レイヴェル・ディーツ
元イルネティア王国ドイバ沖群島防衛艦隊の司令であり、今は王国艦隊総司令を務める。38歳。初登場は15話『第2次イルネティア沖海戦(前編)』にて。
正義感が強く、ライカとイルクスという若い少女達を戦場に出している事に後悔と罪悪感を感じている。
乗艦はタウルス級重巡洋艦『レプシロン』→魔導戦艦『イルネティア』
主役は必ず活躍します。具体的に言えばこの海戦は世界連合側の勝利で終わります
「第一主砲、第一、第二副砲左舷へ! 両副砲対大(対大型重装甲艦)魔力充填開始!!」
「了解、第一主砲、第一、第二副砲旋回開始!」
「両副砲対大魔力充填開始! 属性比率土55%、水23%、風22%。 砲弾の魔術回路起動!」
「砲弾の呪発回路への注入開始。比率雷58、炎42! 魔力充填率80、90、100。砲弾への魔力充填完了!!」
「副砲撃発回路、同じく充填完了!」
「副砲旋回完了。第一、第二副砲、発射準備完了!」
「第一主砲、発射準備完了!!」
「よし!! 第一主砲、両副砲発射!!」
複雑な発射シークエンスを経て、計九門の砲から砲弾が発射される。巨砲からは爆炎、副砲からはカラフルな煙と共に。
まず着弾したのは副砲であった。
発射された六発の20.3㎝魔導成型砲弾は青白い尾を曳きながら目標であるオリオン級戦艦へと飛翔していき───
「命中弾2、敵艦に火災発生!」
通常よりも炎の魔力を多く込められた砲弾は、着弾と同時に多量の火を撒き散らし、敵艦に火災を発生させる。フォーク海峡海戦において、シルバー級の霊式20.3cm魔導砲はグレードアトラスター相手に一切通用しなかった。そこで編み出されたのがこの方式である。
その効果は十分に発揮され、戦艦の左舷甲板を火の海に変えた。
続けて、46cm砲弾が着弾する。こちらは純科学製の砲である為弾道は見えなかった。
「命中弾1!!」
三発の内、一発が命中する。近距離であるので初弾から命中を狙っていき、見事その目論見が成功した形となった。
1トンを超える巨弾は戦艦の装甲を易々と貫いた。
ぽっかりと空いた孔から一斉に水が入り込む。ダメージコントロールによって沈没は免れたものの速度を大幅に遅くする結果となった。
「第二、第三主砲発射用意完了!!」
次に、右舷へと指向していた主砲の装填が完了する。
「目標変わらず、右舷敵戦艦!!」
「仰角修正、マイナス0.5!!」
と、そこでぐらり、と艦体が揺れる。
「左舷に至近弾! 損傷認められず!」
敵戦艦の放った砲弾が左舷の海面に着弾する。
巨大な水柱が立ち、甲板に大量に海水が降り注ぐ。
巨大な重い艦体はすぐに揺れを収める。
再び水平に戻った直後、六門の砲から轟音と共に巨大な爆炎が吐き出される。
「命中弾無し!!」
「左舷に被弾! 損害軽微!」
「主砲発射!! 命中弾2!!」
「右舷に被弾! 火災発生!!」
「副砲発射!! 命中弾3、敵艦撃沈!!」
戦闘は続く。
「『レプシロン』被弾!!」
「『トイヌーシェ』轟沈!!」
「『ムルシク』被弾、戦列を離れます!!」
放った砲弾が敵を抉り、敵の砲弾がこちらを焼く。
圧倒的な数の差。次々と味方艦は被弾、落伍していく。そうして、いつの間にか彼女───イルネティアは敵艦隊の中で孤立していた。
最早十字砲火というのも生温い程の攻撃。そんな中でもなお攻撃の手は緩めない。
祖国を護る為、彼女は一人戦場を突き進んでいた。
───────
────
─
「『ルテイーン』『ミンタカ』轟沈!」
「『マリンデン』被弾! 戦列を離れる!」
「敵グレードアトラスター、進行止まりません!!」
「ッ……!!」
艦隊後方、ヘルクレス級戦艦『イレーナ』艦橋にて、その悲痛な報告を受けた艦長は焦りに顔を歪ませる。
まさか、これ程とは。既に戦艦を含め10を超える艦艇が奴に沈められている。
帝国が建造した最も巨大な戦艦、グレードアトラスター。残念な事に敵に拿捕されてしまったが、上層部はそこまで深刻には考えてはいなかった。
確かに帝国最強の戦艦が鹵獲される事による士気の低下などはあるが、
