気がついたら何処ともしれぬ深い森の中、手作り感溢れるログハウスのような家で暮らしていた。
憑依前の人格の日課で体に染みついた習慣なのか、日がな一日を修行に費やす。
お墓の手入れや、糧を得るための狩り。修行の合間にそれらをこなしながら日々を過ごしていく。
とってきた肉や山菜を腹に入れ、たまに魔獣と戦いながらも、ぶっ倒れる寸前まで修行して眠る。毎日変わり映えのしない毎日。
そんな生活が5年ほど続いただろうか。
カレンダーは無いが、毎日黒板の日付を変更しているからそこそこ正確な筈だ。
ちんちくりんの幼女だった体も、今では大分丸みを帯びて成長した少女の姿である。
明日の事なんて何も考えなくていい、ゆっくりとした生活。
最初は何となくやっていた修行も、続けていればよい趣味になった。
今の状況は、定年したらやってみたいなと密かに思っていたスローライフの理想である。
身体は若々しいとはいえ、もうここでこのまま一生過ごしてもいいかもしれない。そう思うぐらいには心地の良い日々だった。
そんなある日、私の家に来訪者が訪れた。
「久しいの、レア。成長したな」
「……誰?」
記憶にはあらずともやって来た爺が知り合いだという事は、彼に対して体が警戒していないからすぐに分かった。
しかしだからと言って記憶が浮かぶわけではない。
「覚えていないのか? ……まあ最後にあったのは六年前だから無理もないことか。儂はジェイソンだ。カーチスは何処にいる?」
「ん」
なんか勘違いされているが、訂正する気は起こらない。ずっと一人でいた弊害だろうか、そもそも会話をする気もわいてこない。
ジェイソンも特に気にした風は無いので私は小さい頃からこんな性格だったのだろう。
しかしカーチスという名前は墓石に刻まれていたから知っている。ついて来いと言わんばかりに私は歩き出した。
そして爺を案内してやって来たのは、盛り上げた土に岩を乗っけたカーチスの墓だった。
暇な時間に砂利を敷いてみたり、社や鳥居を作ってみたり、墓地にありそうな石の塔みたいのを作ってみたりしたので、そこそこ立派である。
周囲の森とも上手く調和しており、私も中々の出来だと自負していた。
今日はまだ来ていなかったので、道中摘んできた花を供えて周囲の生えだした雑草を抜いていく。
私が覚えてもいない彼の為にここまでするのは理由があった。
彼が残した日記。それから私を思っていた気持ちは伝わってくるし、なにより修行に非常に役立った。
そういった敬意と感謝からくる行動である。
「……そうか、奴は死んだのか。いつの事だ?」
「……5年くらい前?」
少なくとも5年前には死んでいたのは間違いない。
掃除を手伝ってくれている爺を横目で見ながら、私は適当に答えた。
「……今まで一人で生きて来たのか」
当たり前だろ、という内心も表には全く出ない。無言でコクっと頷いておく。
「そうか……。これからどうするか、考えてはいるか?」
無言で首を振る。
「ふむ。外に興味はあるか?」
今も野外だが爺が言いたいのはそういうことではなく、森の外という意味だろう。
このまま何するでもなく朽ちていくのもいいかとは思っているが、外に興味はないかと聞かれれば、『無い』とは断言できなかった。
私は少し迷いながらも首を縦に振って肯定した。
晒し
連載中のほったらかして何やってるんだろう……