【本編完結】つよつよ神竜イルクスさん   作:デュアン

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開戦準備①

〈中央歴1642年8月26日 神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス〉

 

 世界一発展していると言われる、"眠らない魔都"ルーンポリス。その中心部に鎮座するアルビオン城より5km程離れた位置にある六芒星の建築物。

 神聖ミリシアル帝国、国防省。その一室にてとある作戦会議が行われていた。

 

 

「それではご報告致します。昨日、レイフォルにて活動中の諜報員より魔信が入りました。お手元の資料をご覧下さい」

 

 上質な木材で作られた机を囲む面々の前にて、帝国情報局局長のアルネウス・フリーマンが告げる。

 

「大規模な攻勢の兆しあり、か……ううむ……」

 

 手元の資料を読み、重々しい唸り声を上げたのは国防省長官のアグラ・ブリンストンだ。

 彼は書いてある内容に渋い顔を隠せないでいる。

 

「はい。書いてある通り、グラ・バルカスは本気でイルネティアを攻略するつもりです。イルネティア島は我が国が帝国へと攻勢をかける際に重要な拠点となる島、奪われる訳にはまいりません」

「しかし、この数は……」

 

 彼が不安になるのも当然の数値が、そこには書いてあった。

 

 

「計679隻だと……我が国の全戦力をも超える数ではないかっ!?」

「し、しかもその内戦艦が17隻、空母に至っては40隻!?」

「一体奴らはどれ程の戦力を有しているのだ……」

 

 その圧倒的な数に室内は騒然となる。

 何せ、ミリシアルの空母は20隻、現在建造中の物を合わせても22隻しかないのだ。40隻の内の大半が軽空母だとしても、展開可能機数はこちらを遥かに上回る事だろう。

 

「現在、イルネティアに駐留しているのは第一から第三魔導艦隊の計109隻、それに加えてイルネティア王国艦隊が20隻、エモール王国竜母が2隻です。あまりにも戦力が足りません」

「神竜がいるのでは?」

「いかに強力とはいえ1騎しかいないのです。敵の数は圧倒的、艦隊を分散させてくるでしょう。そうなった時、どれかの艦隊を潰している間に他の艦隊は本島に辿り着いてしまいます。それでは意味がありません」

「ううむ……」

 

 そう、神竜は1騎しかいないのである。

 神竜を正面から打ち破れないのであれば、()()()()を使えばいい。要するに人質だ。

 島そのものを人質とし、神竜に降伏を迫る。これがミリシアルで考えられている"対神竜戦術"であった。そして、それは敵も分かっているだろう。

 

「また、ありえないとは思いますが偶然に偶然が重なった結果神竜が戦闘不能になる、という事も考えられます。あまり当てにしすぎるのは良くないかと」

「そうだな……他国はどうだ? 我が国が呼びかければ招集に応じるだろう?」

 

 この場合の他国、とは主にムー国とアガルタ法国、そして日本の事である。日本とムー国は言わずもがな、アガルタ法国にはかなりの技術提供をしており、それなりに期待していた。それ以外は弾除け程度にしか思っていないが。

 

「はい。ムー国ではイルネティアより貸与されていたオリオン級戦艦を解析、複製したラ・ゴンコ級戦艦、そして新たに設計されたラ・エルベン級戦艦がそれぞれ就役しています。この2つは共に我が国のミスリル級程度の性能があり、それなりの戦力となるでしょう。

 また、ムー国初の駆逐艦、ラ・ハルハツ級駆逐艦も既に7隻が就役済み、3隻が来月に就役予定であり、こちらも期待出来ます」

 

 情報局が集めてきた情報を告げる。

 第2次イルネティア沖海戦の際に鹵獲されたオリオン級戦艦は最近までムー国に貸与されていたのだ。それにより、ムー国の兵器は格段にパワーアップした。

 ラ・ゴンコ級は金剛型、ラ・エルベン級は主砲を35.6cm連装砲、高角砲を12.7cmに変えたクイーン・エリザベス級、ラ・ハルハツ級は初春型にそれぞれ酷似している。

 

「また、アガルタ法国ですが先日売却したアイアン級魔砲艦6隻を魔導艦に改造し、結果としてカルトアルパスで見せた『艦隊級極大閃光魔法』の連射に成功した様です。射程の関係上対艦攻撃は無理でしょうが、対空では活躍が期待できるでしょう。

 造船設備の方は来月にも完成する見込みですが……」

「法国の方はあまり当てにならんか……」

 

