「敵攻撃隊再度接近! 12時の方向、数15!!」
「全艦、再度六芒星隊形へ移行。
「了解、全艦六芒星隊形へ移行! 魔力充填開始!!」
イルネティア島近海。
イルネティア海軍竜母『エディフィス』の周囲を取り囲むようにして航行しているアガルタ法国艦6隻、その旗艦『ディバイン』の露天艦橋で魔導師達が慌ただしく動く。
直掩機隊を抜けたグラ・バルカス機が多数向かってきているのだ。生き残る為に迎撃の準備を進めなければならない。
『ディバイン』以下ディバイン級魔導艦6隻はミリシアルの旧式艦であるアイアン級魔砲艦を改造した物である。その為、対空魔光砲などの対空兵器は装備されているのだが、あれだけの量の敵機を墜とすには力不足だ。
「全艦六芒星隊形への移行完了。続けて五芒星魔法陣の展開を行います」
「
その言葉と共に、艦隊司令であり大魔導師でもあるシルフィ・ショート・バクタールが自らの持つ愛用の特殊な杖を床の少し盛り上がった台座に空けてある穴に突き立て、詠唱を唄い始める。
すると無数の輝く魔法陣が彼女を取り囲む様に浮かび上がり、直後に六芒星を構成する各艦直下の海面にも巨大な五芒星魔法陣が輝き始める。
それらの魔法陣はそれぞれが線で繋がり、やがて『エディフィス』を中心に据える巨大な六芒星魔法陣が現れる。
1年前、シルフィ率いる法国魔法開発局第1課はある1つの魔法を生み出した。その名は、『艦隊級極大閃光魔法』。
これは本来対艦攻撃用として作られた物だったのだが、1642年のフォーク海峡海戦にて対空攻撃魔法としての有効性が認められた為、その後は対空攻撃魔法として改造していた。
そうして完成したのが、この艦隊級対空閃光魔法───『アルケイン・スペイズカノン』である。
この魔法は後述の理由から魔力消費量が元のそれよりも多く、従来の
では、何故魔力消費量が多いのか。それは───
「90、95、100……魔力充填率、120%!! 魔法陣作動開始! 擬似悪魔召喚!!」
「五芒星結界作動を確認。結界内圧力上昇!!」
「発射方向12-C!」
「発射10秒前! 総員対ショック防御!!」
細かな電子音───圧縮されている擬似悪魔の悲鳴がカウントダウンと共に大きくなっていく。
「3、2、1……」
カウントダウンが終わる。
瞬間、悲鳴はピタリと止み、その場に一瞬の静寂が訪れる───かと思えば、次にはこれまた一瞬にして巨大な魔法陣が今度は『エディフィス』の前面を覆う様に現れる。
「アルケイン・スペイズカノン、発射ァ!!!!!」
そして、その声と共に、巨大な稲妻の如き轟音が響き渡り───
───極太の閃光が、グラ・バルカス機へと向かっていった。
その閃光を避けようと、各機がバラバラに散開していく。
確かに、それ1本だけを避けるのならばそれで良かっただろう。
だが、その魔法はそれだけには留まらなかった。
向かった閃光は編隊の直前で一瞬輝きを増し、その次の瞬間───拡散した。
太い閃光は無数の細い光線へと変化し、それらは一斉に編隊へと襲いかかる。
視界を覆い尽くす程の光線の束を避けられる筈もなく、15機はその全てが破壊され、海の染みとなった。
これが、魔力消費量の多い理由である。
無数の光線へと拡散させなければいけない以上、元の閃光がそれなりに太くなければ1本1本の光線の威力が航空機を墜とすに足りないのだ。
しかしながら、それ程消費量が増えたのにも関わらず、ミリシアルの魔導機関はそれの連射を可能とする性能を誇っていた。やはりミリシアル様様である。
かくして、アガルタ法国は遂にグラ・バルカス帝国へと対抗し得る攻撃力を手に入れたのであった。
───────
────
─
「れ、連射だとっ!?」