「所詮一隻の戦艦、所詮一匹の竜、か……」
一体我々は“所詮”にどれだけ苦しめばいいのだろうか。
「……いや、違う」
竜は倒した。
そして今、目の前にはもう一つの“所詮”がある。作戦によって味方艦隊から切り離され、孤軍奮闘する戦艦が。
ここで倒すのだ。ここで倒し、帝国の覇道を阻む者達を消し去るのだ。
グレードアトラスターが目視出来る距離まで接近する。数多の水柱を従えて、艦全体を淡い光で包んで突き進んでくる。
接近した駆逐艦を高角砲で撃ち抜き、巡洋艦を副砲で砕き、戦艦を主砲で貫く。今この世界で、一騎当千、その言葉が最も似合う戦艦であろう。
まるで御伽噺に出てくる英雄だ。だが、それは敵にとっての話。帝国にとっては我々こそが英雄なのだ。
「『イレーナ』最大船速! 敵艦左舷へ回り込め!!」
「りょ、了解。面舵いっぱい!」
200メートルを超える巨体が加速し、接近してくる『イルネティア』の左舷へと向かう。
「全主砲右舷へ! 一斉射で敵を仕留める!!」
今、敵艦の主砲は他の戦艦に向いている。今がチャンスだ。
そうして、艦は無傷で左舷へと回り込んだ。今更こちらに主砲を向けようと旋回を始めているがもう遅い。距離は5km。冬戦争並みの、現代戦とは思えない交戦距離だが……これならば初弾で多くの命中弾を出せるだろう。
「第一主砲、発射準備完了!」
「第二、第三主砲、発射準備完了!!」
「第四主砲、同じく発射準備完了!」
「よし、砲撃開始ィ!!!」
ドォン!!!
四基八門の41㎝砲が火を噴く。
そうして放たれた砲弾はイルネティアへ向け高速で飛翔し───命中した。
「敵艦に命中!!」
「よォし!!!」
巨大な爆炎が発生し、艦体が爆煙で覆い隠される。その大きさから、かなりの数が命中したのは明らかだった。
戦闘で傷ついた艦体にこの距離で複数の41㎝砲弾がもろに命中した。
その場にいた誰しもが撃沈を確信した。
───イルネティアの乗組員以外は。
「なっ!?」
彼の背筋に冷や汗が流れた。
白煙の中、何かがゆっくりと動いている。
黒い影。四角い何かに、棒状の物が3つ付いている。
そして、その棒が点に変わった。
「ば───」
次の瞬間。
「───化け物め!!!」
煙が一瞬、何かに吹き飛ばされたかの様に円形に晴れ、そこから新たな爆炎が噴き出てくる。
彼の目に黒い点が六つ見えた。それは一瞬の内に巨大化する。
ガゴン。艦全体が大きく揺れる。
彼の眼前にも、巨大な点───砲弾が迫っていた。
ドゴオォン!!!
轟音がその場に響き渡り、巨大なキノコ雲が海上に立ち昇る。その衝撃は凄まじく、すぐ脇にいた駆逐艦が転覆してしまう程だった。
イルネティアから放たれた六発の46cm砲弾は四発が見事に命中した。
対41cm砲防御しかされていないイレーナにそれが耐えられる筈もなく、易々と側面装甲を貫いた砲弾はそれぞれが第一、第三主砲弾薬庫、前檣楼基部、そして昼戦艦橋に直撃、爆発し大誘爆を起こした。
鋼鉄の城は爆発した場所からへし折れ、全乗員と共に一瞬の内に海の底へと引き摺り込まれていった。
一瞬、戦場が静寂に包まれる。
鋼鉄の海上の城が、長きにわたり帝国のシンボルであった戦艦が、たったの一斉射で沈んだのだ。その衝撃は凄まじい物だった。
周囲の艦でその光景を見ていた者達は皆呆然と燃え上がる海面を見るしかなかった。
だが、イルネティアの乗員には呆然や歓喜している暇など無い。
「『マゼラン』発砲!!」
「急速回避!!」
「了解! 『唄声』使用します!」
前方より接近していたグレードアトラスター級戦艦───『マゼラン』がその主砲を発砲したのだ。
さしもの『イルネティア』でも、46㎝砲弾を受ければどうなるか分からない。レイヴェルは回避の為『人魚の唄声』の使用を決断する。
艦が傾く。前方と後方の喫水線下に装備された風神の涙が発動し、水を押し流して現実離れした機動力で動いていく。
「敵弾回避!!」
それは見事に成功し、発射された砲弾は彼女がいた位置に大きな水柱を立てるに終わった。
