〈日本国 東京 防衛装備庁 旧技術研究本部〉
「お、岡本さん! これを見て下さい!」
「どうした、そんなに慌てて……これは、艦隊か? 大日本帝国のに似ているのを見るに、例のグラ・バルカスの物か」
「そうなんですが、ここ、この駆逐艦を見て下さい」
「ん……?」
部下である小野が見せてくる写真───空母サダルバリ轟沈直前の衛星写真───の一部を凝視する。すると、僅かな違和感を感じた。
彼が指した駆逐艦は、僅かに傾いていた。
「……傾いてるな」
「ええ、確かに傾いてるんですが、問題はその高度です」
「高度?」
水上艦にはあまり相応しくない単語に、彼は眉をひそめる。
「分析した所この駆逐艦、なんと海面から約50mの高さに居るんですよ」
「……は?」
「つまり、この駆逐艦は浮いてるんです!」
彼は言った。
岡本は、その言葉を一瞬理解出来なかった。いや、水上艦が浮いていると言われて即座に理解出来る者の方が少ないだろう。
「ちょ、ちょっと待て。なんだ、つまりグラ・バルカスの艦には飛行能力があるという事か?」
それならばかなりの脅威になる。対艦ミサイルを空中の目標にも当てられるように改造しなければいけなくなるし、水の抵抗が無いので速度も相当な物になるだろう。
大和が飛んで空中から46cm砲を撃ってくるなど、それこそ悪夢だ。宇宙戦艦ヤ〇トなどと言っている場合ではない。
しかし、彼のその言葉はすぐに否定される。
「いえ、もし飛べるのならそもそも水上艦の形にする必要は無いですし、飛ぶ為の機構が何処にも見えないので恐らくは違うかと」
「でも浮いてるんだろう?」
「この感じだと、浮いてると言うよりか寧ろ
「いや、そっちの方が問題だろう。何トンあると思ってるんだ」
彼はあまりにも非現実的な事を言う小野を窘める。が、そこで彼はここが異世界であると思い出す。
「……そういう魔法か何かがあるのかもしれない、か。とにかく、これは何処の写真だ?」
「ええと、第2文明圏外のイルネティア島沖120kmの海域です」
「すぐに調査してくれ。グラ・バルカスなんかよりも厄介な物があるのかもしれん」
「分かりました」
彼はそう指示し、異世界は理解出来ない事が多いと頭を抱えるのだった。
───────
〈グラ・バルカス帝国領 レイフォリア〉
かつて、世界に5カ国しかない列強国の末尾に位置していた国家、レイフォル。
しかし今、その国はグラ・バルカスによって滅ぼされ、植民地となっていた。
艦砲射撃によって破壊し尽くされた首都レイフォリアは今は植民地総督府が置かれた都市となり、また大規模な海軍基地が建設されるなどの発展を遂げていた。
そんなレイフォリア海軍基地は、今大騒ぎとなっていた。
イルネティア王国派遣艦隊に組み込まれていた戦艦、グレードアトラスターが「本艦隊は、イルネティア軍に敗北せり」という通信を最後に消息を絶ったのだ。
それは、有り得ない事だった。事前のどんな調査でも多少苦戦するかもしれない、という慎重論こそ出ていたものの敗北など考えている者は誰一人としていなかったのだから。
敵の欺瞞情報であるという線も考えられたが、それはつまり帝国軍の通信回線が解析されているという事に他ならず、否定された。
そして、通信から3日後。
「シエリア課長! ダラスさんが帰ってきました!!」
「何、本当か!? 今行く!」
レイフォリアにダラスが帰還した。彼はイルネティア王国派遣艦隊に乗っていた為、今回の真偽を確かめるにはもってこいなのだ。
「……」
「ダラス、大丈夫か? 何があった?」
「……」
「ダ、ダラス?」
シエリア、そして上司であるゲスタが彼に尋ねるが、彼は俯いて何も言わない。
「……てない」
「?」
「我々は、負けていない! 蛮族なんぞに、負ける筈がない!!! あんなっ、蛮族にィ!!!!」
「!!?」
ようやく口を開いたかと思えば、彼が発したのはその様な意味不明な言葉であった。
2人は彼が錯乱しているのだと判断し、一先ず割り当てられた部屋へと帰したのだった。
彼からの聞き取り調査は後日へと回された。
───だが、彼の口から聞く前に。
『次のニュースです。4日前、第2文明圏外国であるイルネティア王国が、侵攻してきたグラ・バルカス帝国艦隊を撃滅、レイフォルを滅ぼしたグレードアトラスター以下6隻を拿捕、その他17隻を撃沈していたとの情報が入りました。それでは、VTRをご覧下さい』
流れて来た『世界のニュース』にて事実を知る事になるのだった。
───────
〈イルネティア王国 港湾都市ドイバ〉
「うう……緊張する……」
「遂に僕も世界のニュースデビューかぁ」
「イルクスは元気だね……私はもう緊張して緊張して……吐き気が……」
「だ、大丈夫?」
