中央歴1641年、4月。この日、1機の『ゲルニカ35型』がトルキア王国上空を飛行中、雷竜の群れと遭遇した。
雷竜が自らの生息地より出る事は殆ど無く、機長は予想だにしない状況に冷や汗をかく。雷竜の気性が荒いのは有名で、もし攻撃されればこんな旅客機などひとたまりもない。
だが、そんな彼の不安とは打って変わって、雷竜達は攻撃してこなかった。それどころか、
通信を寄越したのはその群れを先導する神竜、それに乗る少女からだった。
それによれば、なんとあの雷竜を手懐けたというではないか。
その後、白銀の竜が先導する雷竜の群れはゲルニカを圧倒的に超える速度で西の彼方へと飛び立って行った。
───後日、彼は記者にこう話した。
自分はあの時、神話の中に居た、と。
───────
〈中央歴1641年 4月7日 イルネティア島沖〉
イルネティア島沖合120km。先の海戦において、グラ・バルカス帝国海軍の艦隊22隻が壊滅したこの海域にて、イルネティア王国海軍は訓練を行っていた。
だが、海兵達の乗る船は、かつての戦列艦などではない。
戦列艦、いやムー国のそれよりも洗練されたフォルムを持つ鋼鉄の艦───そう、まさにこの場所で拿捕されたグラ・バルカス帝国軍の艦である。
タウルス級重巡洋艦2隻、キャニス・ミナー級駆逐艦2隻の計4隻は、いつ敵の襲撃を受けてもいい様にと連日厳しい訓練を行っていた。
だが、これまでは戦列艦、それも魔法技術で造られた船を動かしていた海兵達だ。それがいきなり重巡洋艦やら駆逐艦やらを動かせる様にはやはりならず、訓練を始めて半月程経った今でさえまともに動かすのがやっと、というレベルであった。
そんな中の1隻、現在は王国海軍旗艦として運用しているタウルス級重巡洋艦『レプシロン』の艦橋にて、艦隊司令のレイヴェル・ディーツはとある報告を通信士より受けていた。
「ディーツ司令、本部より通信……ライカ竜騎士、雷竜の調伏に成功した様です!」
「おお……!」
彼は一先ず胸を撫で下ろす。
これで、空でも王国軍は帝国軍に対抗する事が出来るようになる。竜騎士達が一方的に、無駄に死ぬことも避けられるのだ。
「あの様な少女がこれ程王国に尽くしてくれているのだ。我々も努力しなければな」
「ですね!」
彼らがここで訓練を行っているのにはとある理由がある。
先日拷問によって、近い内に再び帝国軍が侵攻してくる事が判明したからだ。
本土防衛艦隊として戦列艦も居るには居るが、帝国軍に対抗出来る船はこの4隻しか居なかった。
そして、彼が窓から訓練中の艦隊を見ようとした、まさにその瞬間。
「───ッ!! 水上レーダーに感!!」
「何ッ!? 帝国かッ!?」
「反応の大きさから恐らくはそうかと! 距離120、数21!!」
21隻、こちらの5倍だ。同じ質の物であれば、数が多い方が勝つのが道理。
だが、我々が負ければ、ライカとイルクスのいない王国はあっという間に蹂躙されてしまうだろう。
「(グレードアトラスターがあればな……)」
彼は帽子を直しながら思った。
グレードアトラスター、空前絶後の超巨大戦艦。捕虜からの情報で、あの戦艦は帝国でも最大、そして現在1隻しか存在していないらしい。
あの戦艦があれば、例え5倍の敵だろうが一方的に負ける事はないだろう。
だがタイミングの悪い事に、現在あの戦艦はミリシアルにある。あちらからの申し出により改造を受けているのだ。
また、駆逐艦の内1隻は現在ムー国にて解析を進められている。
「……やるしかない、か。通信士、本部にこの事を。それと、ライカがいつ戻ってくるのかも聞いてくれ」
「りょ、了解!」
こちらの勝利条件は、ライカが戻ってくるまで耐えきる事だ。悔しい事だが、現在の戦力では彼女無しには勝つ事は出来ない。
「返信来ました! 『現在全力で帰還中、数時間程で戻る』との事です! また、艦隊は後退しつつ反撃、帰還までの時間を稼げ、と!!」
「了解した。各艦に通達!! 本艦隊はこれより敵艦隊との戦闘に入る!! 新たな艦での初戦闘だ。各員一層奮起せよ!!」
───────
〈グラ・バルカス帝国海軍 第2次イルネティア侵攻艦隊〉
帝国の面子の為、急遽編成された第2次イルネティア王国侵攻艦隊。
軍本部は、イルクスが持ち上げられるのは駆逐艦が限界だ、と判断。その為、本艦隊は駆逐艦が1隻もいないという珍妙な編成となっていた。
