「そんな……栄えある帝国艦隊が……」
グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊所属の空母より飛び立った攻撃機隊の隊長、ハーガスは、眼下を行くボロボロの重巡洋艦を見て呟いた。
敵は数でこちらを上回っていると聞いた。しかし、敵は神竜はともかくそれ以外は大した事がないと思っていたのだ。実際、これまで戦ったのは全て
そんな世界で最強だなんだと言われている神聖ミリシアル帝国も、結局は弱いだろう、そう思い込んでいたのだ。
だが、蓋を開けてみればどうだ。
敵の艦隊に襲いかかったこちらの艦隊は壊滅し、大破した重巡洋艦1隻を残すのみとなっている。
敵は、強い。彼は認識を改めざるを得なかった。
「……だが、エアカバーも無い状態で200機だ。耐えられる筈がない」
今頃敵艦隊では必死に対空戦闘の用意をしているのだろう。しかし、戦闘機も無しに対空砲のみでは流石に200機の猛攻は耐えられない。
先程12機のプロペラの無い奇妙な航空機が襲ってきたが、そちらは大した性能ではなく、全機が護衛機に撃墜された。
彼は冷静さを取り戻し、艦隊へと向き直る。敵艦隊まで残り25kmだ。
ふと、敵戦艦が光る。
「は? ……ま、まさか!! 全機散開!! いそ───」
次の瞬間には、彼の乗るシリウス爆撃機は他の爆撃機2機と共に、『コールブランド』の主砲より放たれた時限式対空砲弾の爆発に巻き込まれて撃墜された。
戦いは、始まった。
───────
「敵機3機撃墜!!」
「次弾装填、急げ!!」
魔導電磁レーダーより送られたデータを基に、主砲にて対空戦闘が行われる。
近接信管は開発までに1年かかったのだが、時限信管は開発に大した時間も技術も必要ではなかった。その為、霊式12.7cm連装魔導高角砲と共に早い段階での実用化に成功していた。
そして、戦艦や重巡洋艦などに順次設置されていたのだ。
また、航空機による攻撃によって戦艦が沈む事が判明してから、対空魔光砲の強化、増設なども行われており、その防空能力は以前とは比べ物にならない程強化されていた。
敵機が対空砲の射程に入り、各艦の高角砲も火を噴き始める。『コールブランド』も例外ではなく、艦体各所に設置された4基8門の12.7cm魔導砲が、新開発された高射装置から送られたデータを基にして照準され、発射する。
艦隊上空は一瞬にして黒煙に覆われ、運悪く巻き込まれた敵機が落ちていく。
「敵機直上!!」
「対空魔光砲、発射ァ!!」
シリウス爆撃機が『コールブランド』の上空に回り、急降下爆撃を試みる。
それに対し、艦体より突き出たアクタイオン25mm連装魔光砲、第三世代イクシオン40mm
高射装置の誘導に沿った射撃は、次々と敵機を叩き落としていく。
対空魔光砲の砲弾には、その全てに爆裂魔法が付与されている。全てが薄殻榴弾の様な物なのだ。
掠っただけでも爆発するそれは、シリウスの翼やらをへし折って撃墜率を高めていた。
しかし、それでも全てを撃墜する事は出来ない。
「敵機、爆弾投下!!」
「面舵一杯!!」
艦長であるクロムウェルが出したその指示で、『コールブランド』はゆっくりと方向を変える。
それにより一発目は避ける事が出来たが、次に落とされた爆弾は避ける事が出来なかった。
「ぐぅぅ!! 被害報告!!」
「左舷高角砲大破、使用不能!!」
「ちぃっ!!」
「敵機撃墜12!!」
投下された爆弾によって、左舷の高角砲一基が破壊される。しかし、敵機もそれなりに撃墜出来ている、それだけが救いであった。
「戦艦『クレラント』被弾、火災発生!!」
「重巡洋艦『ロンゴミアンド』被弾、被害甚大!!」
次々と上げられる味方の被害報告。また、『コールブランド』の甲板もまたも被弾し、炎上している。
だが、敵機もかなり撃墜出来ている。今のところ分かっているだけで艦隊全体で30機は落としている。
これならば……! そう、彼が薄らと思い始めた。
その時だった。
「レーダーが低空で飛ぶ敵機を察知!! 数85!!」
「なっ……い、いかん!!」
低空で飛ぶ。この期に及んで水平爆撃などと判断するつもりは無い。
「魚雷かァッ!!!」
対空砲が低空飛行する敵機に向けられる。
