の勢力を深海棲艦と呼びだしてからはや数年。
敵へ対抗するための“力”として、これもまた正体不明な人類の味方、艦娘を指揮する場所でのお話です。
横須賀鎮守府。
多くの者は「横チン」と呼ぶその執務室にて、二人の人物が対話していました。
一人は連合艦隊総司令部、指揮官、通称「提督」と呼ばれる男。
若いです。若いですがそれなりに苦労してきたのでしょう。「若造」などと呼ぶには躊躇われる、そんな鎮静した雰囲気の人物は、よく整理された執務机に着いていました。
その提督の前に立つのは、青色映える和装に身を包んだ一航戦、正規空母「加賀」です。
加賀の報告に、提督は眉をひそめました。
————艦載機補給ができないのに、手元の艦載機の数が合わない。
より詳しい報告では、これまで幾度となく帰還を果たしたネームド艦載機「岩井」の失踪、というものでした。
しかもただの未帰還ではありません。
加賀の報告によると、自分の中に格納している妖精とその機体の有無は感じ取ることができ、零戦62型岩井機は、間違いなく「生きている」と。
生きているのに帰ってきていない。ボーキサイトによる補充もできない。
これまでに一度も、このようなことはありませんでした。
直ちに鎮守府内の全艦娘、可能なら艦載機妖精へも聞き取り調査をするよう、加賀へ命じました。
その翌日。
加賀と同じ艦隊で出撃していた一航戦、赤城の艦載機妖精から、有力な情報を聞き出すことができました。
曰く、岩井機から攻撃支援を受け、感謝の意を伝えようと岩井機の方を見た瞬間、突如としてその前方の空間がゆがむのが見えた、と。
岩井機はそのゆがんだ空間を避けることができず、そのまま消え、あとには一瞬だけ“門”のようなものが見えたと。
直感的に「追いかけなければ」と思い自機を反転、その“門”まで急上昇したが間に合わず、目の前で消えた。
一連の出来事に深海棲艦の気配を感じず、また敵機撃墜直後で周囲への警戒を優先していたため注視はできておらず、自分の気のせいだと思い報告しなかった。申し訳ない、と烈風の妖精さんは伝えたそうです。
そうか、と。
一言呟いたのち、提督は
そして顔を上げると、加賀へと伝えます。
————全艦隊に通達。出撃海域にて空間のゆがんだ“門”と思しきものを見つけ次第、持ちうる艦載機の全てを派遣せよ。航空母艦以外で対空戦闘に自信のあるものは各自、高角砲や三式弾を装備。対空警戒を
命じた提督は、口元を綻ばせながら、
「きっと、岩井は困っているであろう。積極的に岩井の探索、支援、救助に志願する妖精がいたら、その者たちを優先的に訓練。しかるのちに“付岩井小隊”のネームドとせよ」
「て、提督? いいんですか……そんな、私の艦載機のためだけに、そこまでして……」
「お前の艦載機だからなのだよ。大事な大事な私の艦娘と、その装備妖精だ。お前にとって大切な者は、私にとっても大切なのだよ」
レア度5だしな……。
という提督の呟きは、加賀には聞こえませんでした。
「連合艦隊総司令部、横須賀鎮守府総督として命じる。装備妖精、零戦62型爆戦“岩井”を捜索し、連れて帰れ。帰還困難な状況にあれば全力で支援せよ。以上!」