【本編完結】つよつよ神竜イルクスさん   作:デュアン

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第三次イルネティア沖大海戦(前編②)

 時は少し遡り───

 

 

〈第2文明圏 イルネティア島近海〉

 

 第一先遣艦隊よりも西、かつては第2文明圏外国であり、今はグラ・バルカス帝国領となっている島の付近。そんな海域をこれまた100隻以上の艦艇が輪形陣を組んで進んでいる。

 その中心部にて守られている空母達から次々と艦載機が発艦していく中、旗艦であるキャンサー級戦艦『キャンサー』の第一艦橋にて1人の女が苦虫を嚙み潰したような顔で爪を噛みながら水平線を見つめていた。

 

「超重爆撃連隊への攻撃要請、完了しました。あと20分程で敵空中戦艦と接触します」

「……そう」

 

 通信士の報告に、彼女───この艦隊、第二先遣艦隊司令、ミレケネス・スウィーチカはそんな押し殺したような返事を返すのみだった。()()()()()()()明らかに荒唐無稽であったあのカイザル(糞爺)の方が正しかったという事実。逆恨みにも等しいが、これが彼女を苛立たせていた。

 だが、彼女も職業軍人だ。与えられた指令はこなさなければならない。予め決められていた“空中戦艦が現れた”場合の暗号を送り、高高度で待機している超重爆撃連隊に攻撃を要請した。これであとは撃沈の報告を待つだけだ。

 

 彼女の内面をよそに戦いは進んでいく。その結末を知る者はまだ、誰もいない。

 

 

───────

────

 

 

 イルネティア島南西のとある空、高度200m付近を巨大な物体が飛んでいる。横向きにした半径130m程度の車輪、ミリシアルの保有する超兵器の1つである、“空中戦艦”パル・キマイラだ。その見た目とは裏腹に強大な破壊力をもつ、まさしく“戦艦”に相応しい艦である。

 皇帝の命により、この戦いには二隻が投入された。今飛んでいるのはその片方、1号機だ。神聖ミリシアル帝国、魔帝対策省古代兵器分析戦術運用部に所属する大魔導師、ワールマン・カレドストンを艦長に据える彼女は南西より接近中の敵艦隊115隻を殲滅すべく向かっていた。

 

「艦長、敵艦隊より攻撃隊と思われる航空機隊が発艦しています……が、その進路が少しおかしいのです」

「おかしい?」

「はい」

 

 そんな時、レーダーを眺めていた魔導師が言う。

 

「敵航空機隊は本艦へと向かってくるどころか、逆にきれいに避けているようなのです」

「ふむ……」

 

 予め立てていた予測では、パル・キマイラの存在に気付いた敵は後方の艦隊よりもまず()()()()()()()()()()に航空機隊を差し向けるだろうと思われていた。

 突如“対空”レーダーに映った直径260mの時速200kmで向かってくる謎の物体だ。差し向けないほうがおかしいというものだ。少なくとも、1機も向かわせないというのはないだろう。だが、今の敵はこちらに1機も向かわせていない。

 

 この状況を、彼はこう判断した。

 

 

「恐らく、敵はこの超兵器に恐怖しているのだ。確認してしまえばこの艦が敵だと確定してしまう。フフ、敵はどうやら現実逃避が得意らしい」

 

 

 この判断が、運命を分けた。

 

 彼はこの戦艦に絶大な自信をもっていた。ミリシアルの通常兵器ですらこの世界の如何なる兵器をも凌駕し、パル・キマイラはそれを更に凌駕する。過剰な自信をもつのも仕方のないことなのだが……今回は相手が悪かった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()など、誰が予測できようか。実際、神竜という神話の超兵器が、“帝国の三将”たるカイザルにこの世界を脅威だと感じさせていなければありえなかった事である。それがなければ、主砲のまぐれ当たりでも期待するほか無かっただろう。

 

 何はともあれ、彼はこう判断してしまった。だからこそ、

 

