〈エモール王国 竜都ドラグスマキラ ウィルマンズ城〉
中央世界に存在する列強国、その城の王の間にて、ライカとイルクスは竜王ワグドラーンの到着を待っていた。
2人はすぐにでも雷竜の捕獲に向かいたかったのだが……列強国の言う事を無碍に出来る訳もなく。彼女らはモーリアウルと共にこうして竜都へと来ているのだった。
海抜約2500m。高く険しい山肌に沿うようにして造られた都市、竜都ドラグスマキラ。傾斜の激しいその都市の周辺の下部は森に、上部はポツポツと草が生えるのみの岩肌に囲まれている。
その厳しい立地から観光客こそあまり訪れないが、列強で商売をしたい商人などが多数来る為にそれなりに賑わっていた。
そんな都市の最も上部に位置するウィルマンズ城。そこに2人は案内されていた。
「いい? イルクス、今から会うのは竜王様なんだからね。敬語だよ、敬語」
「わ、分かってるよ」
「イルティス陛下みたいな感覚で話しかけちゃダメだよ?」
「ぼ、僕だってその位の分別はあるよっ!」
「でもモーリアウルさんは殴ってたじゃない」
「そ、それは……あれは例外だよ。だってライカの事バカにしたんだもん」
「同じ事竜王様が言ってもぜっっっったいに殴っちゃダメだよ。モーリアウルさんが許してくれたのはあの人が変t……か、寛容だったからなんだからね?」
「うう……分かった」
煌びやかな装飾が施された広い部屋。壁にはエモールの、もといインフィドラグーンの紋章が描かれたタペストリーが数多く掛けられている。
跪いてこそこそとそんな事を話す2人、そして彼女らを後ろから気持ちわr……生暖かい目で見守る
本来荘厳である王の間は、かなりカオスな空間となっていた。
「よくぞ参られた、神竜様にその騎士よ……」
入ってきた、この中で最も煌びやかな装飾を身に着けた竜人族は2人を見てそう言い、そして後ろに立つ男を見て絶句する。
「……ゴホン。我がエモール王国竜王、ワグドラーンである」
少しの間固まっていた彼は、軽く咳払いをした後にそう告げる。
「わ、私はイルネティア王国軍竜騎士団所属、ライカ・ルーリンティアと申します」
「ぼ、じゃなくて……私は神竜のイルクスだ、です」
跪きながら胸に手を当て、それぞれ自己紹介をする2人。ライカはともかく、イルクスはかなりぎこちない敬語ではあったが、ワグドラーンは特に気にしていない様子だった。
それどころか、彼はイルクスに近付いていくとその前に跪いたのだ。
「神竜様の御来訪を心からお待ちしておりました。生きている間に神竜様にお会いできるとは感銘の至りであります」
「え、えー……ライカ、これ敬語使わなくても良いんじゃない?」
「ほ、本人から良いって言われるまでは一応……」
一国の王、それもプライドの高い竜人族が頭を下げる。そんな有り得ない───モーリアウルは別枠───に、2人は困惑するばかりであった。
「え、ええと、頭をお上げて下さい?」
気が抜け、妙な敬語になってしまったイルクスが言う。
「無理して敬語を使われなくとも結構ですぞ。神竜様は、我ら竜人族にとってはそれこそ神に等しい存在、寧ろそちらが頭を上げて頂いて」
そう言うワグドラーン。
因みに2人も彼も跪いているので、今王の間では跪いている少女達に跪く巨体の男という謎の図が出来ていた。
「良いの? じゃあお言葉に甘えて」
「ちょっとイルクス……ってこれ私も上げていいのかな……」
「ライカも上げていい? 良いよね?」
「ええ、勿論」
そう言われ、恐る恐る頭を上げるライカ。
「神竜様、今回の御来訪の目的は承知しております。雷竜を手懐けるとか」
「うん、そうだよ。案内してくれる? 僕達急いでるんだ」
「御意に」
タメ口が許可されたのでズバズバと言うイルクス。顔を青くし、冷や汗が止まらないライカ。特に気にする様子の無いワグドラーンに、未だ生暖かい笑みを浮かべるモーリアウル。それで良いのか外交担当貴族。
