第1話
アメリカのある都市シュテルビルドの空港である一人の少年――鏑木転李――は家族と別れを告げていた。少し寂しそうにしている妹の楓の頭を撫で、ばあちゃんに勉強だけでなく私生活の注意をされ苦笑いで返し、親父は…
「いやぁ! まさかの俺の息子があの雄英に進学できるなんてなぁ!」
「お父さんうるさい! 恥ずかしいでしょ!」
「雄英進めたのあんただろうに虎徹。転李が受からないとでも思ってたのかい?」
「うぇ!? な、何もそんなこと言ってないだろう!」
「…賑やかな家族だな、相変わらず」
目の前で漫才を始めた三人に呆れる転李。しかし、その表情は嬉しそうに笑っていた。
なぜ、俺が日本の雄英高校に進学することになったのか。それは親父と同じヒーローで友人と豪語するオールマイトが雄英で教鞭を今年から取ると本人から聞いたようで、ヒーローになるなら彼の下で勉強した方が良いと息巻いていたからだ。
転李自身、ヒーローである親父――鏑木虎徹――が好きで親父と共にヒーローになるのが夢だった。しかし、何故か親父は自分がヒーローであることを家族に隠そうとしている。すでに妹の楓以外にはバレバレだが…
まぁ、それが親父のポリシーなのだろうと勝手に解釈してどうせなるなら自称親父の友人らしいオールマイトのいる学校で勉強しようと思ったのだ。
「それにしても、本当にオールマイトの知り合いなのか親父?」
「当たり前だっての! それに知り合いじゃなくて大親友も大親友よ!」
「てか、なんでお父さんとオールマイトさんが友人なわけ?」
「えっと、それは…あいつがアメリカに留学してきたときに……そう! 道に迷ってたのを俺が助けてやったのよ!」
「「……いや、怪しすぎるから」」
「なぁにぃをぉ!!」
「アンタたちいい加減にしなさい。ほら、転李。もう行かないとまずいんじゃないかい」
「おっと。そうだった…んじゃ、あっちに着いたら連絡するよ」
「約束だからね!」
「おうよ」
またも少し不安そうな表情を見せた楓の頭を無理やり撫でまわすと文句を言いながらも嬉しそうに笑みを見せてくれる。可愛い妹だよ。
けど、親父よ。楓とスキンシップしてるのが羨ましいからってそんな顔すんな。いい歳だろ、あんた。
「ま、お前もこれからヒーローとして成長していくんだ。能力だけに目を向けずにヒーローの何たるかをしっかりと学んで来い」
「言われなくても分かってるよ」
拳を突き出して笑みを見せる親父に俺も同じように拳を突き出して笑みを見せる。こんな男くさいやり取り俺達親子ぐらいしかしないんじゃないだろうか?
親子二人で不敵な笑みを見せているのを見てばあちゃんはヤレヤレとため息を吐いていたが、楓は何処か悔しそうな表情でこっちを見ていた。楓も親父も似た者同士だよ、ほんと。
鏑木転李は家族と離れ。一人雄英高校のある日本へ渡った。
雄英高校の近くにあるアパートに着いた転李。先についていた荷物を軽く片付け。寝る前に楓に連絡したのだが…
「おぉー転李。もぉ着いたのか?」
「なんで、親父が出てんだ?」
「いや。楓が風呂行ってる時に携帯が鳴ったから見たらお前の名前だったからさ」
「……俺は良いけど、楓のやつ絶対に怒るぞ?」
――ちょっと、お父さん!? 何勝手に人の携帯使ってんのよ!!――
「か、楓! ち、違うぞ!? 転李から電話がかかってきててだな? きれたら楓が悲しむだろうと…」
――お兄ちゃんからなの!? 早く変わってよ、バカ!――
「ば!? バカとは、なんだ!! 親に向かって言う言葉じゃないだろ!!」
――あんたたちうるさいよ! 何時だと思ってるんだい!!――
「……ほんっとにうるさい家族だな」