「マスキングさん、今から何を作るんですか?」
とりあえず最初に聞いておいた方がいいですよね。
「ますきでいいよ、てゆーか呼びやすいなら何でもいいや。好きに呼べよ。それより何を作るかだったな......。」
そういうとマスキン,,,ますきさんは棚の方から白い粉がパンパンに入った袋を出してきました。
「ますきさん、それってアヤシイ......。」
多分わたしと同じことを考えてしまった透花が質問します。あの袋の中身が本当にそうなら大変なことです。RAISE A SUILENはそんなにアブナイことまで??
「んなわけねーだろ!ただの薄力粉だよ。」
すかさずますきさんは否定しました。そうですよね、そんなアヤシイくすりなわけないですよね...。それでもアヤシイ笑顔でアブナイ取引をするチュチュさんが簡単に想像できてしまうのはわたしだけでしょうか。
「薄力粉?それでなにを?」
「ふっふーん、今日作るのは......クッキーだ!」
「ク、クッキー?」
「そうだよ、なんか文句あんのかよ?」
「ないですないです!てっきり夕食のメニューとかを作るのかと思っていたので。」
「んだよ、昨日も一昨日もここでメシ食べてるんだからちょっとは気にしろよな。基本は頼まれてから作ってるんだよ。メシはできたての方がウマいからな。」
知らなかったです。確かにますきさんの言う通り、ご飯を作っている際のことは考えてなかったです。
「でもどうしてクッキーを?」
「アタ...たい...よ」
「え?」
わたしが聞くとますきさんがとても小さな声で答えました。あんまり聞こえなかったのであたしは聞きなおします。
「だーかーら!アタシが作りたいからだよ!!...悪ぃかよ。」
突然ますきさんが大きな声で返します。わたしたちは驚いて、目を丸くして固まります。
「っ、だよなー。よく似合わねぇとか意外とか言われんだよ。やっぱそう思うよな?」
少し不安そうにますきさんが問います。
「確かにちょっとだけ意外かもしれないです。ますきさんはコワイのかも、なんて思ってましたし。」
わたしは正直に答えます。初めて会ったときのますきさんは本当にコワかったですし...。
「でも、似合わないなんてことはないです。そのエプロンだってとっても可愛いですし、すごく似合ってます。」
ますきさんのエプロンを見ながらわたしは言います。黄色に白の水玉模様、わたしたちのと同じようにお腹のところに「MASKING」の刺繍が入っていて、その隣にはクマのワッペンがついてます。
「そーですよ!マスキさんのエプロンすっごく可愛いです!もちろんそれを着てるマスキさんも可愛いですよ。」
わたしのことばに透花が付け加えます。
「へへ、ありがとな2人とも。」
ますきさんは少し照れながらも嬉しそうに笑いました。うん、ますきさんはカワイイですね。
「おっと、クッキーづくりだな。さっさと始めないとな。」
そういってますきさんはわたしたちにボウルと粉ふるいを渡しました。
「まずはこいつで薄力粉をふるいにかけてくれ!ちゃんとやらねえとおいしいクッキーにならねえぞ。」
どうやらふるいにかけないとカタマリになっていた粉が生地に残っちゃったりして、失敗の原因になるそうです。なるほど...勉強になりますね。同じようにお砂糖もふるいにかけます。すごく簡単で楽な作業なのでおしゃべりの方が楽しくなっちゃいます。
「この粉もここで作ってるんですか?」
ふと気になって聞いてみました。
「いや、残念だがここでは作れないものだってある。チュチュの技術をもってしてもな。だからそういうものは買ってるよ。」
「買うって王国でですか?私たちはレジスタンスで王国の敵なのに大丈夫なんですか?」
「問題ねえよ。信頼できるヤツが王国にいる。ここで調達できないものはソイツに調達してもらってるよ。」
もちろん両方にとって危険なことなのでこちらから王国に入って買いに行くそうです。王国に入るには自身を証明する『MyCard』が必要ですが、チュチュさんが偽造品を用意するそうで、変装した状態で行けば厳重な警備も通ることができるとかなんとか。それでも万が一を考えて戦闘班の人しか行かないとのことです。
「ロックとトーンももしかしたらそのうち行くことになるかもな。」
「ほんとに大丈夫なんでしょうか。変装やMyCardを偽造って言っても王国の警備に引っかかったりしないんですか?」
「今まで失敗したことはないから安心しろって。チュチュの力を信じろよ。」
わたしたちの不安を和らげるようにますきさんは笑いながら言いました。ちょうどお砂糖もふるいにかけ終わりました。
「よし、じゃあ次の工程だな。ボウルにバターと砂糖を入れて混ぜてくれ!後で卵も入れていくぞ。」
「「はーい。」」
バターと砂糖がちゃんと混ざり合ったところで、溶いた卵を3回に分けて混ぜていきます。3人それぞれのボウルで混ぜながら、透花がさっきの話からつなげるように話し始めました。
「さっきの話みたいに大変な仕事やほかの生産班の人たちがやってた仕事じゃなく、私たちはこんな簡単なお仕事でいいのかな。」
透花が独り言のようにつぶやきます。
