【本編完結】つよつよ神竜イルクスさん   作:デュアン

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前書きキャラ紹介〈中央法王国編〉

アルデナ・ウィレ・ノイエンミュラー
 中央法王国の大魔導師。19歳。大魔導艦一番艦『ラグズ』副艦長。初登場は31話『誘導魔光弾』にて。
 防御魔法を得意とし、中央法王国史上最年少で大魔導師と認められた天才少女。おっとりとした性格。ライカ達とも交流があり、誘導魔光弾の再現を共に行っている。
 同じく中央法王国の大魔導師であるファルタスを尊敬している。

ファルタス・ラ・バーン
 中央法王国の大魔導師。41歳。中央法王国艦隊司令。原作キャラ。
 法王国随一の魔法技術を持ち、国一番の魔導師との呼び声も高い。
 また、魔導師としては珍しく身体も鍛え上げている。

アシュリー・オーストン
 中央法王国の魔術師。17歳。大魔導艦一番艦『ラグズ』に乗艦。初登場は44話『第三次イルネティア沖大海戦(中編③)』にて。
 アルデナの後輩であり、目をかけて鍛えていた。


第三次イルネティア沖大海戦(後編①)

〈イルネティア島南東部沖合 文明国連合艦隊〉

 

「『プロテクション』!」

 

 アルデナの『プロテクション』によって大魔導艦の上部が淡い光の膜で覆われ、またも敵機の機銃弾を防ぐ。そして、動揺した隙に隣に立つ後輩───アシュリーが魔法で仕留める。もう何度目かも分からない、決死の作業を彼女らは繰り返していた。

 そのまた付近ではファルタスが『ライトニング・テンペスト』を使用し、敵編隊を翻弄する。

 魔法、というユグドには無かった未知の力。それを使いこなし、実質的な戦力外通告を受けた中央法王国の艦隊は既に13機を墜としていた。他の文明国の艦隊は精々パンドーラ大魔法公国が新型ルーンアロー───推進機構の改良によって弾速を上げ、射程も従来の2kmから2.5kmまで延びた───によってまぐれで1機撃墜した程度である。

 艦隊は壊滅状態にあり、海面では血の匂いを嗅ぎつけた大小様々な海魔が水兵達を貪り食っていた。

 そんな中で、彼らは正に“中央”法王国の名に恥じぬ活躍をしていたのである。

 

「ふう……中々疲れますね~……」

「そ、そうですね。さっきからいくつも墜としてる筈なのに数は減るどころかむしろ増えてるような……」

 

 アシュリーの言った事は半分間違っていて、そして半分正しかった。

 撃墜した13機分、確かに敵の総数は減っているのだ。更には戦闘の長期化によって燃料が不安になった機も帰投しているので、その実ここにいるのは当初の半分以下なのである。

 では、何故彼女は「敵の数が増えている」と感じたのか。

 

……この艦隊を見て、彼ら───グラ・バルカス帝国のパイロット達はこう思った事だろう。帆船しかいない艦隊など楽勝だ。一機も墜とされる筈がない、と。

 しかし、実際は魔法という未知の力によって既に二桁の味方が撃墜されている。

 あり得ない、あり得てはいけない話だ。認めるわけにはいかない。拒絶したい。排除したい。しなければならない。

 そんな彼らの牙が、それを引き起こしている一隻の帆船に集中的に向かうのは当然の摂理であった。

 

 彼女らの乗る大魔導艦は今、攻撃隊による集中攻撃を受けていた。

 

 そして、如何に強力な魔法を持っていようとも所詮彼女らは一人の人間なのだ。

 

 

「グギャ!!?」

「ッ!! アシュリー!!」

 

 最早敵の目標が大魔導艦のみになった頃、少し離れた場所で戦闘を続けていたアシュリーがそんな声を出しその場に倒れる。

 攻撃が激化し、彼女の魔力も尽きてきた。守れる範囲も狭くなり、彼女には劣るものの防御魔法を扱えるアシュリーは別の場所でその魔法を振るっていた。そんな時に起こった出来事であった。

 彼女はどうやら弾を受けた様で、()を両手で押さえてその場でのたうち回っている。

 

