ローターを入れたまま戦うFate/stay night 作:エロスはせがわ
「お゛っ……! お前がもしかしたら、七人目だったのかもな。
ま、まぁだとしても、これで終わりなんだがががが」
月明りに照らされた、薄暗い蔵の中で、士郎はその言葉を聞く。
なんか目の前の青タイツの男は、ブルブルと身体を震わせているような気がする。いったいどうしたんだろう?
「こ、言峰の野郎……! よりにもよって“強”にしやがって……!
さっさと終わらせて帰らねぇと、もうどうにかなっちまうっ!!
……じ、じゃあな坊主。今度は迷うなヨヨヨ」
そこはかとなく中腰で、まるでお尻を庇うような姿勢のまま、青タイツの男が槍を構える。
目撃者を消す為。衛宮士郎の命を奪う為に。
なんかプルプルと震えながら、槍の穂先を心臓の位置に添えた。
(ふざけるな! まだ俺は死ぬわけにはいかない!
――――お前なんかに殺されてやるものか!)
今まさに男の槍が、心臓を貫かんとした……その時。
まるで士郎の強い想いに呼応したかのように、辺り一帯が眩い光に包まれる。
足元に描かれていた魔法陣が光を放ち、荒れ狂うような強風を発生させる。
「マジかよ!? まさか本当に七人目か!?
俺ぁいま、それどころじゃねぇってのにッ!!」
なんかものっすごく焦った声を出して、青い男が蔵の外へ飛び出す。(お尻を押えながら)
そして、その背中を追うようにして、魔法陣から飛び出す影があった。
「ま……待ちなさい! ホントに待って下さい!
こんなの歩けるワケが無い! 戦えるワケが無いじゃないですか!」
でもその人物は、なにやらギュッとスカートの前を押え、前かがみだ。
なんとかヨタヨタと歩いてはいるものの、その歩みは牛歩の如く。そして物凄く内股になっている。
「……くっ! くぅ~ッ!
待って下さいランサー! 遠くへ行かないで下さい! いま私は動けないのです!」
「うるせぇバカ野郎! そんなん俺だってそうだッ! 泣き言いってんじゃねぇ!」
あわわわ……! と手を前に出し、必死で追いすがる。
だがランサーのいる場所は、ここからまだ20メートルも先。
突然この場に現れた白銀の少女は、もう泣きそうな顔で足をガクガクと震わせている。
いったいどうしたのだろうか?
「し、仕方ない……! ランサーを追う前に、先に挨拶を済ませておきましょう!
――――問おう。貴方が私の……
「……」
少女はプルプルと震え、顔を真っ赤にしながら士郎へと向き直る。
そして頑張って真っすぐに立ち、まるで気力を振り絞るようにして言い放った。
きっと彼女の心境としては、(ここは大事な所だ! しっかり挨拶だけはしなければ!)という感じに違いない。
たとえ今、自分が立っている事もおぼつかない状態だとしてもだ。流石は騎士王である。
「えっと……君は?」
士郎は呆けた声。いま目の前にいる、滝のような汗を流す少女を、ただ見つめるばかり。
しかし、その時士郎の手にあった令呪が赤く発光し、ズキリと痛みを発する。
思わずうめき声をあげる士郎。だがその様子を確認した白銀の少女は、何かを確信したようにコクリと頷いた。
「サーヴァントセイバー。しょ、召喚に従い参上しましゅた。
こ、こここに契約は完了した――――
これより先、貴方の命運は私と共にあり、我が剣は貴方と共にあるぅ~?!?!」
とても大事なシーンだが、途中ニワトリみたいに「ココココ!」
しかも語尾が「あるぅ~↑」みたいになっている。
本当にこの子はどうしたのだろう? 何かあったのだろうか?
「~~ッッ!? で、では主従の証として、貴方にはこれを持っていて貰いたい……」
セイバーと名乗った少女は、とてもゆっくりチョコチョコ歩いて、士郎の目の前にやってくる。
物凄く内股で。モジモジと上目遣いで。
「良いですかマスター? これは此度の聖杯戦争において、令呪と同じくらい大切な物。
決して失くす事無く、肌身離さず持っていて下さい。……本当にお願いします」
そして少女は、小さな機械のような物を手渡す。
タバコの箱くらいの大きさで、四角くてピンク色。なにやらボタンのような物がたくさん付いている。
「えっ、なんだコレ? 何かの装置なのか?」
「そうです
機械いじりが趣味の士郎だが、こんなの今まで見た事が無い。
とりあえずは受け取り、マジマジと観察してみるが、それが何なのかは全然分からない。
解析魔術の使い手である士郎だが、それが「どこかに電波を飛ばして何かを作動させる為の機械」だという事しか分からなかった。
あとはそれがとても高性能で、きっと何キロも離れた場所からでも、しっかり動作する優れモノであるという事くらいだ。
「何に使うんだコレ? ……とりあえずは、ポチッと」
『――――ひゃああああああんっっ!?!?!?』
その途端! 少女がとんでもない大声をあげる!
目を見開き、腰が砕けたように崩れ落ちて、ギュ~っとスカートの前を押えている。
「ま! マスター! マスターマスターマスター!!
そのボタンは“強”です! 押したらダメなのですっ! んいぃぃ~~っ!!」
「えっ?! えっ?!」
少女の尋常じゃない様子に、オロオロとうろたえる士郎。
「そっ……! そそそっ!! それはぁ~!!
