【本編完結】つよつよ神竜イルクスさん   作:デュアン

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カイザルの孤闘

〈中央歴1642年1月15日 グラ・バルカス帝国〉

 

 フォーク海峡海戦のおよそ3ヶ月前。この日、帝国を揺るがす大事件が発覚した。

 なんと、あの軍需系大企業であるカルスライン社と帝王府副長官オルダイカの癒着が発覚したのだ。

 更に、社の利益の為に技術者が提案した新型機の案を全て揉み消していた事も判明。カルスライン社は、敢えて新型機を出さない事によって軍の被害を拡大させ、社への発注を多くしていたのだ。

 これらにより、帝王府とカルスライン社には大規模な査察が入る事となり、オルダイカは収賄罪で逮捕、帝王府長官カーツは責任をとって辞任し、またカルスライン社の上層部も同じく責任をとって辞任した。

 

 因みにこの事件は、新型機の案が中々提出されない事を疑問に思い、自ら秘密裏に社の工場へと出向いたカイザル・ローランド大将へ、以前から新型機の設計図を提出しては却下され続けていた技術者が彼へその設計図を手渡した事によって発覚したらしい。

 

 これら一連の事件の解決によって、カルスライン社では新型機の開発、量産がスタートする事となった。

 そのカイザルへと渡された設計図も勿論採用された。

 翼とエンジン、そしてプロペラが後方に配置した『エンテ式』と呼ばれる特異な形状を持つ航空機であり、どうやら元々は局地戦闘機として設計した物のようだ。

 しかし今回、新たな艦上戦闘機を軍部が求めていると知り、急遽これを艦上機として設計し直したのが、これらしい。それなりにミリタリーに詳しい日本人が見れば、史実では未完成に終わった局地戦闘機『震電』と酷似していると思うだろう。

 幸か不幸か、時間が余っていた事もあってかこの震電擬き、なんとカタログスペック上では最高時速740kmという高速に、アンタレスと同等の機動力を持っている。

 

 流石にそれは盛り過ぎでは、と当初軍部は笑ったのだが……

 

 

「「「おおおおお……」」」

 

 

 今、空を飛ぶ試作機を見て、その笑いを引っ込めざるを得ない事となった。

 3次元空間を縦横無尽に高速で飛ぶ奇妙な形の航空機。素人目に見ても、それがアンタレスを上回る物だという事は明らかであった。

 唯一負けている点としてはコストだが、低性能機を量産して全滅させる位なら、高性能機を量産して敵に勝つ方が圧倒的に良いに決まっているのだ。

 

 こうして、この震電擬きは採用される事となり、『カノープス型艦上戦闘機』と名付けられて早速量産に入る事となる。

 

 

 また、同じ様にカルスライン上層部に握り潰されていた新型機の案として、リゲル型艦上攻撃機の後継機もあった。日本人が見れば『天山』と見間違うであろうその新型機も採用された。

 最高時速480kmで、800kg魚雷を搭載可能なこの攻撃機は『アークトゥルス型艦上攻撃機』と名付けられ、こちらも量産に入る事となったのだった。

 

 

 

〈中央歴1642年4月26日〉

 

「こちらが新型の対空砲弾になります」

「ふむ」

 

 ド・デカテオン社の工場にて、砲弾開発の技術者が目の前の新型砲弾をカイザルに解説する。

 

「見た目は以前の物とさして変わらん様だが……」

「あくまでも見た目だけです。中身は全くの別物ですよ」

「ほう」

「こちらをご覧下さい」

 

 そう言うと、彼は縦に切られた砲弾を見せる。

 

 従来の主砲対空砲弾は、内部にマグネシウム片が入っており、着火されたそれが空中に飛び散るという物だった。

 だが、今回のこれはマグネシウム片の代わりに……

 

「これは……爆弾か?」

「その通りです。発射されたこの砲弾は時限信管によって炸裂、内蔵された小型爆弾が辺り一面に散乱し、遅れて爆破。範囲内にいるありとあらゆる敵を排除します。

 私はこれを、『Z式散乱弾』と名付けました」

「何故Zなのだ?」

「決まっているでしょう。カッコイイからです」

「そうか」

 

 カイザルは特に突っ込む事もせず、そのまま流すのだった。

 

 

 一方の造船部門。休む間もなく日夜増産改装を続けているここにも、カイザルは視察へと来ていた。

 あの事件から、彼は自ら視察に赴く様になっていた。

 

「どうだ、改装は順調か?」

「どうにか……」

「苦労をかけるな」

 

 対応した技術者の目の下には分厚い隈が出来ており、その疲労の程が窺える。

 彼はそれを労い、そして目の前の改装中のヘラクレス級戦艦を見上げる。

 

「全ての艦の対空兵器の見直し……従来の40口径12.7cm連装高角砲から、グレードアトラスター級戦艦から採用された65口径10cm3連装高角砲への換装……25mm3連装機銃から、40mm4連装機銃、20mm4連装機銃へ……やる事が多すぎて休む暇もありません……」

「本当に苦労をかけるな……だが、これも全ては帝国の勝利の為なのだ」

「理解しております……」

 

 今、ド・デカテオン社ではカイザルの指示で海軍艦艇の対空兵器の換装が行われていた。理由は勿論、神竜だ。

 神竜が現れるまでは従来の対空兵器でもオーバーキル気味であった為に、旧式化していた40口径12.7cm連装砲や25mm機銃でも問題なかったのだが、現れてからはこれが問題視される様になった。というか、カイザル自身が問題視した。

 グレードアトラスター級戦艦やキャニス・ミナー級駆逐艦は比較的新型の艦である。よって、その対空兵器も新型の物───65口径10cm高角砲や、40mm機銃など───だ。

 それに対し、随分前に建造されたヘラクレス級戦艦やタウルス級重巡洋艦などはその兵器も勿論旧式の物だった。ユグドではそれでも良かったので放置されていたのだが、これからはそうもいかない。

 よって、こうして順次換装が行われているのだった。帝国の艦は如何せん数が多く、全ての艦を換装するのにはかなりの時間がかかっていた。

 

「……だが、これでもまだ足りん」

「へ?」

「いや、何でもない」

 

 ぼそりと呟いたその言葉は、疲れ切っていた技術者には聞こえていなかった。元々彼に言った言葉でもないので問題はないのだが。

 

 

───────

 

 

「現場の見立てでは、恐らく修理に半年はかかるかと……」

「そうか……」

 

 少し経って、『マゼラン』がレイフォルへと帰還する。大破していた彼女は、帰るやいなやドッグ入りした。

 そこで損傷を見た技術者は、戦場に復帰出来るようになるには半年はかかると結論付けたのだった。

 

「……ならば、次の海戦は───」

 

 彼は決意を固める。

 

 後の世で、『第3次イルネティア沖大海戦』と呼ばれる空前絶後の大海戦。

 敵味方双方合わせて約1200隻もの艦艇が戦い、歴史学者達に「グラ・バルカス帝国滅亡の原因」と言われる事になるその戦いの時期が決定した瞬間であった。




この小説が面白いなと思ったら高評価低評価チャンネル登録ブックマーク(中略)5つの小よろしくお願いします

仮にも富嶽作れる技術力があるんだから震電くらい作れるよね、という事で最新機は震電と天山になりました
何故震電なのかというと、作者が好きだからです

そういえば、竜魔戦争って本編で書かれるんですかね……ちょっと書いてみたい気もします
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