……冷静に考えれば既に手遅れである事は理解出来たであろうが、不幸にも今の彼女は疲労で正確な判断が難しくなっていた。

 

 アルデナは倒れた彼女のもとに駆け寄る。

 

「少し待って下さいね、すぐに治癒魔法を───」

 

 ぴく、ぴく、と動く(痙攣する)彼女に対し、治癒魔法を使おうと杖を向ける。

 

「───ひぃッ!!?」

 

 そして、見た。

 

 首を押さえた両手の指の間からはとめどなく血が流れ出て、その場に赤黒い水溜りを広げている。

 口からは血の混じった泡を垂れ流し、噎せ返るような鉄の臭いが鼻腔を刺す。

 いつの間にか僅かにあった動きも無くなり、そこに残ったのはピクリとも動かないただの肉塊のみであった。

 

「あ……アシュ……」

 

 小さく、そう名前を吐き出す。ふと、彼女と眼が合った。

 見開かれた眼からは止める物の無くなった涙が零れ落ち、その瞳は白く濁って何も映さない。光の消えたその瞳の奥の暗闇は、目の前にある()()がもう人によく似た何かであるという事を無理矢理彼女の脳に理解させていた。

 

「うっ、ぶ、おえぇぇ……」

 

 その事実は彼女には重すぎた。

 彼女はその場に倒れ込み、血の滲む甲板に嘔吐する。

 頭が痛い。気持ち悪い。視界が揺れる。息苦しい。

 彼女はこれが初めての実戦であった。

 人の死を見るのはこれが初めてという訳でもない。戦闘による死体を見た経験も何度かある。流石に実際に戦場に出ている者にはかなわないがそれなりに慣れているつもりであった。実戦でも動揺せず戦い抜く自信があった。

 その成果も実際に出ていた。他の国の兵達の死体を見ても確かに動揺はしたが手を止めるには至らなかった。だから、大丈夫だと思っていた。赤の他人と実際に話し、触れ合った者では感じ方が全く違うという事も忘れて。

 覚悟していたといえば嘘になるかもしれない。私は全て守り抜ける。若さ故の驕りか、はたまた戦闘の高揚感か、彼女はそんな事を心のどこかで思っていた。

 

 だから、実際にこうして身近な人物の死を目の当たりにしてこうなるのは必然だったのかもしれない。

 

「───ッ、ノイエンミュラー!!!」

 

 そんな彼女に、ファルタスが気付く。彼は彼女の前にある()()を見て何が起きたか理解するが、今はそれを気にしている余裕は無かった。

 

「ノイエンミュラー!!! 上だ!!!」

「う……ぁ……」

 

 彼の叫びで虚ろな目を空に向ける。

 そこには、爆弾を落とさんと急降下するアンタレスの姿があった。

 

「ぁ……『プロテ……クション』……っ」

 

 微かに残った理性を総動員し、震える声で詠唱を絞り出す。

 ぐらり、視界が揺れる。魔力が少ない。体が発動を拒絶する。それでも彼女はその魔法を使うことに成功した。それだけだった。

 

 

「あ」

 

 

 パキン。

 

 

「きゃあああああっ!!!」

 

 血だまりに機銃弾が突き刺さる。

 アンタレスの放った20㎜弾は容易く魔力防壁を突き破り、木材で出来た甲板や死体をも貫いてその下部にいた乗員達を砕いていった。

 自らの周囲に銃弾の雨が降り注ぎ悲鳴を上げる。幸いにも致命傷は免れたが左耳を弾が掠り消し飛んでいた。

 

 自分の魔法が破られた。何にも負けない筈なのに。私は国一番の防御魔法の使い手で、国の盾にならなきゃ駄目なのに。

 なんで、なんで、なんで。足が竦んで動けない。これじゃあ誰もまもれない。

 左耳が痛い。血が止まらない。頭が痛い。苦しい。怖い。怖い。怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわ

 

 

「ッ、アルデナァッ!!!!!」

 

 

 駆けて来た彼が茫然自失した彼女を抱きかかえ船がら飛び降りる。

 