宝具を使用する時にぃ! 頑張る時に押すための物でぇ~っ!
今は押してはいけないのですぅぅぅ! ああーーん!!」
「えっ。えっ」
少女は〈ガクガクガクー!〉っと身体を震わせて懇願する。お願い許してと、必死に叫ぶ。
士郎は慌てて機械を構え、「あわわ!」とうろたえる。
「ごめんセイバー! えっと! ……これかな?」
そしてポチッと違うボタンを押した瞬間、またこの場に艶声が響く。
『――――うにゃああああーーーーーーん!!
まっ! マスター! マスタぁ~~!!』
「うわあああ! ごめんセイバー! ごめん!」
そっちは令呪を使う時のボタンです! とびきり頑張る時に押すヤツです!
そう必死こいて説明するセイバーの様子に、士郎はもう大慌てである。
「こっ、これか? これか?」(ポチポチポチ)
『あーーーーん!! ああああーーん!!
シロウッ! しろぉぉぉー! うにゅ~~ん!』
それは呼びつける時のヤツ! それ傷を治す時のヤツ! 身体強化のヤツ!
セイバーは矢次に説明していくが、なかなか正解のボタンが見つからない。
どれを押せば良いのか、まったく分からない!
『――――えええエクスカリバァァーーッ♡♡♡(意味深)』
その時! 少女がバターンと後ろにひっくり返る!
まるで雷に打たれたように! 「あーん!」と声をあげて倒れ込んでしまう!
いったい何があったのだろうか?!
「せ、セイバー?! どうしたんだよセイバー!?」
「あ……あああ……シロウ(はぁと)」
海老のようにピーンと反り返り、ただただ恍惚の表情を浮かべるセイバー。士郎は慌てて抱き起すけれど、彼女はもうまともに話が出来る状態では無い。
士郎にギュッとしがみつき、ハァハァ甘い吐息を漏らすのみだ。
ちなみにさっき外の方から、あの青い男の物であろう「うわーん!」という叫びも聞こえた。偶然にもセイバーと同じタイミングで、その身になにやらあった事が伺える。
それが何なのかは、分からないけれど。
「いけないっ! 今とても身体が敏感にっ……!
離れて下さいマスター! ドンタッチミーです!」
「うわぁごめん! 俺そんなつもりじゃ?!
と、とにかくボタンを! うおおおポチポチポチ!」
『いやぁーーーーーーーっっ!!
いっ! いまイッ……! ウ゛ィッてましゅからぁ~!
今はふぎぃ~ん☆☆☆』
――――何だこれは?! いったい何が起こっているんだ?!
――――――これは一体なんの為のボタンなんだ?!
だがいくら押してみても、士郎には分からない。
このピンク色の、ちゃちなオモチャのような機械はいったい何なのだろう?
いったい今、セイバーの身に何が起きているのだろう? 彼は知る由も無い。
その後、とりあえず士郎はポチポチとボタンを押し続け、セイバーを助けてやるべく懸命に努力する。
だが何をやってもセイバーは「きゅうぅぅん!」とか「ああああん!」とか言うばかり。約1時間ほどボタンを押し続けたが、成果は芳しく無かった。
最終的に彼女は「ぐったり!」と倒れ伏し、そのまま気を失ってしまう。
なにやらリンゴのように頬を赤く染め、どこか幸せそうに、そして満足気に眠る彼女。
その様子を見ても、士郎には分からない――――いったいこの子の身に何が起きているんだ。
未だ少年の域を出ない士郎には、皆目見当が付かないのであった。
試しに眠っているセイバーに向けて、何度かポチポチとボダンを押してみたのだが、彼女はその度にピクピクと身体を振るわせ、甘い吐息を漏らすばかり。
寝言のように「ますたぁ♡ ますたぁ♡」と呟く声は愛らしかったが、どうやら彼女を救ってやる事は出来なかったようだ。
ちなみに後で確認してみると、表に居たはずのランサーは既に姿を消しており、どこにも姿は見当たらなかった。
きっとセイバーと同じく気を失って、言峰あたりが連れて帰ったんだろうと思う。
とりあえず士郎は己の不甲斐なさを感じ、またじっくり機械を研究するように、ひたすらボタンを押し続けるのだった。
――――聖杯戦争。それは七騎のサーヴァントとマスター達による、命懸けのバトルロワイヤル。
まぁ今回の第五次聖杯戦争に限って言えば、なにやらサーヴァント達の身体には“特殊な道具”が装着した上でおこなわれているようなのだが……それがいったいどのような物なのかは、まだ未熟な魔術師である士郎には知る由も無い。
そして士郎が知らない以上――――私たちに分かるハズも無い。
イキ残るのはいったい誰なのか?
この戦いに、この行為に、いったい何の意味があるのか? どういう趣旨なのか?
ふと手元の機械を観察してみると、そこにあるのは“ビッグバンなんたら”という謎の文字。
【通常の86倍の……】とも書かれている。
「しゅごぉ~い……☆ これしゅごいですぅシロウ~♡」
その言葉の意味も、よく分からないまま。
士郎の戦いの火蓋は今、切って落とされたのだ――――
遠坂凛「ねぇアンタ! こんなの読んでて恥ずかしくないわけ!?
-
士郎「ん、なんでさ?」
-
慎二「こんなって何? 言ってみろよ遠坂」
-
桜「変なこと考える姉さんがおかしいです」
-
ギルガメッシュ「愉悦」
-
この胸の高鳴りがオケアノスの潮騒だったか