【本編完結】つよつよ神竜イルクスさん   作:デュアン

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バルチスタ沖大海戦の代わり海戦です


第三次イルネティア沖大海戦(前編①)

〈中央歴1643年1月16日 第2文明圏 イルネティア島近海〉

 

 肌に吹き付ける冷たい風。空は厚い雲に覆われ、朝だというのに日光は届かず辺りは薄暗い。

 そんな中で荒れ始めた海を、100隻を超える軍艦が波を切り裂いて進んでいた。神聖ミリシアル帝国の主力艦隊とイルネティア王国海軍艦隊である。

 艦隊はそれぞれの旗艦を中心に据えた輪形陣を組み、艦隊の先鋒には数隻のレーダー・ピケット艦も配置し、敵の航空攻撃に備えていた。

 

 さて、旗艦の内の1隻である、イルネティア王国海軍艦隊旗艦『イルネティア』。その第一艦橋にて、1人の男が水平線の彼方を見据えていた。

 

 

「……勇敢なる兵士諸君、私はイルネティア王国海軍艦隊司令、レイヴェル・ディーツだ」

 

 彼は魔信機を手に取り、話し始める。

 

「敵の数は凡そ670隻、予想される総艦載機数は約1,500機以上。我々がここで退けなければイルネティア王国だけに留まらず、第2文明圏そのものが蹂躙される事だろう」

 

 ゴクリ、と誰かが唾を飲み込む。

 

「私は、元々ドイバ沖群島防衛艦隊の司令だった。第1次イルネティア沖海戦の折、本部からの指令を受けて我々は敵艦隊へと向かっていた。戦列艦で、だ。もしももう少し早く到着していれば私は今頃この海の底だっただろう」

 

 この艦橋の中にも当時同じ艦隊に所属していた者は多くいる。彼らも、彼の言う事は十分に理解していた。

 『イルネティア』に乗っているからこそより痛感する。あの戦列艦では、どう足掻いても勝ち目は無いのだと。

 

「だが、そうはならなかった。それは何故か? 神が我等に力を与えたのか? それとも神が鉄槌を下したのか?

 違う! 私が生き残ったのはライカとイルクス(あの2人)が先に敵を下したからだ! 全ては必然であり、そこには必ず理由がある!」

 

 彼は拳を握り締め、高く掲げる。

 

「神は我等を導きこそすれ、力は与えない! 勝利は我等が自らの手で手繰り寄せなければ得る事は出来ない!!

 世界の興廃はこの一戦にかかっている! 各員一層奮励努力せよ!!」

 

 以上だ、と告げ、魔信機を置く。次に帽子を整え、再び水平線を見据える。その先にいるのはこれまで相対した事のない規模の敵艦隊だ。

 

 

 そして、次の瞬間。

 

 

「ルーリンティア竜騎士より通信! 『我、敵攻撃機隊と遭遇せり』!!」

「始まったか……総員、戦闘配置につけェ!!!」

 

 

 後世にて"史上最大の作戦"と呼ばれる様になる『第3次イルネティア沖大海戦』の始まりの鐘が打ち鳴らされたのだった───

 

 

───────

────

 

 

 イルネティア島南方の海域、そこを118隻もの艦隊が悠々と進んでいた。陣形は連合国軍と同じく輪形陣。その中央にいるのは旧式の大型空母、サジタリアス級航空母艦が1隻。その周囲は無数の巡洋艦や駆逐艦、そして5隻の護衛空母に4隻の戦艦が取り囲んでいる。

 その戦艦の内の1隻、ヘルクレス級戦艦『ラス・アゲルティ』の艦橋にて1人の男───艦隊司令であるカオニアが水平線の彼方を見つめていた。

 

「第2部隊、通信途絶しました」

「来たか……」

 

 通信士が、発艦させた第1次攻撃隊の1部隊が壊滅した、という旨を───確定はしていないがほぼ確実───伝える。

 そして、その第2部隊とは北へと向かわせた部隊だ。間違いなく、神竜は最短距離を駆けてきている。

 