 

「レーダーに感。8時の方向より接近してくる物体あり。()()5(),()0()0()0()、速度760、距離130NM(ノーティカル・マイル)、数100」

「ふむ、現実逃避したわけではなかったと。しかしこの艦にかかれば航空機など鎧袖一触。本艦はこのまま敵艦隊に突撃する!」

 

 

 彼は、何も気に留めなかった。

 

 

 

 超重爆撃連隊、それは超重爆撃機グティ・マウンで構成されるグラ・バルカス帝国の虎の子の部隊である。前世界においてはその圧倒的な上昇能力から、敵国であったケイン神王国の戦闘機では迎撃が出来ずその機体にかすり傷1つも負うことが無かったと言われる程の部隊。今回、カイザルはそれに目を付けた。

 彼がパル・キマイラを調べるにあたって、最も注目したのはその対空能力だった。

 

 その弓は常に我等を追い続ける───神話の一文である。文脈から考えるにこの“弓”は件の空中戦艦の対空兵器の事だと考えられる。何せ、これを遺したのは竜人族の竜騎士なのだから。カイザルはこれを、神竜を擁していた国家、インフィドラグーンについて調べていた時に見つけたのだ。

 さて、ここで重要なのは、追ってくるのが“矢”ではなく“弓”である点だ。もしもこの対空兵器が誘導弾であるならば、追ってくるのは“矢”だと表現する筈なのだ。そのため、彼はこの兵器を“標的を自動で追尾する()()()()”であると判断した。

 グラ・バルカス帝国では、40mm機銃の約7,000mが機銃の射程としては最長である。そこで、敵の機銃の射程もその程度だと予測し、他の文献から比較的低高度を飛行する事を判っていた事も合わせてグティ・マウンによる高高度爆撃が効果的だと判断したのだ。

 

 そして今、その作戦は実行直前に至っていた。

 

 

「敵艦、捕捉!」

「まさか本当にいるとはな……流石は“帝国の三将”と呼ばれるだけはある、というわけか」

 

 超重爆撃連隊第一攻撃隊の隊長であるアーリ・トリガーは、部下からの報告を受けてそう呟く。グティ・マウンがその巨体と装甲から空中戦艦と揶揄されることはあるが、まさか文字通りの空中“戦艦”が敵にいるなど誰が鵜呑みにできようか。

 だが、現実として眼前の対空レーダーには全長260mはあろうかという物体が映っているのだ。老将の推理力には感嘆せざるを得なかった。

 

「敵艦は現在、高度300を速度200で進行中」

「付近に敵機は?」

「11時の方向に36機の集団が速度550で、それを追う様に60機の集団が速度300でそれぞれ味方艦隊へと接近中です」

「ミリシアルとムーだな。こちらには来ないか?」

「その様子はありません。空中戦艦が何とかすると信じているのでしょう」

「……まあ、この技術を前にすればそう信じたいのも分かるがな」

 

 この時、世界連合側は3つに艦隊を分けていた。

 南西部より接近してくる艦隊に対してはにはムー国艦隊とミリシアル地方艦隊を、南東部へは中央法王国やトルキアなどの文明国艦隊を、そして南部へはミリシアル主力艦隊、そしてイルネティア王国艦隊をとそれぞれ割り振っていた。

 南部と比較してその他が貧弱である気もするが、それはあくまでもパル・キマイラを信頼しての事だ。実際、やってくれなければほほ確実に南東部は抜かれてしまう。戦列艦など帝国軍艦艇の前では只の案山子も同然なのだ。

 

 今、捕捉した航空機は彼の言う通りミリシアルとムーの物だ。

 艦隊でもグティ・マウンは捕捉していたが、空中戦艦ならば大丈夫だと安心し、予定通り第1次攻撃隊を敵艦隊へと向かわせていた。

 まあ、そもそも迎撃に向かわせたとしても届かないのだが。

 