グラ・バルカス帝国イルネティア侵攻艦隊本隊より発進した第1次攻撃隊のシリウスパイロットのノルジオは、先程突出した味方編隊を殲滅した攻撃が再び放たれた事に驚愕する。
それは、後部座席に座るクルオズも同じだった。
「あの威力の攻撃を連続発射するとは……信じられない」
先程から2度放たれた拡散する光線は、既に20機以上を屠っている。たった2度の攻撃でそれ程の数を墜とすなど帝国でも不可能だ。
彼は魔法という力の理不尽さを思い知らされる。
「状況的にあの空母と周囲の6隻による攻撃か……? 一体どんな仕組みで……いや、よそう」
「考えるだけ無駄だぞノルジオ。天才方が転移してからずっと解析を続けてもまだ大した事が分かってない分野だからな」
「そうだな。だが、かならず何らかの限界はある筈だ……」
そうだ、そうに違いない。帝国を苦しめるのはあの神竜だけで十分だ。そして、その神竜は帝国に敗れた。もう帝国の前に敵は要らないのだ。
そんな、傲慢とも取れる思考で彼は響き渡る警鐘を無理矢理かき消す。
「とにかく……第一小隊は右翼に回れ! その他は俺に続け! 左翼から攻撃するぞ!」
回線を開き、何とか直掩機を突破した他の機に指示を飛ばす。
それか一方向にしか放てない、そんな希望的観測から生まれた発想だった。
二つに分かれた攻撃機隊が艦隊へと向かう。その途中、片方が同じ魔法で壊滅する。
果たして、彼のその発想は間違ってはいなかった。
よって、彼らは艦隊への攻撃を成功させられる……ここにいるのが、アガルタの6隻だけだったならば。
ドン。
「なっ、あ、し、しまっ」
突如、彼の乗る機体のバランスが崩れ、まともに操縦できなくなる。見れば、片翼が折れ、断面から黒煙を吐き出していた。
そのまま機は落ちていき、やがて海に激突した。
そう、彼はあの規格外の魔法に目を奪われすぎ、周囲の艦隊の対空攻撃への対処を怠っていたのだ。
「撃てぇぇっ!!!」
「アガルタに負けるなァッ!!!」
そんな叫び声と共に次々と砲弾を撃ち出していく。空は魔導近接信管が破裂した黒煙で黒く染まり、その間を対空魔光砲や曳光弾が隙間無く埋め尽くす。
未だ生き残っていた攻撃隊は突如精度の上がったその対空攻撃に対処出来ず、翼を折られ、コックピットを撃ち抜かれ、次々と撃墜され、海の染みとなっていった。
更に。
「な、なんだこいつら!! 動きが急に良くっ!?」
「
「うおぉぉぉぉぉっ!!!!!」
バチィッ、と電撃がアンタレスに命中する。その機がふらふらと墜ちていくのを一瞥した後、騎を横に移動させて背後より放たれた機銃弾を避け、ブレーキをかけてアンタレスを追い越させその背に再び電撃を放つ。またも一機、海の藻屑と化した。
「……俺は自分が恥ずかしい。不甲斐なくて仕方がない!!」
『……』
誰に話すでもなく、グラーフは言った。それを、乗騎のリーブスは黙って聞いていた。
俺は、俺達は、いつの間にか“驕り”を持っていた。それが今回の、自分達の今の事態を引き起こした。驕りの基となっていた“自信”が崩れた時、その者の戦意も簡単に崩れ去る。
ミリシアルも
だが、彼女らはまだ折れていない。諦めていない。彼女らにあるのは、如何に強力な対空攻撃魔法を扱えるとはいえたった六隻の旧式艦だけだというのに!!
フォーク海峡で、たった一発撃っただけで魔力不足に陥り、俺が助けた艦隊はもうどこにもいない。
「っーーー!!!」
『……叫ぶのが、報いる事になるのか?』
「……ああ、そうだな」
彼はパン、と頬を叩き、手綱を引いた。
「今は戦うだけだ!!! すまないな、リーブス!! 行くぞぉ!!!」
『……ああ!!』
そうして、二人は再び戦場を駆けるのだった。