世界一の艦砲だ。装填には時間がかなりのかかる。もしかすれば、こちらが先に当てられるかもしれない。そうすれば───
「第一主砲、旋回出来ません!! 先程の被弾でターレットリングが損傷したようです!!」
「チィッ!! 第二主砲は動くんだな!?」
「はい、そちらは大丈夫です!」
「ならそれだけでもいい、とにかく敵に砲を向けろ!!」
彼は歯ぎしりをする。
如何に対46㎝砲防御が施されているとはいえ、それはあくまでもバイタルパートだけの話だ。ここまでの戦闘でそこだけ被弾する、などという事はあり得ず、結果として今艦の速度は22ノットにまで低下している。それに加えての第一主砲使用不能だ。もう殆ど弾は使っていたとはいえ、勝てる見込みは薄い。
彼は一度目を閉じ、深く呼吸する。落ち着かなくては。冷静にならなくては勝てる物も勝てない。
「主砲、発射準備完了!」
「……よし、発射ァ!」
正面へ向けられた主砲が火を噴く。
「続けて副砲、装填完了次第発射せよ!」
「了解!」
直後、副砲も放たれる。
最初に放った主砲は外れていた。だが、至近弾だ。次は命中する可能性が高い。
「このまま回避しつつ敵旗艦に突撃する!! 刺し違えてでも撃沈するぞ!!」
彼は叫び、皆もそれに頷く。誰しもが同じ考えだった。
「敵艦との距離、およそ
「仰角調整、マイナス1.3」
「敵艦発砲!」
またもマゼランが、今度は第一、第二両主砲を一斉に発射する。それを回避する為、再び急速回避を実行する。
だが───
「───ッ!! 被害状況!!」
「前部甲板に直撃!! 航行に支障無し!」
「散布界を広げてきたか……」
水柱はかなり広い範囲に立っていた。どうやら敵は回避される事を見越して撃ってきた様だ。
「発射準備完了!」
「第二射、てェッ!!」
轟音が響き渡り、主砲が再び発射される。
放たれた砲弾は回転しながら飛翔していき───
「敵艦に命中!!」
「よし!!」
───命中する。放った内の一発が艦橋右方の甲板に直撃し、高角砲群を破壊する。
「距離、
徐々に距離も縮まり、命中確率も高まっていく。が、それは同時に被弾率も上がるという訳だ。
「取り舵30! 敵艦右舷へ入りこめ!」
「了解! 取り舵30、第一船速!」
速度を落とし旋回する。先程の急速回避に比べればかなり穏やかな機動だった。
「砲塔連動、仰角調整マイナス0.5!」
艦の動きに合わせ砲塔も動く。そして、また発砲する。敵もそれに合わせて発砲し、海面に巨大な水柱を立てていく。
そんな殴り合いが延々と続いていた。
「敵第二主砲に直撃! 誘爆認められず!」
「後部甲板に直撃弾! 火災発生!」
「敵左舷甲板に命中! 高角砲群破壊!」
「第一副砲に被弾! 隔壁閉鎖します!」
「敵右舷に命中弾!」
「右舷喫水線下に直撃弾! 破孔発生、左舷注水開始!」
お互いに撃ち合い傷つき合っていく。血を吐きながらの殴り合いは、しかし確実にマゼランの方へと勝利は近付いていた。敵の第二主砲を破壊したは良いが、こちらはここまで抜かれる事の無かったバイタルパートが遂に貫かれたのだ。
46㎝の破壊力はそれほどまでに凄まじく、空いた孔から勢いよく水が流れ込む。塞ぐ事は不可能だった。左舷への注水で何とかバランスを保つが速度はかなり低下した。
「第一副砲に直撃弾!」
「ぐっ……」
この場にいるのはマゼランだけではない。
他の艦からの砲撃が命中し副砲が破損する。垂直に被弾した訳ではないので隣の第二主砲弾薬庫への誘爆だけは避けられたのが不幸中の幸いであった。
「副砲向けますか!?」
「ッ、捨て置け! 全砲門をマゼランに集中させろ!! 第二主砲発射ァ!!」
轟音、そして爆炎。放たれた砲弾は一発がマゼランのバイタルパートを貫いた。しかし、誘爆はしない。
その直後、今度はあちらが主砲を撃ち放つ。
「ぐゥッ!! ひ、被害報告!!」
その弾は、同じ様にこちらの装甲を貫いた。
「右舷前方に被弾! 火災発生!」
「右舷前方……ッ」
先程とは別の場所だ。またも左舷への注水が行われる。だが、いくら経っても傾斜が回復しない。
「傾斜復元出来ません!」
