〈中央歴1641年 4月6日 第1文明圏 トルキア王国北東部〉
青い空を、白銀の竜が風を切りながら飛ぶ。その背に跨るは1人の少女であり、彼女は防寒具を着けていた。
「あれ……かな。霊峰アクセン山脈って」
『多分そうだと思うよ。聞いてた通り、凄く魔素を感じるもん』
その彼女達が目指す先にあるのは、やや雪を被り、山頂付近を黒雲に覆われた巨大な山脈。
その名を霊峰アクセン山脈といい、列強第3位であるエモール王国の北壁を務め、世界有数の巨大山脈である。
アクセン山脈は霊峰の名に恥じず、常にその山肌から高濃度の魔素が吹き出ている。その為山脈は様々な竜種の生息地にもなっているのだ。
そして今回、彼女達の目的はそんな竜種の中の1つ、かの竜人族でさえも手懐ける事が叶わなかった属性竜、雷竜である。
しかし、現在の航空戦力では奴らには太刀打ち出来ない。無駄に竜騎士を殺す訳にもいかず、しかし1騎だけでは撃ち漏らしが出てしまう可能性がある。
よって、以前モーリアウルよりされたこの提案を受ける事にしたのだった。
「さてと、門を探さなきゃ……イルクス、出来る?」
『ちょっと待ってね……』
少女が竜に語りかけると、竜は目を閉じ口を開く。
数十秒後。
『見つけた。2時の方向に25キロ離れた所に少し人が集まってるから、多分そこだと思う』
「ありがと。じゃあ行こうか」
そう言うと、少女を乗せた竜は高度を落としながら飛ぶのだった。
───────
〈エモール王国 国境 第3番の門〉
トルキア王国との国境、霊峰アクセンの南に位置する入国審査所『第3番の門』。
同盟国であるトルキアと接しているとはいえ、地理的に田舎であるここは、今日も殆ど入国希望者は来ていなかった。
「はー、暇だ……」
そんな場所に勤める竜人の男は、何もする事が無いのでいつもの様に遠い空を眺めていた。
空に小さく飛竜が飛んでいる。恐らくは野良だろうが、1匹で飛んでいるのは珍しい。斥候か、もしくははぐれたか。まあ、そんな事はどうでもいいのだ。
そんな竜をぼおっと眺めていると、ふと、ある事に気が付いた。
「……こっちに来てる……?」
そう、その飛竜は何故かこちらへと来ていた。
少し気になって望遠鏡を覗き込む。
次の瞬間、彼の心臓は飛び上がった。
「───なっ、し、神竜!!?」
そう、
彼は例の放送は見ていなかったが、その姿が彼の愛読書───『神竜の嫁入り』───の表紙を飾る、ヒロインである白銀の神竜の神竜形態と瓜二つであった為に気付く事が出来たのだった。
因みに例の放送だが、ここエモールでは幾度となく再放送や、特集番組が流された。が、ここにはラジオタイプの魔導通信機しか無かったが為に姿は知らなかったのだ。
彼は『神竜の嫁入り』の大ファンであった。彼の持つ本には作者のサインが書かれているし、ヒロインの竜人形態は彼の初恋でもあった。
そんな存在が、こちらに近付いてきている。何やら人間が乗っているがそんな事はどうでもいい。
とにかく、迎える準備をしなければ。
「おい!! 今すぐに服装整えろ!!」
と、その時だった。彼の居る部屋の扉が勢いよく開き、そんな声が聞こえてきたのは。
彼は返す。
「先輩! そんな事よりも神竜がこっちに向かって来てます!! 早急に迎える準備をするべきです!!」
「は、神竜?……ああくそっ、そういう事かよ!!」
「先輩?」
「とにかく服装整えて降りて来い! 外交担当の貴族様が来てるぞ!!」
「え……ええっ!!?」
彼は怒涛の展開に困惑しながらも、自らの乱れに乱れた服装を直し始めるのだった。
「こ、これはこれはモーリアウル様……今日は何用でこの様な地へ?」
門の責任者が、風竜より降りてきた煌びやかな装飾を身につけた男に恐る恐る問いかける。
王国の中でも高位に位置する者の、事前の通知無しの突然の訪問。責任者は何かやらかしたかと少し震えていた。
その男───エモール王国、外交担当貴族モーリアウルはそんな彼を一瞥もせず、呟いた。
「まだイルクス様とライカ殿は来ていらっしゃらない様だな……」
「も、モーリアウル様?」
