「いや~、いい演説をしますね~」
「ああ。一時はどうなる事かと思ったが……これで戦意も少しは戻るだろう」
「そうですね~……でもやっぱり、心配ですー……」
シルフィによる演説が終わった頃、場所はイルネティア島南東部沖合。
先程ライカとイルクスによって超重爆撃連隊が撃墜され、パル・キマイラ2号機が第三先遣艦隊を全滅させた場所の付近である。
そこでは今、戦力外通告を受けた国々───彼ら自身は知らないが───の艦隊が、グラ・バルカス帝国艦隊の本隊を目指して南下を続けていた。
そんな中、文明国各国が数多くの船を向かわせた中でたった二隻しか送らなかった国があった。
中央法王国艦隊旗艦、大魔導艦1番艦『ラグズ』。その甲板にて、艦隊司令のファルタスと『ラグズ』副艦長のアルデナが話していた。
2人にしてみれば、南下していたらパル・キマイラが敵艦隊を全滅させ、喜んでいる所にライカが負傷したとの魔信が入り、困惑、絶望していた所に先程の演説が入ったのである。
報告を聞いていた者達の数は少なくなく、彼らの戦意は落ちていた。もし、そのままの状態で戦闘に入っていれば後方の空母艦隊よりも悲惨なこととなっていただろう。
そして今、こちらには全滅する前に敵艦隊より出撃した攻撃隊が接近している───パル・キマイラ2号機が一応伝えていた───所だった。彼らはこの演説によって救われたのである。
アルデナは、二人とそれなりに長い時間を過ごしていた。だからこそあの報告にはより一層驚かされたものだが……それはそれとして、取り敢えず生きていることにまず安心していた。
自分と大して歳が変わらないのに、戦場に出て戦果を上げ続けていたライカ。
凄いことだ。単独で敵艦隊に向かうなんて私にはとても出来ない。戦場に出るのだってこれが初めてなのに。
私も頑張らなければ。彼女はここでリタイアしてもいい。これまでに十分すぎるほど戦果を上げている。
それに……生きている限り、可能性は無限大なのだから。
「竜騎士団、突破されました!! まもなく敵編隊と会敵します!!」
そんな報告が入る。どうやら、文明国がかき集めたワイバーンでは止めることは出来なかったらしい……正直、予想はしていたが。
二人からも、原種ワイバーンやワイバーンロード程度では敵機には敵わないと聞いていたのだ。それにしても、まさか数百騎もの連合竜騎士団がこんなにも早く突破されるとはさすがに思っていなかったが。
「いよいよか……!」
「頑張りましょう~!」
二人は杖を構え、敵の攻撃に備えるのだった。
───────
────
─
「おお、見えた見えた」
『ホントに帆船ばっかですね。お、あっちには外輪船が。教科書で見たことある形だ』
カノープス型艦上戦闘機に乗るガルダは、通信で同僚と話していた。その視線の先にあるのは攻撃目標の戦列艦隊だ。
第三先遣艦隊より出撃した3部隊は、敵航空機隊に会敵する前に合流し、連合竜騎士団計110騎をいとも容易く突破した。数でも性能でも勝っているのだ。負ける要素が無い。
そして今、彼らはいよいよ艦隊へと攻撃を仕掛けようとしている。第三先遣艦隊は全滅してしまったが、ここから本隊へと戻る程度の燃料はあるのだ。ここは、一隻でも多くの敵艦を沈めて戦果と共に帰投すべきだろう。尤も、たかだか帆船で戦果と呼べるかは微妙だが。
「それにしても多いな。数的には本隊と同じくらいか」
『本国が滅ぼした文明圏外国の中には千隻を超える帆船を保有していた所もあったらしいですからね。数だけは無駄にあるんでしょう。まあ、数で押せるのはある程度質が近い場合だけで、それ以上離れると数の暴力は通用しなくなるんですが』
「そうだな。ここで多少撃ち漏らしても本隊には近付くことすら出来ずに全滅するだろう。まあ、気楽に行こう」
そう言うと、彼は操縦桿を持ち直す。
彼はアンタレスに乗っていた頃、機銃掃射で戦列艦を沈めたことが何度もある。装甲は皆無で、それでいて
そして、今回の目標も戦列艦。またも自分は撃沈スコアを稼ぐ事が出来る。神竜は撤退したというし、もう自分を阻めるものは何も無い!
