ローターを入れたまま戦うFate/stay night 作:エロスはせがわ
あの夜の事を、憶えている。
初めてサーヴァントの戦いという物を目にし、その異様さの前に、必死に逃げ出した日の事を。
家の蔵でセイバーと出会う、数時間前の事だ。
『ちょ……! テメェそんな早く動くなよ!
ゆっくりだろうがゆっくり! さっき約束したろうがよッ!』
もう夜も更けてきた、深夜の校舎。
その日、慎二とのジャンケンに負けた事によって、弓道場の掃除を引き受けていた士郎は、帰宅中にその声を耳にした。
大の男が情けない声を出し、なにやら罵り合っているような声が、校庭の方から聞こえたのだ。
『遠くに行くんじゃねぇよ! あんま離れんなよ! 槍が届かねぇだろうがっ!
おめぇは良いよ?! アーチャーだもんな! そらぁ遠くから攻撃できるだろうよ!
……でも俺ぁ何も出来ねぇんだよッ!』
『黙れクー・フーリン! 悔しかったら、ここまで歩いて来たまえ!
それに君には、高く飛び上がって槍を投げつける、という技もあるだろう!』
『――――ジャンプなんざ出来るかぁあああッッ!!!!
俺ぁ今、立ってるだけで精一杯だよ! ご覧の有り様だよ!
……どうすんだよ!? ジャンプした途端に、なんか出ちまったらぁーッ!!
今まで必死に堪えてたヤツが全部でちまったら、どう責任とってくれんだよッ!!
『ふふ。言うなれば君の中の
ジャンプした途端、檻を破って外に飛び出すやもしれんと』
『やかましいんだよ!!
いいからさっさとこっち来いってんだよ! 鬼かテメェ!』
ふと目をやれば、そこには大の男二人が、お尻を押えて必死にチョコチョコ動き回っている光景。
――――何なんだコレは、と士郎は思った。
『ちょっと……! お願いだから二人とも、大声ださないでよっ……!
もしこんな所を誰かに見られたら、生きていけなくなっちゃう!』
そして傍には、学校いちの美人と名高き女の子、遠坂凛の姿。
いま彼女はオロオロとうろたえ、必死に男達を諫めているようだ。
『プルプル震える男達を、リモコン片手に見てる女なんて、どう考えても変態じゃない!
そういうのが趣味の人みたいじゃないの! 女王様か私は!』
『さぁ指示を
『おうそうだ! なんなりと命令してやれ嬢ちゃん!
いまアーチャーはお前の為に戦ってんだ! ケツ押えながらよぉ!』
『やめてよそういうの!! これ私がやらせてるみたいに言わないでよ!』
痙攣したり、エビ反りになったりしながら、必死にケツを押えて動き回るサーヴァント達。その光景を憧れのマドンナである遠坂凛が見守っている。
――――なんだこれは。いったい何が起こってるんだ。
士郎は思った。
『……あっ! 誰が見てやがんぞオイ!』
『なにっ!? 捕まえろ凛! 生きてここから出すな!』
『えっ、ほんとに?! ……どこ? どこにいるのよアーチャー?!
――――こんなの見られたらもう、殺すしかないじゃないの!!!!
どこなのよぉアーチャーッ!?』
その後、お尻を押えながらチョコチョコ歩いてくるサーヴァント達の追撃を振り切り、衛宮士郎は家まで帰って来た。
後に聞く所によれば、もし士郎が聖杯に選ばれたマスターじゃなかったら、凛は確実に士郎のことを殺していたのだそうだ。
魔術で記憶を消すという手もあるが、もし万が一にでも思い出されたら拙いので、確実に息の根を止めていたと遠坂は語る。
魔術の隠匿、自らの平穏――――そして大切な乙女の矜持の為に。
『私ね? たまに魔術師って物が、よく分からなくなる事があるの。
……なんで私たちは、こんな事してるんだろうって。
私たちって実は、馬鹿なんじゃないかって――――そう思う時があるのよ』
あの夜に聴いた遠坂凛の独白を、士郎は一生忘れられないと思う。
魔術師って大変なんだな。
俺はまだ未熟者だから分からないけど、苦労も多いんだろうな。
素直な良い子の士郎は、そう思うのだった。