【本編完結】つよつよ神竜イルクスさん   作:デュアン

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フォーク海峡海戦(後編③)

───結果として、グラ・バルカス帝国の艦で帰投する事が出来たのは、『マゼラン』及び空母6隻とその護衛として残っていた駆逐艦数隻であった。

 航空機はその殆どを失い、艦隊は半壊、『マゼラン』もかなりの損傷を負った。

 

 グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊は、臨時世界連合艦隊に完全に敗北したのだった。

 

 

 ただし、こちらも無傷という訳ではない。

 まず、相当数の航空機が撃墜されているし、ミリシアルの重巡洋艦は4隻、イルネティアの軽巡洋艦が2隻沈没した。

 

 また、『トワイライト』が大破した。が、寧ろ沈まなかった事が奇跡に近い。

 何せ、彼女は戦闘中ずっと『マゼラン』の砲撃を引き受け、実に10発もの46cm砲弾を被弾しているのだから。

 その代わりに『マゼラン』にもかなりの数の41cm砲弾を当てた。残念ながらバイタルパートを貫く事は出来なかったが、上部構造物や非バイタルパートにはかなりの損傷を与えた。

 

 そして───魚雷だが、『マゼラン』には3発が命中した。

 本来ならば10発程が命中する()()()()。狭い海峡内で、被弾のせいで推力も低下している。そんな状況の中64本もの魚雷が接近してくるのだ。

 さしものグレードアトラスター級とて、10発もの魔導魚雷が命中れば沈むだろう、艦隊の兵士達は皆が勝利を確信した。

 

 だが、そうはならなかった。

 

 何と、彼女の前に唯一動けた重巡洋艦が立ち塞がり、10発中7発をその身に受けたのだ。

 元々砲撃で中破していた所にその数の魚雷である。水柱が彼女の身を覆い尽くし、次の瞬間には大爆発を起こして轟沈した。

 3発しか命中しなかった『マゼラン』は、その後ヨタヨタと脱出していった。

 勿論、世界連合側も追撃しようとはしたのだが、46cm砲の正確な射撃で追加で3隻が撃沈され、また魚雷も既に撃ち尽くしていた───元々搭載数が少なかった───為に撃沈を不可能と判断、生存者の救出に向かったのだった。

 

 

 こうして、ミリシアルとグラ・バルカスの初の戦闘となるフォーク海峡海戦は幕を下ろした。

 

 双方の被害は、

 

 

〈臨時世界連合艦隊〉

・神聖ミリシアル帝国

 シルバー級魔導重巡洋艦 4隻沈没、3隻中破、1隻小破

 『エルペシオ3』16機被撃墜

 『エルペシオ3改』24機被撃墜

 『エルペシオ4』3機被撃墜

 『ジグラント2』29機被撃墜

 『ジグラント4』2機被撃墜

 

・イルネティア王国

 ヘラクレス級戦艦『トワイライト』 大破

 タウルス級重巡洋艦 2隻損傷

 レオ級軽巡洋艦 2隻沈没

 雷竜騎士団 7騎被撃墜

 

・ムー国

 『マリン』10機被撃墜

 『スカイ』5機被撃墜

 

・エモール王国

 風竜騎士団 12騎被撃墜

 

 

〈グラ・バルカス帝国海軍東部方面艦隊〉

 グレードアトラスター級戦艦『マゼラン』 大破

 タウルス級重巡洋艦 2隻沈没

 キャニス・ミナー級駆逐艦 3隻沈没

 『アンタレス型艦上戦闘機』120機被撃墜

 『シリウス型艦上爆撃機』45機被撃墜

 『リゲル型艦上攻撃機』38機被撃墜

 

 

 空戦が多かった為に、航空隊にかなりの損害が出ている。

 特に『エルペシオ3』は全機が撃墜されており、これは未だにグラ・バルカス帝国を蛮族と侮っていた者達の認識を改める結果となった。

 

 だが、勝利したのもまた事実。これは世界各国の士気を大いに高め、またグラ・バルカス帝国側の士気を大きく下げる事となる。

 「蛮族に負けたのは神竜とかいうチートがいたからだ」としてプライドを保っていた様な者達はそれが特に顕著であった。

 

 

 そして、翌日。遅れて到着した神聖ミリシアル帝国の第1、第2、第3魔導艦隊が警備につき、先進1()0()カ国会議は続行される事となった。

 この会議で、まず日本国が列強各国の賛成を得て列強国と承認される。また、列強、そして各文明国らが全て賛成し、イルネティア王国は"文明圏外国"から晴れて"文明国"となった。

 会議の参加国からは、「何故()()()()パカンダ王国が文明国で、それよりも遥かに高い技術力を持っていたイルネティア王国が文明圏外国だったのか」という意見も見られたが、真相は闇の中である。

 

 ……滅びてしまい、最早確認する術は無いが、まあ恐らくレイフォルが何か関わっていたのだろう。

 

 

───────

 

 

〈グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ〉

 

「……そうか」

 

 帝都ラグナにあるとある部屋で、初老の男───帝国東方艦隊司令長官のカイザル・ローランド大将は、部下からの報告を聞いてそう呟く。

 報告を上げてきた部下は内心怯えていたが、あまりにも反応が素っ気ない事に拍子抜けしていた。

 

