〈イルネティア王国 王都キルクルス〉
「敵機接近!!!」
「対空攻撃用意!!」
美しい街の中に、ムー国より輸入した空襲警報が鳴り響く。だが、それを聞いている者は殆どいない。皆、前回の襲撃の後に作られた防空壕へと逃げ込んでいるからだ。
そんな民間人のいない街の至る所に設置された、これまたムー国より輸入した8mm単装機銃を陸軍兵士達が空へと向けて構える。
その視線の先には、編隊を組んで飛来する20機のグラ・バルカス帝国軍機。
それぞれ違う方向へと飛んだ3部隊の1つが、いち早く
やがて、爆撃機隊が各機銃の射程内へと入る。
今回、竜騎士の消耗を防ぐ為にも竜騎士隊の出撃は無しという事になっていた。最も、出撃した所で1機も落とせないだろうからこの判断は適切であろう。騎士達の感情はともかく。
友軍騎がいないのでフレンドリーファイアの心配は無い。それは機銃を使っての初実戦である彼らにとっては不幸中の幸いであった。
「撃てェ!!!」
破裂音が連続して鳴り響く。
王都防衛隊の攻撃が始まったのだった。
───────
「なっ、蛮族が対空射撃を!?」
イルネティア島上空を悠々と飛んでいた帝国軍王都攻撃隊第2部隊の隊長、ハルラムは、キルクルスに近付いた瞬間に光弾が飛来してくるのに驚いた。
彼がこれまで出たこの世界においての実戦では、その全てが帆船であり対空攻撃といえばバリスタくらいの物だったのだ。
「……だが、密度は薄い。やはり蛮族には過ぎた物のようだな」
飛んでくる機銃弾は、確かに当たれば脅威なのだろう。
しかし、よく見ればその射撃密度は非常に低く、また明後日の方向に撃っている物もある。
ケイン神王国のそれに比べれば無に等しい物だった。
「敵の攻撃は俺らにはかすりもしない!! 全機落ち着いて飛べ!! 目標はあの城だ!! アンタレスは敵の対空砲を殺れ!!」
『『『了解!!』』』
そうして、各機はまばらに曳光弾が飛ぶ中を飛行し、都市中央部にあるランパール城へと向かう。
また、護衛として付けられたアンタレスはその号令で一斉に散り、各対空砲の備えられた建物へと向かっていく。
ドォォォン、という重い音と共に建物が崩れ落ちる。アンタレスの落とした80キロ爆弾が着弾したのだ。
8mm機銃を操作する兵は殺されまいと必死に機銃を撃ちまくるが、悲しい程に当たらない。例え当たったとしても、当たり所が余程良くない限り、防御力の高いアンタレスを落とす事は出来なかった。
そうして1つ、また1つと対空攻撃が止んでいく。
「……よし、全機投下準備!!!」
やがて、シリウス隊の方も投下地点へと到達し始める。
「へへ……簡単な任務だこった」
そして、彼が爆弾の投下スイッチに指をかけた───
───その瞬間であった。
「はーーー」
彼は一瞬にして爆炎に包まれ、その意識を途絶えさせる。
包まれる直前、彼の目には空から飛来する白銀の竜の姿が映っていた。
「イルクス! 次は!?」
『2時の方向!! こっちも20機だよ!!』
「チッ、わざわざこんな回り道をしなきゃなんねぇなんて。めんどくせぇなァ……」
「あの神竜とかいうトカゲ対策なんでしょうけど、正直怖がり過ぎにも感じますよね。艦隊も構成艦を全て巡洋艦以上にするなんて……」
「この世界に帝国軍以上の存在なんてある筈がねぇのにな」
こちらは王都攻撃隊第1部隊。その隊長機であるシリウスの中で、隊長とその部下が話していた。
彼らはこれまでの実戦において危機に1度も直面しておらず、今回の任務も簡単に終わるだろうと信じていた。
さて、ここで、彼らの認識があまりにも甘すぎると感じた人も多いだろう。
それもその筈。帝国軍上層部は、例の神竜についての正確な情報を兵達に与えていないのだ。
前回の侵攻が失敗したのは卑劣な奇襲によるものであり、正面から戦えば負ける相手ではない───そう、教え込んでいた。兵の士気を下げない為である。
勿論、人の口に戸は立てられないという風に、真相を知っている者もいる。外務省職員などの例の放送をリアルタイムで観た者達と繋がりのある者達はこの事について把握していた。
だが、不幸な事に今回の彼らは把握していない側であったのだ。
同時に、それは幸運でもあった。彼らはいつ落とされるか分からない恐怖の中飛び続ける、という事をしなくて済んだのだから。
「……ん? なん───」
「え? どうしま───」
そして、次の瞬間には彼らの意識は永遠に途絶える事となった。
彼らはその恐怖の中を飛び続ける経験をせずに済んだのだった。
その後、ライカとイルクスは反対方向より王都へと向かっていた20機も全て撃墜。
王都攻撃隊3部隊、計60機が文字通り全滅するのにかかった時間は、僅かに30分であった。因みに移動時間がその殆どを占めている。
「さ、最後の機との通信、途絶しました……」
「……」
一方こちらは艦隊旗艦『クヤム』艦橋。
