【本編完結】つよつよ神竜イルクスさん   作:デュアン

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第三次イルネティア沖大海戦(中編④)

〈中央歴1643年1月16日 イルネティア島南部沖合海上〉

 

「カウラン司令。第2次攻撃隊、出撃準備完了致しました」

「ああ。分かった」

 

 未だ厚い雲が空を覆う海上。そこを進む大艦隊、その中央を進む戦艦の艦橋にてよく鍛え上げられたエルフの男がそんな報告を受ける。

 彼───神聖ミリシアル帝国魔導連合艦隊司令、レッタル・カウラン海軍中将は水平線の彼方のしばらく未だ見えぬ敵を睨みつけ、そして指示を出す。

 

「第2次攻撃隊、出撃せよ! 目標は敵本隊。航空母艦及び旗艦と思われるグレードアトラスター級戦艦だ!!」

「了解しました! 第2次攻撃隊出撃せよ!!」

 

 魔信士が後方の空母へと指示を伝える。それに伴い、幾つもの空母から『エルペシオ4』や『ジグラント4』そして『エルペシオ5』が飛び立っていく。

 戦闘の最初に出撃していた第1次攻撃隊もライカが伝えた本隊へと攻撃していた。ただ、その効果はあまり芳しい物ではなかった。最初だからという事で数も少なく、敵の直掩機隊に阻まれてマトモに近付く事すらままならず帰投する事となってしまったのだ。

 なので、次は本腰を入れて攻撃を加える。

 

 かくして、『エルペシオ5』10機、『エルペシオ4』60機、『エルペシオ3改』20機、『ジグラント4』100機、『ジグラント2改』30機の計220機にもなる第2次攻撃隊は敵本隊へと向かったのだった……のだが。

 

 

「司令本部より緊急通信!! 敵高高度爆撃機50機がドイバへ接近中。ただちに救援求む、との事です!!」

「何ィ? ……高高度とは、どの程度だ」

「はい、ええと……や、約12,000mとの事です!!」

 

 それを聞いて彼は目眩がした。何せ、その高度だと迎撃に向かえるのは『エルペシオ5』のみなのだ。

 そして、それはこの艦隊には20機しか配備されていない。50機を迎え撃つにはそれら全てを向かわせなければいけないだろう。

 

「ぐ……直掩機に残しておきたかったが……仕方がない。第2次攻撃隊所属及び待機中のエルペシオ5はただちに敵高高度爆撃機の迎撃に向かえと伝えろ!!」

「了解しました!」

「司令、イルネティアより、第2次攻撃隊に雷竜20騎が同行する許可を求めてきています」

「おお! 許可しろ!」

 

 様々な情報が錯綜する。

 第2次攻撃隊は『エルペシオ5』10機が抜け、代わりに雷竜騎士20騎が入り計230機で敵本隊へ向かう事に。『エルペシオ5』20機はドイバを襲撃せんとする敵高高度爆撃機を迎撃に。

 戦力が圧倒的に足りない。彼は苦虫を噛み潰したような表情をする。改めて、今自分達が戦っている敵の国力の高さを思い知らされた。

 

敵前衛艦隊(第一先遣艦隊)との距離、30NM(ノーティカル・マイル)

「まもなくか……全艦攻撃準備、砲雷撃戦用意!!」

 

 そんな事をしている内にも、水上レーダーに映る光点は近付いている。

 砲撃戦が始まる。それも、我々がこれまで体験した事の無い規模の。しかも、それですら前衛艦隊との物に過ぎないのだ。本番はまだ、更に奥に待っている。

 

 彼はちらりと左舷の奥を見る。近未来的な巡洋艦や小型艦が並ぶその更に奥に、一際目立つ巨艦が鎮座している。

 魔導戦艦イルネティア。鹵獲したグレードアトラスターを改造した、空前絶後の巨大戦艦。現在好調に解析が進められているオリハルコン級魔導戦艦とほぼ同クラスの大きさらしい。