無数の黒煙や光弾がリゲル雷撃機を絡め取り、海上へと叩き落としていく。
だが。
「敵機、魚雷投下!!」
「回避運動!! 右舷に魔力注入、装甲強化!!」
落としきれなかったリゲルより、無数の魚雷が投下される。
それらは白い航跡を引きながら、ゆっくりと旋回する『コールブランド』へと向かっていき、やがて淡く光る右舷に2つの水柱が上がる。
艦は激しい揺れに襲われ、破孔より大量の水が流れ込む。
「ぐっ……被害状況は!!」
「右舷3箇所に破孔発生!!」
「左舷注水開始!!」
左舷に注水され、艦の傾きが治っていく。
『コールブランド』が初めて体験する魚雷の威力は、乗員を不安にさせるのに十分だった。
結論から言うと、第零式魔導艦隊は壊滅した。ただし『コールブランド』、及びシルバー級重巡洋艦『レフィリー』はボロボロになりながらも生き残り、数少ない生存者を救出してマグドラ群島海軍基地へと帰投した。
また、艦隊全体でグラ・バルカス機を計59機は落としており、圧倒的戦力差の中これを成し遂げたのは快挙と言っても過言ではないだろう。
しかし、その後海軍基地は爆撃を受け、壊滅した。ただし両艦共に被弾しつつも沈没には至らなかった。この事から、彼女らは幸運艦と呼ばれる事になる。
だが、最強たる第零式魔導艦隊、及び海軍基地が壊滅した事には変わりない。
この事はすぐにルーンポリスへと伝えられ、一先ず外交団には避難を呼びかける事が決定された。
───────
〈神聖ミリシアル帝国 カルトアルパス〉
『これより、先進11ヶ国会議実務者協議を再開します』
そう告げる議長のリアージュは、ひどく顔色が悪かった。この事から、何かとんでもない事が起こったのだろうとビーリー候は察する。
『本日は朝から欠席しており申し訳ありません。議長国の神聖ミリシアル帝国より皆様に連絡がございます。
先日、グラ・バルカス帝国の艦隊がマグドラ群島に奇襲を仕掛け、この事で地方隊が被害を受けました』
第零式魔導艦隊が壊滅した、というのは伏せ、あくまでも被害を受けたのは地方隊であるという事にしておく。
『カルトアルパスには魔導重巡洋艦8隻、及び天の浮舟も警備に付きますので問題はありませんが、万が一という事もございます。
よって各国の皆様には全艦隊を引き揚げて頂き、会議場をここより東のカン・ブリッドに移したいと思います。事前に通告していた場所とは異なりますが、ご理解頂きたい』
彼がそう言うと、会場は一瞬の沈黙に包まれる。
神聖ミリシアル帝国は自他ともに認める世界最強だ。そんな国がここまで言うのだから、と文明国は危機感を覚える。
だが、ここで1人の男が立ち上がり、言った。
『あの無礼な輩が襲って来るからといって、世界の強国たる我々が尻尾を巻いて逃げるというのですか? その様な事、我らが許しても世論が許してくれませんよ。
ここにいる皆様はそれぞれが最新鋭の艦隊を連れて来ているのです。たかが文明圏外国が1国、捻り潰せる筈です。我々は堂々と会議を続け、こちらの艦隊が哀れなグラ・バルカス帝国艦隊を撃滅するのを紅茶でも飲みながら見ていれば良いのですよ』
その男とは、アガルタ法国のマギであった。
なんて馬鹿な事を、と思うかもしれないが、実はグ帝の脅威はミリシアルとムー以外にはイマイチ伝わっていないのだ。つまり、未だここにいる多くの者達のグ帝へのイメージは、『列強最下位を潰していい気になってる文明圏外国』のままなのだ。
そんな国が攻撃してくるからといって、最新の艦隊を随伴させた自分達が逃げる訳にはいかず、もし逃げたとすれば国内外からの非難に晒されるだろう。
その後、彼の意見にマギカライヒ、トルキア、パンドーラ、そしてエモールが賛成し、移動は取りやめという空気が流れ始める。
ビーリー候は反対したが、所詮元は文明圏外国、意見が通る事はなかった。
結果として、このままここで会議を続ける事となったのだった。ただ、アニュンリールのみは『戦力にならない』として帰国した。
そして、誰もそれを咎める事はなかった。
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8連装40mm機銃……ポンポンポンポン鳴りながら発射してそう