───未だ戦禍の真っ只中にあるフォーク海峡、その入口付近。その海を、1隻の巨大な戦艦が旋回する。
船体が旋回する中、その甲板上に取り付けられた4基の連装砲塔、及び左舷副砲9基が
「敵艦隊までの距離、残り30km!」
「全主砲徹甲弾装填、全艦、対艦戦闘準備! 砲雷撃戦用意!!」
レイヴェルが言い放つ。
それに応えるかの様に、彼女の周囲にいた重巡洋艦2隻は同じ様に旋回し、軽巡洋艦2隻は前進する。
その先に居るのは、5隻の敵艦だ。駆逐艦2隻、重巡洋艦2隻、そして……グレードアトラスター級戦艦、空前絶後の超巨大戦艦、『マゼラン』。
「目標、敵超巨大戦艦!」
旋回し終わった主砲が、続いてその角度を調整する。
そして───
「全主砲、撃ち方始めェッ!!!!」
世界で2番目に巨大な砲が今、世界最大の戦艦に対して火を吹いた───
───────
〈神聖ミリシアル帝国艦隊〉
「うっ、うおぉ……」
「す、凄まじい音ですな」
神聖ミリシアル帝国、南方地方隊8隻。その旗艦であるシルバー級魔導重巡洋艦『ゲイジャルグ』艦橋にて、艦隊司令であるパテスは背後より聞こえてきた轟音に思わずよろける。
最新戦艦であるミスリル級、その主砲である霊式38.1cm3連装魔導砲2基の斉射よりも遥かに大きなその音は、恐らく艦隊の全員を驚かせただろう。
だが、今自分達はそれよりも更に巨大な砲を持つ艦へと突撃しているのだ。その事に改めて恐怖心が込み上げてくる。
現在、シルバー級魔導重巡洋艦8隻は最大速度で敵艦隊へと突撃していた。
艦の主砲である霊式20.3cm連装魔導砲の有効射程に入る為でもあるが、本命はやはり……
「……我らがあの巨大戦艦を沈めるには、なんとしても魚雷を当てねばならんのだ」
「こっ、これが雷撃戦ですか……恐ろしい……」
艦長が怯え、体を震わせる。
既に敵の主砲の射程内に入っているだろう。いつ撃たれるか分からない、そんな危険な"賭け"、それが雷撃戦だ。しかし、成功すれば小型艦でさえ戦艦を沈める事が可能なのだ。
後ろからは同じく賭けに出るイルネティアの軽巡洋艦がついてくる。
と、その時。
「敵戦艦発砲!!」
「っ!! 衝撃に備えよ!!」
『マゼラン』の46cm3連装砲が発射される。もし、あれが当たれば重巡洋艦など一瞬で消し飛んでしまうだろう。
それが発射された直後、『マゼラン』後方に水柱が多数立つ。先程『トワイライト』から放たれた砲が着弾したのだ。命中は無かったが、初弾にしては良い精度であった。練度が高い証拠である。
「敵艦隊との距離、23km!!」
「こちらも負けてはおれんな……」
そう呟くと、彼はかっと目を見開いた。
「イルネティアに負けるな!! 対艦戦闘開始!! 目標、敵小型艦及び重巡洋艦だ!! 各艦の判断で全力砲撃せよ!! 敵艦に魚雷を投下させるな!!」
「了解!! 主砲、発射用意!! 目標、最前列小型艦!!」
前部甲板に設置された霊式20.3cm連装魔導砲が小さく旋回し、砲身を動かす。
「主砲、魔力充填開始!」
「属性土55%、水23%、風22%、砲弾の魔術回路起動……砲弾、魔力充填完了!」
「主砲撃発回路、魔力充填開始……70、80、90、100%。主砲、魔力充填完了!」
「敵艦との相対速度計算中……左舷5度、仰角43度、調整完了!」
「艦長!! 主砲、発射用意完了しました!!」
「よし……第1、第2主砲発射ァ!!!」
こうして、この主砲も発射された。先程の物よりかは遥かに小さい物。しかし、それでも力強い音だ。