 視線を艦前方に向ける。そこにあるのは雛壇状に積み上げられた三基の三連装砲。その口径は41cmであり、過去最大だ。だが、あの戦艦はそれをも超える主砲を持っている。

 46cm砲。この連合艦隊で魚雷を除けば唯一敵のグレードアトラスター級にダメージを与えられるであろう砲。これがある事が唯一の救いであろうか。

 

 給弾室から重い魔導砲弾が揚げられ、砲身内へと送り込まれる。旋盤が動き、敵艦隊の方角へと向けられる。砲身が上がり、遠距離へと放つ準備がされる。

 砲弾の魔術回路が起動され、土、水、風の魔力がそれぞれ定められた配合で充填される。

 主砲の撃発回路にも魔力充填が開始される。

 

 

───ドドーン

 

 

「イルネティア発砲!」

「やはり早いな……」

 

 と、そこで重い音が空気を震わせる。それは、『イルネティア』が主砲を放った音だった。

 

「敵艦隊との距離、21.5NM(ノーティカル・マイル)! まもなく本艦も射程圏内に入ります!」

「よし。目標、敵戦艦」

「了解。目標との相対速度計算開始。レーダー連動開始!」

 

 魔導電磁レーダーでの反応を基に戦艦が選別され、その中の1隻に照準が合わせられる。

 レーダー連動射撃の技術が開発されてから、最大射程での発砲は珍しい物ではなくなっていた。こうして敵の姿が未だ水平線に隠れている状況であっても射撃準備を進める事が出来る様になったのだ。

 

「距離21NM(ノーティカル・マイル)!」

「主砲発射準備完了!!」

 

 マグドラ沖海戦の報告書で「敵の方が射程が長い」という物があった。ムー国で行われたオリオン級主砲発射実験でもその射程は35.5kmと、こちらでもミスリル級に装備された38.1cm砲の34kmより長い……要するに、同じ結果が出た。

 射程の長さは重要だ。本来の41cm魔導砲の射程は37kmであったのだが、イルネティア王国から共有されたヘルクレスの41cm砲の最大射程は38.43km。

 これは不味いとなり、急遽撃発回路に改造を施した。正確には、撃発回路に込められる魔力を増やしたのだ。よって、この魔導砲の射程は38.9kmまで延伸された。

 

 何が言いたいのかといえば───つまり、もう主砲は撃てるという訳だ。

 

「よし!! 主砲発射ァ!!!」

 

 ミリシアル最大の主砲が今、敵艦へ向けて火を吹いた。

 

 

───────

────

 

 

 第一先遣艦隊と連合艦隊が交戦を始めた頃、イルネティア島南西部沖合でも同じく砲撃戦が始まろうとしていた。

 南下するミリシアル地方艦隊及びムー国機動艦隊。対するは北上するグラ・バルカス第二先遣艦隊だ。

 

 こちらも最初は双方共に定石通り第1次攻撃隊を出撃させた。ここで違ったのは、ムー・ミリシアルの編隊は全て集まっていたが、グラ・バルカスは神竜対策に50機ずつ3部隊に分かれていたという事である。

 わざわざ迂回した2部隊は何も無かったものの、素直に真っ直ぐ北上した部隊は運悪く連合国側の攻撃隊と出会い、交戦する事となってしまった。

 連合国側は100機近いのに対し、帝国側は50機。2倍近い差があり、予想通り帝国側の編隊は敗北した。艦隊に辿り着けたのは100機のみであり、結果的に攻撃隊の数は同じ位になっていた。

 

 その攻撃によって、連合国側はムー国のラ・コスタ級航空母艦が大破してしまうなどの被害を受け、逆に帝国側は直掩機隊と強力な対空砲火に阻まれ大した被害は受けなかった。

 航空機による攻撃の第1陣は、帝国側の勝利に終わったのである。

 

 そして今、双方がまたも定石通りに第2次攻撃隊を出撃させている。それと共に、砲撃戦の準備も進められていた。

 

 

「対空レーダーに感! 10時の方向、数130、距離100! 敵第2次攻撃隊と思われます!!」

「迎撃機を出撃させろ!! 全艦対空戦闘用意!!」

 