「いいんだよ。どの隊も毎日毎日仕事があるってわけじゃねえし。でも今回みたいなのは特別だな。」
「今回ってこのクッキーづくりですか?」
「ん-、まあそうだな。ちゃんと仕事のある日に、それをしないで別のことをやるのは今日が初めてかもな。」
ますきさんが続けて話します。
「実を言うとな、ハナゾノから言われたんだよ。あの2人と仲良くしてくれって。」
「ハナゾノさんが?」
「ああ。アタシも最初からそのつもりだから心配いらねえよって言ったら、『そっか、だったら一緒にクッキー作ってあげてよ。』だってさ。アタシも昨日スゲー頑張って疲れてる新人に、次の日いきなり重労働させようなんて思ってなかったからちょうどいいと思ってな。」
「そんなこと話してたんですね。」
わたしたちはハナゾノさんの隊に所属していますけど、特にわたしは、まだそんなに深く交流がありません。強いて言うなら昨日透花が光子剣の練習を一緒にしたくらいです。
「わたしたち、まだハナゾノさんとそんなに話したことないのに、今日の仕事だってハナゾノさんとじゃなくますきさんとですし......。」
「単純に仕事の内容的に、とかじゃねえか?それにハナゾノがあんな風に言うの珍しいんだぜ。結構気に入られてるんじゃねえか。実際アタシも二人のこと、好きだぜ。」
「わたしもますきさんともっと仲良くなりたいです。」
「あ、私も!」
「おうおう、じゃあまた一緒に料理しような。」
ますきさんと話している時間はとても楽しくてずっと話していたい気分になります。もっと仲良くなりたいですし、次料理する機会が今から楽しみです。
「よし!そろそろいい感じに混ざったろ。とりあえず、しばらく冷蔵庫で生地を寝かせようぜ。そんで待ってる間休憩してて良いぞ。」
「「はーい。」」
3人の生地をそれぞれ冷蔵庫に入れて30分~1時間ほど待つそうです。生地を混ぜるのに思ったよりも力を使ったのにちょっと疲れちゃいました。
「2人はここに来る前は何してたんだよ。襲撃が来たところをチュチュに拾われたってのは聞いたけど。」
「ここに来る前は、ほんと普通の暮らしです。王国からの襲撃はありましたが、みんなで逃げながら頑張って生き抜いてました。」
意図せず暗い口調で話してしまいました。チュチュさんからは、あの襲撃場所の近くには誰もいなかったと聞きました。あのときいち早く逃げたみんなではなく、逃げ遅れたわたしと透花がこうやって生きているなんて、ほんと救えない世界だと思います。透花は話しながら、改めてみんなを思いだして悲しくなり、少し泣いていました。わたしも透花のように出そうになる涙と嗚咽を押さえながら、小さくなる声で話しました。そんなわたしたちの話をますきさんは真剣に、穏やかな表情でうなずきながら聴いてくれました。
「そっか、2人とも普通に生きてたんだな。悪いなこんなことに巻き込んで。でもアタシが、アタシらが一緒にいるから。2人の悲しさを消すことは出来ねえかもだけど、分け合うことならできるから。」
ますきさんがわたしたちを慰めようと頭をなでてくれました。そのおかげで透花は段々と泣き止んで、しばらくすると落ち着きました。わたしは頭をなでられながら、ますきさんへの信頼が段々と深まると同時に、わたしの涙を止めたものがなにかわからずに不思議な気持ちになっていました。
「もう大丈夫か。トーン。」
「はい...ぐすっ...ありがとうございます。」
「よし。んじゃ、クッキーの続きするか。」
冷蔵庫から取り出した生地を麺棒で伸ばしてから、好きな形に抜きました。ますきさんの用意してくれたものの中には、ハートや動物の型もあって、ますきさんは形を抜いた後に爪楊枝でかわいく顔を描いたりしていました。それをオーブンで20分ほど焼いて完成です。
「そういえばますきさんはRAISE A SUILENに入る前は何をしてたんですか?せっかくだからますきさんの話も聴きたいです。」
わたしがそう言うと、ますきさんは悩んだ様子で一瞬顔を下に向けてから、もう一度こちらを見ました。
「また今度、いつか話してやるよ。」
「えー、わたしたちは話したのに―。」
「別に面白くもねえし興味がわく話でもねえよ。今度話すからよ。」
透花が少し駄々をこねてもますきさんは軽く流しました。わたしは何も言えずに、ただ2人のやり取りを見ながらクッキーの焼き上がりを待っていました。
「もうすぐ焼きあがるぞ。」
そう言ってますきさんはオーブンの前に行き少し待つと、ふたを開けて中からクッキーを取り出しました。ふたを開けた瞬間から甘い匂いがして、焼きあがったクッキーをみてわたしと透花から喜びの声がでました。ますきさんはクッキーを2枚手に取って私たちに差し出しました。
「さあ、食べてみろよ。」
それを受け取って、透花は不安な気持ちなのか遠慮がちに食べました。
「ん-!!おいしー!!」
透花は飛び跳ねながら喜びました。わたしも一口食べてみて
「あ、おいしい。」
と声がこぼれました。
「だろ。やっぱ自分で作ったものはうめーよな!」
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