そんな事はともかく、このカオスな3人は、イルクスの背に乗って風竜騎士の護衛と共に霊峰アクセンの雷竜の生息地へと向かうのだった。
どんよりとした雲が空を覆う中、腹に響く、そんな表現が似合う雷鳴の様な声が鳴り響く。
ここは霊峰アクセンのとある土地。山脈より湧き、ミリシアルまで流れる大河の削り取ったV字谷。
草木が僅かにしか生えていない閑散とした岩肌が目立つそんな谷に、"彼ら"は棲んでいる。
ワイバーンと同じく1対2枚の翼を持ち、しかし前肢のある真竜種。
全身は黒く硬質な鱗で覆われ、並大抵の攻撃は通さない。
口より吐くは雷光であり、狙われた獲物は声を出す間もなく焼け焦げる。
そして何よりもその飛ぶ速度。なんとかの風竜をも超える時速650kmであり、もし操れる者がいるとすればこの世界において敵う者はいないだろう(ライカは除く)。
その名は雷竜。属性竜の1種であり、今回の2人の標的であった。
「あれが雷竜……」
『なんか調子に乗ったヤンキーみたいな感じがするね』
「そ、そうなの?」
力強く羽ばたき、紫色に身体を発光させながら飛ぶ雷竜。
そんな様子を、竜独特の感性で表現されたライカは少し拍子抜けしてしまう。
当然だろう。人知の及ばない存在を、まさか若気の至りなどと表現されるとは普通思わない。
『だって見てよあの得意気な表情。絶対あれカッコイイと思って飛んでるよ。外から見たら凄くダサいのに』
「ひょ、表情」
『ここは魔素が溢れてるんだから必要も無いのに、わざわざあんなに羽ばたいてるんだよ。カッコつけたいから』
「へ、へぇ〜……」
と、相槌を打ってはみるものの。ライカはイルクスの言う『カッコつけてる雷竜』がどの個体なのか、そもそも分かっていなかった。
表情と言われても、イルクスの物ならともかく初対面の雷竜の表情など全くもって見分けがつかない。
というか、そう言われるとなんだか飛び方がダサく感じてきてしまった。
『イルクス様、ライカ殿。奴らの攻撃は光の速度で迫ってきます。くれぐれもお気を付けて』
と、そこで着けていたブレスレットに魔信が入る。
聞こえてきたのは、後方で風竜に乗って待機しているモーリアウルの物であった。
今回、ワグドラーンとモーリアウルは危険であるので生息地の外で待機していた。モーリアウルの方は間近で見るとゴネていたのだが、ややキレ気味のワグドラーンに小突かれて大人しく引き下がった。
ワグドラーンが来たのは、単純な好奇心が主な理由だ。
来れば、もしかすると歴史的瞬間が見られるかもしれない、というのが半分。そして神話の飛行が見たいというのが半分。
因みに彼、最初のモーリアウルと同じ様に、神竜に人間が乗っているのに嫌悪感を抱いている。
しかし、あの時モーリアウルについて行った付き人から
「分かってます。イルクス曰く"調子に乗ってる"らしいので、少し"分からせて"あげます」
『分からせる分からせるー!』
『調子に乗ってる……ハッハッハ! 雷竜の事をその様に表現したのは貴女様が初めてです』
モーリアウルが高らかに笑う。
『……しかしながら、これまでに幾人もの
「御忠告、感謝します」
そう言って、彼女は魔信を切り、大きく深呼吸をする。そして谷を悠々と飛ぶ雷竜達を真っ直ぐと見据える。
その目は、グラ・バルカスの兵士を恐れさせた『
「さあ、イルクス。王国の未来の為に、1つ大芝居を打ってやろう!」
『うん。あの調子こいた雷竜のプライドをコテンパンにしてあげるんだから!』
そして、2人は雷竜の住処へと飛んだのだった。
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ライカさんまだ1回しか戦ってないんだよなぁ……
ライカさんの名字はオリ設定です。由来は特にありません