ヘラクレス級戦艦1、オリオン級戦艦2、タウルス級重巡洋艦8、レオ級軽巡洋艦8、ペガスス級航空母艦2の計21隻はイルネティア島の沖を進んでいた。
そんな中、旗艦であるヘラクレス級戦艦『クヤム』艦橋にて、丁度『レプシロン』が察知したのと同じ頃、こちらのレーダーでも艦隊を察知する。
艦隊司令はすぐに攻撃隊の発艦を指示。同時に島への爆撃隊も発進させた。リスク分散の為、3つの部隊に分けて。
それぞれシリウス型爆撃機10機、アンタレス型戦闘機10機の20機、これが3部隊の計60機。それに艦隊への攻撃機としてリゲル型雷撃機20機、アンタレス型15機。残りは全てアンタレスであり、艦隊の直掩機だ。
雷撃機の数が少ない様にも思えるが、これは蛮族には自国の船など使いこなせないだろうという思い込みからだった。
それに例え沈めきれなくとも、たったの6隻。艦隊で捻り潰せるのだ。グレードアトラスターだけは別だが……。
かくして、ペガスス級より飛び立った計95機は、各々の目標へと向かうのだった。
───────
「敵機接近!!」
「主砲、対空戦闘用意!!」
『レプシロン』艦橋より、接近する敵機が確認される。
それに対抗するべく、主砲である50口径20.3cm連装砲5基に対空砲弾が装填、空に浮かぶ無数の点へと向けられる。
「照準完了!!」
「撃ち方始めェ!!」
そして、10門の砲が一斉に火を噴いた。
回転し、空気を切りながら進む砲弾は攻撃機隊へと進み───しかし、そのどれもが爆発しない。
敵機に接近しなければ爆発しない近接信管は、虚しく何もいない空を飛んでいく。
「ぜ、全弾外れました!」
「次弾装填!! 各高角砲、機銃も攻撃準備! 各砲の判断で射撃せよ!!」
その号令によって各対空砲に砲弾が装填されるが、その動きは拙い。
やはりまだ訓練が足りない。機銃弾はともかく、近接信管に関しては未だ量産の目処が全くたっていないので実弾を使った訓練はあまり出来ていなかったのだ。
隣の駆逐艦の主砲が火を噴く。65口径という長砲身、そして速い旋回と装填───それでも本家より遅いが───により、次々と砲弾を放っていく。
その殆どは外れるが、時折黒煙が空に現れ、砲弾の破片が命中したリゲルが煙を吐いて落ちていく。
だが、それでも3機しか落とせず、リゲルが雷撃を行う為に低空飛行へと移る。それに対し、機銃が放たれた。
「ひっ!」
転移してからグラ・バルカス軍の航空隊はまともな対空攻撃に晒されていなかった。精々がバリスタくらいであり、目をつぶっていても避けられるほどだ。というか、当たっても墜ちない。
しかし、今彼らが狙っている重巡洋艦より放たれた対空攻撃は、彼らに"実戦"を思い起こさせるのに十分であった。
こちらに向かってくる無数の曳光弾。それに彼は恐怖し、情けない悲鳴を上げてしまう。
だが、それだけだ。優秀な彼らは、きちんと任務を遂行した。
「敵機、魚雷投下!!」
「回避運動!!」
海中を進む白い泡。その恐ろしさは十分知っており、だからこそ彼らは回避しようと試みる。
ゆっくりと動くレプシロン。幸運にも彼女は投下された3本の間をすり抜ける事に成功した。
ほっとため息をつく一同。
しかし、
「ああっ!! 『コウム』が!!」
「っ!!」
幸運なのは彼女だけだった。
同じくリゲルの向かっていた重巡洋艦『コウム』の側面に巨大な水柱が上がる。
被雷数は2本。ダメージコントロールもまともに出来ず、みるみる内に速度が下がっていく。
そして、そんな船を見逃す筈もなく。
「『コウム』、沈没!!」
「くっ……」
必死の対空戦闘も虚しく、コウムは沈没した。脱出した乗組員達が水面をゆらゆらと揺れる。
また、駆逐艦『トイヌーシェ』もその艦尾に雷撃を受け、撃沈する事こそ無かったものの舵とスクリューを破壊され航行が不可能になってしまう。
そんなこんなで、攻撃隊が去った後に戦闘が可能な船は重巡洋艦『レプシロン』、及び駆逐艦『ムルシク』の2隻のみとなってしまった。
残存艦2隻は『コウム』の生存者を救出した後、『トイヌーシェ』を曳航して後退するのだった。
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レイヴェルさんはオリジナルで、原作でナレ死したドイバ沖群島防衛艦隊の司令官です。
あと、艦名はドイバ防衛艦隊からとりました
Q:なんで動かすのがやっとなのに対空攻撃出来るんですか?
A:火事場の馬鹿力です