―――46m
緑谷出久が全力で投げたハンドボールの飛距離。彼は個性を使って全力で投げようとした。途中までは個性が発現しかけていたのに、急に発動しなくなり平凡な投球になってしまったのだ。
投げた本人さえ理解できずに茫然と自らの手を眺めていた。
そんな彼に担任である相澤は一言。
「個性を消した…」
静まり返るグラウンドに聞こえた声に生徒全員が担任を見つめる。相澤先生はだらしなく伸びきった髪をかき上げ、首にぐるぐると巻き付けられた包帯のような長いロープを解いていくと首元にゴーグルが見えた。
先生の個性とゴーグルを見た緑谷くんは思い出したように表情を変え声をあげる。
「抹消ヒーロー、イレイザーヘッド!」
「イレイザーヘッド…飯田くんは聞いたことある?」
「…兄から聞いた覚えはある程度だな」
「教師の仕事ばっかりでヒーロー業あんまりやってなかったんかな」
「考えたらわかるだろ、丸顔」
「んなぁっ!?」
「どういうことだい、爆豪くん?」
「あんな個性を消す個性なんざ表立ってなんかできる訳ねぇだろうが」
「へぇ…」
「んだよ?」
「いや。意外と冷静に判断できるんだね、爆豪くん」
「何が言いてぇんだ、このウサギ野郎!!」
「よさないか君たち!! 今、先生と緑谷くんが話している最中なんだぞ!!」
今にもキレそうな爆豪くんを何とか鎮める飯田くんに謝って先生と緑谷くんの方を見る。どうやら話し合いは終わっていたようで、相澤先生は緑谷くんから離れていた。
ただ、緑谷くんはただボールを持ったまま、その場で立ち尽くしている。
「どうしたんやろ?」
「何かアドバイスを受けていたようだったが…」
「にしては、緑谷くんの表情暗くないか?」
「除籍宣告だろ」
「…なんか緑谷くんとあったのか?」
「あぁ!? おめぇには関係ねぇだろ」
「……了解」
「静かにするんだ二人とも。緑谷くんが構えたぞ」
すっごい怒りを抑えた顔をこちらに向けてくる爆豪くん。流石に表情で丸わかり過ぎるので、それ以上は口を挟まないでおこう。
飯田くんの言葉で俺と爆豪くんは緑谷くんに視線を向ける。ボールを持つ右手を大きく振りかぶりボールを投げ飛ばした。
一回目と同じく特に変化は見られなかったが、最後指先からボールが離れる瞬間…
「スマァアアアアアアッシュッ!!!」
緑谷くんの大声ととともにボールはすさまじい球速を得て、空へと昇って行く。
何が起きたのか分からない。先ほど相澤先生と話していたのは本当に助言だったのかもしれない。ボールはすでに目で追えないほど遠くへ消えてしまい、球速を失ったボールは一回目の投球とは次元の違う結果をたたき出した。
――705.3m
「やっとヒーローらしい結果だしたよ!」
「確かに飯田くんの言った通り筋力強化系の個性みたいだね。けど…」
「あぁ、指がはれ上がっている。入試の時と言い、おかしな個性だ」
「ありえねぇ…」
「ん? 何か言ったか?」
「どーいうことだ……
ワケを言えぇ、デクてめぇ!!」
「うわぁ!? かっちゃん」
「落ち着きたまえ、爆豪くん!」
「ったく、感情的で合理性に欠ける…」
俺の横にいた彼が急にキレて緑谷くんに詰め寄るもんだから、止めることも出来なかった。飯田くんが声をあげて停止を呼びかけるも全く聞き入れず。
テレポートして爆豪くんを止めようかと思ったが、相澤先生が先に個性を使い爆豪くんの個性を消した。
個性が発動できない爆豪くんは態勢を崩しかけた瞬間、相澤先生は自身の首周りに巻き付けているロープを自在に操り、緑谷くんまであと数mの距離で爆豪くんを絡めとった。
「んだ、この固い布は…!」
「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ"捕縛武器"だ。ったく、何度も個性を使わすな…
俺はドライアイなんだ」
個性すごいのにもったいない!っと、クラス中全員が心の中で叫び声が響いた。
そんな生徒たちの事なぞ気にすることもなく、相澤先生は個性を解除すると次の種目に入るように俺たちに指示を出し、それに従いみんな移動を開始。
緑谷くんも怪我した指を庇いながら爆豪くんの横を静かに通る。ひと騒ぎまた起きるかと思ったが、爆豪くんは彼を睨みつけるだけだった。
「指は大丈夫かいって、痛いよね」
「う、うん。けど、残りの種目頑張らないと…」
腫れて変色した指を庇いながら緑谷くんは俺の横を通り過ぎて行った。途中で麗日さんや飯田くんとも話していたが、俺は彼以上に気になったのは爆豪くんだった。
「落ち着いた方が良いよ、爆豪くん。まだテストの最中だろ」
「んな事言われなくても分かってるわクソが! 話しかけんじゃねぇ!!」
声を荒げ、俺の肩に態とぶつかった爆豪くんは一人移動を開始する。俺はその様子を静かに見つめながら、彼の後ろ歩いて行った。
「ついて来てんじゃねぇ、ウサギ野郎!」
「ほかにどこに行けば良いんだよ」
理不尽である。
―――――――
―――――
―――
「んじゃ、パパっと結果発表な」
そうして、残りの種目もすべて終え最後に結果発表を残すのみ。最下位は除籍処分。生徒の緊張など気にする様子もなく、相澤先生は電子端末から順位を表示させる。
1位 八百万百
2位 鏑木転李
3位 轟焦凍
4位 爆豪勝己
・
・
・
「なんで、お前が俺より上なんだよ」
「俺を睨まないでくれる?」
「爆豪もすごかったけど、やっぱりテレポートって強個性だよな」
「あぁ!?」
「ヒィ!?」
俺の横で人の順位に悪態着く爆豪くんと、そんな彼に油を注いで着火させる上鳴くん。怖いなら言葉選ぼうよ上鳴くん、俺の後ろに隠れるぐらいなら。
そんな俺たちの会話に赤髪の生徒――切島鋭児郎――が入ってきた。
「俺なんか硬化するだけの個性だから目立たねぇし」
「今回のテストでは俺に有利な種目ばっかりだったから上位に入れただけだよ。けど、切島くんは上位10位以内に入れてるだろ、自分の弱点を確りと把握してるからじゃない?」
「鏑木……お前、良い奴だな」
「そ、そう?」
「下から数えた方が早い俺は落ちこぼれだよな…」
「上鳴くんは個性を使用できる場面ほとんどなかったでしょ? それに電気系の個性って有能個性だと思うけどな」
「けどよ、俺なんて操れるわけじゃねぇからよ」
「そんなのここでいくらでも学べるんだから、それに上鳴くんだって自分の弱みを確りと理解できてるじゃん。それならそれを克服するだけだよ? そのために雄英に来たんだから」
「かぶらぎぃ~~~」
「分かったから泣きべそ見せながら抱き付かないで、上鳴くん」
体操服に上鳴くんの涙の跡が……
てか、芦戸さんや耳郎さんも呆れたような顔でこっち見てないでよ。爆豪くんも"馬鹿どもが…"とか言いながら興味無くすのやめてくれない?
そのあと、先生の話を騒いでたせいで俺と上鳴くん、切嶋くん(爆豪くんはちゃっかり話を聞いてたみたい)は聞き逃していたけど、どうやら除籍処分は先生の冗談だったらしい。
良かったね緑谷くん。