イルクスが飛ぶ。一直線に、悠々と飛ぶ雷竜の中へと。
そのスピードはあまりにも速く、700m程を僅か数秒で踏破した。
雷竜達も何かが近くにいる事は気付いていたが、それが近付いて来るのに反応する前にイルクスは彼らの群れのど真ん中を通り過ぎ、その頭上へと位置取る。
猛烈な風が起こり、雷竜達がバランスを崩す。そんな混乱の中、イルクスは念話を発した。
『僕は神竜イルクス!! 調子に乗った雷竜達よ、大人しく僕に着いて来い!!』
挑発的な言葉。
イルクスは、こういった輩には下に出るよりも高圧的に行った方が良いと、直感的に理解していた。
だからこそわざわざ、自分が神竜であるという事を強調したのだ。
これで従ってくれれば万々歳だが、イルクスもライカも、彼らがその程度の存在ではない事くらい分かっている。
『オォン!? 何だガキ共、突然現れてはンな事言いやがって! 馬鹿にしてんのかァ!?』
『舐めやがってェ……野郎ォぶっ殺してやらァ!!!』
などと、怒りに燃える者達が大半であった。
『お、おい今神竜って』
『アイツヤバくね? めちゃ速くね?』
と、冷静に状況を判断する竜も居るには居たが、かなりの少数派であった。
「駄目みたいだね……じゃあ、作戦通りにやるよ」
『おー!!』
そんな様子に、しかしライカは冷静に作戦続行を決める。
眼下には、如何にも怒り心頭といった様子で向かってくる無数の雷竜。その内の殆どは口を開き、何やら光を溜めていた。予想通りだ。
ライカが手網を握り締め、そして力強く引く。
それを合図に、イルクスは急降下する。それに伴い、溜められていた光がより一層強くなる。
やがて、その口々から雷光が放たれた。その数、17本。通常の、いや手練の竜騎士であったとしても避けられず、相棒共々炭になるであろうその攻撃。
「3時16分に128cm、羽根は畳んで」
だが、直前。ライカはそんな指示を込め、イルクスに繋がっている手網を引く。
そして、イルクスはそれを正確に実行した。
直後、彼女らのいた場所を雷光の束が通る。
彼女らは光に包まれ、雷竜達は歓声を、望遠鏡を覗いていたモーリアウルとワグドラーンは悲鳴を上げる。
だが。
『……なっ!!?』
『嘘だろ!?』
ビュン、雷竜達の隙間を何かが通る。
それは、たった今死んだ筈のイルクスであった。その背にはライカが乗っており、双方無傷である。
『な、何故生きている!?』
「貴方達の吐く雷光は直進しかしない。なら当たらなければどうということはないでしょう?」
『そ、そんな馬鹿な……ッ!!』
自分達の渾身の一撃が避けられたという事実。それは雷竜達のプライドを著しく傷付けた。
そして、それを補うかの様に彼らは一斉に2人へと飛びかかる───
───結果から言うと、雷竜達は惨敗した。ライカとイルクスはどちらも傷1つ負わず、逆に雷竜達のプライドは最早見る影もない程に傷だらけだ。
イルクスは、ライカの正確な指示のもとに雷竜達の攻撃を全て捌いたのだ。
1匹の小さな───イルクスは通常のワイバーンくらいのサイズ───神竜に追い縋る無数の雷竜。雷竜達が全力で、それこそ歯を食いしばる程に速度を上げるが、イルクスは涼しい顔でそれを超える速度を出す。
放たれた攻撃は軒並み躱される。ライカの凄まじい空間把握能力により、四方より放たれた雷光でさえ僅かに身を捩らせるだけで全て避ける。
やがて雷竜達の体力は尽き、飛ぶ者はイルクス以外に居なくなった。
『はァッ、はァッ、お、お前は一体何なんだ……!』
岩場にとまり、苦しそうに息を吐きながら雷竜は未だ羽ばたくイルクスを、そしてライカを睨み付ける。
『僕? だから言ったじゃん、僕は神竜だって』
「私はただの人間族のライカだよ」
『人間……人間だと。嘘をつけ! ただの人間族が、あんな真似できる訳がない!!』
