【本編完結】つよつよ神竜イルクスさん   作:デュアン

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使節団の困惑

〈神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス〉

 

 イルネティア王国における外交のトップを勤める王侯貴族、ビーリー候、そして王子であるエイテスはムー国との交渉を終え、今度は神聖ミリシアル帝国へと訪れていた。

 彼らの祖国は今、あの列強レイフォルを下したグラ・バルカス帝国に従属を迫られている。

 戦えば絶対に勝つ事の出来ないこの状況をなんとか打開する為に彼らは各国を回っているのだ。

 

 列強第二位であり、付き合いの長いムー国には2ヶ月以内の援軍の派遣、来年開催される『先進11ヶ国会議』にて帝国に対する非難声明の表明、制裁処置、第2文明圏からの撤退要求を議題にのせる、という約束を取り付けることに成功した。

 更に、彼らはミリシアルに紹介までして貰えたのだ。この上ない成果であった。

 ミリシアルに迫る実力を持つムー国の紹介であれば、いかに文明圏外国であろうとも無下には出来なくなるからだ。

 

 しかし現在、彼らはホテルにて足止めを食らっていた。

 やはり世界最強の国。いかにムー国の紹介があろうとも、即会談、などという事にはならないらしい。

 足止めを食らっている間にかのパーパルディア皇国を下した日本国との会談を行ったが、結果はそこまで芳しい物ではなかった。

 

 

 だが、この日。状況が動く。

 

 

「ビーリー様! ビーリー様!!」

「どうした?」

「やっと打診がありました。神聖ミリシアル帝国側から、会談を5日後に行いたいと連絡がありました!!」

 

 慌てて彼らの泊まっている部屋に入ってきたビーリーの部下が、目を輝かせながらそう言った。

 それを聞いた皆も「おおおおお!!!」と声を上げて喜ぶ。

 会談の日程は決まった。後は我々が努力するだけだ。彼は決意を決める。

 

 

 ピポポポポ……

 

 

 と、その時、部屋に設置された魔信機が鳴り響く。それは王国の緊急連絡であった。

 

『グラ・バルカス帝国との交渉は決裂。帝国軍との間に発生した偶発的戦闘により、ドイバ防衛艦隊は全滅、ドイバ市街は灰燼に帰せり。繰り返す、ドイバ市街は灰燼に帰せり』

 

「……は?」

 

 彼らは、この魔信の意味を一瞬理解出来なかった。

 本来ならばドイバで3ヶ月は耐える予定だったのだ。しかし、これではキルクルスが3ヶ月で陥落してしまいかねない。

 室内は通夜ムードになる。

 

 だが、次に発せられた言葉で、彼らはまたも呆気に取られることになる。

 

 

『その後、王国竜騎士団が敵艦隊に攻撃を開始。敵艦17隻を撃沈、巨大戦艦を含む6隻を拿捕せり。

 我が国は、グラ・バルカス帝国艦隊を壊滅させた。繰り返す、グラ・バルカス帝国艦隊を壊滅させた』

 

 

「「「……は?」」」

 

 

『尚、敵艦17隻撃沈は全てライカ殿とイルクス殿による戦果である。繰り返す、ライカ殿とイルクス殿が、敵艦17隻を撃沈せり』

 

 彼らの思考は今度こそ止まる。泣きかけていた貴族も、皆を鼓舞しようとしていたエイテスも。

 

 彼らは、祖国が1年間耐えられるとは信じていたが、勝てるとは思っていなかった。

 なにせ相手はレイフォルを短い間で陥落させたあのグラ・バルカス帝国だ。到底勝てる相手ではない。

 

 だが、この魔信はそんな相手の艦隊を壊滅させたと告げる。予想だにしていなかった大戦果だ。

 しかも、巨大戦艦というのは恐らくあのグレードアトラスターだろう。列強を単艦で下した戦艦を、祖国が拿捕? 嘘でしょ?

