息抜きで書いたHxH(仮)   作:せとり

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第8話

 

 

 私の敗北が審判の人に認められたのを聞いて漸く、私は身体にべたべたと張り付いて動きを微妙に阻害していたオーラが消えていた事に気が付いた。

 強度が低すぎて、あまり気にもならなかった。

 人が蜘蛛の巣にかかっても、不快感は覚えても行動自体は全く制限されないのと一緒である。

 意識を失ったヒソカが黒服に運ばれていくのを私は眺めていた。

 

「お、おう、お疲れ。すげーじゃねぇかお前。あのヒソカをやっちまうんだからな!」

「……当然」

 

 壁際に戻ると、私は皆から腰が引けるように距離を取られた。

 そんな異様な状況の中、冷や汗を垂らしたレオリオが話しかけてきた。

 ヒソカと私のオーラに当てられてその精神は大分酷い事になっているだろうに、その張本人に話しかけるとは意外に肝が据わっている。

 そんなレオリオに触発されたのか、クラピカからも労わりの言葉を掛けられる。

 受験生で仲がいいのは後はキルアだけなのだが、感性が鋭いだけに深手を負ったのか、彼は未だに動悸が荒く、遠巻きにこちらを警戒している。

 

「……それにしても凄まじい気迫だった。あれには何か、秘密が?」

 

 憔悴した様子のキルアに私が目をやったのに気付いたのか、クラピカがそんなことを聞いて来る。

 クラピカからしてみればただの気迫、言い換えれば気合だけでここまで圧倒されるものなのかと疑問なのだろう。

 その秘密である念のことを説明してやってもいいのだが、どうにも念というものはハンターになるまで秘匿されるものらしい。

 合格一歩手前とはいえ、ハンター協会の目もある場所でばらすのはよろしくないだろう。適当に誤魔化すことにする。

 

「超一流になれば、あれぐらい普通……。そのレベルになれば……視線で人を殺せるとかも、冗談ではなくなる……」

「……そうか」

 

 私がはぐらかしたことに気が付いたのだろう、クラピカは腑に落ちなさそうな顔をしていたがそれ以上追及して来ることは無かった。

 同時に私が言いたく無さそうなことも察したのだろう。彼は気遣いが出来る人間である。

 

 やがて第三試合が始まり、忍者のようなハゲの勝利で速攻終わった。

 そして。

 

「第四試合! クラピカVSレア!」

 

 黒服の合図で第四試合が始まった。

 ちなみに、私は最初の時点で5回のチャンスが与えられている人間である。

 

「悪いな、レア。正直な所勝てる気がしないのだが、こんな機会は滅多にない。胸を借りさせてくれ」

「……」

 

 青地の貫頭衣の上着を脱ぎ捨て、木刀を二刀流に構えたクラピカが、真剣な表情で言った。

 念を修めて比較的頑丈だったヒソカと違い、クラピカが相手では手加減はさらに困難を極めるため、実質的に私に選択肢はない。

 私は無言で頷いた。

 

 そして、再び演武は始まった。

 しかしそれは主役の練度の差か、先程とは比べようもなく劣っていた。

 速度からして一目瞭然である。

 私にとっては欠伸が出そうな時間。幸いにも、それは10分ほどで終わった。

 

「……すまない、時間を取らせた」

 

 「参った」と静かに告げた後、薄らと汗をかき、息を乱しながらもクラピカは私にそう声をかけた。

 実感できた実力差にどこか思うところがあったのか、心ここに在らずといった様子だった。

 レオリオが励ましてるし、私は行かずにそっとしておくべきだろう。

 そう思って、私は壁際に待機していた黒服に声をかける。

 

「……合格者は、ここに居なくてもいい……?」

「え、あ、はい。合格者の方は自由にしてくださって結構です」

 

 私に声を掛けられたからか、黒服の人は若干挙動不審になった後にそう答えた。

 その答えに満足して、私は礼も告げずに黒服の男に背を向けた。

 そして大きな扉を押し開き、ホールを後にする。

 あそこにいても、もう得る物は何もない。だったら割り当てられた個室でまったりしていた方がいいとの判断だ。

 高級ホテルを貸切にしているハンター協会は太っ腹で、ルームサービスなんかも自由である。

 三日間の滞在で、私は大分このホテルが気に入っていた。

 

 

 

 

 

 翌日の合格者説明会に集まった面子により、私はキルアが不合格になった事をようやく知った。

 私やヒソカ、変な針男のような例外を除けば一番強いであろう人物である。一体何が起こったんだ。

 ……というかその針男がいない。

 ヒソカは病院送りでゴンは未だに目覚めていないらしいので、二人がいないのは理解できる。

 かわりに存在するのが長髪能面の優男。皆が当たり前のようにしている所をみると、どうにも針男は彼の変装した姿だったらしい。

 まあ、終わった事だし私にはもう関係の無い事か。

 さっさと講習を受けて爺に報告しよう。「ハンター試験に合格したら、儂が知ってることを全て教えてやる」とか意味深なことを言ってたし。もしかしたら私が憑依した事で何か知っていることがあるかもしれない。

 しかし、サクッと講習を済ませて帰るという私の目的は果たされることは無かった。

 