「下がっていいぞ」

「はっ、はい!!」

 

 しかし、それでも恐ろしい事には変わりない。彼はそそくさと出ていった。

 

 

「……異世界、か」

 

 誰もいなくなったその薄暗い部屋で、彼はぼそりと言う。

 

「何処で間違った……?」

 

 帝国は、何の前触れも無くこの世界に転移した。

 世界征服完遂の直前。幸いにも世界各国に散らばっていた戦力を本土に集中させていた為、戦力の殆どは無事であった。

 だが、得ていた膨大な植民地を失った。そこに居た多くの人員と、そして資源、食料源と共に。

 

 食料はまだ本土だけでも何とかなる。だが、資源は別だ。既に本土の鉱山はその殆どを掘り尽くし、資源は植民地に依存していた。

 中でも石油、それが無ければ電力を供給する事が出来ず、生活に大きすぎる影響が出てしまう。

 

 だからこそ、転移した周囲を侵略するのは当然であった。

 備蓄も少なく、悠長に外交などやっている暇が無かったのだ。軍艦とて、動かさずともエネルギーを消費するのだから時期が遅れれば遅れる程動かすのが困難になる。

 更に言えば、周辺の国家が使用しているのは木造の帆船で、大砲すら持っていなかった。唯一航空戦力としてワイバーンとかいう空飛ぶ蜥蜴を所持していたが、それもアンタレスに比べれば雑魚も雑魚であったのだ。

 

 そして侵略を続け、資源にもようやく余裕が出てきた頃、この世界に"文明圏"なる物が存在する事を知る。

 それを知った当時、穏健派として有名であった皇族のハイラスが慎重論を唱え始め、それに同調する者らと共に文明国へと向かった。

 彼らは木造の帆船で向かった。現地住民を威嚇しない様に、との事だったが、それにはかなりの反対意見が出る。当然だろう、彼は皇族であり、もし何かが起こっては困るのだ。

 しかし、彼は頑固であった。結局は周囲が押し負ける形で帆船で向かってしまった……いや、()()()()()()()()()()()()()()()

 何の調査もしていない様な国家に皇族を向かわせる筈がない。

 事前の調査で、彼がたらい回しにされ、最終的にはパカンダ王国に向かう事になる事くらいは分かっており、その王国が腐敗しており、木造帆船で来た様な外交官には必ず莫大な賄賂を請求する事も判明していた。

 

 結果として、全てが軍部の思惑通りに進んだ。

 ハイラスは処刑され、穏健派は力を失った。パカンダとレイフォルは滅ぼされ、我々は第2文明圏への橋頭堡を手に入れた。

 

 全ては帝国の為だ。肥大し切った軍を養うには、あの様なちっぽけな植民地では最早足りず、更なる侵略が必須であった。

 それが悪循環である事は分かっている。だが、前世界でも今世界でも連戦連勝を繰り返し、完全に継戦ムードになっていた帝国ではそうするしかなかったのだ。

 もしもあの時穏健派の言う通り、宥和政策をとっていれば……今頃、上層部に疑問を抱いた軍の末端によるクーデターが発生していた事だろう。それだけは何としても避けなければならない。

 愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶと言うが、ユグドの歴史上クーデターで軍事政権に移行した国が長続きした例は存在しないのだから。

 今、ここで国体が崩壊してしまえば我々は滅ぶ。内戦ですり減らした後の戦力で、全世界を相手に戦える筈がない。だが、クーデター政権はそれでもやろうとするだろう。そして、逆に攻め込まれてグラ・バルカスは亡国になる。

 

 

 そんな思惑もあり、レイフォルを滅ぼした後はまた再び文明圏外国を侵略した。

 相手は小さな島国、イルネティア王国。これまで戦ったこの世界の国の中では最も高い技術力を持ってはいるものの、所詮は蜥蜴と戦列艦、負ける筈がない。

 駄目押しに外務省がグレードアトラスターを捩じ込み、戦力は万全、寧ろ過剰であった。過剰である、筈だった。

 

「……そう、そこだ」

 

 その筈だったのに、結果として我々は2度の敗北を喫した。神竜という規格外の生物によって。

 2度の海戦において、我々は神竜にかすり傷1つ負わせていない。

 

「神竜……」

 

 神竜、我々の敗北はそこから始まった。今や反帝国の旗印で、侵略を受けている国々にとっては希望の星にして、帝国臣民最大の敵。

 

「それしか……ないのか」

 

 放置していれば、例え大戦力をもってして世界征服を成し遂げられたとしてもその神竜を希望として各地で反乱が頻発するだろう。

 だからこそ、奴は何としても倒さねばならない。

 

 

「全ては帝国の為に」

 

 

 帝国の安定した統治の為に。

 既に()()()()()。あとは奴を倒すのみ。

 

 

 この日、彼はイルネティア王国を、神竜を、帝国の全力をもってして滅する事を決意した。




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地味にラ・カサミ改フラグと日本参戦フラグが消滅しました

追記:間違えて次の次の話を投稿してしまいました。読んでしまった方は見なかった事にして下さい
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