 その直前、落とされた80㎏爆弾が甲板に着弾した。

 爆風が船を砕き、二人の背を押し飛ばす中、何とか彼らは着水した。

 

「ッ……! アルデナ!! 無事か……!?」

「…………てい……とく……」

「お前、目が……」

「……?」

 

 最後の爆風で破片でも食らったのだろうか、胸の中にいた彼女の右目周辺は潰れ、抉れ、黒い血に塗れていた。

 彼女はそんな自分の状況を理解出来ていないのか、残った左目を微かに開け呆然としているのみだった。

 彼はまだ若い少女をこの様な状態に陥れてしまったという事実に胸を刺されつつ、周囲を見渡して他に生存者がいないかを探していた。

 

 だが、“海”は九死に一生を得たこんな二人にも容赦なく襲い掛かる。

 

 

「ぐゥッ!!?」

 

 彼の足に激痛が走る。見下ろせば、海中で一匹の小さな海魔が噛みついていた。

 彼はそれをもう片方の足で蹴り放す。幸いにもブーツを貫かれた訳ではなく、血を流す事は無かった……が。

 

「ぎゃああああっ!!!」

「ひっ、た、たすけ───」

「わ、私の手が、あ、や、やめっ、きゃあああああっ!!!!?」

 

 その場が悲鳴に支配される。死体や負傷者の流した血の臭いを嗅ぎつけた海魔が次々と生存者を襲っていた。

 巨大な海魔に丸吞みにされる者、下半身を食い千切られる者、無数の小型海魔に群がられ、貪られる者。その形は様々だったが一つだけ言える事は、今この場には絶望しか無い、という事だった。

 

 

 トン。

 

 

「え……」

 

 

 いつの間にか抜け出したアルデナが彼をその場から突き飛ばす。

 その顔と伸ばされた手は蒼白で、死体にも見間違えるかの如き様相だったが───

 

「───」

「な───」

 

 彼女を覆う様に、黒い影が海面に映る。

 

「アルデ───」

 

 

「───よかった」

 

 

───瞬間、彼女の真下から大きく口を開けた海魔が現れ、そして口を閉じる。僅かに口の範囲から飛び出ていた指が歯に挟まれ、ギロチンの如く切り離される。

 そのまま海魔は海に再び潜り、その場には無傷の彼と数本の小さな指のみが残された。

 

 

「……ッ!!!!」

 

 彼は顔を歪ませ、頭を搔きむしる。

 

「何が大魔導師ファルタスだ……何が英雄……何が……提督だ……ッ!!!」

 

 背後では大魔導艦“だったもの”が真っ二つに折れ、炎上しながら沈んでいく。

 

「俺は……部下の……少女の命一つ……救えない……」

 

 その呟きは、悲鳴に溶けて沈んでいった。

 

 

 中央歴1643年1月16日。イルネティア島南東部沖合を進んでいた文明国連合艦隊は、グラ・バルカス帝国第三先遣艦隊より発進した第一次攻撃隊による攻撃を受け、壊滅した。

 

 

───────

────

 

 

 海戦は続く。魔導戦艦の砲から放たれた弾が青い尾を引きながら飛来し、戦艦の砲が火を噴く。

 戦闘は一見すると世界連合側が有利に進んでいる様に見えるだろう。何せ神竜によってあらかじめ空母は全て撃沈され、先程の雷撃で戦艦の半数が手負いになっているのである。

 だが、実際はそれ程世界連合側が攻めきれている訳ではなかった。

 

 グラ・バルカス帝国艦隊───第一先遣艦隊は巧みな陣形変更、艦隊運動によって攻撃を()()()()ていた。そして、それを理解しているからこそ世界連合側の司令は焦っていた。

 そもそも第一先遣艦隊の目的は時間稼ぎである。彼らは要するに、本隊が到着するまで耐えていれば勝ちなのだ。

 

 艦隊は必死に攻撃するも結局は殲滅する事は出来ず───艦隊は、後方から到着した本隊と合流した。

 

 

 こうして、魔導戦艦イルネティアにとって最初で───そして、最後の戦闘が幕を上げた。

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