 ムー国機動艦隊の輪形陣の中央部、旗艦である『ラ・エルベン』艦橋にて、艦隊司令のレイダー・ケルニードがそう指示を出す。

 それに呼応し、付近を航行中の各航空母艦から次々と戦闘機が発艦していく。その中には最早複葉機の姿は何処にもなく、その全てが洗練された、全金属製単葉機であった。

 また、各艦の対空兵器も空を向いていく。幾つかは先程の攻撃で壊れているが、致命的という程では無い。まだ戦える。

 

 ムー国はグラ・バルカスの物を解析し、水上・対空レーダーの量産に成功、主要艦艇に装備している。その為、三笠(ラ・カサミ)にレーダーが装備されているという何ともちぐはぐな光景が誕生していた。

 また、駆逐艦や巡洋艦、果ては戦艦に至るまで殆どの艦艇に魚雷発射管が装備されている。ただし、こちらは()()()()()()()だ。

 何故科学製の物でないかというと、単純にコストの問題である。安価かつ強力で射程の長いメールリンス式魔導魚雷はコストパフォーマンスが強過ぎるのだ。

 ムー国でも科学製魚雷の開発は進めていたのだが、これが開発されてからは早々にうち止めてライセンス生産に切り替えた。純酸素を扱う魚雷の構想もあったが、例え開発出来たとして性能は魔導魚雷と大して変わらず、コストは遥かに高いとなると作る気も失せるという物だ。

 

 さて、話が逸れてしまった。

 

 ムー国艦隊、及びミリシアル艦隊から飛び立った戦闘機が敵攻撃隊を迎撃する。

 ミリシアル地方艦隊に配備されている制空戦闘機は『エルペシオ3改』のみである。アンタレス相手ならば優位に戦いを進められたが、カノープスが出てきてからは圧倒されるばかりであった。

 速度でも機動力でも負けているのだ。勝てる要素が無い。

 ムー国側の戦闘機は『ウィンド』そして『スカイ』である。『ウィンド』はムー国最新鋭戦闘機であり、イルネティア王国から売却されたアンタレスを解析、複製した物だ。よって、その性能は従来のムー国の物と隔絶している。

 しかし、今回は場が悪かった。まだ開発されたばかりであり数も少ない。性能が同じであれば数が多い方が勝つのが戦場の道理である。

 

 そうして、迎撃機隊は突破され、攻撃隊は艦隊へと接近した。

 

 

「仰角修正+2度、方角修正+1度……主砲発射準備完了!!」

「主砲対空戦闘開始!!!」

「了解。主砲発射!!!」

 

 その攻撃隊へ向け、ラ・エルベンやラ・ゴンコの45口径35.6cm砲が火を吹く。

 発射された砲弾は時限信管によって破裂、内部に充填されたマグネシウム片が火を纏って辺り一面にばら撒かれ、それをマトモに浴びた数機が煙を吐いて落ちていく。

 続けて、高角砲が発射される。

 新型の高角砲である40口径12.7cm高角砲や、現役の45口径12cm高角砲、旧式の40口径7.6cm高角砲などがそれぞれ高射装置から送られてきた情報を基に動かされ、次々と発射され、空は一転して黒煙に覆われる。

 ムー国はレーダーの開発後近接信管の実用化にも成功しており、やはり撃墜率は格段に上がっていた。それを示す様に次々と爆煙に絡め取られた機が墜ち、海を油で染めていく。

 25mm機銃も同じ様に発射され、空に曳光弾の雨を降らせる。

 

 

 結果として、第2次攻撃隊の攻撃でも航空母艦を傷付けられた。ミリシアルのロデオス級が1隻、飛行甲板に爆弾が直撃し使い物にならなくなり、そしてムーのラ・ヴァニア級が1隻、魚雷を3本受けて沈んでしまった。

 しかしながら、グラ・バルカス側も無傷という訳にはいかなかった。

 イーグル級が1隻魚雷で沈み、1隻が甲板に爆弾を受けたのだ。

 航空機による第2陣は痛み分けに終わったのである。

 

 そして、レイダーは戦艦を艦隊前方へと動かした。敵艦隊との距離はかなり縮まっている。

 

 

 こうして、こちらでも砲撃戦が始まった。




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