 一言で言うと、揉め出した。

 レオリオとクラピカがキルアの不合格は不自然だと抗議し始めたのだ。

 そしてその事で議論が交わされ始め、説明会の終了は予定時間を大きくずれ込むこととなる。

 まあ、そのお蔭でキルアが不合格になった当時の状況は見えてきた。

 なんとあの優男はキルアの兄だったらしい。言われてみれば歩き方や目の辺りが似ているかもしれない。

 それにしても肉親を刺して喜ばれる暗殺一家とは……本当にこの世界はクレイジーである。

 

 会長、ひいてはハンター協会は合否を覆すつもりはないらしい。しかしそれでもクラピカとレオリオは食らいつく。

 議論は平行線を推移した。

 

「……」

 

 私は頬杖をついて明後日の方へと視線をやり、ただ時間が過ぎ去るのを待っていた。

 だから、私はこの部屋へと近づく怒気を纏ったゴンの気配を一番先に察知した。

 バン! と後ろの扉が乱暴に開かれた。

 ずかずかと左腕を吊ったゴンが入ってくる。

 一直線にキルアの兄、ギタラクルの横へ。

 

「キルアに謝れ」

 

 わお。

 ゴンの突然の乱入に、議論は急展開を迎えた。

 それぞれが言いたいことを言い終えたのか、会長の鶴の一声で不毛だった議論は終了。説明会が再開される。

 ……豆頭の人の説明を聞くところによると、本当にこれから先、金銭面では不自由しなさそうだった。

 盗難に気を付けて、肌身離さず持っておかないと。

 

 説明会が終了し、皆してぞろぞろと廊下へ出ていく。

 そして解散。私は何となくゴンの一行についていった。

 ぼっち気味に反対側の廊下を去って行くギタラクルの後ろを歩くのは、なんだか同類みたいで嫌だったからだ。

 とはいえキルアのお宅訪問にはついていく気はない。

 四次試験で一緒になった四人とは、知り合い以上友達未満といった関係であるし、わざわざ暗殺一家の根城に向かう三人を守る義理もない。

 それに私のような実力者がついていくと、警戒されて話がややこしくなってしまう可能性も否めないからだ。

 自分の縄張りにいる時に、私のような存在がやってくれば、私は絶対警戒する。大した用が無いとか言われても、万が一の可能性は考えるから否応にも対応は変わる。

 うん、行かない方がいいな。私も用事があるし。

 ホームコードとやらを居合わせた者達から貰った後、そんな説明をしてから三人と別れて、私はホテルを後にした。

 

 

 

 

 

 二日後。

 さっそくハンター証を使って爺の自宅の住所へと向かった私は、まずは電話で報告してからそちらに向かっていることを告げることにした。

 最初は何も告げずにサプライズ気味に訪問することを考えていたが、よく考えれば私たちはそんな気安い関係でもないだろう。

 少し時間が経って冷静になった私は、滑ったら嫌だと無難な訪問に予定を変更したのだ。

 それは結果的に、知らず知らずのうちに針の筵へと向かっていた無知な私を救うのだった。

 

「……はい。……分かりました。……はい、わざわざ、ありがとうございました……」

 

 がちゃり、と私は耳に当てていた受話器を置いた。

 

 最初に出たのは爺の孫を名乗る少女で、結構可愛い感じの声だった。

 しかし私が名乗り上げれば「お祖父ちゃんに止めを刺した悪魔め!」とか罵られたが。

 ……そう、どうやら爺は私を見送った後にぽっくり逝ってしまったらしい。

 一人ヒートアップしていた少女の騒ぎを聞きつけたのか、少女の母が電話に代わると事情を説明してくれた。

 

 何でも爺は数年前から死病を患っていたらしい。

 私の父である親友との約束で、やり残したことがあると口々に言っていたらしいが、私が住んでいた森はどうも難所として有名らしい。心配する家族に今まで止められていたようだ。

 しかし数か月前、医者に治るどころか余命後僅かも無いと宣告され、強硬手段に出たらしい。

 勝手に病院を抜け出して、私のところへやって来たのだ。

 私と別れたその後は、どうにか家に辿り着いてから数日後、安心したような表情で力尽きたようにぽっくりと息を引き取ったらしい。

 

 そんな事を聞かせてくれた女性は、当時の事を思い出したのか涙ぐんでいた。

 だが、どうにも彼女には私を恨んでいる節は感じられなかった。

 疑問に思って聞いてみると、爺がいなくなった直後こそ逆恨みしてしまったものの、憑き物が落ちたような爺の死に顔に考え直したらしい。

 むしろ感謝の言葉すら伝えられた。

 そして爺からの言伝と渡したい物があるから、いつでもいいから家に来てくれと言われてしまった。

 だが、お孫さんのことを考えると、私は顔を出さない方がいいだろう。

 私のルーツに関わっていそうなだけに気にはなるが、何も今では無くてもいいはずだ。

 ほとぼりが冷めた頃に、こっそりと伺うことにしよう。

 一月以上経ったにも関わらず、お孫さんはあそこまで怒り狂っているのだから、大分後の話になりそうだったが。

 

「……これから、どうしよう……」

 

 短期的な目標を喪失して、私は電話の前で呆然と呟いた。

 

 

 


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