恋愛?ミステリー?のような短編。
6:02
目が覚めると在るはずのない顔が視界に入った。
よく知った横顔だ。僕の愛する人の顔だ。
問題なのは、僕がこの状況にまるで心辺りがない事だった。落ち着いて状況を整理しなければならない。
そう思いながらも僕はしばらく彼女の横顔に見惚れていた。
そうしている内に目を覚ました彼女が身動ぎをして言った。
「起きていたの、隆一。それならば起こしてくれたら良かったのに」
聞き覚えのない呼び方であった。知らない名前だった。つまり其れは僕の名前ではなかった。
6:17
訳が分からない。
「タバコ、吸ってくる」
そう言い残して家を出た僕は、最寄りのコンビニのトイレでますます混乱していた。
206号室。セブンスター、ファミリーマート。
よく知った、使いなれたもの。
対してレストルームの鏡に映る顔は、明らかに僕のものではなかった。
「都筑隆一郎…」
煙草と合わせて持ち出した財布には鏡に映る顔の持ち主を証明する身分証が2つ。
01年生まれ、同い年。
東都大学、同級生。
身分証がある以上、知らぬ間に僕の顔が弄られた訳ではない。此れは夢なのだろうか、そうでなければまるで荒唐無稽な何かに僕は巻き込まれたという事になる。
「とりあえず戻ろう…」
情報が足りない。違いを明確にする必要がある。
僕は206号室に戻って痕跡探しをする事にした。
6:43
「今日は長かったね」
彼女の問いかけに僕は3円のビニール袋を掲げて応じた。
「ハムエッグとレタスサンド、どっちが良い?」
「レタスサンドかな」
彼女は食感派だったらしい。
「牛乳は?」
僕は半分ほど残った紙パックを傾けながら問いかける。
「要らない、レタスだし。今日の予定は?」
「…早めに出る。3時からサークル」
「ふーん、じゃあ同じ位か」
内心ヒヤヒヤしながらの解答、僕は賭けに勝った。
僕と彼女は同じサークルに属していた。隆一郎の事を僕はまるで知らなかったが、部屋にはラケットがあった。
彼女が余所のサークルの誰かと付き合っている可能性よりも、単に僕が隆一郎の事を知らない可能性の方が高いと僕は踏んだ。そしてどうやらその予想は正解のようだった。
8:11
「謙二、後藤、佐伯、みんないる…」
構内の食堂、落ち着いて人と合わずに考えることの出来る場所が今の僕には有り難かった。学生に朝食を取らせる為。そんな名目で朝から空いている食堂であるが利用者はほとんどいない。1限前に大学に行きたいと考える奇特な人間は僕の学部には一人しかいなかった。
「阿澄さん、ちょっといいかな」
僕は再び賭けに出ることにした。