そこでは攻撃隊からの通信を逐一受け取っていたのだが、つい30分前、突然第2部隊との通信が途絶した。
その後第1部隊、そして第3部隊と途絶し、結果的に王都攻撃隊全機が消息不明となった。恐らく撃墜されたのだろう。
そして、そんな事が出来るのは神竜しかいない。彼自身、その存在に関しては半信半疑であったのだが、これにより気を引き締め直す事になった。
「全艦対空攻撃用意!! レーダー員はレーダーから目を離すな!! 少しでも妙な反応があればすぐに教えろ!!」
しかし、ここで彼はミスをした。神竜とて、そこに存在しているのならばレーダーに映るだろうと思い込んでいたのだ。
神竜がステルス性を持つという情報は帝国軍にそもそも入っていなかったので、注意しろという方が無理なのだが。
「こっ、降伏だッ!!!」
その結果がこれである。
帝国軍、第2次イルネティア侵攻艦隊は呆気なく降伏した。
発進させた直掩機は全て撃墜。艦隊から打ち上げられる猛烈な対空砲火をものともせず、まずオリオン級戦艦『アルニタク』が増築された背の高い艦橋を蹴り飛ばされ、転覆。
続いて軽巡洋艦が押し倒され、重巡洋艦は一瞬持ち上げられ、変な角度で落とされて沈没した。
司令官の心は簡単に折れた。元々少し臆病であったのだ。
しかし、それは兵達にとっては幸運であった。特に次に狙われていた空母の乗組員にとっては。
だが、戦いはこれでは終わらなかった。
気が動転していた司令官は、襲撃の直前に出撃させた第2次攻撃隊───先程イルネティア艦隊を攻撃したリゲルを爆装させた───の事を忘れていたのだ。
そして、イルクスはそれを察知出来ていなかった。
索敵は意図して行わなければならず、艦隊を攻撃している最中にそんな事をする余裕などなかったのだ。
2人が気付いた時、攻撃隊は既にキルクルス付近にまで接近していた。
彼女達は急いで向かったが、その心はそこまで焦ってはいなかった。
何故なら、イルクスのレーダーには帝国軍機とは違う、もう1つの飛行集団が映っていたからだ。
───────
「おーい! 手を貸してくれ!」
一方こちらは、ライカ達が間に合った事によりやや穏やかな雰囲気が漂っている王都キルクルス。
念の為に民間人はまだ防空壕へとこもってはいるが、現在兵士達が、崩れた建物から機銃手達を救出している所であった。
そんな中の1人である男、シャルパーム。彼は竜騎士であり、今回ライカ達が間に合った事に安心しつつ、同時に悔しさを噛み締めていた。
自分達は、何も出来なかった。
大人である自分達が、あの様な少女に頼っているという現状に憤りを感じていた。
そんな彼は、しかし大人しく救助活動に勤しんでいた───
「ん……? ッ!! 敵機接近!!!」
だが、そんな時。来る筈のない敵機隊が王都へと接近してくる。
恐れていた事が起きてしまった。やはりいくら強かろうが、1騎では逃してしまう事もあるのだ。
悲鳴が上がる中、彼は竜舎へと向かう。
その間にも敵機はどんどんと接近し───
「───え?」
一瞬、彼の頭上を黒い何かが通り過ぎる。
そして、次の瞬間には敵機の半分が落ちていった。
「───っ!! まさか!!」
彼にはそれが何か、心当たりがあった。
歴史上、
黒い巨体に、口から吐くは黄金の雷。
そして、飛竜を圧倒的に超える速度で飛ぶアンタレスを、更に速い速度で追い越していくその圧倒的な速度。
アンタレスを翻弄し、次々と落としていくその姿に、彼は希望を見出した。
『ヒャッハーーー!!!!! 落とせ落とせェ!!!』
『雷竜様のお通りだァーーー!!!!』
『無駄無駄無駄無駄ァ!!!!』
……念話が聞こえていなかったのは、彼にとって1番の幸運であっただろう。
第2次イルネティア侵攻艦隊はこの日、イルネティア王国に対し降伏した。
被害はオリオン級戦艦1、タウルス級重巡洋艦1、レオ級軽巡洋艦2隻、撃沈。航空機計140機、撃墜。
そしてヘラクレス級戦艦1、オリオン級戦艦1、タウルス級重巡洋艦7、レオ級軽巡洋艦6、ペガスス級航空母艦2隻が拿捕された。
この結果にイルネティア側は戦力が増し、ムーやミリシアルはサンプルが増えるので満足し、帝国側はその顔を青く染めた。
流石にこの短期間で正規空母4隻を失ったのは相当な痛手であり、1年後の先進11ヶ国会議にて世界全体へと宣戦布告が決まっていた事もあったのでこれ以上の侵攻は一時的に不可能と判断された。
その判断には、帝国の三将と呼ばれる海軍東方艦隊司令長官のカイザル・ローランド大将が大きく関わっていたという。
結果として、イルネティア王国は1年間の仮初の平和を得る事が出来たのだった。
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リヴァイアサンも神竜だという事に気が付いて、現実のリヴァイアサンについて調べたらどうやらメスしかいないようですね……閃いた