「よし、全機高度9,000まで上昇。敵艦の正確な進路と速度、高度は逐一報告しろ」

「りょ、了解!」

 

 いよいよ実戦が近付いている事もあり、通信士の返答がやや強ばっている。

 この時まで、超重爆撃連隊は偽装の為に高度約5,000mを飛行していた。そうしなければ敵にこちらの目的が勘づかれてしまうかもしれないからだ。

 敢えて低高度を飛ぶ事により、この超重爆撃機を()()()()()()()()()()()()()と誤認させる。これも作戦の範疇である。

 

「思い出せ、あの訓練の日々を。血の滲む様な努力を!」

 

 超重爆撃連隊はカイザルの指示でこの約5ヶ月間、日夜訓練を続けていた。

 動く対象への高高度水平爆撃、ユグドでも類を見ないこの無茶苦茶な作戦を何としても成功させる為に日々感覚を養い続けたのだ。

 

 その努力の成果を今、試されている。

 

 

「敵艦との距離30,000!」

「先手を打つぞ! 第3、第4小隊、投下準備!」

「第3、第4小隊爆弾投下準備!!」

 

 

 両小隊所属の計50機が空中を移動し、陣形を組んでいく。対空中戦艦用に考案された、各機の間隔を縦横それぞれ200mにし、広い範囲をカバーするという単純な物だ。

 例え何千発を海に落とす事になろうが、1発でも当たればよい……そういった発想を基に、この陣形は編み出された。とはいえ、これをするのも簡単ではない。

 何しろ目標との距離は9,000m。それを爆弾が自然落下する間に目標はかなりの距離を移動してしまう為、やはり緻密な計算、そしてそれに応えられるだけの巧みな操縦技術が必要になる。これまでの訓練はその為だ。

 

 かくして、準備の整った各機の爆弾槽の蓋が開き、1機40発、計2,000発もの500kg爆弾が顔を出す。

 

 そして───

 

 

『投下開始!!!』

 

 

───────

 

 

「敵機が高度を上げました。現在高度9,000」

「ほう……ん? 9,000?」

「はい。間違いありません」

「ほ、ほう……中々敵も高い技術を持っているようだな」

 

 レーダー員の無感情な言葉に、ワールマンの背筋に冷たい物が伝った。何しろ、この時点で高度を上げる意味が分からなかったからだ。

 敵の高度を5,000mだと聞いた時は通常の爆撃機だと思っていた。それならば、水平爆撃だろうが急降下爆撃だろうが関係ない。アトラタテス砲で撃墜出来る。

 

 だが、もしも。この高度から爆撃された場合、相手から一方的に攻撃されてしまうという状況に陥ってしまう。アトラタテス砲の射程はそこまで長くはないのだ。

 

「(……いや、そんな事はありえない。そのような高高度からの爆撃など当たる筈がない。たかが1()0()0()()()()()()など……)」

 

 彼はそう自分に言い聞かせる。

 

 ……この時、彼はある致命的な誤認をしていた。それは、今向かってきている敵機が未だに()()()()()だと思っていたという事だ。レーダー上では大きさが判りづらかったのだ。

 パル・キマイラには遥か彼方の光景を見る事が出来る『超望遠魔導波検出装置』という装置が付いている。忘れていた、という訳ではないのだが、この時の彼は敵を侮っていたので確認を怠ったのだ。

 もし、この装置を使用してグティ・マウンの姿を視認していれば、或いはこの結果は変わったのかもしれない。

 

 

 果たして、その時はやって来た。

 

 

「敵機爆弾投下。数……に、2,000!?」

「なっ、何ィ!?」

「内22発、命中の可能性あり!」

 

 思いもよらぬ投射量に艦橋内は騒然となる。そして、次に伝えられたのは被弾の可能性。彼は混乱する頭を何とか働かせて指示を出す。

 

「かっ、回避しろ!!」

「投下範囲が広く、今から移動してもあまり効果はありません!」

 