 第1次攻撃隊、計150機。過去の戦訓からそれぞれを50機ずつに分けて敵艦隊へと向かわせた。これで、もしも1部隊が神竜と遭遇したとしても100機は敵艦隊へと辿り着き、更に大体の方角も分かるという寸法だ。

 更に後方に控えている本隊より追加戦力が送られてくる。敵艦隊には恐ろしい数の大編隊が襲い掛かることだろう。

 

 今回参加した艦艇は全てで679隻。帝国史上これ程の大艦隊が出撃した例は無い。それが今回、"帝国の3将"カイザル・ローランド大将の手によって実現した。

 だが、流石にこれでは数が多すぎる為艦隊を4つに分ける事となった。

 島の南より接近する第1先遣艦隊118隻、南西部より接近する第2先遣艦隊115隻、南東部の第3先遣艦隊115隻、そして南部後方より接近する本隊331隻だ。

 撃墜されてしまった偵察機からの情報によれば、敵艦隊は3つに艦隊を分けているらしい。しかし、それはあくまでも数だけだ。

 どうやら、敵はこの南部艦隊に対して主力を向けてきているようだ。何せ、進行速度から見てミリシアルとイルネティアの艦隊がこの艦隊に向けて進行してきているらしいのだから。

 

 と、なると……

 

 

「第2先遣艦隊より通信! 『天使の翼を得た』!」

「第3先遣艦隊より、同じく!!」

 

 

 両艦隊より暗号が伝えられる。それの意味が成す所は───

 

 

「全艦対空戦闘用意!! 目視での警戒を厳とせよ!! 直掩機はすぐに北方へ向かえ!! 加えて全主砲にZ弾装填!! 神竜が来るぞ!!」

 

 

 今日、我々は悪魔となる。天使を殺す悪魔へと。

 第2先遣艦隊、及び第3先遣艦隊はこの時、比較的高速で接近してくる巨大な物体を察知、報告した。

 それを受けてカイザルは待機していた超重爆撃連隊へと出撃命令を出す。

 

 "超空の要塞"が今、天使───古代兵器、空中戦艦パル・キマイラを地に堕とさんと出撃する。

 彼らはまだ、その事を知らない。

 

 

 第2部隊との通信が途絶した数分後、北方へと向かったカノープス型艦上戦闘機20機が神竜と接触、交戦を開始した。

 

 

「クソっ、これでも、これでもまだ届かないのか!!?」

 

 カノープスに乗るパイロット、カリムは次々と墜とされていく僚機を見てそう嘆く。

 最高速度740km/hにして機動力は据え置きという凄まじい性能の最新鋭機が、まるで赤子の手を捻るかの如く翻弄され、切り裂かれていく。

 

『後ろに付かれた! 誰かたs』

『マルタスが殺られた!! クソがァァァ!!ブツ』

 

「まさか……まさか……」

 

 次々と通信が切れていく。この新型機に乗る事を許された精鋭達がいとも呆気なく死んでいく。

 

「奴にとって……アンタレスだろうがカノープスだろうが大して関係がないというのか……ッ!!」

 

 と、そこで彼は半ば本能的に操縦桿を右へと動かす───次の瞬間、彼が元いた空間を一筋の光が貫き、そして白く美しい竜が通り過ぎて行った。

 

 その一瞬、彼と、そして神竜に乗る少女と視線が交錯する。

 

「諦められるか……俺は帝国軍人だッ!!」

 

 操縦桿を握り締める。いつの間にか、その場にいるのは彼の機のみになっていた。

 それは最早意地であった。機動力でも、速度でも負けている現状、彼に勝利の道は無い。だが、あんな少女に負ける事が、1人の大人として悔しかった。

 