責任者がもう一度尋ねると、ようやく彼は彼の方へと向く。
「我はここにお越しになるイルクス様とライカ殿をお迎えに参ったのだ。早急にお迎えする準備をするのだ!」
「は、はいぃっ!!」
彼は何が何だか分からないまま、施設にあった赤絨毯などをひくように指示するのだった。
門の前に、やや困惑気味の2人が降りる。
「え、えっとー……これは一体……」
「お城みたーい!」
彼女達が困惑するのも無理は無いだろう。何故ならば、わざわざ石畳の道の上に上質な赤絨毯が敷かれているのだから。
そして、ライカにはこんな事をしそうな人物に心当たりがあった。
「イルクス様、ライカ殿。よくぞいらっしゃいました」
「やっぱり……」
絨毯の先で胸に手を当て、
彼女は予想が当たり、微妙な表情をするのを何とか堪える。やり過ぎ感はあるが、まあもてなしてくれている事には変わりはない。流石に引くのは失礼だろうと彼女は考えたのだった。
「あ、ありがとうございます。あの、後ろの人達、凄い顔してますけど……」
しかし、その彼の後ろで、まるで有り得ない物でも見たかのような表情をする部下達の姿は、流石に無視出来なかった。
「あの、やっぱり私に敬語は不味いんじゃ……」
「お気になさらず」
「は、はぁ……」
部下への威厳とか、そういう物は大丈夫なのだろうか。いや、あの反応を見る限りきっと大丈夫じゃない。
しかし、モーリアウルは、列強国の大貴族は頑なに敬語を直そうとしない。
もう彼女は考えるのをやめた。この状況でも平然としていられるイルクスがちょっと羨ましくなった。
「では、早速竜都へと参りましょう」
「あ、はい」
そうして促されるがまま、2人は竜都ドラグスマキラへと───
───向かう前に、竜人達に囲まれる事になった。
───────
「では、早速竜都へと参りましょう」
「あ、はい」
2人が門の中へと入っていく。
「(……いいのか? 俺の、俺の夢がこんなに近くに居るのに。これを逃せば、きっともう二度と会えないぞ?)」
そんな彼女達を───というか、イルクスを、男はじっと見つめていた。
彼女は、理想よりは少し幼いがそれでもまるで本の中の登場人物がそのまま出てきたかの様だった。
「(俺の、俺の初恋はそんな物なのか? あんな腑抜けた外交貴族に恐れるような?)」
めちゃくちゃ腰の低いモーリアウルを見て、正直彼は幻滅していた。これまで貴族に抱いていたイメージは一瞬で崩れ去った。
今、自分が動いていないのはそんな貴族に整列して迎えろと言われているからだ。もしこの状況で動けば罰せられるだろう。
「……」
そして、彼は決断した。
「すいません!! 握手して下さいッ!!!」
彼は歩くイルクスの前に飛び出し、そう言い放ったのだ。
前に立ち、手を伸ばして頭を下げる。
ああ、やってしまった。これで俺が出世する事はもうないだろう。
「へ? まあ良いけど」
だが、その差し出した手を握られる。ほんのりと暖かく、柔らかい手。それに自分のガサガサの手が包まれる。
ああ、もう俺に悔いは無い。出世出来ない? そんな事はもうどうでもいい。
俺は、夢を叶えたのだ。これ以上に価値のある物などこの世に存在しない。
「な……」
その様子を見て絶句するモーリアウル。
だが、そんな彼を差し置いて今度は他の者達がイルクスへと駆け込んでくる。
「じ、自分にも握手を!!」
「お言葉を!!」
「ファンでした!! 本(関係ない)読んでます!!」
「付き合って下さい!」
「罵って下さい!!!」
1人の勇気ある者がいけたので、自分達もいけるとおもったのだろうか。その場にいた全員が詰め寄り、あっという間にイルクスは取り囲まれた。
オロオロとするイルクス。はわわわわと狼狽えるライカ。
そして。
「貴様らァ!!! 散れェ!!!!」
二人の間に男が挟まった事に憤慨する
その後、男達は無事折檻されたらしい。
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百合に挟まる男を絶対に許さない一般百合厨外交担当貴族
この世界軸のエモールは日本と仲良く出来そう