 

「……て、敵の欺瞞通信では?」

「……いや、あのグラ・バルカスがわざわざそんな事をするとは考えづらい……」

 

 ビーリーは混乱していた。ミリシアルとの会談の事も忘れ、必死に冷静になろうとしていた。

 他の者も同様だ。皆が皆困惑し、罠ではないかと疑っていた。

 

 

「皆さん、落ち着いて下さい」

 

 

 ただ1人、エイテスを除いて。

 

「これが本当であれ、欺瞞であれ、我々がする事は変わりません。我々は神聖ミリシアル帝国との会談を行い、援軍の約束を取り付けるだけです」

「王子……」

「それに、恐らくこの魔信は本当でしょう。そもそも緊急連絡は王都からのみ発信出来るのです。ここまで早くキルクルスが落ちるとは考えられません」

 

 今日がグラ・バルカスの言い渡した期日なのだ。攻撃初日に内陸部にあるキルクルスを攻略するなど、物理的に不可能だ。

 

「それに、もしこれがグラ・バルカスの欺瞞情報であるならば、わざわざライカ殿とイルクス殿の名前を出す必要は無いはずです」

「た、確かに……」

「と、いう事は……!!」

 

 

「そう、祖国は一旦危機を脱したのです!」

 

 

 彼のその言葉に、通夜ムードであった室内は一気に盛り上がる。ビーリーは涙を流して部下の貴族と抱擁し合い、ある貴族は「イルネティア王国万歳!!」と叫ぶ。

 

「……しかし、あの2人(ライカとイルクス)は凄いですな。単騎で17隻を撃沈とは……一体どんな魔法を……」

「イルクス殿が神竜だというのはどうやら本当だった様ですね。あのラヴァーナル帝国と渡り合ったという伝説は伊達ではないという事です」

「インフィドラグーン、ですか……信じられませんな……」

 

 イルクスが神竜であるという噂は、貴族達の間で流れていた。

 当初はその特徴的な前肢から風竜だと思われていたのだが、その額の紋章、そして人の姿になれる、という事から風竜ではなく神竜ではないかと言われていたのだ。

 

 神竜は、今や伝説の中だけの存在である。

 

 神話の時代、この世界には2つの巨大な国があった。

 1つはこの世界の住民ならば誰しもが知っている古の魔法帝国『ラヴァーナル帝国』だ。かの国は強大な軍事力で他の国を屈伏させていた。

 そして、もう1つは古代竜の神々が治めていたという『インフィドラグーン』だ。かの国はラヴァーナル帝国と拮抗する程の力を持っていたが、『竜魔戦争』と呼ばれる大戦争によって首都を灰燼に帰され、滅亡した。

 その生き残りである竜人達が集まって建国されたのが、現在の列強第三位の国である『エモール王国』なのだ。

 

 そのインフィドラグーンは、今でも残る風竜に加え、神竜という種の竜も使役していた。

 いや、使役という表現は語弊があるかもしれない。伝承によれば、神竜とパイロットは、完全に対等な関係であったのだから。

 

 その神竜だが、なんと音よりも速く飛んでいたらしい。それでいて機動力も凄まじく、魔素含有量が少ない土地であっても離陸に距離を必要としない。

 その攻撃も凄まじい。

 種類に関わらず口から光線を放って敵騎を切り裂き、更に高威力の無誘導光弾を放てる。種類によっては誘導魔光弾をも撃てたらしい。

 力も強く、帝国の空中戦艦を掴んで引きずり下ろせる程だ。また、巨大な物を運ぶ時には対象物を魔力でコーティングし、壊す事なく持ち上げられたという。

 その他にも波長を操って遥か彼方に居る敵を発見したり、逆に敵のレーダーに映らなくしたり、果ては海の中でも飛べたりととにかくむちゃくちゃな存在、それが神竜だ。

 

 しかし、そんな神竜であったがラヴァーナル帝国の物量には勝てず、インフィドラグーンが滅亡した後に世界各地に散らばり、今は霊体化して世界各地を護っているのだという。

 もしかするとイルクスはイルネティア島の守護神竜が現出したものなのかもしれない……彼らは思った。

 

 

「まさか伝説がこんな近くに居たとは……それもあの様な……なんというか、軽い雰囲気で……」

 

 ライカとイルクスの仲の良さは、王都でも評判であった。

『誰も間に挟まってはいけない』……そう皆の間で共有される程度には。

 

「良いではないですか。その軽い伝説のお陰で、我々はこうして胸を撫で下ろせるのですから」

「……ですな!」

 

 

 彼らは顔を緩め、そしてミリシアルとの交渉の準備に乗り出すのだった。




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