 最大まで出力を上げ、神竜を追う。が、当然その程度で追い付ける筈もなく。

 圧倒的な速度で突き放されると、次には神竜の姿は消え失せて───彼はまた、機体を動かした。次は上に。その選択は正しく、すぐ下を光線が横薙ぎに払っていた。

 

 

 その後、彼の機体は最大出力で上昇する。それに神竜も追い縋る様に上昇し、光線の狙いを定めていた。

 

 そして、放とうとした瞬間───機体の後部が爆発した。カノープスには、脱出の際に後部のプロペラに当たらない様にする為の自爆装置が付いているのだ。

 神竜は千切れて落ちてきた機尾のプロペラを避ける事に夢中となり……爆煙の中、キャノピーを開けて振り向き、拳銃を向けるパイロットの姿に気付くのに遅れてしまった。

 

「───っ!!?」

 

 その瞬間、竜騎士───ライカは見た。後部が弾け飛んだ機体の中、煙の切れ目からこちらに向く銃口を。

 イルクスもそれに気付き、大急ぎで口を向けるものの、あちらの方が速かった。

 

 

「帝国、万歳!!!」

 

 

 タァン、と乾いた音がその空間に響き渡り、次の瞬間には機体は縦に切り裂かれる。

 

 そして、放たれた銃弾は───

 

 

「……っ」

『……よ、よかった……』

 

 

───彼女の目の前で止まっていた。常に張っていた結界が功を奏したのだった。

 

 

 

「アンタレス隊も全機撃墜されました!!」

「第1、第2主砲発射用意!! 目標、敵神竜!!」

 

 一方のラス・アゲルティ艦橋。

 カノープス隊が全機撃墜された直後に到着したアンタレス隊もすぐさま全滅し、カオニアはすぐにZ弾の使用を決断した。

 

「距離18、17、16」

「照準補正、+2度!」

「時限信管セットよし!」

「発射準備完了!!」

「Z弾、発射ァ!!!」

 

 瞬間、轟音が鳴り響く。

 ラス・アゲルティ前部の4門の41cm砲より発射された4発の『Z式散乱弾』は音を置き去りに飛翔する。目標は勿論、こちらに向かってきている神竜だ。

 だが、発射した直後、それに気付いた神竜が急上昇する。

 

 次の瞬間、時限信管が作動した。

 

 信管が作動したZ弾はまず外殻が剥がれる。そして、中に詰め込まれた大量の子弾が露わになる。

 発射される際、砲身内部のライフリングによって砲弾は回転している。外殻が無くなった今、自由となった子弾は遠心力によって外側へと投げ出され、砲弾中心部と信管とを繋ぐワイヤーが引っ張られる。

 そしてある点を超えるとワイヤーが抜けて子弾の信管が作動する。信管には遅延がかけられており、作動してから少しの間をおいて爆発する。

 僅かな間だが、超高速で動く子弾には十分だ。

 

 

 爆音と共に、空中の広い範囲が爆炎に包まれる。その範囲はこれまで開発されたどの対空砲弾よりも広く───

 

 

「……ッ、足りんか」

 

 

───そして、伝説を墜とすには狭すぎた。

 

 爆発が収まると共に駆逐艦が持ち上げられ、サジタリアス級航空母艦『ルクバド』に突き立てられる。

 圧倒的な質量爆弾を食らった彼女は一瞬で折れ曲がり、全ての乗組員を道連れに轟沈した。

 

 その後、残りのイーグル級護衛空母5隻も同様に撃沈され、これにより第1先遣艦隊の航空戦力は完全に失われたのだった。

 

 

「神竜、南方に向かいます!」

「本隊に通信!」

 

 彼らは急いで通信を入れ、それに合わせて本隊では直掩機が発艦していく。

 

 だが、神竜は本隊へは行かなかった。何故ならば───

 

 

『こちら司令本部! ルーリンティア竜騎士、ただちに南東方面へと向かい、パル・キマイラ2号機の救援に向かえ!』

 

 

───向かう直前に、その様な指令が下ったからだ。




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サジタリアス級は加賀です
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