「敵重巡洋艦、攻撃開始しました!!」
「今度は我々を狙ってくるぞ!! 総員、衝撃に備え!!」
艦橋内の皆が顔を引き攣らせる。暫く実戦を経験してこなかった者達だ、無理もない。
だが、それでも彼らが敵から目を離すことはない。皆冷や汗を垂らしながら、足を震えさせながらも、戦闘から目を逸らす事はしない。
彼らは、"世界最強"たる誇り高き神聖ミリシアル帝国の軍人なのだから。
「主砲次弾装填!! 仰角調整!!」
2射目を終え、休む間もなく次射の準備に移る。
既に敵艦隊との距離は23kmにまで縮んでおり、重巡洋艦2隻も砲撃を開始していた。
動きながらの砲撃。だが、それでも側面を見せている事に変わりはなく、艦橋内部にはこれまでに無い程の緊張感が漂っている。
戦艦側面、最も火力が高くなり、同時に被弾確率も最も高くなる面。更に敵の主砲はこちらの物よりも大きい46cm、緊張しない方がおかしいというものだ。
「敵駆逐艦撃沈!!」
「よし!」
神聖ミリシアル帝国艦隊の猛攻撃で、敵駆逐艦が2隻とも沈没する。
また、これまでに重巡洋艦も1隻が被弾し、現在も炎上している。
対して、こちらはミリシアルの重巡洋艦が3隻、こちらの軽巡洋艦が1隻被弾していた。だが、何れも航行に支障はない。
現状、こちらが優勢であった───
───と、その時。
「うおおっ!!?」
猛烈な揺れ、そして爆発音が彼を襲う。
「な、なんだ!!」
「左舷に被弾!!」
「何っ!?」
それは、彼が1番聞きたくなかった報告であった。
「ぐ……損害の程度は!!」
「現在確認中……左舷後部副砲に被弾した様です! 航行に支障無し!!」
その言葉に、彼は少し安心する。
もしこれが弾薬庫にでも直撃していれば、彼らは今頃この世に居なかったであろう。
「敵艦に命中!!」
「「「おおお!!!」」」
と、そこで別の、それも今1番聞きたかった報告が入る。
「損害は!?」
「……確認出来る限りでは、あまり与えられている様には見えません」
「ううむ……だが、分かっていた事だ」
そう、戦艦とは建造当時最大の主砲───即ち、自身の主砲に耐えられる装甲を施される。この『トワイライト』ならば41cmに、そして『グレードアトラスター』ならば46cmに。
つまり、こちらの攻撃では相手の装甲は貫けないが、逆に相手の攻撃ではこちらの装甲はいとも容易く貫く事が出来るのだ。
「しかし、今の我々にこれ以上出来る事はない。ただ撃つだけだ!!」
ただし、戦艦とは何も全面に装甲が施されている訳でもない。
沈める事は出来なくとも、戦闘不能には出来るのだ。
「主砲、発射用意完了!!」
「よし、主砲発射ァ!!!」
それに、我々は何も1人ではない。
「全艦旋回!! 魔導魚雷一斉射!!」
ドン、とその場にあった台を叩きパテスが言い放つ。その号令に合わせ、現在まで生き残っていた7隻の魔導重巡洋艦が、遅れて1隻の軽巡洋艦が一斉に旋回し始める。
敵との距離は約13km。魔導魚雷の射程であれば、距離を詰めるのはこの位で十分だ。
8隻が敵艦隊に側面を向け、それぞれの53cm4連装魔導魚雷発射管が小さく旋回する。
そして、艦尾方向から続けて発射された。
戦艦をも沈め得るその計64本もの姿無き死神は、静かにその鎌を敵艦隊への下に伸ばしていき───
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