 はぁ、とアグラがため息をつく。

 技術提供制限の緩和が決定された時、アガルタ法国はミリシアルの魔導艦の提供を求めてきた。高出力の魔導機関と、それを載せられる船が欲しかったらしい。

 そこで、ミリシアルは旧式で既に使われていないアイアン級魔砲艦を安価で6隻売却した。何故6隻なのかは先程アルネウスが言った通り、艦隊級極大閃光魔法を使いたかったからだ。

 

「その他の国家は……あまり変わっていません。パンドーラがルーンアローを改造したり、マギカライヒがムー国より砲を輸入したりはしている様ですがどれも付け焼き刃にしか過ぎませんので。戦闘では精々弾除けになってくれれば良い方でしょう。尤も、敵にすら無視されるかもしれませんが。

 そして……日本ですが、現状、参戦は難しいとしか言いようがありません」

「うむ……」

「彼らの本国は第3文明圏の更に果て、資料にも記載されている通り、敵の作戦は1月上旬との事ですので4ヶ月では準備は難しいでしょう」

「そうか……致し方あるまい」

 

 空気が沈む。

 彼らは皆日本の技術力をある程度知っている。エルペシオ改造の際、日本の力を借りる事に踏み切ったのは大して信じていなかった外交官フィアームの報告書を思い出したからなのだ。

 音速を超える戦闘機。仮にそれが魔帝の使う物も同じであればグラ・バルカスなど鎧袖一触であるのだが……如何せん、時間がなかった。

 

「一応要請はしておきますが、第3文明圏の国家は作戦には入れない方がいいでしょう」

「そうだな……となると、実質的な戦力は我が国とムー国、イルネティアに次席でエモール、アガルタと言った所か。西部防衛艦隊からも戦力を捻出するべきだろうか……」

「お、お待ち下さい! 敵の全戦力が未知数である以上、今西の防衛に穴を開けるのは危険です!」

 

 西部方面艦隊提督のクリングが慌てて止める。

 

「ならばどうしろと言うのだ! 中途半端な戦力では兵を無駄死にさせてしまうのみなのだぞ!?」

「しかし提督の言う事にも一理あります。ここに来て我が国の予想を遥かに上回る戦力を出してきたのです。この数を全戦力だと決めるつけるのは危険かと。この情報とて欺瞞の可能性すらあるのです」

「ぐうぅ……」

 

 アグラが唸る。

 そう、イルネティア島を死守したとして、その時本国が無くなっていれば本末転倒なのだ。

 西部防衛艦隊は4艦隊の計144隻。この半分を引き抜いたとして、もし敵が100隻でもこちらに寄越せば簡単に押し切られてしまうだろう。

 ルーンポリスは沿岸部にある。艦砲射撃を受けてしまえば短時間で灰燼と帰してしまう。

 

「地方隊を掻き集めて向かわせましょう。それしかありません」

「それで足りるのか? 集められても精々40隻かそこらだろう? それも全て旧式だ!」

「しかし!」

 

 

「パル・キマイラを出す」

 

 

 硬直した会議の流れを断ち切ったのは、腹に響くその様な重い声だった。

 

「……は、今、何と」

「聞こえなかったのか? パル・キマイラを出すのだ」

 

 その声の主は、これまで沈黙を保っていた皇帝、ミリシアル8世その人であった。

 彼は聞き返したアグラにそう告げる。

 

「ぱ、パル・キマイラ……」

「あの、古代兵器でありますか?」

「そうだ。通常戦力では力不足である以上、これを出すしかあるまい」

 

 パル・キマイラ。ここにいる面々も存在だけならば知っていた。

 かつてラヴァーナル帝国が使用していたという()()戦艦。神話では神竜に物理的に引き摺り下ろされたりという話は有名だが、それは彼らが規格外過ぎるだけ。その様な技術の無いグラ・バルカスでは墜とす事は不可能だろう。

 

「2隻出す。敵が艦隊を分けてくれば寧ろ好都合だ。各艦隊を1隻ずつで対処し、残った艦隊を通常戦力で相手取れば良い。それを可能とする力が、アレにはある」

「な、成程……それならば……!」

「十分に勝機はありますな!」

 

 沈んでいた空気が一気に持ち上がる。古代兵器の力はそれだけ絶大であった。

 

 その後も神竜の運用───開戦直後に単独で敵艦隊の中枢に侵入させ、空母を叩かせる───などが考え出されるなど、夜が耽けるまで会議は続いたのだった。

 

 

 運命の海戦まで、あと137日。




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戦力は概ね原作と同じ。でもかなり質は上がってます
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