 パル・キマイラは、実は横方向への移動能力が低い。今回はその穴を突かれた形となった。

 更に、この様な事態を想定していなかった為に艦内に超大型爆弾『ジビル』を積めるだけ積んでおり、急ブレーキなどは極めて危険だ。

 

 これらの最悪の条件の下、彼は恐らく取り得る最善の行動───といっても、実質的にこれ一択なのだが───を選択した。

 

 

「な、ならば……あ、アトラタテス砲で爆弾を迎撃しろ!」

「あ、アトラタテス砲で、ですか!?」

「そうだ! 神代では誘導魔光弾を撃墜していたんだ、爆弾でも撃墜出来る筈だ!! い、急げ!!」

「りょ、了解しました! 上部アトラタテス砲発射用意!!」

 

 彼の指示から少し遅れ、艦上部に設置されている3基のアトラタテス砲へと魔力が供給され、それぞれの魔導電磁レーダーが起動する。

 そうして、こちらへと向かってきている標的───今で言えば爆弾を自動で追尾し、砲身を向ける。

 

 そして最初の1発が射程内に入った瞬間───凄まじい弾幕が展開された。

 

 アトラタテス砲の別名は、『轟連式対空魔光砲』と言う。その名に恥じぬ轟音が今、戦場となった空域に鳴り響いている。

 1基につき毎分3,000発、それが3基設置されている為毎分9,000発にも及ぶ魔光弾が落下してくる爆弾へと向けて発射される。

 

 迎撃は順調に進んでいた。既に十数発を撃墜し、今も1発が爆発している。

 空は黒煙に染まり、それを掻き分けて落下する爆弾が光弾に貫かれ、爆発、黒煙の一部となる。

 

 だが、問題もあった。

 アトラタテス砲はそれ単体で独立したシステムとなっており、魔力さえ供給すれば全自動で敵を迎撃する。

 その為、()()()()()()()()までも迎撃対象に含めてしまっており、弾幕がバラけてしまっているのだ。

 

 そして───

 

 

「うわっ」

「なっ」

 

 

───光弾の網を潜り抜け、1発の爆弾が命中した。本来これ程の質量の物を防御する事を考えられていないシールドはいとも容易く食い破られ、薄い装甲は貫かれた。

 そして、貫かれた先は……艦橋だった。

 

 (ワールマン)は一瞬、眼前に落下してきた黒い物体を視認し、次の瞬間には永遠に意識を失った。

 

 

 中央歴1643年1月16日。イルネティア島沖合上空にてパル・キマイラ1号機は爆弾の直撃を受け、内部に満載していた高純度液体魔石、及び超大型魔導爆弾『ジビル』に引火、誘爆し爆沈した。

 

 

───────

 

 

「て、敵空中戦艦、爆沈!!」

 

 残った第1、第2小隊が続けて爆撃の準備を進める中、目標を見ていた観測士がそう叫ぶ。瞬間、その場は静まり返った。

 

「……なんというか、呆気なかったな」

「……そうですね。喜びというか、それよりも先に落胆が来ます」

 

 これまで恐れていた空中戦艦。それがたった一度の爆撃で呆気なく爆沈したのだ。声を上げるよりも、寧ろ"もう少し粘って欲しかった"という落胆の方が強かった。

 何せ、休日を返上してまで訓練を続けてきたのだ。確かにあの圧倒的な弾幕には驚いたし、爆弾を撃墜していたのには目を疑ったが、それでも爆沈したのは事実である。

 

 とはいえ、この様な事態を想定していなかったといえば嘘になる。

 もしも爆撃機が余った場合、ドイバへの高高度爆撃を行う事が作戦に盛り込まれているのだ。

 

「よし、第3、第4小隊はただちに帰投。第1、第2小隊はこのまま前進し、港湾都市ドイバを爆撃する」

「了解。各機に告ぐ……」

 

 こうして、超重爆撃機と空中戦艦との第一回目の対決は爆撃機の勝利に終わったのだった。




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