その言葉は、事実上の敗北宣告であった。
「司令……」
「ッ……ここまでか……」
艦長の眼に、彼は手を強く、強く握り締める。爪で裂けた肌から血がポタポタと流れ落ちる。
そして彼は窓から見えるマゼランへ手を伸ばし、またも握り締めた。
「あと少し……あと少しだというのに……!!」
「……」
傾きが増す艦橋。その場にいる全員が静まり、涙を流す者さえいた。
「……艦長」
「……はい」
「総員……退艦だ」
「……了解しました。全管に告ぐ、総員退艦!! 繰り返す、総員退艦!!!」
艦長が叫び、それを通信士が艦内全体に伝える。その声は未だかつてない程の悔しさを孕んでいた。
「お前達も───」
と、彼が脱出を促そうとした、その時であった。
「───ッ」
彼は一人、そこで目覚める。周囲は地獄絵図であった。
どうやら、艦橋に敵の砲撃が命中したらしい。46㎝ならば偶然でもこうして自分が生きているわけがないので副砲だろうか。
艦橋内部はボロボロで、あちらこちらがまだチリチリと燃え、煙を吹いている。
前方には炭化した人型の物があちらこちらに倒れており、隣では焼け爛れた艦長が鉄パイプに胸を貫かれて息絶えている。そして自分も身体の半分が爛れ、何かの部品に脇腹を貫かれ血を流し続けていた。
「ハァ、ハァ……」
息をする度に身体を痛みが貫く───事はなく、最早何の感覚もなくなっていた。……どうやら、ここまでらしい。
傾斜が酷くなり、開放的になった壁から室内の物が次々と落下していく。自分も、もう生きているだけで身体を支える事さえ出来ていない。彼はずるずると滑り落ちていく。
「……すま……ない……」
その言葉は一体、誰に向けて呟いたのだろうか。もう彼自身にも分からなかった。
「イルネティア王国……万歳……ッ……!!」
その言葉は、冷たい海に消えていった。
「艦橋に命中! グレードアトラスター、完全に沈黙しました!!」
「傾斜も回復していません……我々の勝利です!!!」
マゼラン艦橋。そこでは今、乗組員達が歓喜に打ち震えていた。
いや、彼等だけではない。周囲にいたどの艦のどの兵も皆諸手を上げて喜んでいた。
……ただ一人、カイザルを除いて。
「……」
彼は一人、沈みゆくイルネティアを見つめていた。
やがて、イルネティアは右に倒れ、そして艦首を大きく持ち上げた。弾は殆ど使い果たしていた為、大した爆発は起こらなかった。
空へ向けて、その特徴的なバルバスバウを高くつき上げる。所々に空いた破孔から海水を流し続け、高い、しかし悲しげな汽笛の音が鳴り響く。
その様子は、今まで歓喜していた者達でさえ黙らせてしまう程、衝撃的で、そして印象的な物だった。
「……!」
と、そこでラートスが気付く。
彼の隣で、カイザルが彼女へと敬礼している事に。
彼も、また敬礼する。それに周囲も気付き、その場にいる全員が彼らにならう。他の艦でもそれは同じであり、皆が、立場は違えど国の為に戦った
───中央歴1643年1月16日、午後4時13分。魔導戦艦イルネティアは、王国の名を冠した初の戦艦は、第三次イルネティア沖大海戦にて姉妹艦であるマゼランとの激しい砲撃戦の上沈没した。
この海戦にて彼女は戦艦3隻、巡洋艦8隻、駆逐艦18隻の計29隻を撃沈し、また13隻を損傷させた。
この艦が戦ったのはこの海戦のみであるが、その凄まじい戦果によってこの先も長く、長く語り継がれることとなる。
だが、いくら単艦が撃沈していようがそれだけで戦況は変わらない。
この時点で連合側は神聖ミリシアル帝国艦隊総旗艦『アダマンタイト』など戦艦が七隻中四隻が撃沈され、またイルネティア王国艦隊はオリオン級戦艦『クレセント』など九隻を失っている。両国は合計で既に50隻以上を喪失しており、実に戦力の半分を失っていた。
一方のグラ・バルカス帝国側も『ラス・アゲルティ』が撃沈されるなど同じく計50隻余りを喪失していたが、未だ400隻以上の艦艇が健在であった。最早連合国側にこれを止める手段は無く、帝国艦隊は瀕死の艦隊を駆逐しつつ悠々と島へ向かうのだった。