ふと、彼の視界に一際大きな帆船が見えた。全長は70m程だろうか。ファンタジーっぽい意匠が施されていて、どこか幻想的とも言える船。戦力としてよりも、芸術的価値の方が高そうだ。
少し勿体ない気もするが、ここは戦場。大人しく自分の糧となってもらおう。大きいから狙いやすいし。
「おれはあのでかいのをやる! 邪魔するなよ!!」
通信機に向かってそう叫び、彼は急降下を開始した。
「甲板からぶち抜いてやる!」
そうして、機首の30㎜機銃のトリガーに指をかける。
眼下の甲板では、足まであるローブを身に纏った魔法使い達がこちらを見上げて指を向けていた。あのような動きづらさ全開の恰好で戦場に出るとは、やはり異世界というのは度し難い。
「まず一隻!!」
そうして、彼はトリガーを引いた───
「『プロテクション』!!」
───瞬間、眼前が淡い光に包まれた。
放った機銃弾はその光に当たる。しかし、圧倒的な破壊力を誇る30㎜弾は、その光の膜の表面を波立たせるのみだった。
「……は?」
彼は何が起こったのか理解出来ず、操縦桿を動かすのを止めてしまった。そして、それが彼にとって致命的なミスであった。
「アシュリー!! 今です!!」
「はい先輩!! 食らえ!! 『フレイムレーザー』!!」
自らの杖をマストに刺しているアルデナの隣で、片膝を着いて狙いを定めていたライカよりも若い少女の構えている杖の先端から紅い光線が放たれる。
その光線は光の膜を通り抜け、真っすぐに進んでいき───
「な、なん───」
───ボン。こちらも真っすぐに進んでいたカノープスに正面から直撃した。
高熱のその光線を食らった機は、内部にあった弾薬と燃料に引火。爆発四散したのだった。
「「やった!!」」
それを見て、『ラグズ』甲板にて二人の少女が手を合わせて喜び合う。
今、アルデナが使った魔法は『プロテクション』。文字通り、魔力障壁を作り出す魔法である。彼女はこれに長けており、先程の様に30㎜機銃をも防げる程だ。
そして、その直後にアシュリー───アルデナの後輩魔術師───が使ったのは『フレイムレーザー』。高温の光線を放つ単純だが高火力の魔法だ。とはいっても、ファルタスが扱う『イクシオンレーザー』に比べればかなり劣るが。
予めアシュリーは詠唱を済ませておき、アルデナがプロテクションによって敵機の攻撃を防いで敵が困惑した隙を狙って放つ。それが作戦だった。まさか敵も帆船に攻撃を防がれるとは思っていないだろうし、それで防がれれば困惑して回避運動をするのを忘れるだろう。真っすぐ急降下してくる敵機など止まっているも同然だ。
この作戦の大半は、その止まっている敵を撃ち抜けるかというアシュリーの狙撃力にかかっていたが、無事に彼女はそれをやり遂げ、かくしてこれが戦力外文明国初の撃墜機となったのである。
「さすが私の自慢の後輩です~! っと、右舷から敵機が低空で接近してきてます! 提督!!」
「ああ! 任せろ!!」
と、喜ぶ間も無くリゲル型艦上攻撃機が数機、『ラグズ』右舷から接近する。
カノープスを撃墜した彼女を脅威と認識したのだ。
既に詠唱を終え、発動待機状態であったファルタスが自らの杖をアルデナと同じ様にメインマストに突き立てる。
大魔導艦のメインマストは魔力増幅装置となっており、魔術師達は自らの杖をそこに突き立てる事によって生身で使うよりも遥かに高い効果を発揮する事が出来るのだ。
「『ライトニングテンペスト』!!」
彼がそう叫ぶ。
その時、グラ・バルカス帝国軍のパイロット達は驚くべき光景を目にする事となった。
「……ん? なんだ? 急に暗く……っ!!?」
「突然曇って……っはァ!!?」
『ラグズ』に向けて飛行していた攻撃隊。そんな彼らの上空が突如黒雲に覆われ───
───瞬間、巨大な竜巻が海面に出現した。それは無数の雷を纏っており、近くで見た者ならば終末を幻視した事だろう。
『ライトニング・テンペスト』。遥か東方の地、トーパ王国では10人が力を合わせて扱う魔法を、世界最高位の大魔導師たるファルタスは1人で使うことが出来る。彼の得意とするのは先述した『イクシオンレーザー』だが、航空機に対してはこちらの方が良いとして予め準備していたのだった。
突如荒れた気流に彼らは翻弄され、避けるどころかまともに操縦桿を動かす事すらままならず、そのまま巨大な竜巻に突入してしまい、ある機はバラバラに引き裂かれ、ある機は雷に打たれ、ある機は海面に叩きつけられ、そうして『ラグズ』を狙った敵機は全滅した。
中央法王国の派遣した大魔導艦は、この時点で4機撃墜という誰も予想だにしなかった大戦果を上げたのであった。
「よし、次だ!!」
「はい~!」
戦いは、まだまだ続く。
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コミカライズのライトニングテンペストが思った以上に強かった