「知らないよ。それに凄いのは私じゃなくてイルクスだからね?」
『いや、ライカも十分凄いと思うけど……』
ライカのその謙遜に、イルクスは呆れた様に返す。
『く……何が目的だ!!』
「貴方達に、竜騎士達を乗せて戦って欲しい」
『俺達に、この雷竜に人間を乗せろと言うのか!? ふざけるな!!』
「でもほら、空戦では目が多い方が有利なのよ? 貴方達だって竜騎士を乗せればきっとさっきみたいな機動も出来るわ」
『ぐ……』
先程の機動。ほんの少し動くだけで雨の様な雷光を避け切ったあの動き。
あれが出来るのならば、彼は少しだけ傾いた。
恐らく、本国の竜騎士達は皆そろって「勘弁して下さい」と言うだろう。あんな機動、彼女にしか出来ないのだ。
そもそもライカは竜騎士としてかなり優秀だ。何せ、同じワイバーン同士での模擬戦でさえ彼女は負け無しだったのだから。
王国軍のプロ、中央世界で名を馳せた竜騎士、列強のエース、そのことごとくが負けたのだ。スカウトの声もかなり掛かっていたが、その全てを断っていた。
「貴方達の長い生涯、少しくらい、歴史に名を残したっていいんじゃない?」
『何の事だ……』
「雷竜は、インフィドラグーンが滅びてから1度も表舞台に出ていない。それが今出て、1つの国を滅亡から救ったとなれば、きっとその名が残るわ!」
『……』
「それに……貴方達だって、自分より強い存在が近くにいた方がより強く、より速くなれるんじゃない?」
それは、とても甘い誘惑であった。
歴史云々は正直どうでもよかったが、速さに関しては雷竜達は欲望があったのだ。
思えば、確かに自分達は胡座をかいていたのかもしれない。
神竜が居なくなった今、自分達に勝てる者はいないからと、この地位で満足してしまっていた。本来、雷竜とは速さを追求する種族である筈なのに。
そして、彼は迷い───
───────
「よもや本当に雷竜を従えてしまうとは……」
城のバルコニーで、彼───竜王、ワグドラーンは呟く。
彼が見上げるは遠い西の空。大勢の黒き竜を従え、自らの王国へと神竜が飛び去って行った方角であった。
あの後、雷竜達はライカの提案に乗る事にした。自分達は井の中の蛙では終わらない、終われないと。
その数62匹。全てが戦える訳では無いが、これらを乗りこなす事が出来れば少なくともイルネティア王国竜騎士団───いや、
神竜が率いる雷竜の群れ。もし戦う事になれば……ゾッとする話だ。
「……だが、それでも良いのかもしれんな」
エモールは、インフィドラグーンの末裔として、いずれ竜神の国を復活させる、それを胸に抱き続いてきた。
しかし神竜が選んだのはそんなエモールではなく、遥か西方の小さな島国だ。
神竜がいる以上、あの国はいずれ雷竜だけでなく他の属性竜をも従える様になるだろう。神竜の気に引き寄せられ、リヴァイアサンや他の生存している神竜達ですら集うかもしれない。
そうなれば、あの国は最早
今や、インフィドラグーンの復活は急務だ。先日の『空間占い』にてラヴァーナル帝国が近い内に復活する事が判明したのだ。
その時、鍵となるのは日本という国。魔力の弱い人間族の治める国が、対魔帝戦においての鍵となるのだという。
だが、そう言われても未だ信じ切れていないのは事実。
そしてもし、日本があまり役に立たなかったとして───魔帝と戦えるのは、かつて互角に戦ったインフィドラグーンのみなのだ。
「先日モーリアウルが言っていた風竜騎士団の派遣、現実的に考えておく必要があるやもしれぬな……」
そう呟くと、彼は室内へと戻るのだった。
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ライカさんはニュータイプ