竜人族に負けぬ程に顔を青白く染め、口を押さえるライカの背中をイルクスがさする。
イルネティア沖海戦より2日が経ったこの日、国内外にこの勝利を喧伝する為に彼女達は魔導通信───魔信を魔石で強化し、映像を送受信出来るようにした物。要するにテレビ───に出演する事になった。
ライカとて、魔導通信に出るのは最初ではない。過去にも王国で開催される飛竜レースで優勝した時に出ているのだ。
だが、今回のプレッシャーはその時の比ではない。
なにせ、この放送には王国の存亡がかかっているのだから。
ついでに言うと、今回出演するのは第1、2、3文明圏内外全域に放送されている、世界で最も有名な番組である『世界のニュース』である。
神聖ミリシアル帝国に本社を置く、巨大放送企業。その影響力は凄まじい。
ライカ、齢17。そんな少女にはあまりにも荷が重かった。
その後、王国の飛行場に1機の旅客機、ミリシアルの誇る旅客機『ゲルニカ35型』である。
テーパー翼にタマゴ型のエンジンを2発装備したその天の浮舟は現在、この世界の国が持つ航空機の中では最大であり、その存在感はイルネティア人達を圧倒させていた。
それの外壁には世界共通語で『世界のニュース』と書かれており、これ程の機を1企業が持つ事が出来る事に唖然とする。
そんな機体の扉が開き、1人のエルフの女性が降りてくる。
「「「おおおおおっ!!!」」」
彼らは、その女性に見覚えがあった。ありすぎた。
「イルネティア王国の皆さん、こんにちは。『世界のニュース』所属アナウンサー兼レポーターのウレリア・レフィシェメントです。今日はよろしくお願いします」
滑らかで洗練された動作で頭を下げる。
彼女は、世界のニュースではお馴染みのアナウンサーだ。非常に美しく、それでいて気品に溢れている彼女は毎年行われる女子アナウンサー人気投票でも毎回トップ3に入っている程で、彼女のファンは下手な国の人口よりも多いという。
彼女の写真集は文明圏内外問わず注文が殺到し、手に入れられた者はそれだけで嫉妬と羨望の視線に当てられる。
ライカと、ついでに王国将軍ニズエルも彼女の熱心なファンであった。
そんな魔写の中でしか見た事のない人物が、今目の前に居る。興奮しない訳がなかった。
隣で出迎えたニズエルなど、涙を流している程だ。
そんな彼を放って、ライカは顔を青から赤に染め、目を輝かせながら彼女の元へと駆け寄った。
「あ、あのっ!」
「お嬢さんが、例のライカちゃんかしら?」
「は、はいっ!!」
憧れの的に名を呼ばれ、興奮するライカ。そんな彼女を、後ろから微妙な表情で見つめるイルクス。未だ泣き続けるニズエル。
「今日はよろしくね」
「!! は、はいっ!!!!」
差し出された手を握る。その手は白く、柔らかい。
次に彼女は、何処から取り出したのか色紙とペンを持ち、彼女へと差し出す。
「あ、あのっ! さ、サインを頂けませんか!!」
「ええ、良いですよ」
ライカが決死の覚悟で出したその提案に、ウレリアはいともあっけなく了承し、色紙を受け取るとサラサラと慣れた手つきでサインを書き、彼女へと渡す。
「はい、どうぞ」
「あっ、あっ、ありがとうございます!!!」
「どういたしまして。それでは、行きましょうか。他にサインが欲しい方はまた後程、撮影が終わってから
次は自分が行こうとしていたニズエルは、その言葉でなんとか踏み止まる。
その様子を、同じく来ていたイルティス13世は半ば呆れた表情で見ており、そしてそういえばエイテスもファンだった事を思い出し、後でサインを貰っておこうと考えるのだった。
「……? どうしたの、イルクス?」
「……」
サインを貰い、ホクホクとした表情でイルクスの元へ帰ってきたライカは、彼女が頬を膨らませているのを見て疑問に思う。
何故、彼女は少し不機嫌なのだろうか?
「わっ!? い、イルクス?」
「……」
「み、皆が見て……い、いてててて!!」
首を傾げるライカに、イルクスが突然抱きついた。
周囲の生暖かい視線を感じて少し恥ずかしくなっている所で、抱きつく彼女の手がどんどんと締まっていく。
骨が悲鳴を上げ始めた頃に、ようやく手が離された。
「な、何を……」
「……」
「……」
無言で見つめ合う2人。と、そこでようやく彼女はイルクスが何を言いたいのかに気付く。
イルクスは、自分を蔑ろにしていた事を怒っているのではないか?
それに気付いた彼女は、弁明を開始する。その結果、イルクスは何とか機嫌を直したのだった。
……その過程で彼女の好物を買った事は、ここではあまり触れないようにしておこう。
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美人アナウンサーは完全なオリキャラです。名前出てないからね、仕方ないね