息抜きで書いたHxH(仮)   作:せとり

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そういえば主人公の容姿を描写してなかったなぁと閑話的な
他人からの視点です



第9話

 

 

 アルド・カフィは浮浪児である。

 しかし下っ端とはいえヤクザの兄貴分に目を掛けて貰うことが出来たという幸運と、彼自身の才能により、浮浪児という字面から想像されるほど悲惨な生活は送っていない。

 特定の住居を持たないとはいえ、三食きちんと食べているし、衣服や身なりだって小奇麗だ。

 極貧家庭に生まれた子供よりも余程ましな生活を送っていると、アルドは自身の経験から実感していた。

 そして周囲にいる似たような境遇の子供達と会うたびに思うのだ。

 呑んだくれで暴力的だった父を殺して正解だった、と。

 晩年は最低だった父だったが、悪女だった母に騙され借金を押し付けられる前、アルドが幼い頃はごく普通の善良な父親だった。

 楽しかった思い出もたくさんあった。それでもアルドは実行できた。

 自身の手をもって愛憎入り混じる父を殺して、それで覚悟が出来たのだろう。

 同年代で同じ境遇とはいえ、一般的な浮浪児とはアルドは頭一つ抜ける存在となっていた。

 

「おお、アルド! ちょうどいいところに! ついて来い、お宝だ!」

「は、はあ」

 

 カモでもいないかと特に目的も無くアルドが昼間の街を歩いていると、背後から兄貴分的な男にそんな風に声を掛けられた。

 とりあえず、アルドも先を急ぐように走る男に並走する。

 

「一体何が?」

「ハンター証だよハンター証! 公園で手に持っていたガキをモッコスが見かけたらしい! 本物じゃねーかもしれねぇが時期は合う! 奪う価値はあるだろ?」

 

 男の言葉にアルドはなるほど、と思った。

 ハンター試験はほんの数週間前に行われている。試験に数週間かかったとしたら、確かに時期は合う。新人ハンターである可能性が数パーセント上がるだろう。

 その子供が普通なら、カードを取り上げるぐらいなら特にそんなに労力も掛からず、ハンター証が偽物だったとしても失うものは何もない。

 そう、その子供が普通だったら。

 もしそのハンター証が本物で、子供もハンターになれる程の化け物なのだとしたら……。

 

「……っ!」

 

 アルドは首を振って、嫌な思考を振り払う。

 売り払えば7回人生遊んで暮らせるといわれる巨額の大金のおこぼれに与れるかもしれないという可能性に、アルドは湧き上がった不安を握り潰した。

 

 

 

 

 

 ――あれは、悪魔だ。

 アルドは恐怖で自身の身体を震わせながら、心中で呟いた。

 

 モッコスが見かけたという子供は、アルドが駆けつけた時も未だに公園のベンチに座っていた。

 陶器の様な白い肌に金糸の様な長髪。仮面のような無表情も相まって、まるで人形のような雰囲気の少女である。

 少女の美に見惚れたのは一瞬。与し易いと見たのか、話を聞いて公園に集まった荒くれ者は下品な笑みを浮かべたが、アルドの抱いた感慨はまるで正反対だった。

 本能は囁いた。『あれは正真正銘の化け物だ』と。

 今にして思えばそこで逃げていれば良かった。しかし直感だけを信じられずに留まってしまったのが、アルドの限界。

 だから今は地に倒れ伏して無様に震えている。

 

 一瞬の出来事だった。

 下品な笑みを浮かべて近づいた男が、人形のような少女に一瞥された。それだけでその場の空気は一変した。

 まるで、一瞬にして地獄の最下層に落とされたようだったとアルドは思い出せる。

 まず、睨まれた男が視線と気迫だけで殺された。多分死因は心臓麻痺だろう。

 直接睨まれなかった者達も余波だけで、似たような感じでバタバタと倒れ伏していった。アルドもこの中の一人だ。

 堅気じゃない者が集まってくるにつれ、公園から一般人の姿は消えていた。つまり関係のない者は今、この場にはいない。それがアルドの言う悪魔――レアから容赦というものを奪い去っていた。

 アルドは気が付いていない事だが、同じように倒れ付した者達で、生存者はもう既にアルドだけとなっている。

 凶悪なオーラに当てられて、持ち前の才能によるものか、咄嗟に精孔を開けたことがアルドの命を長らえさせた。

 しかし身体を押し潰すような重圧に、極寒の大地に裸で放り出されたような寒気。身動きが一切取れず呼吸すらも制限されて、何をされるのか分からない不安感。

 それらによってアルドはパニックを起こし、生存本能により自身の身体から迸るオーラには全く気が付いていなかった。

 当然そんな精神状態で、念を纏うことなど到底出来やしない。

 

 生存者に気が付いたのか、無表情にアルドに歩み寄る少女を目にして、そのパニックは頂点に達する。

 彼女の目には、少女は自分に止めを刺しに来る死神のようにしか見えなかった。

 このままでは死ぬと思っても、自身の体を掻き抱いて歯をがたがたと打ち鳴らし、ただ恐怖に震えて涙を流す事しかアルドにはできない。

 微かに砂が擦れる音。少女はアルドの目の前で立ち尽くしていた。

 あまりの恐怖に視界が掠れ、酷い耳鳴りが聞こえてくる。心臓の鼓動もうるさかった。

 

 しかしその時のアルドの心中に、恐怖という感情しかなかったのかと言われると、少し違う。

 力の顕現。まるで最強という概念を具現化したかのような少女の圧倒的な存在感に、憧れや羨望のような感情は確かに湧いていた。

 ただし今は、そんな規格外の存在に何をされるのかと気が気ではない。

 

「――――――」

 

 人形のような少女の、小さな唇から鈴を転がすような声が聞こえてくる。

 しかし自身の体内から聞こえてくる雑音により、アルドには少女が何を言ったのかはよく聞き取れなかった。

 それでも少女から放たれていた重圧がふっと無くなったことにより、アルドは自分が許されたのだと悟ることが出来た。

 ――プツンと、そんな音が聞こえた気がする。

 安堵によって緊張の糸が途切れたアルドは、急速に遠ざかる己の意識を自覚した。

 

 その数分後、オーラを枯渇させた最後の生存者は、直前のショックも合わさり死亡する。

 

 

 

 

 

 その日、昼間の公園で起こった謎の大量怪死事件はその後の数日間、大いに世間を賑やかすものとなった。

 駆けつけた警察は、事件の現場に居合わせた少女、レア・ツァイスに任意同行を求めるも、本人はハンターライセンスを提示した上で拒否。

 その行為は駆けつけた警察に大変な顰蹙を買ったが、検視の結果、公園で死亡した殆どの者が心臓麻痺で亡くなっていることから殺人事件とはできなくなる。

 念を認知していない警察では、当然罪には問えない。

 下手人であるレアは無事、“たまたま偶然現場に居合わせた無関係な人間”という事として処理された。

 

 

 

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